情報処理学会研究報告98巻21号
[自然言語処理124-1](1998.3.12) 1-8頁



法律効果規定部の意味機能について


大阪大学大学院法学研究科講師

田中規久雄


概要
 本研究は、法律条文における法律効果規定部の意味機能とその条文全体への意味制限について分析するものである。
 まず、この問題に関して先行研究ではどのような議論がなされていたかを確認し、次に条文の意味機能類型を仮定し、さらに実際の条文から効果規定部を抽出し先に定めた条文の意味機能との対応を見る。
 以上の分析から最後に効果規定部の扱いと解析処理への提言を行う。

キーワード 要件効果フレーム、法律効果、法律文、条文、判決、意味機能



About Semantic Function of the Legal-Effect's Restrictive Part


TANAKA Kikuo

Faculty of Law, OSAKA-Univ.

kikuo@law.osaka-u.ac.jp

Abstract
 In this study, semantic functions of the legal-effect's restrictive part and its semantic restriction to the provision are analyzed.
 First of all, preceding studies on this issue are confirmed. Secondly semantic types of legal provisions are assumed. Thirdly, each legal-effect's restrictive part is extracted from some actual provisions and its correspondence to the semantic type of legal provision is described.
 Lastly, I propose the treatment and analytical processing of the legal-effect's restrictive part.

KEYWORDS Condition-Effect Frame, Legal Effect, Legal Sentence, Legal Provision, Legal Judgement, Semantic Function



1 はじめに

 これまでの研究により、法律条文のデータ形式として「要件・効果」フレーム(Condition-Effect Frame)を用い、現実の条文をその形式に変換し、内部表現化するのが計算機上の処理に有益であることが明らかになった。
 その際、主題部の抽出と文末表現の意味が法条解析のとば口となっていた。 しかし、主題部の抽出における、「は、」などといった表層指標(Surface Index)の活用に対して、文末表現の形態と意味・論理構造との対応は、言語の本来的恣意性や、法文が無評価に学習コーパスに用いられることなどから、法学的に見た場合、若干の偏りや分類の平板さ、あるいは意味や概念の過(大・小)包摂があるようにも思われる。
 そこで本研究では、法律条文のデータ構造解析に資することを目的として以上のような問題点について法学上適切だと思われる意味機能の分析を行う。
 なお若干の補足をしておきたい。
 第一は、術語の使用法についてである。まず、「法律文(Legal Sentence)」という言葉であるが、法律に固有な文としてはいわゆる成文法の条文(Legal Provision Sentence)の他、判決文(Legal Judgement Sentence)が決定的に重要であり、今後の研究対象として判決文要約、判決文からの要件事実抽出(事実と要件のマッピング)や要件=効果構造の個別抽出(判決では複数条文の援用があるため)、判決文の自動生成などといったテーマが考えられるため、「法律文」という言葉を「法律条文(以下、条文)」と「判決文(以下、判決)」の上位概念語として使用したい。(もちろんこれは法学的立場からの見方であり、条文と判決が言語学的には相当に異なることを否定するものではない。)
 次に、表題にも使用した「法律効果規定部」という言葉である。この言葉は、ほとんどの場合、表層構造上の「文末表現」に該当するのではあるが、要件=効果の逆転構造文などもあることから、意味機能優先で使用した。すべて表層指標から切り分けてデータ構造化しなければいけないという立場からは、結論先取りということになろうが本研究の目的に鑑みてお許し頂きたい。
 第二は、研究上の基本的な立場である。法文上にはさまざまな法言語概念があるわけだが、レイコフ(George Lakoff)がいうように、カテゴリーには中心タイプ(プロトタイプ)があり、それは拡張により、無数の拡張モデルを生み出す。しかし、これは論理のように中心モデルに一定の原理を演繹していけばよいというものでなく、この拡張は慣習(Convention)によるのであり、個々に学習されねばならない *1
 条文の場合、意味構造上のプロトタイプは「要件=効果」構造なのであるが、表層構造上もプロトタイプ的な条文をまず解析し、次に、行政法規によく見られるような煩雑な条文の生成ストラテジーを解析するのがよいのではないかと考えている。


