中国の平和的発展とアジアの国際関係

中国南京大学際関係学院 朱瀛泉

本日、このテーマについて皆さんと意見交換できるとは大変喜ばしいことである。ここ数年間、中国の発展の方向性と世界への影響が熱く討論される話題の一つになってきている。見解も多岐にわたって展開されている。13億もの人口規模を擁する国として、中国はこれまで20年間にわたって年平均9%のスピードでGDP(国内総生産)が拡大し、今や世界経済の重要な国と見なされるようになっている(経済統計の修正後に公表された数値で計算し直すと、中国は世界第六位の経済規模)。国連主催の貿易発展会議も、去年、中国とアメリカを世界経済発展を牽引する二大エンジンと位置づけて評価したほどである。確かに経済の実力からもみても、また発展のレベルからみても、中国はまだアメリカと比べるほどのレベルには到底至っていないし、EUや日本などの経済連合や経済大国にも及ばない。他方、中国の総合力の急速な上昇及びそれに伴う世界経済への影響度合いの高まりは、意義深いことに間違いない。数年前に、一部の研究者は中国経済が崩壊する論調を張っていたが、今ではこのような発言が弱くなってきている。それは、中国が今や平和的発展の軌道に乗り始めてきた事実が世界的に幅広く認識されつつあるという現実による。ある西側の政界要人の表現を借りれば、今の世界では誰でも中国の発展が引き起こす政治的かつ経済的意味を理解しようと考え、その事実の受入れに努力している(いわゆる come to terms with)。中国の台頭もしく中国インパクトが世界的な関心事になってきたのは、今後の世界の発展と将来に直接関係するからである。中国の発展をめぐるさまざまな分析や評価が存在することもごく自然なことであるといえる。人々はそれぞれの視角から中国の台頭という新しい事実の意味を解読したり理解したりすることも自然なことである。一体、中国の台頭はどのような道に沿って進むのか。台頭後の中国は、世界にとって、あるいは中国を取り巻く周辺地域にとってどのような存在意義を持つだろうか。

国際関係研究の系譜におけるプラグマテゥズム理論の解釈からすれば、歴史上、新しい大国の出現は、国際秩序に対する旧大国のコントロールを打破し、自国の覇権と地位を打ち立てようとすることから、常に激しい衝突、場合によっては戦争突入の危機を伴う。激しい主導権争いないし戦争の発動は、国際関係の重大変化が生じる過程に必ずみられる不動の鉄則と理解されてきた。ただし、二十世紀後半のグローバリゼーションの加速と東西冷戦の終焉により、世界規模の相互依存関係を理解する方法としてのプラグマテゥズム理論の限界性も露呈し始めた。そして、自由主義、構造主義などの立場が学界から提示され注目を集めるようになりつつある。前者は、国際関係における協力関係と制度要因を強調し、後者は、国際関係の相互作用における価値観(観念)の要素の存在を重視する。私見では、以上の三つの理論がそれぞれ強調する基本要素(パワー、協力、価値観)などは、現実の国際関係の中に存在しており、これらを統合して考える必要がある。我々は、パワー要素の役割の重要性を認め、同時に協力要素と価値観(観念)要素の存在も認めるべきである。これらの概念は、互いに排他的な関係ではなく、むしろ互いに絡み合いながら補う関係にあると考えられる。さもなければ、今日のグローバル時代の複雑な国際関係を理解するのが困難である。勿論、中国台頭の問題についても同じです。我々は、もしひたすらプラグマテゥズム理論のみに固執するならば、理論面の時代遅れだけでなく、偏見なども避けられないであろう。事実、「中国脅威論」の大半も現実離れしたこの種の硬直したロジックによるものである。中国は、自身の発展問題について明白な戦略的な指向を持っている。それは平和的発展を基調とする国家原則を曲げないことである。中国は、自らの歴史課題である近代化を目指すと同時に、関係各国との共同発展、win-win局面の共創作業に参加する明確な意志を持っている。

