現代"中国"の社会変容と東アジアの新環境

大阪外国語大学・200年度特別研究(2)プロジェクト報告書
2007/9/23

【プロジェクトの概要】

本プロジェクトでは、政治学、経済学、歴史学、社会人類学等の観点から地域としての「中国」、および東アジア(東南アジアを含む)をとらえ、中国地域研究の新たな方向性を模索することを目的とし、5つの共通課題を設定した。

  1. 「中国」を中華人民共和国と等値せず、地域社会、国民国家、サブ・リージョン(経済的相互依存性を基礎とした国境横断的越境的まとまり)、国民国家結合(リージョン)、グローバル・ランドスケープといった地域の多層性、「多元的多民族社会と華人社会」という空間的拡がり、および「近現代の軌跡と前近代からの逆照射」という歴史的射程からその特質を捉えること
  2. 東西冷戦構造の解体から新国際秩序の模索の過程において顕在化した東アジアの新しい「文明生態」の形成における中国文化の位置づけとインパクトを競争・共生・共同あるいは摩擦・対立・対決というような緊張関係を意識しつつ、様々なディシプリンを駆使して研究すること
  3. 香港・台湾・東南アジアなどの華人・華僑社会の新しい文化変容・文化創造が中国とその周辺地域との地域間関係にどのような影響を与え、また中国の国家的枠組みの再編にどのようなインパクトを与えうるかを多面的に検討すること
  4. 中国の開放体制が、中国国内の周辺部とそれに深い歴史的文化的繋がりを持つ周辺諸地域との間に、どのように新たなネットワークを形成し、そして地域間関係・民族関係を再編成させつつ、なおかつこれらを主体とする経済・文化圏形成に寄与し、またかつての周辺地域を新たな核とする中心-周縁(core-periphery)関係をどのように生成させつつあるかなどの諸点について、特に周縁地域の歴史的変遷過程と実像から多角的に検討を加えること
  5. 日本を含めた中国の国際関係の未来像形成を巨視的・重層的にとらえていくための中国研究及び中国と関連する地域研究の可能性と方法を提起すること

この共通課題に即して、本学教員5名、本学OBなど14名、大学院生4名、南開大学関係者21名、台湾東華大学関係者6名による南開大学、東華大学(台湾)、本学共催の国際シンポジウムを南開大学歴史学院において開催するとともに(8月26日から30日)、将来的な研究成果の出版を念頭におきつつ、研究成果を報告書(添付資料 要返却)としてとりまとめた(8月)。また、シンポジムに

先立つ7月には、日本側の参加者によるセミナーを行い、あらかじめ全体テーマに関する調整を行った。

シンポジウムでは、中国、台湾の研究者、日本の中国研究者、東南アジア研究者、南アジア研究者、アメリカ外交史の研究者が、それぞれの視点から、議論をおこなうことで、それぞれの視点の違いを明確に意識することができた。台湾の中国研究者の報告には、海外との関係から中国の姿をとらえようとする姿勢と社会史的な関心を見出せ、前者からは、台湾研究者がいかに「中国」を特殊な研究対象として認知しているかをうかがい知ることができる。一方、中国の研究者には、むしろ、環境問題や格差といった現代の中国が直面している諸問題に関連した問題意識を発見することができる。日本の研究者は、「周縁」という視点を非常に強く打ち出している。しかし、相対化を試みるならば、こうした傾向は、知らず知らずのうちに地理的、空間的認識の比喩のなかに現象を一面的にとらえてしまう危険性を潜ませんているとも言えよう。

シンポジウムのもう一つの大きな特徴は、いくつかの報告が、味覚や薬、身体といったこれまで中国地域研究があまり関心の払われてこなかった問題をとりあげている点にある。こうした試みは、歴史や人類学における主体性が、個々の人間から、人間どうしをつなぐモノや身体にシフトさせようとするものであり、今後の展開が期待される。

研究課題に関する特徴の他に、本シンポジウムは、大学教員に加えて3大学の大学院生、ポストドクターの研究報告の場を提供し、教育上の効果をあげることもできた。

本プロジェクトの研究成果は、10月末をめどに加筆修正を行った上で、本年度中に刊行物として公表する予定である。


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