2 先行研究における扱い

 本研究の主題に関する先駆的業績としては、まず岩本らの研究 *2 がある。そこでは、法律文はその論理構造により、
  (1)法律要件+法律効果
  (2)適用除外
  (3)法律効果
のいずれかであるとされ *3 、この3種の文を表層的に切り分ける際に「文末表現」が有効な鍵となることを示した。次いで長野らは「国際的動産売買契約に関する国連条約(ウィーン統一売買法)」を具体例に、この「文末表現」には以下の6種があるとした *4

文の機能文末表現例
効果の言明〜する「ものとする」;「推定する」
権利の叙述〜する「ことができる」
義務の叙述〜し「なければならない」
適用除外ただし、〜する「場合はこの限りでない」;「適用しない」
適用規定ただし、〜する「場合に限る」;「適用する」
裁断の規定与える「必要はない」;与え「てはならない」

ただし、この見方は厳密にいえば、条文全体の大まかな意味機能と、文末表現自身単独での意味機能の分離が不十分であり、両者が混在したような形をとっているように思える。
 さらに長野らは文末表現から述語動詞を取り出して、法律条文の格構造との共起パターンの分析を行ったが *5 、その際、述語動詞の抽出基準を、

  『・・・文末表現「ものとする」、「ことができる」、「なければならない」については、助動詞相当語句として扱った。従って、これらの文末表現が用いられている文章については、これらを助動詞として処理し、その直前に出現する動詞を述語動詞とし、複文や重文に関しては文末に出現する動詞を述語動詞とした。また、「請求する」と「請求をする」のような同じ意味内容を異なった表現で表しているものについては、「請求をする」を「請求する」とサ変動詞化して分類を行なった。』 *6

としている。
 この抽出基準は、それまでの文末表現のとらえ方を変更するものであった。たとえば岩本らの段階では「〜する」という部分のみが文末表現としてとらえられていたが、長野らによれば、たとえば「請求をする」といった部分までが文末表現ととらえられた。ただし、長野らは文末表現と格関係の関係に着目したのであり、文末表現と条文の意味機能については言及していない。
 以上の、先行業績を参照して、田中らは民法(親族法)を例にして、要件=効果構造が人間の認知構造の基底表現であることから出発し、そこからの表層表現である法律条文の生成戦略を示した上で、意味表示を辞書的に処理することによる条文格構造を単一化したリスト構造を提案した *7 。この単一格構造とは、[要件主題部]・[要件条件部]・[効果対象部]・[効果内容部]・[効果規定部]というものであるが、その際、効果規定部の意味機能については岩本らとは異なり、効果規定部自体の意味機能を厳格に分離し、英米法の概念 *8 を導入して以下のように示した。

  「規定部における概念は、設定・創設を示す[ESTABLISHMENT]、可能を示す[PRACTICABILITY]、ならびにそれぞれの否定形(否定辞[NEGATION]を加える)、反証を許さない推定を示す[PRESUMPTION](conclusive presumption)、反証を許す推定/とりあえずの仮定を示す[ASSUMPTION](rebuttable presumption)などとした。
 ・[ESTABLISHMENT]:[ESTABLISHMENT]+[NEGATION](〜する、行う:失う、・・・など一般的なもの)
 ・[PRACTICABILITY]:[PRACTICABILITY]+[NEGATION](〜[ことができる]:〜[ことが]できない)
 ・[PRESUMPTION](〜[もの/ある/・・・]とみなす)
 ・[ASSUMPTION](〜[もの/ある/・・・]と推定する)」

 ただし、以上の分析におけるいわゆる「文末表現」の形態上の扱いは、岩本らの立場を採用し、「効果内容部」の一部を「効果規定部」に参入することとなる長野らの立場は採用しなかった。言い換えれば、効果規定部が「請求をする」というものである際、長野らはそれをサ変動詞化して「請求する」と変換したのに対し、田中らは「請求する」という表現を「[請求を][する]」と変換したのである。
 この後、川添らの研究 *9 、平松らの研究 *10 、ランダムに抽出した458条文を用いた角田らの研究 *11 においては要件=効果構造が注目され、効果規定部の意味機能という点にのみに限れば研究は進んでいなかった。
 しかし角田らは、要件=効果構造をとらえることによって、「個々の意味解釈に大きく踏み込むことなく実装でき」 *12 としながらも、今後の研究課題として「文末表現などによる標準構造への変換」 *13 をあげており、効果規定部解析の重要性がなくなったわけではない 。
 さて、以上の先行研究から本研究に関する論点を整理すると次の4点になる *14

