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研究会概要

■ 研究会 「職場トラブルの実態と対策上の課題
  -パワハラ、セクハラ、職場いじめ−」  2006.03.18

2006年3月17日(金)15時から、大阪大学大学院法学研究科大会議室(法経総合研究棟4F)にて、労働ジャーナリストの金子雅臣先生をお招きして、研究会「職場トラブルの実態と対策上の課題―パワハラ、セクハラ、職場いじめ―」を開催致しました。本研究会は、すでに紹介しているように、科学研究費補助金基盤研究(B)「紛争回避と法化の法理論的・実証的検討」(研究代表者・福井康太)の研究活動の一環として実施されました。

金子先生は、東京都の労政事務所で長年労働相談員を務めてこられた方で、職場トラブルについては日本の第一人者とも言うべき人です。東京都では、毎年45000件もの労働相談が寄せられます。そうした相談には時代を先取りする問題も多々見出されるようで、先生はそうした問題についても、いろいろ指摘しながらお話しされました。金子先生は、東京都の労働相談のここ30年(先生のご在任中)の変遷からお話をはじめられ、つぎに、最近増大している個別的労使紛争解決のための東京都の制度(「あっせん」システム)の概要を紹介され、これに続けて、パワー・ハラスメントとセクシャル・ハラスメントの今日的トピックスについて紹介され、最後に、個別労使紛争が今後どうなっていくかについて、私見を交えながらお話しされました。

私にとって興味深かったのは、まず、東京都の「あっせん」システムのお話しでした。東京都の「あっせん」システムは、2001年の「個別労働関係紛争解決制度」導入のずっと以前から、都が独自に導入していたシステムなのだそうです。東京都では、45000件の相談事件のうち、1200件ぐらいが「あっせん」手続に持ち込まれるそうです。「あっせん」では、相談員はもっぱら行司役を務めるだけで、「介入せず、裁定せず、強制力なし」に手続が進められます。それでいて、役所の中立性と専門性への信頼をバックに、サポート型の利用しやすい手続として、最近まで比較的に高い解決力を誇ってきたとのことでした。最高時には約9割の事件が解決(労使の合意)に至っていたそうですが、今日では6割ぐらいまで下がってきているとのことです。理由としては、労働事件の多様化と法令の複雑化のために専門的アドバイスが難しくなってきたことや、都の一般職員を相談員とする人事制度の問題などが挙げられました。また、セクハラ・パワハラに関する今日的トピックスについて、金子先生は、具体的事例の紹介を通じて、成果主義による過酷な競争と雇用関係の不安定化・不明確化のもとで職場モラルを維持することがいかに難しくなってきているかを明らかにされました。職場モラル低下のメカニズムについてはずっと気になっていたのですが、重要な示唆を得たという気がいたしました。さらに、個別労使紛争の今後について、先生は、雇用関係の非正規化、時間法制の流動化、雇用契約内容の不明確化が進み、また、単に利益についてのみ争う利益紛争よりも会社の誠意などを争う人格紛争に近い難事件が増え、さらに、労働法制の埒外で働く、法的保護を与えることの困難な労働者たちが急増している現状のもとで、新たに導入される労働審判制度が十分機能しうるのかどうか疑問を呈しておられました。この点については、私も同様の感想を抱いております。

ディスカッションでは、コンプライアンスの強化など、企業モラル向上が盛んに議論されるようになってきている一方で、ハラスメントが問題になる場面ではなにゆえに職場のモラルダウンばかりが目につくのかといった問題が提起され、また、ますます労働事件が難事件化するなかで十分な能力を備えた労働相談員の人材育成をどのようにして実現するのか、すなわち、相談員をスペシャリストとして養成した方がよいのか、それともジェネラリストのキャリア・コースの一環としての相談員体制を維持していった方がよいのかといった問題、さらには行政ではなくNPO等の民間の機関によって労働相談を行う方が望ましいのではないかといったことが議論されました。議論はいつまでも尽きそうにありませんでしたが、金子先生のスケジュールの都合もあり、17時半にはディスカッションを打ち切らざるを得なかったのは残念でした。

金子先生とは今後も研究上の交流を維持していきたいと考えております。今後ともよろしくお願いします。