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コラム

■ 大学非常勤講師のハンガーストライキという「事件」:渡邊 太

2007年8月17日〜20日、立命館大学で遠藤礼子・非常勤講師がハンガーストライキを決行した(*1)。遠藤講師は、2000年度から同大学でイタリア語を教えてきたが、大学側は昨年12月に2008年3月での雇い止め通告を出した。遠藤講師は、立命館大学での非常勤講師の使い捨てに抗議するビデオ「非正規労働者 立命館の乱」(*2)を制作するなど、争議の前線に立ってきた。今回の雇い止めは、こうした組合活動をつぶすための不当労働行為であるとして、ゼネラルユニオンは、6月4日に大阪府労働委員会に「労働組合法第7条第1号・第3号違反」として訴えている(*3)。
(*1) http://gurits.exblog.jp/i20
(*2) http://generalunion.org/kumiai/video/Rits2005JP
(*3) http://www.generalunion.org/doc/070604ULP.pdf

遠藤講師のハンストに対して、立命館大学は、次年度から遠藤講師と契約しないことはカリキュラム改革に伴い担当者がイタリア語ネイティヴ・スピーカーの教員になることによる教学編成方針にもとづくものであると説明し、学生に約束していた授業を休講にし補講も予定しないことは、憲法に保障された教育を受ける権利および大学との契約による学生の教育を受ける権利を侵害するものとして、ストライキを不当な行為とし、中止することを申し入れた。

大学非常勤講師がハンガーストライキを決行するというのは、きわめて珍しいケースである。だが、この「事件」は、大学非常勤講師が置かれている現状を象徴的にあらわしているのかもしれない。

大学非常勤講師の労働条件は、一般的に専任教員に比べるとかなり不安定で賃金水準も低い。関西圏大学非常勤講師組合の調査(2007年)(*4)によると、雇い止め経験のある非常勤講師は、専業非常勤の50%に上る。雇い止めの理由は、「科目がなくなった」(33%)、「他の人が担当することになった (譲らされた)」(32%)など。また、専業非常勤の95%が大学非常勤講師の労働・教学条件について不満があると回答している。不満の理由は、「雇用が不安定」(78%)、「賃金が低い」(75%)などである。労働組合の調査であるため、現在の労働条件に不満を抱えている人や、実際に紛争に巻き込まれた人が調査回答に協力する傾向があることを割り引いたとしても、大学非常勤講師の労働条件はかなり厳しい状態にあるといえるだろう。
(*4) http://www.hijokin.org/en2007/index.html

集団的な知識の生産の場としての大学において、非常勤講師も知識の生産の一端を担っているにもかかわらず、非常勤講師は労働力としての再生産が困難な状況に置かれている。こうした状況に対して、知識の集団的な生産活動を維持するために大学はどう対処すべきかが問われている。