 (1)条文の種類:意味構造(論理構造)からの類別化 *15
 (2)効果規定部表現による条文の意味機能制限
 (3)効果規定部そのものの意味機能:これは抽出基準により大きく変動する。
 (4)効果規定部の抽出基準:表層構造上のどの部分までを効果規定部として処理するのか。

 以下、上記の論点について考察していきたいが、手順としてまず作業仮説的に条文の意味構造的種別を立て、次に民法(親族法)中、第725条から第754条を例に法学的にみて適切と思われる部分を抽出して、その条文の意味機能とこの効果規定部自体の意味機能を示し、最後にそれらの結果から効果規定部の抽出基準について考察したい *16


3 条文の意味機能上の分類

 まず、条文の意味機能からの種類であるが、これは岩本らの提示を発展させ、次の三つとしたい。
  (1)定義文、(2)関係規定文、(3)本条編入文
 「要件」や「効果」という語を用いずに以上のように分類した理由であるが、まず、どのような条文もそれを意味構造から見た場合、要件=効果文であると見ることが可能となり、要件=効果構造を意味機能の指標とすることには問題があると考えたからである。これは、要件要素のφ(ゼロ)化を考えれば明らかであろう。たとえば、
 ・「親等は、親族間の世数を数えて、これを定める。」(726-1)
という条文について、
 ・[φ(この法律)]が[φ(親等という語を使う)]場合には[φ(この法律)]は[親族間の世数]を[親等]とする。
など、様々に変換できるが、有意味とは言い難く、むしろ要件をφ化しなければならない条文は可能な限りこれを「定義文」としてとらえた方が情報処理負担を低減させ組み合わせ的爆発を抑制するのに有益であろう。
 次に、人・物・事相互の実体的な法律関係を規定している条文を「関係規定文」とする。条文の中心的な文形態であり、プロトタイプとなるもので、条文解析は、まずこれらについてなされなければならない。法的な意味での要件効果構造を必要にして十分に備える条文といってもよいであろう。
 最後に「本条編入文」である。
 ある法律に対する「上位法・特別法・後法」は、法の秩序構造からその法の条文に対するメタ条文となり、存在を変容させるが、同一の法律の中では、適用範囲の広狭はあるとしても、原則としては条文の規範力の上下はない *17
 しかし、一見条文の上に立つ条文が同一法律内にあるような場合も、特定の条文をポイントしている場合は、意味的にはポイント先の条文の要件に本来は参入されるべきものと考えられる。また一般的に同一条文内や同一項内においては、指示語のスコープはその範囲に限られており、それを越える場合には明示される。
 岩本らはこれを「適用除外」として扱っていたが、実は「関係規定文」が人・物・事間の法律関係を規定しているのに対し、本条編入文は「条文相互の」法律関係を規定する文なのであり、本来はポイント先の本条に編入すべき要件を形式上「要件=効果構造」で表したものであって、本質は「(効果部を欠く)要件文」なのである。
 以上、意味の構造と機能で対比して見た場合、条文は
  (1)「効果」のみの文を、「定義文」
  (2)「要件=効果」を備える文を、「関係規定文」
  (3)本条文に編入されることにより「要件」のみが意味をもつ、「本条編入文」
の3種類に分類することができる。


4 条文の意味機能類型と効果規定部

 以下、例にあげた条文に適用して考察する。まず条文全体の意味機能で分類し、各条文の効果規定部単独の意味機能を条文ごとに示した。
 なお、[ ]内は岩本ら、田中らの立場で見た効果規定部であり、{ }内は長野らの立場で見たそれである。また効果規定部単独の意味機能については、田中らの立場からのもののみを示す。