他方、中国の台頭は決して孤立した現象ではない事実に留意すべきである。比較的に長期的・マクロ的な視角で世界史の変容を見ると、これまでの四、五百年の間、国際関係の局面は三回ほどの大変動を経てきた。まずは、ヨーロッパの台頭、次はアメリカの台頭、第三はアジアの台頭である。アジアの地位上昇の先頭に立っているのは日本、続いて韓国、台湾、香港、シンガポールなどのアジアNIEs、そして今はインドと中国が後続し、地域的広がりがまだ続いている。明らかに、中国の発展はアジアを抜きにしては語れないし、アジアの長期的繁栄も中国の存在を抜きにすれば、困難である。中国の発展は、東アジアひいてはアジア全体の発展の一部である。横軸の世界状況をみれば、ブラジル、ロシア、インド、南アフリカなどの国も、中国と同じく独自の発展を目指すことで世界に注目されている。中国を含む新興市場国家群の出現は、ある程度グローバル下の発展方式のあり方を証明している。中国の台頭は、現代世界の潮流を代表する典型的な事例であり、発展モデルの一つといえます。

ここに、中国の台頭と平和発展の問題について若干の私見を述べる。

1.中国の平和的発展の構想は、自身の歴史経験と国情(基礎条件)に基づき自然に選択されたものであり、外部の国によって強要される形で出てきたものではない。2005年9月、米国の前国務次官ゼーリック氏は講演を行い、アメリカの対中政策は既に転換の時期にさしかかっており、中国を国際社会に引き込む参与促進政策から国際体系の中で責任を持つ利益関係者(stakeholder)への転換を促す政策に変えるべきだと主張している。中国の台頭を既成の事実として捉える姿勢及び対中関係における現実主義的な立場を取るゼーリック氏の見解に賛成する。ここで強調しておきたいのは、中国の平和発展の構想は、自身の位置づけを行なった結論によるものである。アヘン戦争後の百数十年の間、幾度の災難と災害を経験し、なかでも列強の支配と戦争の苦しみを味わってきた。数世代にわたって受け継がれた中国人の夢は国家主権と領土を守り、独立で繁栄な国を築くことに集約される。二十世紀半ばから、廃墟になった国を再建する現代化の模索が開始されたが、30年の紆余曲折を辿ってきた結果、中国はやがて改革こそが制度維持の唯一の方法であり、開放がなければ発展もありえないとの認識に到達した。1970年代末から80年代初期にかけて改革開放政策を基本的国策と定め、平和的発展の端緒を付けることになった。これは中国の歴史的な運命が決まる根本的な政策決定だといえる。それから二十何年、中国の発展は著しい業績を上げてきた。基本的に13億人の生存問題を解決し、小康社会(まずまずの豊かな社会)へとさらに推移を続けている。世界の五分の一を占める人口の生存問題と発展問題の解決は、後発大国として世界の歴史上かつてないことであり、この問題の解決自体は世界への大きな貢献である。中国は自身が今だに一番大きな発展途上国であるとわきまえている。ある統計によれば、中国の経済総量はアメリカの五分の一にも至らず、一人当たりGDPはアメリカの3.6%、日本の4%、世界各国・地域の順位では百位以下である。今世紀半ばに中進国の経済レベルまでに引き上げるという目標達成すら幾多の複雑な問題に直面し、依然として長期的な努力を続けなければならない。発展を実現するには、中国自身の努力が必要であると同時に、平和で安定的な国際環境も極めて重要である。かくして中国自身の歴史認識と現状把握の立場に接近できれば、なぜ中国が平和的発展を提起したか自ずと理解できるはずである。ここには中国社会内部の必然性とダイナミズムの源泉が潜んでいる。

2、中国の平和的発展構想は経済のグローバリゼーションの潮流と一致している。中国は、今の国際体系における積極的な参加者であり、建設者であり、また責任を分担する大国でもある。グローバリゼーションの評価はまちまちであるが、中国としては、おおむね肯定の立場に立つ。中国は、経済のグローバル化を中国が経済発展を実現するのに得がたいチャンスであり、歴史的条件としてとらえている。重要なのは、改革開放の過程において、常に中国の経済体制の転換と世界経済体制との有機的連結を把握し、積極的に国際経済のイノベーションを利用し、内部要素と外部要素の同時活用により、経済のグローバル化と地域一体化がもたらし得る有利な条件のもと、主要国家と地域との間に共同利益を見出し、自身の現代化を達成することである。ある意味において、経済のグローバル化は中国の経済奇跡を生み出した。中国は明らかに経済グローバル化の受益者である。中国が必要とする国際資源は、経済グローバル化のもとで加速する市場要素の流動によって獲得でき、対外拡張や殖民地主義的な掠奪に依拠する必然性は存在しない。中国は今や世界的に最も魅力のある投資対象国とR&Dの重点になっており、世界第三の貿易大国と公認の国際市場にもなっている。

