下記は校正前のベータ版ですので、引用、転載等はご遠慮ください。
ご理解くださいますようお願い申し上げます。
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●法学セミナー1996/6● インターネットで外国法

第2回 アメリカ(公法系)                                 田中規久雄

                      
                         URL: http://www.law.osaka-u.ac.jp/~kikuo

■はじめに■
 アメリカ合衆国は連邦制であり、各州は憲法をはじめとする一定程度独自な
法体系を有する一方、連邦全体としては一つの憲法と法体系、そして司法制度
を有するということは一応常識に属するであろう。たとえば州によって成人年
齢が違うことなどがその例としてあげられる。
 連邦の司法制度は、特殊の裁判所を除けば、日本の最高裁判所にあたる 
Supreme Court 、高等裁判所にあたる Court of Appeals(1)、地方裁判所にあ
たる District Court が中心である(2)。もっとも、州の方の裁判所の名前は 
Court of Appeals が最高裁だったりするほか、各州でまちまちな場合が多く
ややこしい。また本来は連邦の裁判所と州の裁判所では扱う法が異なるのであ
り、連邦最高裁判決だけをみてもアメリカ法の鳥瞰にすらならないはずである。
しかし、1)やはり連邦憲法はアメリカ公法の中核であり、連邦最高裁は連邦の
違憲立法審査権を有することが判例上確立していること、2)また、歴史的には
州管轄であったような事件が今日では連邦の憲法事件として扱われることが多
くなってきたこと、3)さらには人工中絶問題に見られるように、合衆国の制度・
文化の下では連邦最高裁の動向が大統領選挙の大きな争点にまでなることなど
から、連邦最高裁判例を把握することはアメリカ公法を知る上で極めて重要で
ある。たとえば、先に述べた何が連邦の管轄となり、何が州の管轄となるのか
ということ自体が、連邦の判例を見なければわからないのである。
 以上は、インターネットでアメリカ公法する前に必要な超最低限の知識であ
り(3)、またそうした事情のゆえ、ここでは連邦最高裁判決を例として取り上
げることとする。なお、本稿はインターネットをテーマにしているので印刷情
報による検索や、学術情報センターなどの他の電子検索については重要ではあ
るが触れないこととする。

(1)控訴裁判所。第1巡回区以下11ある。巡回区の名称は、かつて巡回して開
廷していたCircuit Court に由来した呼称である。
(2)一般にアメリカ法文献では判例引用における略記などが多用されるが、詳
しくは田中英夫ほか「外国法の調べ方」東大出版会(1974)の「英米法」の部参
照。
(3)合衆国の高校生向けにかかれた大変やさしい入門書として、FLOYD G.
CULLOP, THE CONSTITUTION OF THE UNITED STATES - AN INTRODUCTION 
(UPDATE ed.1984, MENTOR).これなら英語のあまり得意でない人も2-3日あれば
読めるであろう。

