まちかねCAFÉ

21世紀課題群をめぐる文理の対話

非対称戦争とテロリズム,新型伝染病と衛生問題,環境問題や核管理,国境紛争と歴史問題,少子高齢化と社会保障など21世紀的課題群には,さまざまな学知による複合的なアプローチが求められる。まちかねCAFÉは,この21世紀課題群にかかわる文理各領域の対話空間を設け,文型・理系のさまざまな研究領域を跨ぐ共通の「ことば」を探求する。こうした共通の「ことば」の探求は,ビジネスや行政との接点を柔軟にし(産学連携),次世代の知的関心や潜在能力を啓発し(社学連携),さらに,東アジアという日本語・英語や中国語をふくむ多言語空間における国境を越えた質の高い対話と思索を促す(国際連携)ことになるであろう。

企画委員会

青木順(理学研究科),青野繁治(言語文化研究科),秋田茂(文学研究科),姉崎正治(人間科学研究科PhD),片山剛(文学研究科),兼松泰男(e-square),河井洋輔(理学研究科),北村亘(法学研究科),許衛東(経済学研究科),胡毓瑜(人間科学研究科),坂口愛沙(理学研究科),思沁夫(グローバルイニシアティブ・センター),鄒燦(国際公共政策研究科),高田篤(法学研究科),高橋慶吉(法学研究科),瀧口剛(法学研究科),田中仁*(法学研究科),豊田岐聡*(理学研究科),宮永之寛(生命機能研究科)三好恵真子(人間科学研究科),山田康博(国際公共政策研究科),山本千映(経済学研究科)  * 幹事

第9回研究会の開催

下記の要領で第9回まちかねCAFÉを開きます。

[注記]

  1. 報告時間はそれぞれ20-30分とし,その後報告をめぐって討論します(一報告60分)。
  2. CAFÉ終了後(19:00から),まちかねBARとしてひき続き意見交換を行います。
    まちかねBARのみの出席も歓迎です。
  3. まちかねBARでは,文理の諸領域を跨ぐどのような研究課題や取り組みが可能かについてのブレーンストーミングも試みます。


今後の予定

活動の記録

第8回研究会(理学研究科J棟三階セミナー室,2017年10月27日)

