グローバル化時代の地域研究―特権性の喪失

平野健一郎(早稲田大学政治経済学術院)

私の祖父ジョン・バーナード・フェアバンクは、・・・イリノイ、ミシガン、インディアナ、ミネソタなど・・・で組合派教会の牧師を務めた。・・・それから一世紀ののち、自分が・・・講演をして廻った時には、私は、祖父の足跡を追っているように感じたものだった。・・・私の講演は、われわれが中国、朝鮮、ベトナムでさまざまな失敗をしたのは中国の現実を理解していなかったためであり、無理解が続けばこれからもまた失敗するかもしれない、ということを指摘するのが常だった。・・・祖父の説教は私の話ほど世俗的ではなかっただろう。彼が取り扱ったのは、もっと絶対的で、もっと抽象的なことであったし、講演者よりも後で現場を見てきたという人が突然聴衆の中から立ち上がって、「私は二四時間前に天国の国際空港から飛行機に乗ったのですが、その時の状況は、今あなたがおっしゃったのとは全然違っていました」なとどいうことをいうような、中国専門家がよく遭う危機に直面することもなかっただろう。
(J.K.フェアバンク、平野・蒲地訳『中国回想録』みすず書房、1994年、8-9ページ)

1.特権的学問としての地域研究

地域研究の特権:
  1. 外からの研究(→現地研究の特権)
  2. 実学、戦略研究とのつながりの可能性(危険性)、社会貢献
  3. 自分だけの地域(誰も知らない対象)
  4. 全体を捉える楽しみ
    好奇心の満足
    理論より実証の楽しみ
    地域研究「三重苦」「五重苦」説は誤り
  5. 地域研究に淫する愉悦

2.特権の喪失

1980年代以降
  1. 誰もが行ける
  2. 内からの研究の辛さ
  3. 全体が見えない
  4. 地域内部からの研究者の登場

3.グローバリゼーション下の、新しい地域研究

学問的課題:全体と部分の関係
基本条件の変化:境界の変質
  1. 全体性
  2. 重層性
  3. 越境性
  4. areaからregionへ
    国家単位から地域単位へ
  5. 個別から普遍へ

ご参考