グローバル化を背景に、今の時代のテーマは平和と発展と協力である。世界の大勢と現実の国際秩序体系に対する中国の認識と評価は、時代の変化に順応する形で下されており、過去の国際秩序の部外者ないし挑戦者という立場は既に放棄した。国家間の交流がますます親密になって、国家間の相互依存関係が深まるにつれて、国際社会の中における国家の共同利益と相互責任も重要になってきている。 一国は自身の社会制度と生活様式を選ぶことが可能であるが、国際体系に存在する事実を変えることはできない。程度の差はあるにせ、国際体系から利益を享受したり制約を受けたりすることも回避できない。二十数年以来、中国の平和発展のプロセスも、事実上全面的に国際社会に参与していく過程でもある。現在、中国が加入している国際条約は267に上り、国際社会の殆どの条約が含まれており、多角的協力領域のほぼ全ての範囲が含まれている。中国が参加した政府間の組織は1998年の時点で既に52個、各国平均の倍以上である。36を数える世界的な政府間組織には中国が加入しているのは30、アメリカの31とほぼ同数である。これらの組織に加入することによって、中国の平和的発展が現存する国際体系の中から必要な法律保障と活動空間を得て、国際規則の制定や国際交流の中で自国の利益を保護する権力とチャンスを手に入れた。それと同時に、責任と義務も果たし、世界と地域の平和と発展を維持し促進することによって、ある程度自ら望む安定的な国際環境を作り上げることに貢献した。勿論、これらの実態は、中国が現存している国際環境秩序を合理かつ公正のものであると認めていることを意味するわけではない。覇権主義は依然として国際関係の民主化、法制化の障害であるとみている。また西側の先進国は長期的に国際体制を主導してきた主要な受益者であるという事実認識を維持している。第三世界の国家は、国際競争の中で往々にして弱い立場に追い込まれ、疎外される。南北格差もますます増大する一方である。中国のような発展途上大国にしても、改革開放を進める過程にさまざまな衝撃に困惑することもしばしばである。多くの発展途上国と同様に、中国も公正かつ合理的な国際秩序を求めている。私見では、グローバル化に対して反対の立場を取る第三世界の国々も実際のところ、グローバル化を反対するのではなく、その過程の中に存在する不公平と不合理な関係に反対しているように思われる。幸いなことに、中国はこれらの障害に対して破壊的・革命的な方法で現存秩序を打破する過激な行動を選択しなかった。それは国際社会に災難の結末しかもたらさないという認識による。中国は国際体制の合理的な部分と国際社会の安定を保ちながら、積極的に自国の影響を発揮し、協商と国際協力に通じて漸進的に現存の国際秩序を改良していき、より公正で合理的な国際政治と国際経済の秩序を醸成することである。国際体系が平和的に変動することは、国際社会の普遍的願望と全人類の共同利益と関わり、グローバル化時代においても実現可能である。これは中国にとっても国際社会に参与し平和的発展の原則を維持する意義の所在である。

3.中国の平和的発展は中国の伝統文化を構成する「和諧」(調和)理念が現代の時代性のもとで継承された結果であり、世界のほかの文明と共存・協力の大局の中で民族復興と国家富強を目指す戦略の道である。中国の伝統思想は、儒教、道教、仏教のどれにしても、人間と自然の協和、人と人の協和を強調している。中華民族は対外交流の中で「親仁善隣」、「講信修睦」、「協和万邦」、「以和為貴」、「和而不同」を主張してきた。平和を維持しつつも違いを尊重する、孔子が二千何年前にも"己所不欲,勿施于人"との格言を発し、今もニューヨーク国連本部のホールに刻まれて、国と国の関係を協議する際の「黄金の法則」と見なされている。詩経、大雅で歌われている「小康」は中国人の穏やかな安定生活への素朴な理想が託されている。『礼記』『礼運』も「大同」思想を口説くことによって自分自身を整い天下が恵まれることと志す偉大な思想を謳えてきた。康有為の『大同書』、孫文の『建国方略』など、いずれにしても我々に平穏的、調和的な「天下大同」の理想世界を描いていた。それらの理想世界はここ半世紀の改革開放の進展によって初めて本来の意味を持ち始め、新しい歴史時期において中国の五千年の文明が育んできた哲学思想と人生観の昇華を表している。

