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法情報学―情報化社会における法学教育の新しい試み―
門  昇


1.法情報学
 情報化社会の進展につれて、わが国では、およそ10年程前から法情報学ということばが雑誌論文などに登場してきた(1)。その後、いくつかの大学で類似の講義が行われているようであるが、その中身は区々である(2)。
 さて、法情報学とは何かということについては、すでにいくつかの説明がなされている(3)。法情報学といえば、「法とコンピュータ」を連想しがちだが、必ずしもこれが法情報学の中心の位置を占めるようには思えない。法学においてもコンピュータの果たす役割が増えてくるであろうが、コンピュータそのものが前面に出てくるようなことは今のところ考えていない。
 私自身は、かねてからアメリカのLegal Researchに関心があるので、法情報学の中身としては、次のようなものを念頭に置いている。(1)法情報の分類(4)、(2)法情報の検索、(3)法情報の分析(判例の読み方など)、(4)法情報の創造(論文、レポートの書き方など)。これらの一連のプロセスをまとめていえば、ある法律問題を解決するために、必要な法情報を効率よく検索し、それを利用して新たに優れた法情報を創造することといえるだろう。
 本稿では、法情報学について私が関心を抱いている諸点について述べてみたい。

2.大阪大学法学部における法情報学の講義
 まず、今年度からはじまった法情報学の講義要項から紹介することにしよう。「先物取引に伴う紛争を例にして、紛争処理に必要な各種の情報の収集方法や収集された情報の整理・分析の手法を実習するだけでなく、判例の読み方、効率的な作文技術、説得的な表現技術の訓練を行う。また、余裕があれば、紛争処理の交渉技術(5)などについても実習する。とりあげる具体的項目は次の通りである。1.先物取引についての一般的な情報収集のノウハウ(書誌を利用する方法、コンピュータを利用する方法) 2.裁判に必要な法情報収集のノウハウ 3.判例その他の法情報の読み方、分析方法の実習 4.裁判外の紛争処理に必要な情報の収集 5.立法学的見地からの先物取引対策立法の可能性の検討」(6)。
 本年度の講義では先物取引をテーマに選び、それに関する法情報の入手からはじまり、最終的に収集した法情報を使って論文やリポートを作成するまでの過程を扱っている。情報検索にコンピュータやCD-ROM等を使い、先物取引に関する邦文の判例、法令、論文、新聞記事等をできるだけ多く収集している。この講義の特徴の一つとして、コンピュータ等の情報機器を積極的に利用していることである。なお、複数の教官が講義を担当している。また、専門家の方に随時参加していただいている。

3.法情報学とロー・ライブラリー
 ロー・ライブラリーがいかに整備されているかによって、その大学の法学研究・教育の様子が推測される。ライブラリーが充実していて、十分に機能すれば、すぐれた研究・教育ができるであろう。それだけにライブラリーのあり方が研究・教育にとって重要な意味をもっているといえるだろう。
 法学研究は文献に依存する割合が強く、ライブラリーの役割が大事な要素となってくる。「法律家になろうとする者は、判例集や法令集に親しむだけでなく、図書カードの方式や書誌を含めた図書館利用法を完全に知らなければならない。」(7)といわれている。ところが、多くの学生は、情報の宝庫である図書館の利用があまり上手とはいえないのが実情であろう(8)。上述の講義要項にも記されているように、ここでも法情報学にとってまさに活躍の場の一つといえよう。
 ロー・ライブラリーにおいて考えておかなければならないことに物的整備とともに人的充実ということがある。すなわち、専門の職員の養成である。ある研究者はアメリカのロー・スクールでの経験から、「ロー・ライブラリアンという職がライブラリアンの一分肢として確立されているせいか、法律の研究・調査に焦点を合せて、簡にして要を得た回答が得られる。」(9)と述べている。確かに研究能率等を考えると、ロー・ライブラリアンの存在は重要である。だが、現実にわが国で(特に大学で)真にロー・ライブラリアンといえる専門家が何人存在するであろうか。専門家の必要性は以前からいわれているが、実際にはロー・ライブラリアンの養成については難しい面が多いと思われる(10)。しかし、ロー・ライブラリアンの養成は急務であることは確かだ。