4.1 定義文
 「定義文」は、行政法の組織規定などに多く見られる。道路標識を定める規定も定義文である。定義文の機能としては制度創設や概念規定などがある。
 制度創設とは、法律が、一定の行為を「犯罪」としたり、特定の社会領域を行政組織などを通じて「制度化」することである。殊に法実証主義的立場からは、制度化されない事項は「法律上は」存在しないことになる。
 概念規定とは、各法律が、当該法律で用いる言葉について概念内容をある程度は厳格に約定して使用することである *18 。それゆえ、同じ単語でも法律により意味範囲が違う場合が多々あることには注意しなければならない。
 しかし、「制度創設」と「概念規定」との違いは社会的・相対的なものであるので、計算機処理する場合には制度も概念も「記号」として扱えば足りる。
 (例)
 ・これを親族と{[する]}。(725):PRESUMPTION
 ・これを{[定める]}。(726-1):PRESUMPTION
 ・世数に{[よる]}。(762-2):PRESUMPTION

4.2 関係規定文
 典型的な法律条文はその法律効果部において人と人あるいは人と物・事との法律関係の生成・変動・消滅とその内容を規定する。法律中の法律といわれる民法の根底を定める総則の構成が法律関係の典型を知るに参考となろう *19

4.2.1 法律関係の条件的発生・消滅
 一定のEVENT *20 と連動してEVENTに関する法律効果が発生・消滅する場合。
 (例)
 ・親族関係を/効力を{[生じる]}。(727,739-1):ESTABLISHMENT
 ・姻族関係(親族関係)は、〜{終了[する]}。(728-1,729):ESTABLISHMENT
 ・婚姻は〜{無効と[する]}。(742):ESTABLISHMENT
 ・婚姻の取消は〜既往に{及ぼさ[ない]}。(748-1):ESTABLISHMENT
 ・{達したものと[みなす]}。(753):ESTABLISHMENT
 ・婚姻の際に[定める]ところに従い、夫又は妻の氏を{称する}。(750)「逆転構造」 =夫又は妻のどちらの氏を称するかは、婚姻の際に[定める]。:ESTABLISHMENT

4.2.2 法律関係生成の許可・禁止
 何らかのACTIONを許可・禁止する条文であるが、おおむね対外的効力に関するものである。許可と禁止は原則的には表現上の違いであって、論理上の違いはない。内部表現化する際には許可・可能形で統一し、要件部にNEGATIONをもっていく方法も考えられる。また、禁止・否定形は、表層的な文末構造を見ればESTABLISHMENTに見えるが、本質はPRACTICABILITYである。以下、PRACTICABILITY+NEGATIONPRACTICABILITYのみで表す。
 (例)
 ・婚姻を[するには]、〜同意を{得なければ[ならない]}。(737-1)「逆転構造」 =同意を得なければ、婚姻[できない]。:PRACTICABILITY
 ・婚姻を[するには]、〜同意を{要し[ない]}。(738)「逆転構造」 =同意がなくとも、婚姻[できる]。:PRACTICABILITY
 ・婚姻しようと[するときは]、〜{届出をすることが[できる]}。(741前段)「逆転構造」 =届出をすれば、〜婚姻[できる]。:PRACTICABILITY
 ・{婚姻(再婚)をすること/受理すること/取り消すことが[できない]}。(731,732,733-1,734-1,735前段,736,740,743):PRACTICABILITY
 ・取消を〜{請求することが[できる]}。(744-1前段):PRACTICABILITY
 ・{復することが[できる]}。(751-1):PRACTICABILITY
 ・{取り消すことが[できる]}。(754):PRACTICABILITY
 ・ 〜も/は、その(婚姻の)取消を(裁判所に){請求することが[できる/できない]}。(744-2,745-1,745-2,746,747-1):PRACTICABILITY

4.2.3 法律関係の内容
 当事者間の対内的効力を示すもの。今回の対象範囲には当事者間の義務しかなかった。
 (例)
 ・{扶け合わなければ/同居し、〜協力し扶助しなければ[ならない]}。(730,752):ESTABLISHMENT
 ・{返還(を)しなければ[ならない]}。(748-2,748-3前段):ESTABLISHMENT
 ・なお、〜賠償する{責に[任ずる]}。(748-3なお書き):ESTABLISHMENT(効果部がことなるので本条編入文ではない。)

