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日米法学会「アメリカ法1999-1」(1999/7)
著書紹介
情報化による法律実務のパラダイムシフト
Richard Susskind, The Future of Law,
Facing the Challenges of Information Technology,
Oxford Clarendon Press 1996,
Revised Paperback Edition 1998, lxvii+309pp.
I. はじめに
本書は、情報技術(Information Technology; 以下 IT)の進展による法律実務の変容を近未来的な展望で提示するものである。著者の博士学位論文である前著"Expert System in Law"(OUP, 1987)が非常に理論的・実験的であったのに対し、ここでは実用を射程に入れた議論を行っている*1。なお、1998年発行のペーパーバック増補版ではThe Future of Law Revisitedと銘打たれた前文が約50頁にもわたって新たに追加されている。
ススキンド(R. Susskind)は、1961年、スコットランドに生まれ、グラスゴーで法学教育を受けた後、オックスフォードのバリオルカレッジ(Balliol College)でラズ(J. Raz)などにも指導を受け、「法とコンピュータ」の分野で博士号を取得した。現在ソリシタで、メーソンズ(Masons)という国際法律事務所の役員メンバーである他、ロンドンにあるストラスクライド大学(University of Strathclyde)の法情報技術センター(Centre for Law, Computers and Technology)の客員教授やInternational Journal of Law and Information Technology(OUP)の編集委員、Law and Information Technologyの特別アドバイザーといった立場にもある。1997年来日されたケンブリッジのビートソン(J. Beatson)教授によれば、ススキンドが、今日のイギリスにおける司法改革の方針を示した報告書Access to Justice(2 vols, 1995, 1996)を作成したLord WoolfのIT顧問という立場にあるという点は特筆すべきであろうとのことであった。
ススキンドの比較的新しい論評には、Information technology and the future of lawyers, Journal of the Law Society of Scotland, (January, 1997, 42, 1, 6-8)がある。
II. 本書の概要
本書は、ペーパーバック版で追加された前文と4部8章から構成されている。
1 ススキンドは、まず前文の「法曹の将来・再考」で、最初のハードカバー版からの2年弱で状況はかなり進展したとし、もはやITを否定することはできず、法は法律家の独占物ではなくなるとの当初の主張はますます現実性を増しているとする。彼は、それを前提に、今後10年でのITの発達、法律実務や司法運営の行く末、司法制度の変化と政府のあるべき対応、法律家の将来とWorld Wide Web(以下、WWW)の役割などを論じている。
第1に、今後10年でますます機器の性能とその使い勝手が向上し、またネットワークが普及するという。それを前提として第2に、司法関係者全般、非法律家、弁護士や裁判官、司法制度などについて、個々にどのような変化が起こるかを論じている。第1部以下の議論と比較すると、ネットワーク上での聴聞や交叉尋問、市民の法案作成参加、定型的行政事務(免許発行など)のネットワーク上での処理、法律家の国際的一体化、遠隔法学教育などの新提言がある。第3に、司法府内部に点在するITシステムを単一の入り口から利用できるコミュニケーションインフラの整備、法律家からも依頼者からも利用できる法の電子的フォーラムの設置、一般市民が無償でアクセス可能な電子的法律ガイダンスの提供をあげ、これらがイギリスの司法制度を改善することを強調している。そしてその費用は、公費だけではなく、民間がシステムを開発し、使用料を徴収するといった形式で解決するのが現実的だとして、司法各機関の協同などの実現条件を提示する。第4に、ITにより従来の法律実務が変化し、さらに新市場を対象とする業務が現出するとする。そしてそこでは、WWWが無償でアクセス可能な電子的法律ガイダンスを提供し、イントラネットが事務所内のノウハウを蓄積し、そして新機軸のエクストラネット(イントラネットを拡張し、一定限度での依頼人のアクセスを認めるもの)が法の電子的フォーラムを支えるとする。そしてそのシステムは、実定法・判例・論文などを利用者の状況に適合させた形で提示するものでなければならず、そのためには概念検索や意味検索機能、後述の「知的チェックリスト(intelligent check list)」のようなガイダンス機能、利用者が対話的に用いることのできる知識ベースの診断機能、利害関係者に自動的に法情報を送付する「知的エージェント」機能が必要であるが、今日の技術からみて空想的なものではないとする。