姉崎正治(産業技術短期大学)「日本鉄鋼業の粗鋼一億トンを支える教育システム:鉄鋼産業の現場主義と現場力の向上を目指す巨大な構想」
本報告は、日本鉄鋼業が高度成長期以降粗鋼1億トン以上の生産量を長期に維持してきた理由の一つとして、製鉄技術と技能を伝承し現場力の持続的向上に寄与してきた鉄鋼業界の教育システムに着目し、その歴史的経緯と現在の課題を紐解くことによって、今後の教育の在り方を検討することを目指し、特に鉄鋼業界で創設した(学校法人鉄鋼学園)産業技術短期大学と人材開発センターの今後の活用策について論究するための歴史的考察である。日本の近代的製鉄法の誕生は、大島高任が創設した釜石製鉄所第1号高炉の初出銑、 1858年1月15日(旧暦12月1日)をもって始まった。この時が日本の近代的な”鉄の時代”の幕開けといえる。この技術的源流は松下村塾の蘭学者集団によって翻訳されたU.Hugueninの「ロイク王立鉄製大砲鋳造所の鋳造法」にあり、江戸時代末期に各藩における反射炉の建設と錬鉄製造に寄与した。大島高任はこの源典を工夫して独自の洋式高炉を釜石製鉄所に建設したことから、高炉製銑法による鉄鉱石からの銑鉄製造技術が発展した。一方鋼の精錬は、 1882年から1892年にかけて海軍/陸軍工廠が坩堝精錬や酸性平炉による精錬法を導入し、“鋼の時代”を先行した。その後1916年エル―電気炉が、1938年に日本式トーマス転炉が稼働し、質・量ともに”鋼の時代“に入った。この間1901年に官営八幡製鉄所が日本初の銑鋼一貫製鉄所として誕生した。この流れは戦後1953年以降高度成長期に、鉄鋼各社が築き上げた臨海型銑鋼一貫製鉄所に結実した。このようにして日本の粗鋼1億トン体制が完成した。本報告は、この技術的発展と技術・技能の伝承を可能にした、職業教育の源流を江戸時代の“寺子屋教育”に求めた。またその流れが持続的に展開してきた理由と、企業独自の教育施策の中に「自前の熟練工」を輩出して製造現場力を高めようとしてきた事例を取り上げ、戦前の鉄鋼生産を支えた教育の底流が、戦後の1950年前後に生まれた養成工制度や、1962年に創設された鉄鋼短期大学、1974年設立された人材開発センターに継承されていると捉えた。この観点から、今後鉄鋼業の現場主義と現場力を強化するためには、過去の経営陣が払ってきた教育姿勢をどう受け継いでいくかが現在問われていると考えている。特に鉄鋼学園の活用に関しては、今後の技術・技能の伝承を含めて、産業界への寄与の在り方を検討していく必要があり、研究調査活動を展開していく予定である。
宮永之寛(生命機能研究科)「細胞による環境認識の仕組み:社会性アメーバが見る世界」
本報告では土壌で生きる原生生物である細胞性粘菌の生態を紹介するとともに,免疫細胞のモデル生物として細胞性粘菌をもちいた研究の成果について報告した。細胞性粘菌は土壌に生息しバクテリアなどの微生物を食べて増えるアメーバ細胞である。栄養豊富なときは単細胞で分裂を繰り返して増殖するが,ひとたび飢餓状態になると集合してナメクジのような多細胞体になって移動し,最終的に胞子を内包した子実体を作る。このとき細胞集団の約20%は,胞子を地上から持ち上げるための頑丈な構造をもった細胞に分化して死んでしまう。このように,自己犠牲をともなった役割分担をすることで種の存続をはかることから,細胞性粘菌は社会性アメーバとも呼ばれる。細胞性粘菌の集合は,自身の周りの化学物質の濃度勾配を検出し,その濃度の高い方向に移動する性質,走化性によって成り立つ。人間の体内で活躍する免疫細胞である好中球も走化性によってバクテリアが感染した箇所に集まる。両者の走化性の仕組みが共通することから,細胞性粘菌は免疫細胞のモデル生物として研究されている。様々な平均濃度の化学物質濃度勾配に正確に応答することは生体機能において重要な要素で,細胞性粘菌は10万倍もの広い濃度範囲で走化性を示すが,その仕組みは不明であった。一般的に広い範囲で応答する生体システムでは,センサーとなるタンパク質の感度を濃度に応じて調整する仕組みが取られる。しかしながら細胞性粘菌ではセンサーの感度調整と異なる仕組みが使われていた。その仕組みは化学物質の濃度に応じて,センサーとセンサーからの情報を受け取るタンパク質の相互作用の仕方を切り替えるものであった。この仕組みの一端を担う調整因子として新たなタンパク質を同定したが,このタンパク質は細胞性粘菌だけでなくヒトも持つものであった。細胞性粘菌で発見された新たな仕組みはヒトを含めた生命で広く保存された仕組みかもしれない。

第7回研究会(理学研究科J棟三階セミナー室,2017年7月27日)

坂口愛沙(理学研究科)「死なない細胞の特別な仕組み:生き物が死ぬのはなぜか?」
生物は、個体としては死ぬが、生物を構成する細胞のうち生殖細胞は不死性をもち、次世代へと受け継がれる。つまり、私たちの体は、数十億年前と考えられている生命誕生時から一度も死んでいない細胞でできていると考えられる。本研究では、主に遺伝学を用い、生殖細胞の不死性の制御メカニズムを解析した。モデル生物として用いた線虫C. elegansは、雌雄同体を基本とし、同一遺伝子を維持したまま世代をこえて飼育できるため、本研究に適している。まず、生殖細胞の不死性に欠陥をもつ遺伝子変異体を得るため、数世代飼育すると不妊になる変異体を単離した。原因遺伝子は、遺伝子発現を阻害するRNA干渉に関与することがわかった。さらに、これらの変異体では、数世代飼育するとトランスポゾンなどの繰り返し配列の発現が増加していた。DNAに潜む繰り返し配列には、生命に悪影響を及ぼすものが知られており、RNA干渉のシステムは、これら有害となりうる繰り返し配列が発現しないように制御することで、生殖細胞の不死性に寄与していると考えられる。このように、生物は生殖細胞という特殊な細胞を用いて遺伝子を次世代に伝え、個体としては死ぬことで、何十億年という長い間、遺伝子を生き続けさせているのではないか。
鈴木慎吾(言語文化研究科)「中国古代漢字音の研究方法」
国語表記に漢字を用いる我々日本人にとって、漢字音というものはごく身近な存在である。我々が日々触れている漢字音の由来を知るには、もとの中国語音の歴史を知らねばならない。これは一般に漢語音韻学と呼ばれる学問領域であり、これまで長い時間をかけて研究が積み重ねられてきた。今回は導入編として、最初に漢語音韻学における時代区分、資料、反切、系聯法、中国語の音節構造、現代諸方言、音類と音価といった重要項目について概説し、その後中古音の声類について具体的な分類と音価推定の手順を紹介した。また近世音および上古音の推定にも触れて、歴史的な音韻変化の具体例をいくつか挙げることで中国音韻史の概略を述べつつ、議論が紛糾しがちな点にも簡単に触れた。ところで、漢語音韻学は情報学や統計学とも親和性が高く、最後に今後期待される研究方法について述べるとともに、科研課題として目下構築中のデータベース、また私的な研究計画についても紹介した。