■インターネットとアメリカ法情報■
 合衆国は情報インフラの整備が世界で最も進んだ国であると思われ、そのこ
とにより「インターネットで見る」のが最も容易な国となっている。しかしこ
のことは逆にインターネット初心者にとっては、「どれを見ればいいかわから
ない」・「たくさんありすぎて気力が失せる」といった問題をも引き起こして
いるようである。
 まずとりあえずは大学の情報センターでもいいし、自費でプロバイダー【1】
に加入してもよいから、初心者にやさしいWWWが使える環境を手に入れ、無目
的にでよいから Net0Surf していただいて、次から次へと切り替わる画面を眺
め、様子をつかんでほしい。無目的とはいっても一応法律関係のサーバー【2】
に限って見ないといけないので、アメリカ法関係のリンク先【3】を中心に集
めた、URL: http://www.findlaw.com や URL: http://www.gsu.edu./~lawadmn
/lawform.html#law などを重点的に利用することをお勧めする。
 暇なときに Net-Surf しておくと、いざ急いで何かを調べねばというときに、
使い方などでいらいらしたり時間をロスしたりすることが大幅に減らせる。も
っともWWWの場合、基本的な使い方はすぐ会得できるが、大事なのは「この手
の情報は、あの辺にあるのではないか」とか、「こうすれば調べられるのでは
ないか」という勘が働くようになることだと思われる。高価な商用の法情報デ
ータベースである LEXIS や WESTLAW なら、とにかくそこだけを検索すればよ
いし、なければあきらめればよいのだが、インターネットの世界は小さなサー
バが無数にあるので、各所に分散した情報を効率的に収集するのにはどうして
も一種の勘に頼らざるをえない面がある。最近では商用法情報データベースに
は及ばないまでも、他のサーバーに分散する法情報を一度に検索できるサーチ・
エンジンも現れているが(URL: http://www.charm.net/~ibc/sleuth)、現時点
では機械的に世界中のWWW法情報サーバーを検索できるようにはなっていない
ので、ほしい情報がどこにあるかという勘や、ほしい情報に行き着くための技
術とがある程度なければ、たとえば紙の文献では入手できないものを入手する
といったような離れ技はなかなか困難なのである。(ちなみにインターネット
では判例の電子化が進行しはじめた1990年前後以降の情報しかない場合が多い。
しかし、印刷情報を入手するより早く最新情報が入手できることが多いのが魅
力である。)
 とにかくインターネットは世界中の無数の小さなサーバーが好き勝手なサー
ビスを分散協調して提供しているのであって、それが嫌なら高額を支払っても
単一化されている大規模商用法情報データベースを利用すべきであろう。(た
だしインターネットでは大規模データベースより情報追加がかなり早いのが通
常であり、小回りの点ではインターネットとの併用ができればそれにこしたこ
とはない。)

■インターネットで見るアファーマティブ・アクション(1)-判例の検索
■
 さてここで仮設の事例を一つ提供することにより、「インターネットでアメ
リカ公法」してみたいと思う。初心者の方は一度追試を行ってみてほしい。こ
こでは、レポートやゼミでの発表のため、「過去においてなされた差別の社会
的効果を除去するためにとられる措置」(4)であるいわゆる affirmative 
action(積極的差別是正策)に関する連邦最高裁判例を手軽に調べたいものとす
る。
 たとえば、その科目の教科書(5)のみが手元にあるとする。学部生が使いに
くそうな所にある LAW WEEK などをひっくり返さずに、できるだけ最近の判例
までの流れをつかみたい。教科書には、「人種的優遇措置の許容性」(注5書、
262頁)という項目があり面白そうなのでテーマをこれに絞ることにする。その
項には五つの連邦判例が出ていた。さて、その後判例の流れはどうなっている
のか?
 これを調べるために、連邦憲法に強いと定評のあるコーネル大学法情報セン
ターのサーバー(URL: http://www.law.cornell.edu)<図1>を使うことにす
る。ここは連邦最高裁判事の履歴や顔写真があったり、最新判例のシラバスを
電子メールで自動配送してくれたりする(6)。もちろん複数のサーバーを利用
することによりさらに広く情報収集できるときはそうすることが望ましいので、
コーネルの利用を参考にして他も試みてほしい(たとえば、URL: http://
lawnext.uchicago.edu)。
 さて先ほど教科書に書いてあった五つの判例から調べるのに、まず自分が最
重要だと感じたものから調べるのは定石であろう。ここでは、Fullilove v. 
Klutznick, 448 U.S.448 (1980)を例にするので参考にしてほしい。(これが最
重要という意味で取り上げたのではない。単なる例である。)
 <図1>の画面から、アンダーラインのある LII's hypertext front-end 
to recent Supreme Court decisions を選ぶとサーチ可能な画面になる。ここ
には Indexed by Topic というのがあるが、これはたとえば税法関係とかいっ
たテーマごとに検索するもので、自分に関心のある分野があればのぞいてみる
のもおもしろいと思う。今は、Fullilove 判決を検索したいので、Key Word 
Search を選ぶ。すると、Search U.S. Supreme Court Syllabi の画面になる。
文字どおり、最近の最高裁判決判決には必ずついている要旨(これ自身は判決
ではない)を検索してヒットしたものを出すのである。そこで Fullilove と入
れサーチすると、最新の Hurley v. Irish-American Gay, Lesbian & 
Bisexual Group of Boston, 63 U.S.L.W.4625 (1995)(7) 以下七つの判例が出
てくる。つまり、これら七つの判決はそのシラバスにおいて、何らかの形で 
Fullilove を引用していることになる。なお、今は簡単のため Fullilove だ
けで検索したので、同一単語を含む全く別の判決にもヒットしたかも知れない
が、慣れれば Fullilove と Klutznick を AND検索するなどして精度を高める
ことができる。
 さてこれだけで「Fullilove 事件とその後の展開」という題で、ひょっとす
るとまだ日本語で紹介されていない事件まで含めたレポートが書けるかもしれ
ない。教科書に出てきた五つの判決それぞれについて同様の検索をして、どれ
にも顔を出す判決は肯定・否定・区別(distinguish)(8)にかかわらず一応研究
対象としての先例的価値はありそうである。後は芋蔓式に色々検索してシラバ
スを読み、次に本文も見て法的争点を整理し、先例系譜の相互関連を明らかに
すればゼミで発表することもできるだろう。