2 第1部理論編は、3章から構成され、「情報」という観点から法および法律実務を見たとき、現状には一体どのような問題があり、それに対してITが一般にどのように対応することができるのかを論じている。
まず第1に、我々は今、「過規制(hyperregulation)」の時代に生きているのだという。つまり、「法」があまりに広大・多様・複雑であるために、我々はその適用可能性やインパクトについて完全に理解することができないままそのような規制に服さなければならないというのである。ここで注意しなければならないのは、法の絶対数や起草手法が問題なのではなく、法を扱う現代的手法としての紙や印刷では法の量と複雑さに対処することができないことが問題なのだということである。
第2に、このような過規制の状況があるにもかかわらず、立法にせよ判例法にせよ、それに影響を及ぼされる国民に対し必ずしも完全に周知させているわけではない。確かに、ほとんどの立法は出版されている。しかし、入手可能にすることそのものにどれだけの意味があるのか。公布は、法情報の入手可能性にとどまらず、新しい法や法の変更について認識させることに及ばなければならないのである。また、イギリスでは、公式の判例集も存在せず、民間の判例集に登載されるものはごく少数である。だからといって、法の不知が抗弁になるわけではない。別言すれば、我々は、合理的に知ることができない法に従わなければならないのである。
第3に、実務に目を向けてみる。問題は、その事後性(reactivity)にある。すなわち、依頼人は、法的問題が顕在化して初めて法律家のアドバイスを求めようとする。そうすると、依頼人は、タイミングを逸し(そもそも、法的洞察力がないとタイミングも見極められないのだが・・・)、しばしば効果的な予防措置をとることができない。そこで重要となるのが予防的な(proactive)法的リスク管理であるとする。さらに、事務所間のみならず、他業種(会計士等)との競争、買い手市場による依頼人の要求の高度化、さらには、景気後退時における特に企業からの需要の減少なども手伝って、現在の法律市場はかなり圧迫され、縮小してきていると指摘する。彼は現在の法パラダイムは次のような特徴を持っているという。つまり、法律家が依頼人に与える法的サービスは、事後的に、依頼人が抱える特定の「法的」な「紛争」の「解決」のみを念頭に置いた助言的(advisory)なものに過ぎず、また、時間単位で課金される。さらに、法は、商業ベースで「出版」されており、法情報のほとんどは「印刷」物である。このようなパラダイムが変化の瀬戸際にある、というのが本書の主張である。
これらの問題が、ITを用いることによってどのように解決されるのであろうか。過規制については、ITを用いることによって、利用者は関連する法情報の量と複雑さを意識せずとも、適量の法情報とアドバイスのみを得ることができるようになる。公布の問題についても、影響が及ぶ人々に自動的に法の変化について知らせるようなメカニズムが出現するだろう。また、実務における事後性に関しては、必要な法的知識が、法律家に直接相談する必要なく、理想的な時に入手できるようにすることによって克服される。その際、ITを単に既存の業務を自動化するものとしてのみ捉えてしまうと法律家にとっての市場は縮小してしまうだろうが、ITの役割はそれにとどまるものではなく、事前性の実現など、潜在的な法律市場の開拓を支援するものであると彼は述べている。
3 第2部技術編は、法律実務に応用することができる技術を概観する第4章と、それらの技術が主としてどのように応用されうるのかを論じる第1章から構成される。
まず彼は法律実務に応用可能な技術の中心的なものとして、次のようなものをあげる。
資料の自動的配信/概念検索/キーワード設定の支援を含む「高度なテキスト検索」/広大な情報空間を自由に行き来でき、ある資料から関連資料へのアクセスが非常に容易な「ハイパーテキスト」/提示された問題に一定の解決策を提供する診断システム/提示された結果に到達するためのシナリオを提供する計画システム/質問に答えるだけで、一定の手続きを踏んでいるかどうか、あるいは今その手続のどの段階にあるのかを提示する知的チェックリスト/対話形式で自動的に文書を作成する文書構築システムなどを含む「エキスパートシステム」/書式やレイアウト、フォント等の情報を再現できるよう、文書を画像として処理する「文書画像処理」/LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)の構築による、データ・ソフトウェア・機器の共有や、さらにインターネットによる種々の情報検索や情報発信も可能にする「通信技術」/コンピュータ資源のみならず、情報の共有を容易にし、チーム作業を支援する「グループウェア」と、全ての作業について人的、時間的配分を最適化する「ワークフロー」/口頭でのメッセージ作成や、訴訟記録の容易な作成を可能にする「音声認識」などである。