第6回研究会(理学研究科J棟三階セミナー室,2017年6月1日)

水島郁子(高等司法研究科)「雇用社会の変化と社会保障法制の役割」
日本の雇用社会の伝統的特徴に、終身雇用、年功賃金、企業別組合がある。もっともこの特徴に該当する者の多くが新規学卒男性正社員であり、日本の雇用社会の基礎にはいわゆる「男性正社員中心主義」があった。経済情勢、産業情勢、そして人口構造の変化を受け、現在の雇用社会では、非正規雇用が拡大し、女性、高齢者、障害者等を活用する傾向がある。非正規労働者法制の方向性は、正規化を含む雇用確保の要請と、労働条件の保障(不合理な労働条件の禁止)にあるが、これは非正規雇用を補助的就労から脱却させ、旧来の「男性正社員」とは異なる新たな正社員像を提示する。もう1つの傾向は、男女雇用機会均等法を含む雇用対策法制として展開する。法制度上は、女性労働者の機会均等、高年齢労働者の雇用確保、障害者の差別的取扱いの禁止等が確立し、労働市場も雇用確保の要請に応えている。以上の雇用社会の変化を踏まえ、社会保障法制の課題や役割として3点を指摘した。第1に、社会保障法制は雇用社会の変化に対応すべきである。社会保険のうち被用者保険は、世帯の扶養者である被用者を核とするが、これは「男性正社員中心主義」と密接に関連するものであり、時代に適合しない内容は見直すべきである。第2に、労働法制と社会保障法制の守備範囲は異なり、社会的ニーズには社会保障法が対応すべきである。第3に、社会保障は社会的リスクやニーズに対して保障を行うもので普遍的にならざるを得ないが、支援が必要な者が漏れていないか等の新たな課題を発見し、必要であればそれに対応することが求められる。
紀本岳志(紀本電子工業㈱)「Ecological Sociography の発想」
古来、学問の方法は、人文学(Humane Philosophy)、社会学(Social Philosophy)、自然学(Natural Philosophy)の3つの分野において、ほぼ同様であった。つまりは、一般的・普遍的な前提から、より個別的・特殊的な結論を得る演繹法に基づいて、観察結果を説明するという方法である。いわゆる「星の動きは神を中心として導く」ことが前提であった。それに対し、17世紀の「科学的方法の発明」の結果、自然学は測定した数値から法則(数式)を導くという帰納法へと変貌し、自然学は自然科学(Natural Science)となった。「私は仮説を作らない(ニュートン)」、「はかれないものは(知識の始まりであるが)科学ではない(ケルビン郷)」と言う思考が、現代自然科学の根底にある。もちろん、はかれないものの学問は重要であり、それが人文・社会学の大きなテーマであることは言うまでもないが、文理の対話を考える際に、双方が互いの方法を学び違いを理解した上で、共通のテーマに興味を抱く(Philo)ことが肝要ではないか。今回の報告では、自然科学の分野で、もっともはかりにくい対象のひとつである生態学(Ecology)の手法を紹介するとともに、その手法を用いて社会を誌す(社会生態誌:Ecological Sociography)ことの可能性について考察した。その一例として、社会学における「イノベーション」の概念について、社会生態誌的にどのように誌され、今後どのようなアプローチが必要かについて検討した結果を報告した。

第5回研究会(理学研究科J棟三階セミナー室,2017年3月25日)