中国において調和型社会を構築するためには、発展過程においてエネルギー、、生態環境、経済と社会のバランスなどの難題の解決という挑戦を受けなければいけない。人類の文明の素養と国際上の有益な経験を参考・借用し、科学的発展の基本的立場に基づいて、人間性を最大限に尊重する全面的協調的持続可能な開発を目指しながら、特色のある新しいタイプの工業化と節約型社会、環境親和力の持てる社会を作らければいけない。10億以上の人口に民主主義的法秩序、公平と正義が及び、誠実で友愛で活力があふれて、安定的社会秩序が維持され、人と自然よく調和するような一体化社会を作ることは並大抵のことではない。すなわち中国は文明と平和の方式を用いて国際問題に対応し、伝統的な発展パターンを超越する方策として、主に自身の力と改革創新に依拠しなければいけない。決して隣国を含めて問題と矛盾を他者に転化しない。中国は歴史上における大国台頭の古い轍を踏まない。即ち、戦争によって他国の資源を略奪し、対外的に大量の移民を送り植民地を拡張させることによって勢力圏を広げ、イデオロギーと価値観を輸出することによって他国を顛覆し、漁夫の利をむさぼり、再生可能な資源を大量に消耗することによって略奪的営利を行う、いわば従来式の成長方式を取り入れてはならない。中国が調和がとれる社会を構築することが調和がとれる世界の確立に貢献し得る一部分であり、両者はお互いに補足し合う関係を持つ。このこと自体は世界的な意味を持つといえる。

調和がとれる世界を建設することは、中国と世界の共同利益に合致する。世界の人々と一緒に民主、親睦、公正、包容の世界社会を建設し、世界の持久的な平和と共同繁栄を推進し、人類が共有する地球を一つの家として営むことである。中国は『国連憲章』及び「和平共存五原則」の精神に基づいて、多角主義を基礎とし、国際関係の民主化と法制化を促進することを主張している。各国は主権平等であり、国内事情をその国の国民の意思により決定し、世界事情を各国の平等的協議により解決し、覇権主義の反対立場を堅持し、そして、中国自身が永遠に覇権を持たないことを公言し続けてきた。調和と相互信頼を主張し、相互利益の創出を通じて共同安全保障の環境を実現し、安保対話の展開と地域安全保障のメカニズムの設立を支持し、地域と国際安全を共同に守り、伝統と非伝統安全問題の威嚇と挑戦を共同に対応し、平等談判と協商の方式により国際紛争の解決を堅持し、他国主権の侵略と他国内政の干渉を拒絶し、勝手な武力行使と武力威嚇に反対することことも、中国の一貫した主張である。公正で、お互いに利益が大きい基礎の上で共同発展の実現を主張し、グローバル経済をバランスよく、秩序のある発展の方向に誘導させ、さらに開放、公正、透明と無差別の貿易体制を設立し、国際金融体制を改革・改善し、対話を通じて適切に経済摩擦を解決し、発展途上国が国際経済ビジネスへの平等参加を保証し、広範囲にわたる発展途上国が普遍的に利益を受けさせ、グローバル経済を共同繁栄の方向へと発展させる。包容、開放を奨励し、文明の対話を主張するのは、世界文明の多様性は人類社会の共通の遺産と繁栄へと導いてくれる大切な源であるからでる。各国の人民は自国の国情に基づいて発展の道を選択することが奪われることができない権利であり、文明の多様性と発展パターンの多様化を尊重し擁護しなければならない。平等の基礎の下でお互いに長所を取り入れ、短所を補い、共通点を求め相違点を保留し、共同発展を図り、各種文明を包容する、調和の取れる世界を構築することは大切である。中国は自身の平和的発展の政治地理的空間基礎となる隣接の周辺諸国・地域に対して、「善意を持って隣と接し、隣を仲間とする」方針と「隣国と友好に付き合い、隣国を安定させ、隣を豊かにさせる」の政策をとっているのである。明らかに、調和理念の下で、中国の和平的発展の理念は中華文明の価値を体現するだけではなく、世界の共同発展と繁栄の文明の道にも有利である。周知のように、最近、北京で行われた中国・アフリカ協力フォーラムでは、40名余りのアフリカ国家の元首、政府首脳が中国の指導者らと一堂に会し、政治上における平等と信頼、経済にける協力とWin-Winの結果を求め、文化上における相互交流・対流関係を加速させる新しい戦略的パートナーシップを締結した。なかでも。中国・アフリカ間協力にかかわる八項目の措置を打ち立て、政治的付随条件を一切につけないことも確認され、アフリカの最も切実な需要に基づいて、経済貿易の協力を求めるアフリカの自主的な開発能力の向上を手伝うことが原則として謳われている。これはまさに中国の諺「他人に直接に魚をあげるよりも、魚をとる方法を教える方が望ましい”の実践である。中国は世界最大の発展途上国であり、アフリカは発展途上国の最も集中している大陸であって、双方の友好関係と協力関係の樹立・拡大によって新しい希望と活気が現れ、調和がとれる世界の発展を一助する重要な力と成りうる。