彼は、これらを応用した場合、次のようなことが可能になるとする。
・電子コミュニケーション技術により、メッセージや文書の送受信や加工が容易になる。また、インターネット上の様々な情報源へアクセスしたり、蓄積されたアドバイスメモなどをネットを通じて利用可能にすることもできるようになる。
・文書構築システムを用いることにより文書作成が容易になり、様々な書式、字体での印刷が可能となる。また、テキストの移動、変更が容易なため、文書作成そのもののみならず、思考整理支援ツールとしても利用可能である。電子的な文書は管理が非常に容易であり、ハイパーテキストを組み込むことにより文書間の情報参照も容易となることから、訴訟支援にも役立つ。
・過去のアドバイスや文書を雛形化するなど、事務所内のノウハウをシステム内に蓄積していくことにより、過去の労働成果を後になって再利用することが容易になり、それを外部に公開することによって新たな収入源とすることもできるようになる。また、事務所内の各法律家について、専門領域等のプロフィールを詳細に作成しておけば、ノウハウシステムの労働成果作成者情報と併せて、特定の問題について誰に尋ねるのが最適なのかを知ることができるノウフー(know-who)システムとして活用することもできる。
・法律家が事務を行う際、自らの組織外で作成された外的情報へアクセスすることが不可欠である。これは、高度なテキスト検索技術、ハイパーテキスト、インターネットやWWWを用いることによって利用しやすくなっていくだろう。また、CD-ROMを用いることによって、例えば従量課金データベースへのアクセスについて発生しやすい萎縮効果を除去することもできよう。
・事件の流れを管理するようなシステムを用いることにより、特定の事件について、訴訟の進行状況や、どの作業をいつまでに終わらせなければならないのかを知ることができる(これは依頼人も享受できるメリットである)。また、チーム作業を行う場合にも、同一の事項についてアドバイスの重複や矛盾を回避することができるなど、種々のメリットがある。また、複数の事件について、山積みの事件を管理するようなシステムを用いれば、人的、時間的資源の配分を最適化し、扱いきれないほど多くの事件を抱えることを回避することができるようになる。
4 第3部は実務編として、第6章「事例研究」と第7章「成功のための要因」からなっており、今まで述べられた技術の実務への応用と導入を成功させるための留意点が実践的に述べられている。
第6章の「事例研究」では、主にススキンドが関わった範囲で、ITの3つの効果、すなわち、自動化(automating)、情報化(informating)、革新化(inovating)のそれぞれを代表する例があげられている。簡潔にいうと、自動化とは従来の仕事の機械化であり、情報化とは自動化のプロセスの中で生成されたデータを活用すること、革新化とは法的処理の仕事の流れそのものを再構築することであるが、彼はこの革新化がもっとも重要であるとする。まず自動化の例として、人工知能技術を応用した、付加価値税(Value Added Tax, VAT)用の知的チェックリストであるVATIA(VAT Intelligent Assistant)、大規模な訴訟の管理に関わるハイパーテキストシステム、瑕疵担保責任法(Latent Damage Act 1986)に関するエキスパートシステム、法廷でのアプリケーション群の利用があげられている。次に情報化の例として、経理経営情報システム、文書管理システム、訴訟支援システムがあげられ、最後の革新化の例としては、問題別に法の再構成を行ったITベースの法律ガイダンスシステム、端末を用いた法情報キオスク、契約などの文書構築システム、統合的な法律業務ソフト、法的リスク管理支援システムなどを紹介し、その利点と問題点を述べている。その中でススキンドは、現時点では、合法/違法を判断する知的チェックリストを最も評価している。
第7章の「成功のための要因」で彼は、(1)IT導入の戦略・計画・管理の三側面について述べた後、(2)「技術・資金・文化」の3点において法曹社会に受容されるようにすることが「3つの最重要公式」だとし、最後に、(3)学生から実務家にわたる教育・研修について述べている。