河井洋輔(理学研究科)「隕石から探る太陽系の起源と進化」
太陽系の起源と進化過程を明らかにする上で、天体望遠鏡を使った観測的なアプローチに加え、隕石など地球外物質を調べる物質科学的な手法は必要不可欠である。本報告は、そもそも隕石とは何かという話題から始め、現在の太陽系がどのように形成されたのか、その形成モデルが隕石の分析によってどのように「制約」されているのか説明を行った。隕石は、惑星やその前段階である小天体(微惑星、原始惑星)の「かけら」である。物質科学的な手法では、隕石に含まれる元素存在度や同位体比に着目する。例えば、放射性同位体の半減期が一定であることを利用し、隕石に含まれる親核種と娘核種の存在量を調べれば、その母天体がいつ形成されたのかを知ることができる。このような手法を使うことで、太陽系が45億6700万年前に形成されたこと、そこから2千万年以内には惑星が形成されていたことなどが明らかにされている。また元素存在度などから、月や火星からも隕石が飛来してきていることが分かっており、それらの進化過程を明らかにする上で重要な試料となっている。
鄒燦(法学研究科)「盧溝橋事件記念日から日中の戦争認識を考える」
グローバル化に伴う国家・地域間の頻繁な交流、メディア技術の発展に伴って、複数の政治主体に関わる歴史事件をめぐる記憶や認識の相違が新たに意識されるようになり、そのことが歴史認識問題の顕在化につながっている。日中間の歴史認識問題はその典型の一例であり、その中の多くの争点は日中戦争をめぐる日本と中国の認識の差異に由来するものである。それが両国間の相互認知に対立の感情を引き起こす可能性をはらむと考えられる。従って、両国の戦争認識に介在する差異の確認は、現実性のある課題である。本報告では、盧溝橋事件記念日に焦点を絞って、事件勃発日から終戦に至るまでの間の日中双方の戦争認識の形成過程を対照的に考察した。1937年7月7日に勃発した盧溝橋事件は、日中全面戦争の発端と位置付けられているが、当該事件をめぐって、事件勃発当時から論争が続いており、日中のどちらが最初の一発を撃ったのかは現在まで謎のままである。戦時日本と中国は、この謎に包まれた事件を共に重要な出来事としてその勃発日を記念し、それぞれの必要に応じて銃後動員に活用しながら、国民に記憶させて共有させようとした。また、当該記念日は、日本政府、対日協力政権、重慶国民政府、中国共産党政権といった四つの政治主体によって、それぞれの立場による戦争解釈と国民意識育成の目標を組み込まれた。このように、日本と中国において、四者それぞれの日中戦争像が形作られ、戦時を通じて対抗しつつも並存していた。本報告では、こうした複数の戦争像の比較検討を通じて、日中の戦争認識における差異を確認したうえで、それが戦後の日本と中国の新たな政治空間のなかでの状況の展開を踏まえた調整を加えつつ、現代まで継続していると論じた。

第4回研究会(理学研究科H413号室,2017年1月9日)