4.法情報の検索ーデータベースの利用
 法情報の検索については、現在、大別して二つの方法を用いている。すなわち、マニュアル(manual)による検索とコンピュータ等による機械検索である。前者は法情報の検索のツール(tool)として古くから存在する書誌(bibliography)がその代表的なものである。後者は、今日盛んになった検索方法であり、各種のデータベースが開発されている。私たちは、法情報の検索に際して、普通この二つの方法を併用している。
 法情報といえば、図書や雑誌などの印刷物から得られるのが通常であった。ところが、情報量の増大に伴い、近年では情報を蓄積する形態が多様化してきた。すなわち、データベースやCD-ROMなどである。
 前述のように、現在では情報検索にコンピュータ等の情報通信機器を利用することが多くなっている。今日、アメリカではComputer-Assisted Legal Researchが普及しており、弁護士事務所やロー・スクールではLEXISやWESTLAW(11)を利用しているところが多い(12)。わが国でも、いくつかの法律関係のデータベース(13)が実用に供されているが、実際の利用となるとそれほど多くないようだ。その理由としてはいくつかのことが考えられる。利用料金、情報量、検索結果等の点で利用者の要望を満たすに至らず、研究機関はこれらを導入することについて二の足を踏む結果になっているようだ(14)。これらの点がうまく解決されれば、内外の法学関係のデータベース(15)が大いに利用されることになろう。
 研究者にとって、情報検索に要する時間が研究時間の比較的大きな部分を占めることや研究のプライオリティなどを考えると、情報検索について無関心ではいられないはずである。多くの研究者に情報検索についての理解を深めていただきたい。

5.むすびにかえてー法情報を「集める」時代から法情報を「育てる」時代へ
 法情報を集めることはいうまでもなく重要である。今までは、どちらかといえば、専ら「集める」時代だったといえる。法情報を集めることに重点をおいてきた時代というのは、それなりに意義があった。これまでは、集めることに力を注ぎすぎて、その後の対応、すなわち集めた資料をどう利用するかということまで力が及ばなかったような気がする。だが、いつまでも集めることだけで満足していては研究の飛躍的な発展は望めないであろう。苦労して集めた法情報を眠らせることなく、有効に利用しなければならない。つまり、蓄積した法情報を「育てる」ことがこれからの重要な課題となる。これは法情報を扱うすべての人が真剣に考えなくてはならないことである。
 今後ますます情報通信機器の発達により、情報の入手が比較的容易になるであろう。その結果、予算規模の大きい研究機関に情報が集中していた状態が改善され、情報の入手に関しては、どの研究機関についてもより一層平等化が進むことを希望する。もしそうなれば、なおさら法情報を「集める」ことよりも、「育てる」ことを考えた方がいいだろう。
 まだ、法情報学が今後どのような内容をもって発展するのか予測が難しい。21世紀に向けて、法情報学が、法情報という面から、法律問題の解決等のために役立つ学問として成長することを期待する。

(注)
(1)「特集・法情報学への歩み」ジュリストNo.658(1978)16頁以下参照。『法律関係雑誌記事索引』第15号(昭和53・54年)から、「法情報学・コンピュータ」という項目が現れる。
(2)「ニューメディア時代の法律学の学習と教育」法学教室No.91(1988)34-44頁参照。
(3)ヘルベルト・フィードラー著、竹内保雄他訳「法情報学と法学的伝統」法学研究21(明治学院大学、1979)77頁以下参照。永田真三郎「記念講演 法情報システムの現在と未来」びぶろす37巻2号(1986)19頁以下参照。
(4)たとえば、鷹野邦人「法律情報と情報検索システム」一橋論叢80巻2号(1978)125-126頁参照。
(5)野村美明「訴訟社会と交渉技術」阪大法学140号(昭和61)235頁以下参照。野村助教授は法情報学の担当者の一人である。
(6)『昭和63年度学生便覧』大阪大学法学部、62-63頁。
(7)グランヴィル・ウィリアムズ著、庭山英雄他訳『イギリス法入門』(日本評論社、1985)49頁。
(8)加藤秀俊『取材学』(中央公論社、昭和50)37頁参照。
(9)田中英夫『ハーヴァード・ロースクール』(日本評論社、1982)199頁。
(10)この事情については、板寺一太郎『法学文献の調べ方』(東京大学出版会、1978)3-4頁参照。
(11)LEXIS、WESTLAWに関する文献は数多くあるが、比較的最近の邦語文献としては、高石義一編著『法律情報検索の現状と課題』(にじゅういち出版、1985)30-46頁参照。
(12)ロー・スクールでのデータベース利用状況については、次の文献を参照。 Thomas, 1985-86 Statistical Survey of Law School Libraries and Librarians、 79 LAW LIBR.J. 547,583-87(1987).
(13)JUPITER(東洋情報システム)、LEX/DB(TKC)など。
(14)「コンピュータと法律図書館」法図連ニューズレターNo.3(1988)4-5頁参照。
(15)『世界CD-ROM総覧1988』(紀伊國屋書店、1988)にも法学関係のものがいくつか紹介されている。
 (1988年9月28日 大阪大学法学部 門 昇)

出典:法図連通信第20号(昭和63年11月11日刊、法律図書館連絡会編集、国立国会図書館調査及び立法考査局発行)4ー5頁。


Noboru Kado
Osaka University Faculty of Law
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