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研究会概要

■ 大阪大学大学院法学研究科/関西経済同友会
「交流研究会」ミニ・シンポジウム  2005.07.07

2005年7月7日(木)18時30分から21時まで、大阪大学中之島センター7F講義室3にて、大阪大学大学院法学研究科/関西経済同友会「交流研究会」ミニ・シンポジウムが開催されました。全体テーマは「激動する職場のマネジメント−いま何が求められるのか−」。まず私の開会挨拶に続いて、元・労働省女性局長で現・大阪大学大学院法学研究科法政実務連携センター招へい教授の藤井龍子先生の基調講演、休憩を挟んで、大丸本社人事部長の平山誠一郎氏と私とによるコメント、そして藤井先生からのリプライ、最後にフロアを交えてのディスカッションが行われました。

基調講演は「職場トラブル増加の背景と対策―職場のいじめ、メンタルヘルスなどをめぐって―」でした。藤井先生は、まず、厚生労働省等の統計資料に照らして、セクハラ、パワハラ、いじめ、メンタルヘルス問題といった職場トラブルが近年いずれも急増している現状を明らかにされ、つぎにトラブル増加の背景には競争激化に伴うストレスフルな職場環境があり、それとともに現場従業員のコミュニケーション能力の低下、そしてとりわけ管理職の管理能力低下があることなどを指摘され、さらにそのような問題への対応策として、管理組織の見直しや管理職の管理能力向上策、外部資源の活用の指針などを明らかにされ、最後に行政の対応と今後の課題といった話をすることで、ご講演をまとめられました。個人的には、トラブル問題が急速に顕在化してきているのが「30歳代の男性」であるという指摘(いわゆる「30歳代問題」)がとくに印象に残りました。

つぎに、休憩を挟んで、私が論点整理を兼ねたコメントを行いました。私が指摘したことは、現状のように極端にストレスフルな職場は、従業員が相手を信頼してコミュニケーションを持てるような環境にはなく、そのなかで起こっているのが今日の職場トラブルであるということ、管理職の管理能力の低下といった問題も、もはや信頼関係をベースに置いたコミュニケーションが著しく困難となっている中で、管理職に求められる管理能力が「ふつうの上司」の能力をはるかに上回ってしまっているという観点から理解すべきことなどです。さらに、そのような現場従業員・管理職のコミュニケーション能力の低下を補うための方策として、企業内外の機関、とりわけ第三者機関に偏在して蓄積されている「紛争対応ノウハウ」を、(報告書・リーフレット等の「死んだ情報」としてではなく)、必要な時に必要な人が容易にアクセスできる「Q&A」等に加工し、管理職研修等で周知するとともに、情報ネットワーク等でも使えるようにし、現場でのトラブル予防と対応とに生かしてもらうようにはできないのかというような提言をいたしました。

私のコメントに続けて、平山誠一郎氏が、人事担当者としての実体験を交えて藤井先生が挙げられた諸点についてコメントをされました。そこで指摘されたことは、まず、いじめ・メンタルヘルス問題とセクハラ問題とは原因が異なり、前者は職場の意識変革が実際の変化に追いついていないために起こっている問題であるのに対し、後者はリストラによってもたらされた過度にストレスフルな職場に起因する問題だということ、「30歳代問題」は実感からすればバブル期に大量に採用された現在の30歳代が組織の激変に耐えられずに直面することになった問題だと思えるということ、企業は職場トラブルが発生した後の対応よりも、その予防と早期対応のための制度整備を進めており、コンプライアンス・ホットラインといった多様な受け皿を設けているのはその一環であるということ、企業がこうした職場問題に対応するには、信用喪失リスクを回避するといった「マイナス回避の視点」ばかりではなく、むしろそうしたトラブルを制度設計レベルで克服することによって活力ある収益性の高い職場を作り上げるという「プラスの視点」をも併せ持たなければならないのであり、そのために、アメリカの企業で試みられている「ダイバーシティー・マネジメント」から示唆を得ることができ、そこではとくに「オーバーコミュニケーション」が重要だと言われている、といったことでした。

ディスカッションでは、統計上トラブルが激増しているとしても、実はそれが新しい制度導入等によってもたらされた「掘り起こし効果」によって生じているということが考えられないかという指摘、平成9−10年の自殺件数に極端に大きな変化があるが、それはこの時期に自殺が労災認定に含まれるようになったということを受けているのではないかというような指摘、30歳代問題はバブル期に採用された中堅社員に特有の問題などではなく、30歳代一般に見られる過度にストレスの多い職務構造が生じさせる問題なのではないかといった指摘、20歳代の自殺も決して少なくはないが、これについては「折れやすい若者」問題が反映していないかというような指摘とそれに対する応答とが行われました。

いずれにしても今回のミニ・シンポジウムの議論は活況で、職場トラブル問題に対する関心の高さが窺われました。藤井先生、平山さん、そして、ご参加頂いたみなさんに心から感謝致します。関西経済同友会との「交流研究会」の成果も少しずつ大きくなってきております。さらに成果を積み上げ、法学部門における産学連携の新しいモデルとなるような活動にできればと考えております。