4.3 本条編入文
 本条編入文の効果規定部は編入先条文の効果規定部に融合するので、単独の意味機能を考える必要もないし、内部表現データの要素とする必要はない。本条編入文については効果規定部よりも、むしろ、「前項」、「の規定」、「但し」といったポインターに注目するほうが有益である。
 (例)
 ・前項と/後も/ときも、{同様で[ある]}。(728-2,735後段,737-2後段)
 ・前項の規定を{適用[しない]}。(733-2)
 ・但し、〜この/これがために、〜{限りで/妨げられることが[ない]}。(734-1但し書き,742-2号但し書き)
 ・前項と{同様と[する]}。(734-2)
 ・ときは、他の一方の同意だけで{[足りる]}。(737-2前段)
 ・前項の{届出}は、〜これを{しなければ[ならない]}。(739-2)
 ・〜の規定(を/は)/これを{準用[する]}。(741後段,749,751-2)
 ・但し、〜{請求することが/害することが[できない]。}(744-1後段,754但し書き)
 ・但し、〜ときは、この{限りで[ない]}。(745-2但し書き)
 ・前項の取消権は、〜{消滅[する]}。(747-2)


5 効果規定部のもつ意味機能と条文への意味機能制限

5.1 効果規定部自身の意味機能と条文への意味制限
 上記の分析結果から、効果規定部自身の意味機能と条文への意味制限を見てみると以下のようになる *21

効果規定部自身の機能条文の意味機能制限
PRESUMPTION定義文
ESTABLISHMENT関係規定文(法律関係の条件的発生・消滅)
関係規定文(法律関係の内容)
PRACTICABILITY関係規定文(法律関係生成の許可・禁止)

 これからいえるのは、ESTABLISHの概念は未だ不十分で、「法律関係の条件的発生・消滅」と「法律関係の内容」を切り分けるに至っていないと言う点であり、これは今後の課題としたい。

5.2 効果規定部表現と条文への意味機能制限
 さらに分析結果から、効果規定部の表現とそれ自身の意味機能ならびに条文への意味制限との関係を見てみると次のようになる *22

効果規定部表現効果規定部自身の機能条文への意味機能制限(例)
するPRESUMPTION定義文(親族とする。)
ESTABLISHMENT法律関係の条件的発生・消滅(終了する。無効とする。)
定めるPRESUMPTION定義文(これ[親等]を定める。)
ESTABLISHMENT法律関係の条件的発生・消滅(際に定める。)
よるPRESUMPTION定義文
生じるESTABLISHMENT法律関係の条件的発生・消滅
ないESTABLISHMENT法律関係の条件的発生・消滅
みなすESTABLISHMENT法律関係の条件的発生・消滅
できないPRACTICABILITY法律関係生成の許可・禁止
できるPRACTICABILITY法律関係生成の許可・禁止
ならないESTABLISHMENT法律関係の内容
任ずるESTABLISHMENT法律関係の内容

 対象とした条文からは、「する」と「定める」については効果規定部からは一義的な意味機能制限が得られなかった。
 これを解消するには、何らかの形で効果内容部を参照せざるを得ない。長野らのような方法で一部の効果内容部を効果規定部へ編入するアプローチが有益な場面もあるが、「親族とする」といった場合のように効果規定部単独での汎用性を低下させ、効果規定部の種類を増加させ、適応状況があまりにも局所的になってしまう場合もあり、その結果、大量の学習コーパスを与えないと精度が上がらなくなる危険性があるように思われる。また、効果内容部の品詞による判断も不確定性を除去しないようである。
 一つの考え方として、効果内容部を参照し、それが「時・効力・期間・地域」などを意味する「一般語」の場合には効果規定部をESTABLISHMENTと解し、具体の特定の関係などを示す用語(「親族」、「親等」など)の場合にはPRESUMPTIONと解し、条文の意味機能を確定する方法があるように思えるが、その際には辞書の参照がどうしても必要になるのではないかと思われる。ただしこの場合の辞書は、言語情報と法律内言語構造情報のみを記せば足り *23 、表層表現の解釈は見る者に委ねればよいものと思われる。


6 まとめ

 以上の分析から、法律効果規定部の自然言語解析においては、これを可能な限り機能語に限定して概念語は効果内容部に繰り込み、不確定性の解消には辞書を併用して、条文の構造・機能解析を機能語と概念語の双方から行うのが処理の確実性を向上させ、処理負担を軽減する方途となるのではないだろうか。