 

前述したように、中国の平和的台頭は、東アジアひてはアジアの地位上昇の一部分であり、中国と東アジアの国家間・地域間の相互依存と共同利益の深まりが、地域協力、安定と繁栄を促進する重要な要因となりつつある。現在、東アジアはすでにグローバル経済の中で最も活気が溢れる地域となっている。一部の経済予測では、21世紀最初の30年間においては、世界経済の平均成長率は3%であるが、東アジア地域は5%以上に達するとみられる。以下では、東アジアの台頭と東アジアの協力問題について、国際関係の角度から私見を述べる。

経済を推進力とする東アジアの地域協力は、多層と多方向が交差する特徴を持っている。十年間近くの発展を経て、ASEANを中心とし、次第に外延へと伸びていく初歩的的開放局面が形成されるようになってきた。現在の世界は開放の地域により構成されていると一部の学者が主張しているが、この意見はある意味では成立できるといえる。グローバル経済が急速に発展しつつある情勢の下に、区域(地域)一体化は一つの趨勢となり、地域協力のプラットフォームを構築することが関連各国自身の発展と繁栄を求める重要な道程でもある。北米自由貿易区とヨーロッパと比べると、東アジア地域協力のシナリオは始まったばかりで、まだ比較的長い時期を要する。このことは当然東アジア地域の具体的な状況と関係する。しかし、東アジア地域の協力拡大は、大勢の向かう方向であり、基本的なコンセンサスが醸成されつつある。特に1997年の金融危機以後、東アジア諸国は地域経済の一体化により、グローバル化が引き起こすリスクに対応し、そして、公平的にグローバル化から利益を享受することが可能であるとの見方を共有するようになった。ヨーロッパの協力関係はEUを主導とする同心円パターンであり、北米自由貿易区は軸心からの放射状の包摂とみるならば、東アジアの地域協力は比較的に立体的で複合式のものとみることができる。ASEANと日中韓の協力関係は主なベースであり、同時に併存するASEAN共同体、ASEANと中国、日本、韓国(10+3)及び東北アジアの日中韓協力なども特有の機能と相互促進の効果を有し、共同発展を促しているといえる。ASEANと日中韓(10+3)はこの地域の主要な勢力で、目下すでに18の協力領域を開き、50余りの対話機構を設けて、各種の協力事業も100個余りにのぼっている。2003年と2004年に、東アジア自由貿易区(EAFTA)と東アジア共同体(EAC)の設立が長期目標として確定され、10+3のビエンチャン会議では東アジアのトップ会議の開催が決められ、ASEANはそれを“ASEANと対話パートナーの協力強化”の一つの形式と位置付け、それを契機に、インド、豪州とロシアとの対話の拡大と深化に期待を寄せている。2005年12月に、“10+3”『クアラルンプール宣言』では、東アジア経済一体化を推進する目標が再び提案され、同時に東アジアフォーラム(インド、ニュージランド、オーストラリアが大会に招かれた)が催された。会議で発表された宣言が、東アジアフォーラムを“一つの開放、包容、透明、外向的フォーラム”と位置付け;今後のフォーラムがASEAN議長国の主催に一任され、ASEANは事実上このフォーラムの推進者(driving force)となり、東アジアフォーラムは“10+3”を主体とする地域を越えた協力のプラットフォームとなったのである。将来、東アジア共同体の具体的な範疇と内包の範囲がまだはっきりしないが、現在においては、一種の有益なあいまい(useful ambiguity)理念であるといえる。