彼はまず、(1)について、戦略が単に経費節減といったものに留まらず、「革新化」をめざすものでなければならないとし、計画は過去に縛られるのでなく、将来志向で、ITと仕事とを大まかに方向づける戦略的計画(strategic planning)と、技術者とともにそれを実現する戦術的計画(tactical planning)の双方ともが重要だとする。次に法律家にとって80年代は管理の容易な時代であったが、今日では堅固な管理が必要であるとする。ことにITは管理能力を要求するので甘くみてはならないとして、10のキーポイントをあげている。まずここでも最重要なのは1)「戦略と計画」であり、続いて、2)「上級経営者による支援」、3)投資に値するかどうかの「効果予測」、4)ITのみに依存しない「プロジェクト管理」、5)「IT利用者(可能なら依頼者も)の参加」を促進する文化の育成、6)ITにも法律業務にも通じている管理者による「輻輳的管理」、7)潜在的需要をも射程に入れた、ITに対する期待の醸成、8)IT利用者への「厳しい研修」、9)無駄な「システム再構築の回避」、10)技術的に洗練された方法によるIT化の展開をあげている。
以上の10のキーポイントは経営者向けであるが、(2)の「3つの最重要公式」は法律家や技術者向けであり、IT導入の評価基準ともなる。まず最初に、「効用のある技術か?」という点については、技術は常に発展していくものだとして、ここでは彼は多くを語らない。第2の「資金的に受け入れられるものか?」という点については、費用・便益分析の観点からだけでは司法制度へのIT導入は難しく、社会的効用なども評価の対象にする必要があるとする。しかし最大の問題は「文化にまでなるか?」、つまりITが業務に溶け込み、利用するのが当然という状態を作り出せるかという点である。彼はその条件として、ユーザーのレベルにみあったIT化を進めること、最初から完全を求めることなく漸進すること、定型性から柔軟性への法律実務の変質を受け入れることをあげている。
最後に彼は、(3)について、イギリスより合衆国の法律家が優位にあるのは、ITに親しんでいるからだとして、法情報技術の教育と研修を重視する。まずITは法学教育・法律実務と切り離されたものではなく、融合した形で教育・研修がなされるべきことを述べる。そして、それを前提に、早期からの学部教育・実務として技術をとらえる司法修習・IT習得を途切れさせない初任者研修・ITに不慣れなベテラン実務家の在職研修について提言している。
5 第4部「展望」には、第8章「法曹の将来」を充てている。
第1にススキンドは、現代は印刷ベースの産業社会からITベースの情報社会への過渡期であり、自動化を中心に進むだろうが、長期的には過渡期を過ぎて革新化が起こり、法律実務が助言的サービスから情報提供サービスにパラダイムシフトするとの予測の上で以下の議論を行っている。
まず、法律実務が情報提供サービスになった後は、今日の依頼人が「ユーザー」に、法律家が「法情報技術者」に、法律市場を拡大し法情報製品とサービスを提供する組織が「プロバイダー」となり、中心的にはユーザーとプロバイダーとの関係が重要になるとする。ユーザーからの利用は容易になり、その費用は時間単位のものから情報の市場価格へと変化し、潜在市場を掘り起こすことになる。次に法情報技術者となった法律家にとっては分析が主な仕事となり、潜在市場向けに自己の経験をパッケージ化したり洞察を情報提供し、法学者はそれらの一般化という仕事をすることになる。最後に法的サービスはもはや法律家の独占市場ではなくなり、他のプロバイダーも参入してくるだろうとする。例えば潜在市場に対する法情報提供という点では法律出版社と法律家は似通ってくることとなり、さらには一般通信プロバイダーも参入してくるかもしれないとするのである。
第2に、そうしたIT時代への変化にも関わらず法律家のみがなしうる仕事について、Austinにならい"The Province of Lawyers Determined"として述べている。
その一つは、依頼人の個々の事情にあわせた助言や、言語の不確定性や法の欠缺から生ずる矛盾などを解釈する「専門家としての仕事」である。もう一つは、電子法情報が新たな「生ける法」となったとしても専門家による訴訟は残るし、裁判官の仕事の一部が機械化されたとしても、法理論的・道徳的な問題には裁判官が必要だとする。
これを受け、第3に、機械と人間の守備範囲について、前著Expert System in Lawとは異なり、潜在市場を掘り起こすため、とりあえず実用可能な領域からITを導入していくことを勧める。また、法律家養成に対しては、IT化のみならず、伝統的な徒弟制的実務修習の重要性も述べている。
最終節ではまとめとして、印刷ベースからITベースへの進展に伴う法的サービスと法プロセスのパラダイムシフトを整理している。