 [ 注 ]
*1 Lakoff,G., WOMAN, FIRE, DANGEROUS THING, 1987. 邦訳、池上嘉彦、河上誓作他訳『認知意味論−言語からみた人間の心』1993、99, 109-, 136, 190-, 248-, 333, 349の各頁、参照。
*2 岩本秀明、野村浩郷「法律文の自然言語処理について」情報処理学会研究報告、NL83-2、1991。
*3 「適用除外」について、岩本秀明、野村浩郷「法律文における構文構造の特徴について」情報処理学会第43回全国大会、1992、では「法律要件+法律準用」と修正されている。
*4 長野馨、岩本秀明、永井秀利、野村浩郷「文末表現から見た法律文の制限言語モデルについて」情報処理学会研究報告、NL89-10、1992。岩本ら注2、3論文では4種であったが、長野らは「適用制限」を「適用除外」と「適用規定」に分離し、さらに「裁断の規定」を追加している。なお長野らは当該法律条文が人・物・事などの何を規律しているかという「規律対象」により条文を4つのタイプに分類し、それぞれ文末表現との関連についても考察し、法律文をさらに細分化しているが、「規律対象」は、各法律ごとの個別性が強いこともあり、本研究ではこの点については触れない。
*5 本研究では当面対象ではないので、格構造については触れない。
*6 注4長野ら論文、27頁。
*7 田中規久雄、川添一郎、成田一「法律条文の標準構造−自然言語による法知識処理をめざして−」情報処理学会研究報告、NL97-12、1993。
*8 英米法の基礎理解については、田中和夫『英米法概説(再訂版)』1981、が簡便にして有用である。
*9 川添一郎、牧隆史、田中規久雄「法律条文の標準構造(2)−標準構造を用いた法知識の意味処理−」情報処理学会研究報告、NL107-13、1995。
*10 平松寛司、永井秀利、中村貞吾、野村浩郷「要件効果構造に基づく法律文制限言語モデルと法律文解析」情報処理学会研究報告、NL115-4、1996。
*11 角田達彦、清水仁、長尾眞「表層的手がかりによる六法全書法律文での要件部・効果部の抽出手法」情報処理学会研究報告、NL117-18、1997。
*12 注11角田ら論文、130頁。
*13 注11角田ら論文、136頁。
*14 なお, H.L.A. Hart, THE CONCEPT OF LAW, 1961. 邦訳、矢崎光圀監訳『法の概念』1976、第2, 3章、 参照。
*15 表層構造からの種別化も考えられるが、それはむしろ意味構造からの生成戦略としてとらえ(注7田中ら論文、参照)、内部表現化のためのアルゴリズムあるいはヒューリスティクとして手続き的に考える方が有用だと思われる。
*16 なお、とりあげた条文数は多いといえないが、民法(親族法)は口語条文のうち最も典型的でかつ必要十分にして簡潔な条文群の一つであるので、例としてのプロトタイプ性は十分高いものと思われる。また平成元年最終改正版を用いたが、それ以前の研究からの一貫性のためである。
*17 ただし、憲法などでは経済的自由権より精神的自由権の方が規範力として上であるといった解釈もあることに注意。
*18 詳しくは、H.L.A. Hart, ESSEYS IN JURISPUDENCE AND PHILOSOPHY, 1983. 邦訳、矢崎光圀、松浦好治他訳『法学・哲学論集』1990所収、「法理学における定義と学説」、「イェーリングの概念の天国と現代分析法理学」、参照。
*19 なお、吉野一「契約法の知識構造とその形式化」吉野一代表「平成6年度研究成果報告書『法律エキスパートシステムの開発研究−法的知識構造の解明と法的推論の実現−』参照。
*20 EVENT, ACTION等の概念については、注7田中ら論文、参照。
*21 本条編入文に関しては編入先の効果規定部に融合するので記さない。
*22 逆転構造の「する(には)〜ならない」などの前処理後の「できない」、ならびに「する〜ない/できる」などの前処理後の「できる」を含む。
*23 たとえば、山口高平「汎用オントロジーを用いた法的オントロジー開発支援機構」注19書、参照。