思沁夫(グローバルイニシアティブ・センター)「“文理融合”は必要か:実践と経験に基づく報告」
日本では研究分野を超えて連携すること、あるいは研究と社会的実践とのつながることを学際的あるいは文理融合型の研究と言うことが多い。 学際的研究は、異なる分野を専門とする研究者が協力し合い、環境、災害、健康、食、農、教育など、大規模かつ複雑な課題に取り組む方法として長年重要視されてきており、近年はその方法論も発展している(詳しくは田中仁・思沁夫・豊田岐聡編『OUFCブックレット第8巻 中国の食・健康・環境の現状から導く東アジアの未来―地域研究における文理融合モデルの探求―』2016年を参照)。しかし、日本では文理融合という表現もしばしば用いられる。文理融合とは方法論なのか、あるいは目的論を示すのか、その言葉の意味は曖昧である。さらに、なぜそもそも文理融合しなければならないのか。文理融合はある意味で非常に日本的な表現であり、戦後日本が科学技術立国としての精神と一体性を掲げる中で指向されてきたという背景がある。しかし、グローバル化の時代において、文理融合は再検討する必要がある。結論から述べたい。そもそも、文理融合は不可能であり、その必要もないであろう。分野を横断した研究は、むしろ学際的研究と言いたい。社会的実践あるいは地域連携で様々な課題に取り組む場合、社学連携あるいは社会実践として表現したい。ただし、ここで注意したいのは、文理融合という表現は誤解を招きやすいことであるが、学際的あるいは実践的方向性に異論はない。例えば、私たちは環境問題、農業問題、災害、人口問題、専門性や地域を超越した多くの課題を抱えている。これら諸課題は長期的な視点から捉える際、より複合的に、より持続可能性を意識して理解する必要があるほか、分野を超えて社会と連携しつつ、取り組まなければならない。われわれが生きている現代社会は高度に専門分化している。言い換えると、われわれは科学の視点から物事を思考しなければならない。あらゆる事象をリスクとして捉えることが多い。ゆえにより合理的な判断を迫られる。ある組織や分野を超えた、社会とリンクした研究成果が求められている。ここで改めて学際的研究、社学連携の意義については問わない。われわれは確かにその必要性を理解しているとしても、方法、実践でつまずいてしまうことが多い。ここで私は大きく2つのことが重要だと考える。まず、研究者らの組織自体が学際的研究、社会連携をどのように位置づけ、推進するのかということである。加えて、社学連携に取り組む人々の個人的な経験と考え、価値観の意味することが大きい。社学連携、あるいは社会実践とはより良い社会、地域間関係を創生するための最も有効な方法論のひとつだからである。本報告では大阪大学における文理融合型の研究を簡単に整理し、大阪大学の組織としての特徴をふまえた上で、モンゴルや中国雲南省の環境保護活動、兵庫県宍粟市鷹巣などの地域における実践型教育などの事例を報告し、社学連携の具体的な方法論や様々な課題について考えたい。
北村亘(法学研究科)「ポピュリズムと合理的選択制度論:大阪都構想をめぐる政治 2010-15年」
本報告は、実証的な政治分析において世界的に注目されている「ポピュリズム(Populism)」といわれる政治現象を既存の政治学の研究手法で説明できるかどうかの可能性を、2010年から2015年までの大阪都構想をめぐる政治過程の分析から検討する。近年、民主主義の定着と情報技術の進展の中で「ポピュリズム」が実証的な政治分析の中で再び脚光を浴びている。しかし、具体的にポピュリストと通常の民主主義的指導者との違いは何であるのか、また、ポピュリストに着目することでこれまでの政治分析と違ってどのような新しい側面が説明できているのかは謎のままである。実証的な政治分析に適用しづらいポピュリズムに依拠しなくても、政治的プレイヤーの合理性を前提として、政治的プレイヤー間のゲームから政治的帰結を説明するという合理的選択制度論で十分に近年の政治現象も捉えることができるというのが本報告の理論的な主張である。そこで、最も典型的なポピュリストのひとりと言われている橋下徹と彼が率いる大阪維新の会の推進した大阪都構想をめぐる政治過程に着目する。橋下は、「有効な脅し(credible threats)」を活用して不可能と思われた大阪都構想実現のための大都市地域特別区設置法を2012年に民主党内閣の下で実現させるだけでなく、2014年末には公明党を動かして2015年の住民投票に持ち込むことに成功する。住民投票では僅差で否決されるが、その後、橋下率いる維新の会は自民党を封じ込めて同年の大阪府知事、大阪市長のダブル選挙で再び大勝したのである。本報告は、特定の政治家のポピュリスト的才能や個性を強調するポピュリズムに依拠しなくとも、合理的な政治的プレイヤーの相互作用で政治過程を説明する合理的選択制度論、特にアナリティック・ナラティヴズ(Analytic Narratives)で複雑な政治過程を理論的に説明することができると論じる。

第3回研究会(理学研究科H413号室,2016年11月7日)

秋田茂(文学研究科)「アジアから見たグローバルヒストリーの構築と文理融合の課題」
未来戦略機構第9部門では、昨年より3年計画で、6大学(Oxford, Leiden,Konstanz, Princeton, Kolkata, 大阪)のグローバルヒストリー国際共同研究を進めている。2016年3月に大阪で、3日間、報告者33名の第二回ワークショップ“Globalization from East Asian Perspectives”を開催した。第9部門は現在、複数の研究科からの16名で構成されるが、理系研究者の協力体制は未構築で、課題として残っている。「世界適塾大学院」(構想案だけで消滅)を考える過程で、David Christian等が提唱するBig History(宇宙の誕生から現代までの146億年の中に人類史を位置づける試み)を採用して、理系との協力・共同研究を模索したが、いまだ、十分な成案や構想を持つに至っていない。理学研究科を中心に、同様な新学術領域研究の提案が既になされており、今後は、研究課題の明確化と、果たして協力が可能なのかどうか、さらに検討を進めていきたい。
瀧口剛(法学研究科)「大阪帝国大学の設立と戦間期政党内閣」
本報告では、大阪帝国大学創設(昭和6年)の政治過程を当時の浜口雄幸・民政党内閣と大阪財界の密接な関係に焦点を当てて明らかにした。昭和初期、経済発展著しい大阪にも官立の総合大学を設置しようという機運が盛り上がったが、客観的状況は厳しく大阪帝国大学の設置過程は波乱に満ちたものであった。関西圏における新たな帝国大学設立には井上準之助蔵相のもとでの厳しい緊縮財政、高等教育関係者の新設帝国大学不要論が立ちはだかっていた。これを乗り越えたのが、大阪財界を軸とした政府特に井上蔵相自身への働きかけであった。この運動の成功の重要な要因となったのが、井上財政を支持する大阪財界と民政党内閣との密接な関係であった。井上蔵相は大阪側のコンタクトパーソンと連絡をとりながら意図的に追加予算まで待って創設費用を滑り込ませたのであった。本報告では、綿工業や自由通商運動など当時の大阪財界の動向を背景にこの政治過程に光を当てた。