まず弁護士業務を中心とする法的サービスは、助言的なものから情報提供的なものへ、1対1のものから1対他へ、事後的なものから予防的なものへ、時間単位の相談料から情報の市場価格へ、行動禁止的なものから行動保障的なものへ、防御的なものから実用的なものへ、法中心からビジネス中心へと変化し、司法過程を中心とする法プロセスは、法律問題解決から法的リスク管理へ、紛争解決から紛争予防へ、法の出版から法の普及へと変わり、法律家の専門分化や情報技術者化といった変化も起こるという。最後にススキンドは、こういった変化を予測しつつも、法曹の将来を決して悲観してはいないと述べている。
III. まとめ
情報化をめぐり世界は著しく変化している。今や情報産業が世界経済の牽引役を担おうとするまでに至っており、その影響力は、少しずつではあるが、司法界・法曹界にも及んできている。ITの分野において最先端を突き進んでいる合衆国では*2、例えば、Project Hermesの下、連邦最高裁の判決がリリース後数分以内に電子情報化され、ネット上で一般に利用可能となっている*3。わが国においても、合衆国には遠く及ばないが、全判決ではないものの最高裁判所による判決のホームページ掲載や、法律家や事務官をターゲットとした執務支援ソフトなどの開発、民事訴訟法の改正によるテレビ会議システムを用いた証人尋問の可能性、ススキンドも指摘するような定型的行政事務の電子化計画*4など、確かに一定の進歩が見られる。また最近では、いくつかの大学の法学部において、専門科目として「法情報学」などが講じられるようになってきており*5、ススキンドのいう成功のための重要な要素の一つである「教育」も行われ始めている。
ITによって潜在市場を開拓し、法曹活動を活発にしようとするススキンドの考え方は、以上のような世界的な潮流に即したものではあるが、あるいは、日本に比べてすら弁護士費用や裁判費用のかかるイギリスの特殊事情との関連が強いのかも知れない*6。この点についてはイギリスの司法改革がどのように進展するのか、その動向を見る必要があるだろう。あるいはITという単なる技術が知らぬまに真の意味での法の民主化や法律家の変質をもたらすということになる可能性もある。
また合衆国に比べて遅れをとっているという点ではイギリスの事情は日本のそれ*7とも共通するものもあり、本書にみるようなイギリスでの議論は、日本の法律実務の将来像を描くとき、合衆国の議論よりもより親和性のある模範になると言えるかも知れない。
ただ、気になるのは、第1にITへの投資を論じる部分などで、ITを使うために司法制度へのIT導入を図るという、いわゆる「為にする」議論構成になっている部分がありはしないかという点である。第2に、法社会学的視点に欠けるという批判*8は無いものねだりであるとはいえ、彼の言う「潜在的法律市場」がどのような問題を抱えた人々を対象とし、どのような具体的な解決が与えられるのかが明確ではなく、この点についてイメージすることが困難であるように思われる。また、本書では、パラダイムシフト後も残る既存の法実務に対し、ITがどのようなインパクトを及ぼすのかについても明確には触れられていない。しかしその点は、法律実務の事後的機能が弱体化するのではなく、事前的機能が拡大し、それが潜在市場を開拓するのだと読むべきではあろう。いや、市場を開拓するというより、ITにより様々な場面で可能になった新たな業務に法律家が手を染めると言った方が通りがよいであろうか。
なお最後に、オックスフォードでススキンド氏と旧知であった森際康友教授により、電子メールで氏にご紹介頂いた事を感謝したい。
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[注]
*1 本国での書評として、Murphy, W.T., Review, 60 MLR 447(1997)がある。また、ルーク・ノッテジ「サイバースペース時代における法と法実務の現状と未来」法学セミナー520号131頁(1998)参照。
*2 アメリカ司法界におけるITの概略については、宮下佳之・藤原宏高「アメリカ司法界のインフォメーションテクノロジー」自由と正義48巻7号14頁(1997)参照。
*3 日弁連コンピュータ研究委員会『米国司法におけるコンピュータの利用状況』第一法規12-15頁(1998)参照。
*4 例えば法務省は登記手続などの電子化を計画している(visited Oct. 20, 1998)参照。
*5 門昇「法情報学関係講義一覧」(visited Sept. 24, 1998)参照。
*6 逆に、スコットランドの現状を見る限り、ススキンドの言うようなIT化は理想論だととの指摘もある。Duncan, P., Information Technology and the Scottish legal profession: innovators versus the majority (visited Sep 7,1998)参照。
*7 高井夏人『ネットワーク社会の文化と法』日本評論社(1998)、XX-XX頁参照。
*8 Reviewed by Andrew Charlesworth (visited Sept. 24, 1998)。
(田中規久雄・福島力洋)