(4)田中英夫「BASIC英米法辞典」東大出版会(1993)7頁。
(5)松井茂記「アメリカ憲法入門」有斐閣(1989)であるとする。三版が出てい
るが、インターネットで最も調べやすい範囲での最古のものの例として1990年
前後の発行である初版を取り上げる。
(6)指宿信・米丸恒治「インターネットにおける法情報の現状とその利用(2)」
法律時報67巻10号(1995)113頁以下参照。
(7)L.W.は Law Week のこと。基本的には公式判例集(United States Reports 
[U.S.])を典拠にするのだが(Supreme Court Reporter [S.Ct.]の併記可)、新
しい判例でまだそれらがない場合のみ L.W.を典拠にしてよい。
(8)以前の事件と似ている事件を、法的評価においては別物とすることで、先
例への判断を回避して判決を行う技術。田中和夫「英米法概説(再訂版)」有斐
閣(1981)172頁以下参照。

■インターネットで見るアファーマティブ・アクション(2)-論評の検索
■
 次いで、各 Law School が出している Law Review の論文を引っ張ってこれ
れば本格的なアメリカ憲法研究も可能なのだが、現状では残念ながらインター
ネットにおいて Law Review はあまり充実していない (URL: http://www.usc.
edu/dept/law-lib/legal/journals.html 参照)。コーネルの法情報センターも
 Cornell Law Review を少しずつ置こうとしているがまだまだである。今後、
各ロー・スクールが充実させてくれるとありがたい。ただ勝手なことをいうが、
研究目的では特定の Law Review だけが検索できてもあまりありがたくない。
横断的に検索できる Law Review サーチ・エンジンが立ち上がることが期待さ
れる。というわけで現状ではこの分野は、LEXIS などの大手商用法律データベ
ースにはとても太刀打ちできない。
 そこで、インターネットでできることを考えると、一般雑誌・新聞などの検
索がある。Law Review とはちがって学術的な価値は低いかも知れないが、当
該判決の社会的期待や価値、争点などがマスメディアの視点からわかり、いき
なり Law Review を読んで難渋するよりこうした記事を読むことから始めるの
も一つのよい学習法だと思う。こうした雑誌・新聞などもデータベース化され
ていて検索可能なところはあまり多くはないようであるが、ここではTIME
社のサービスを紹介する(他に、URL: http://www.enews.com 参照)。
 まず、URL: http://www.pathfinder.com へ行くと<図2>の画面が出る。
最初にREGISTER WITH PATHFINDER で利用登録をせねばならないが、次からは 
SEARCH を選ぶと検索画面に入る。今回は Search Pathfinder Databases by 
Keyword を選び検索することになる。
 さて、Describe what you're looking for. の画面で検索語を入れるわけで
あるが、ここでは先ほどコーネルで Fullilove を検索して出てきた、Adarand
 Construction v. Pena, 115 S. Ct. 2097, 132 L.Ed.2d 158 (1995) を検索
してみよう(これも一例として選んだだけである)。なお検索方法には検索文字
列との完全一致で検索する [Exact] Search と、関連する単語にもヒットする
概念検索(Concept Search)があるが、今の場合概念検索は不適であるので使わ
ない。ただ、概念検索はなかなか面白く、なにかのテーマに関連する記事を探
すときには有用だと思われるので、一度試みておくと良い。
 単語枠に adarand といれて検索すると、Time から三つの記事、Fortune と
 Nations から各一つ、計五つの記事が検索される。たとえば Fortune 11/13/
1995 の記事は、" WHY AFFIRMATIVE ACTION WON'T DIE " というもので、筆者
は JAMES P.PINKERTON という人である。これらの記事も馬鹿にしたものでは
なく、教科書に出てこなかった重要な先例を引いてあったり、問題の争点や歴
史的経緯を手短にまとめてあったりして有益である。殊に社会的に何が問題な
のかという視点が一般市民向けに書かれているのがありがたい場合がある。

