科学研究費補助金・基盤研究(B)「冷戦終結と日本宇宙政策 ―学際融合的アプローチによる再検証―」(2021~2023年度)

宇宙政策文書研究プロジェクト

宇宙政策文書研究プロジェクトとは

「宇宙政策文書研究プロジェクト」は、科学研究費補助金・基盤研究(B)「冷戦終結と日本宇宙政策―学際融合的アプローチによる再検証―」(2021~2023年度)の略称です。KAKEN(科学研究費助成事業データベース)

本プロジェクトは、「冷戦終結が日本宇宙政策にどのような影響を与えたか」を明らかにするために、政治外交史を主としながらも、国際法、科学技術史、法情報学などの学際融合的アプローチによって、冷戦期、冷戦終結前後、冷戦後の日本宇宙政策を再検証するものです。

日米両国の一次資料(政府内部文書等)を徹底して収集・分析・整理することで、日本宇宙政策の歴史と資料の一つの総括を行います。その成果を発表・共有し発展させる場として、国際研究会を開催するとともに、収集資料の内容・属性や資料間の関係を分析・整理した「宇宙政策法文書データベース(リンクド・オープン・データ、LOD)」の構築と公開を試みます。こうしたプロジェクト活動を通じて、今後の宇宙政策や宇宙法の策定及び研究発展に寄与したいと考えています。

研究内容

「冷戦終結が日本宇宙政策にどのような影響を与えたか」という問いのもとで、冷戦終結によって、冷戦期の日本宇宙政策における自主路線と対米協調のバランスが変化し始め、新たな安全保障分野だけでなく、それまでの民生分野においても対米協調あるいは対米依存が強まっていったことを明らかにしたいと考えています。その際、これまで十分に分析されてこなかった日本の宇宙政策決定過程や宇宙政策をめぐる日米交渉過程をできる限り再現したいと考えています。

具体的には、冷戦終結前後の宇宙政策の比較や連続性を検討する必要があるため、以下のように三つの時期に分けて分析を行います。

(1)「冷戦期の日本宇宙政策」というテーマで、日本の宇宙政策の始まりから1960年代にロケット・人工衛星の自主開発を目標としていたにもかかわらず、1970年代には米国からの技術導入を行う一方で、米国のスペースシャトル計画に参加する努力を続け、1980年代に純国産H-IIロケット開発と米国宇宙ステーション計画参加を決定した過程を検証します。また、1969年の国会決議などの日本の宇宙平和利用原則の変遷を分析します。

(2)「冷戦終結前後の日本宇宙政策」というテーマで、冷戦終結直後、日米間ではその後の日本宇宙産業に大きな影響を与える日米衛星調達合意が交わされた一方、ロシアからの宇宙技術(核ミサイル技術)の流出・拡散の危険に対して自覚的に対応した米国が、宇宙ステーション計画にロシアを取り込もうと米ロ交渉を進める中で、日本が自主路線と対米協調の再構築を目指して行った日米交渉がどのようなものであったかを明らかにします。

(3)「冷戦後の日本宇宙政策」というテーマで、日本は打上げ市場参入を目指してH-IIAロケットを開発する一方で、国際宇宙ステーション(ISS)計画への参加を継続し、国家安全保障のための情報収集衛星や日本版GPS(全地球測位システム)と言われる準天頂衛星の開発、ミサイル防衛への参加などによって日米同盟を強化した過程を、2008年宇宙基本法成立とともに検証します。

研究方法

1. 日米両国(加えてロシア)の一次資料の収集・分析・整理

日本においては、当時の宇宙開発審議会(1960年~1968年)と宇宙開発委員会(1968年~2012年)の議事録等が、文部科学省・宇宙航空科学技術推進委託費「我が国宇宙開発プロジェクトの検討経緯の調査整理、分析および政策研究」(2013~2015年度)の成果として整理・公開されたので、「国会会議録検索システム」も手がかりとして、外務省外交史料館や国立公文書館において引き続き資料収集を行います。

米国においては、米国外交関係資料集(FRUS)を中心として、国立公文書館や米国航空宇宙局(NASA)本部歴史資料室、各大統領図書館において、日本宇宙政策に関する資料を収集してきました。その経験を活かし、新たに公開された米国側資料を国立公文書館や各大統領図書館において収集します。

また、ロシアへの資料収集も行います。国際宇宙ステーション(ISS)計画へのロシア参加をめぐる米ロ交渉の検証には、ロシア側資料もできる限り分析する必要があります。これまでモスクワの宇宙飛行士記念博物館やロシア連邦宇宙局(ROSCOSMOS)ガガーリン宇宙飛行士訓練センターなどで資料収集を行ってきましたが、再び宇宙飛行士記念博物館やロシア科学アカデミーなどにおいて行います。

2. 宇宙政策法文書データベース(リンクド・オープン・データ、LOD)の構築と公開

本プロジェクトの収集資料は、さまざまな学術分野や資料館に散在し日本語と英語で記述されているため、まず体系的に整理して分析する必要があります。この作業は数量や専門性により研究者個人では限界があるため、第一段階として、資料の全文検索・文脈検索(Bilingual KWIC)・日英対訳表示が可能なデータベースを構築します。これによりキーワードによる全文検索ができるだけでなく、文脈検索と日英対訳表示によって、キーワードの前後にある語句を日英対訳の一覧で確認することで、日本語と英語の両方の関連資料を発見することができます。

このデータベースの機能は基本的にキーワード検索であり、検索結果は単語や文であるため、第二段階として、資料同士の関係の可視化が可能なリンクド・オープン・データ(LOD)を構築します。これにより関連する資料すべての全体像を把握することができ、新資料発見の可能性を高めることができます。具体的には、資料自体の内容・属性、資料の作成年月日、作成者や所蔵者、電子データの所在(URL)、改正・改訂や主従(付属、添付)の関係、日英対訳関係など、資料間のさまざまな関係を抽出・整理し、外部のデータベースの関連資料とも連携(リンク)させて、LODを作成してインターネット上での公開を目指します。

このように構築した宇宙政策法文書データベース(LOD)により、関連する資料を単語・文・文書の三つのレベルで整理・分析して全体像を把握し、さらに新資料を探索しながら、冷戦終結の日本宇宙政策への影響を検証して、論文作成や学会発表を行います。

その上で、研究成果を多角的に検証するため、日本・米国・ロシアの研究者を招へいした国際研究会(シンポジウム)を開催します。日本宇宙政策史というテーマを、日米ロの研究者が一堂に会して議論することで、各国の国際政治や歴史に対する認識やそれぞれの二国間関係を相対化し、まさに立体的な検証が可能になります。開催には、構築したデータベース(LOD)を最大限活用し、日本語・英語だけでなく将来のロシア語への拡大も視野に入れて、三か国語の通訳・翻訳を行う予定です。