以上から分かるように、国際関係の角度からみると、東アジア地域の協力が実際の状況に基づいて、以下のいくつかの点を把握しなければならない。

一つ目は、“一国主導型”の思考パターンを変えることである。この地域の多様性を尊重し、中小国家は東アジア地域協力のプラットフォームの提案者であり、この過程におけるASEANの核心的地位と主導の役割を守ることが当然であり、この数年来の東アジア協力プロセスの実践もその有効性を証明している。

二つ目は、日中韓の三ヶ国は東アジア経済規模の2/3以上を占めており、東北アジアの協力関係を強化するプロセスの具体化がとても重要である。現在、状況の推移は全体的に良好であるが、手薄な部分も存在している。しばらく前に、日本の安部晋三首相が中国との間に、自由貿易協定に関する協議を準備する意向を表明した。有利な情報に違いない。

三つ目は、中国、日本は東アジアの二つの主要な大国として、このプロセスの中で、積極的な協調の役割を果たしている。一部の競争が免れられないが、全体的にはこの競争を東アジア協力プロセスにとって、良性的、健康的な状態とさせなければならないのである。たとえば、中国は2001年に、10年以内ASEANとFTAの実現を約束し、日本も2003年にASEANとFTAの締結に同意した。中国は2002年に東南アジア友好条約に加入しのに続いて、日本も2003年12月に加入を表明した。中国はすぐ賛成の態度を表した。日中は東アジア協力プロセスの中で、お互いに排斥すべきではない。将来の東アジアは中国の東アジアでも、日本の東アジアでもなく、共有の家である。もし中国と日本はASEANの問題において対立が起こったら、結局何事も成し遂げられない。東アジア協力メカニズムの地域枠組みも両国の矛盾を解消するのに役立つ。信頼関係を築き、共同で東アジア協力を推進することでWin-Winを実現できる。ちなみに、最近日中はトップ会談を復活したことが日中関係にとっていい兆しである。日本の前小泉首相が靖国神社に参拝したことで、日中関係がかつてない停滞に陥ったことは残念であり、無益である。安倍新首相は着任早々、北京を訪問し、中国指導者と日中関係を発展することについて、一連の重要なコンセンサスを確認したことにより、両国関係が再び正常な状態に戻り始めた。これを一層大切にしなければならない。

四つ目は、アメリカ要因をうまく処理すること。アメリカは東アジア国家ではないが、が東アジアにおいての現実利益と影響力を持っていることを認めなければならない。アメリカは同盟関係と経済関係を通じて、東アジア諸国と密接な関係を保っているので、東アジア協力プロセス対する態度が非常に重要である。アメリカは現在、東アジア地域協力に対する政策が尚調整中であり、私見では、東アジア協力プロセスの目標は、一つの平和、安定と繁栄の東アジアを設立することであり、これがアメリカの東アジアにおける利益に符合し、われわれもアメリカがこのプロセスの中で積極的かつ建設的な役割を果たすことを歓迎し、アメリカの理解と支持を獲得するために努力すべきである。東アジア協力プロセスは開放の地区主義を実行し、APECとASEAN地域フォーラムはとも有益な多角的機構であり、“10+3”、東アジア首脳会議の役割と補い合え、アメリカは東アジア協力発展の問題、及び東アジア国家が共同に非伝統の安全領域に対応する問題の解決に協力することができるのである。

五つ目は、協力プロセスの中で、東アジア共同体の今コンセンサスを培うことに注意すべきである。これは実際には共同体価値観の基盤工事でもある。現在、論争を行わないことで実務的障害を回避する方法が取られている。しかし、この問題は早晩浮上することになる。東アジアの伝統と現代国際政治の経験をいかに結合して、調和が取れる発展を指向性とする価値観の基礎とコンセンサスを形成していくことが、東アジア共同体の前途に関わる重要な問題であると思う。

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