■おわりにかえて -判決読解のTIPS■
 本稿では最初に判決そのものの検索を紹介したが、実は初学者がこうした第
一次資料(raw data)に直接ぶつかるのはなかなか難しいところがあり、途中で
嫌になることも多いものと思われる。その際、これはある種のカンニングでい
らぬバイアスをもたらす危険性もあるかも知れないが、さきに短い紹介記事や
ダイジェスト版といった第二次資料を読んでから判決にあたるという手段があ
る。人間の認知プロセスにおいてはある程度元からわかっていることしかわか
らないといわれているが、たとえば先に述べた TIME などの短い記事を読んで
おけば、本物の判決にあたってもずっと理解が早くなる。この際重要なのは、
1)事実関係と、2)法的争点であり、この二つを読み取ることを念頭に記事に
あたる必要がある。また当該の問題に関連する日本語で読める概説書や雑誌(9)
を読んでおくのが実は早道となる。最新判決への直接の論評でなくとも、「な
にが問題になるのか」ということが頭に入るからである。
 直接のダイジェストとして利用できるインターネット・リソースとしては、
いわゆる法律ニュースの headline とか highlight とかいわれる数行のもの
がある。そこでここでは、先述の UNITED STATES LAW WEEK を出している BNA
社(The Bureau of National Affairs, Inc.)を紹介する(他に URL: http://
www.ljx.comにも legal news がある)。URL: http://www.bna.com/hub/bna/
search.html を開くとすぐに検索画面である。たとえば先と同じく adarand 
で検索すると、HIGHLIGHTS FROM U.S. LAW WEEK, THE BNA PLUS WATCH, The 
United States Law Week Sample の三つにヒットする。残念ながら本物の L.W.
はないが、Sample を見ると、adarand の争点についてのごく短い記事がある。
 以上で例にあげた事件の概要や争点についてはあえて一切触れなかったが、
一度読者自らが試行して、内容的にも理解しながらインターネットを利用して
みることを期待してのことである。これら電子資料の引用がどこまで引用とし
て認められるのかといった問題はあるにしろ、例に挙げたようなことがまった
く無料でできるのだから、アメリカ法学習のためにこれらを利用しない手はな
いものと思われるのである。(最後に総合的なところの一つとして、URL: http:
//www.iwc.com/entropy/marks/bkmrk.html を紹介しておく。)

(9)たとえば、日米法学会編「アメリカ法」東大出版会、ならびにその文献目
録参照。

【用語解説】
1▼プロバイダー:有料で主に電話回線を用いたインターネット接続をサービ
スしているところ。
2▼サーバー:広義には、とにかくネットワークを通じて、特定または不特定
のユーザー(クライアント)に文字どおり何らかの「サービス」を提供している
マシン。
3▼リンク先:現象的にいって、要するにそれをマウスでクリックするとその
サーバーの指定ページにジャンプする。
4▼ホームページ:ある個人や組織単位が統括するWWWサービスの最初のページ。
慣れてくると、これをパスして直接目的のページに行けるようになる。

 [草稿に対して大変貴重なご指摘を頂いた、本企画コーディネーターの指宿
信先生に感謝いたします。]