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研究会概要

■ 第1回科研研究会概要  2004.07.03

2004年7月3日(土)に、大阪大学大学院法学研究科・法経大学院総合研究棟4F中会議室にて、15時から18時半まで、法学研究者、社会学研究者からなる11名+書面参加1名の参加を得て、科研費共同研究プロジェクト「紛争回避と法化の法理論的・実証的検討」の第一回研究会が開催されました。基調報告者は科研費研究代表者の福井康太、および、研究分担者の水島郁子でした。

T 福井報告
 福井構想の基本的な考え方は、企業等の組織で見られる、使用者・組織管理者による紛争回避を目的とする「組織いじり」がその受け手である従業員等によってどのように受け取られるのかということについて、「決定者Entscheider」と「被影響者Betroffene」というルーマンのリスク論で用いられている区別を用いて分析するということです。すなわち、それぞれの立場の思惑のあいだの溝の大きさを浮き彫りにする一方、その両者が対抗しつつもある種の均衡に達することがあり得るのかどうか検討するということです。

これに対する質疑応答の詳細は省略致しますが、「使用者・組織管理者の観点/従業員の観点」という2アクターの対抗関係を設定した理論モデルは単純にすぎ、これに加えて「行政主体」「外部者」のようなさらなるアクターを組み込む工夫が必要であるというご指摘や、「使用者・組織管理者」「従業員」というように、ある単位を一括りにできるアクターを措定することはできないので、作業仮説をたてるにしろ、調査がある程度進むまでモデル設定はオープンにしておいた方がよいといったご指摘は重要であると受けとめています。

U 水島報告
 水島報告は、詳細な判例整理のレジュメを用いて行われ、(1)職場におけるハラスメント(その定義について)、(2)労働裁判例に見られる安全配慮・環境整備(10件に上る詳細な裁判例紹介)、(3)救済アプローチ(被侵害利益に着目したアプローチと救済機関別アプローチの区別を指摘)、(4)ヨーロッパの動向(ヨーロッパ諸国ですでに職場のいじめに対する立法措置を講じている国があることを指摘)という順序で検討が進められました。

水島報告についての質疑応答は、主として安全配慮義務の法的性質を中心として展開され、不法行為構成と債務不履行構成とでどのような点に違いが生じるか(消滅時効と利息債権の発生時期)といったこと、裁判所はなぜ債務不履行構成よりも、不法行為構成を好んでいるのか(信義則のような「伝家の宝刀」を抜くのはできるかぎり回避されなければならないし、契約上の義務は不用意に拡張されてはならない)といったことについて踏み込んだ議論がなされました。他方、社会学サイドからは「内包的定義」と「外延的定義」の使い分け方についてコメントが加えられ、また、参考に挙げられたサンプル事例は典型事例であるかどうかという質問に対して、それらは典型事例であると考えられ、裁判上の事例数は少ないものの労働相談の窓口等で相談データが蓄積されている可能性があるといった回答がなされました。この点に関して、いじめ相談等の制度が整備されることでかえって報告事例数が増えるというパラドックスがあるので、報告事例数だけで問題の動向を判断することについては注意を要するという指摘がなされました。
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以上のような議論を前提に、本科研費の共同研究を進めることが確認され、実際に夏以降この方針で研究が進められることになります。