現代"中国"の社会変容と東アジアの新環境

大阪外国語大学・2006年度特別研究(2)プロジェクト報告書
2007/5/2

【プロジェクトの概要】

本プロジェクトは,平成17年度実施した「現代「中国」の社会変容と東アジアの新環境」(特別研究費Ⅱ)の研究成果をさらに深化させる見地から,新しい中国地域研究の可能性と中国台頭に伴う21世紀の東アジア(東南アジアを含む)の国際環境変動に対処すべき有効な処方を具体的に提示することを目的とするものである。

本プロジェクトは,中国の変貌を中心・周辺(core-periphery)関係の再編過程ととらえ,主に(1)「中国」を中華人民共和国と等値せず,「多元的多民族社会と華人社会」という空間的拡がり,および「近現代の軌跡と前近代からの逆照射」という歴史的射程からその特質を捉えること;(2)東西冷戦構造の解体から新国際秩序の模索の過程において顕在化した東アジアの新しい「文明生態」の形成における中国文化の位置付けとインパクトを競争・共生・共同あるいは摩擦・対立・対決というような緊張関係を意識しつつ,様々なディシプリンを駆使して研究すること;(2)香港・台湾・東南アジアなどの華人・華僑社会の新しい文化変容・文化創造が中国とその周辺地域との地域間関係にどのような影響を与え,また中国の国家的枠組みの再編にどのようなインパクトを与えうるかを多面的に検討すること;(3)中国の開放体制が,中国国内の周辺部とそれに深い歴史的文化的繋がりを持つ周辺諸地域との間に,どのように新たなネットワークを形成し,そして地域間関係・民族関係を再編成させつつ,なおかつこれらを主体とする経済・文化圏形成に寄与し,またかつての周辺地域を新たな核とする中心・周辺(core-periphery)関係をどのように生成させつつあるかなどの諸点について,特に周辺地域の歴史的変遷過程と実像から多角的に検討を加えること;(4)日本を含めた中国の国際関係の未来像形成を巨視的・重層的にとらえていくための中国研究及び中国と関連する地域研究の可能性と方法を提起すること、などの諸点を共通課題として追及するために,企画されたものである。

前年度の成果に加えて、新年度では新たに

  1. ナショナリズムや宗教やエネルギーなどに代表されるグローバル・イシューの観点から「中国」及び「中国」をめぐる近現代東アジアの国際関係と歴史構造の検討を行ない,「交錯・対抗」関係から「共存・共棲・共創」関係への展望に立って,中国台頭に伴う21世紀の東アジア(東南アジアを含む)の国際環境変動のダイナミズムに対処すべき有効な処方を具体的にどのように提案,提示するか
  2. 「中国」の内部から周辺関係を捉える視点の再検討を行なうと同時に,周辺地域,なかでも東南アジアや中央アジアの内部の視点から,周辺を主体とした地域群が「中国」の存在をどのように捉え,その歴史的変容を経て結果として「中国コンセプト」ないし「中国インパクト」がどのように醸成され,そしてそれらが「中国」に求める国際関係の認識座標としてどのように展開し,変容してきたか
  3. 大阪大学との統合により,これまで大阪外国語大学が主体となって蓄積してきた中国地域研究領域の知的資産を継承,発展させるという観点から,研究組織の再編と研究者の再配置を経て組成される新生阪大においてどのように持続発展に相応しい研究体制作りの方法を提示するかなどの重点的課題を設定し、新しい成果の蓄積と体系的最整理を試みた。

具体的には
●平成18年11月11日,本プロジェクトの公開企画として,「中国」のインパクトと東アジア国際秩序をテーマとするワークショップを千里ライフサイエンスにおいて開催した。当日,一橋大学の清水学元教授(中東研究)、北海道大学大学院生の加藤美保子(ロシアの安全保障)、台湾東華大学歴史系の許 育銘副教授(中華民国史)、中国南京大学国際関係学院の朱 瀛泉教授(国際関係)、中国華僑大学華僑研究所の朱東芹副教授(華僑研究)の5名の報告者による課題報告と本プロジェクトの分担者の討議が行なわれた。いずれも,多数の参加者から提示された公開討論とともに,今日的「中国」社会の秩序再編の波動特性を歴史的・国際的広がりの文脈から一層鮮明化させていくという中国研究方法論の新たな探求に寄与する貴重な提案であった。
なお,本ワークショップの報告課題は以下である。

●平成19年2月17日,中華人民共和国の60年を問う-日本における中国研究の到達点-とテーマとする公開セミナ-を千里中央の阪急朝日ビルにおいて開催した。中国の経済、外交と歴史研究の3分野の代表的研究者による総括的解説に加えて、本プロジェクトの分担者の討議と多数の参加者で占められたフロアーからの活発な質疑も行われ、中国研究の今日的意義を問った。
なお,セミナーの報告題目は以下である。

●本プロジェクトの分担者全員の執筆による最新の研究成果をまとめ、西村成雄・田中仁編『現代中国地域研究の新たな視圏』と題する著作を2007年3月に世界思想社(京都市)より出版した(特別研究費Ⅰ助成金)。

●2006年10月7日、本プロジェクトの分担者である田中仁教授は、大阪大学中の島センターにて社会・人文系研究戦略会議に参加し、本プロジェクトの概要と成果を紹介した。

なお、上記の公開ワークショップとセミナーはすべて大阪大学グローバルヒストリー研究会との共催方式を取り、統合後の新大阪大学における中国研究の蓄積と継承に当り、有益な試みであった。



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