第2回研究会(理学研究科H413号室,2016年10月10日)

三好恵真子(人間科学研究科)「リスク社会における環境問題への挑戦―実践志向型地域研究,個人の中での文理融合」
地域研究は、現実世界が抱える諸課題に対する学術研究を通じたアプローチであり、その発展を通じて、それらの解決に寄与することを目指すものである。こうした学際的アプローチによる知の集積を「実践的地平」に生かすことは極めて重要になるものの、具体的な人間の生存のあり方や複雑な社会動向を把握するためには、現地に精通した参与的調査が重要な鍵を握るものと考えられる。さらに緊急性を要する環境問題に挑戦するためには、自然科学的な理解や技術・方法論のみならず、社会や経済・政治の仕組みをどのように変えてゆくかも含めて、長期的な視野から体系的に分析してことが求められる。 当方の研究室は、世界的な共通課題である環境問題を人間の生活の次元でとらえながら、その解決の営みを、様々なレベルのコミュニケーションを通じた環境の価値あるいは価値の損失の発見と、価値の共有のプロセスとして討究を積み重ねてきた。そして本研究室には技術開発をする理工系の学生から海外での現地調査を重ねる学生まで文理を問わず多様な人材が集結する極めてユニークな研究環境を構築しており、知的結合力を有する研究者育成に研鑽している。特に、各人が「個人の中での文理融合」に挑戦し、さらに「研究者間レベルでの学融合」を日常の中で切磋琢磨しながら体得していくことが、他の文理融合研究と一線を画している点として特徴づけられる。 本報告では、当方の研究室から発信される多様な実践志向型の地域研究の一部を紹介しながら、課題解決への学際的アプローチの展望について参加者とともに討議した。
山本千映(経済学研究科)「産業革命期イギリスの識字率」
経済成長の源泉は、一般には機械設備などの資本ストックの増加と主として人口規模に規定される労働力の大きさ、これらの残差としての技術進歩(TFP)によって説明される。イギリスの産業革命も、蒸気機関を備えた大規模工場という典型的なイメージ、換言すれば、資本ストックと技術進歩という側面から理解されてきた。しかし、近年では、労働集約的工業化論や工業化における労働者のスキルの役割の重視といった議論が展開され、労働力の質をどうとらえるかに注目が集まっている。資本集約的で労働節約的な欧米型の工業化だけが一般的な経路だったわけではなく、大量の労働者を利用したり熟練工のスキルを利用することで、資本を節約しながら工業生産を拡大するという道もあったのだ、という主張である。 本報告は、識字率を用いて産業革命期イギリスの労働力の質を測定しようという試みである。従来の識字率推計で用いられてきたのは、結婚証明書に自分の名前を書けるかどうかという基準であった。この方法だと、結果は「書ける/書けない」の二分法になり、サンプルの年齢も20代半ばに偏ってしまう。本報告では、これに代えて、犯罪記録を用いる。これにより、読みと書きの能力を区分して評価することができ、また、「不十分にしか読めない」、「読める」、「良く読める」、といった能力の程度もわかる。また、犯罪者には10歳前後の子どもから60歳を超えた老人まで含まれるため、識字能力の年齢プロファイルも描くことができる。

第1回研究会(理学研究科H413号室,2016年9月12日)

青木順(理学研究科)「質量分析の基本原理とその応用分野」
本報告では、計測技術として様々な分野で用いられている質量分析技術について、その基本原理と応用されている具体例について説明した。質量分析では各種の物理現象を応用し原子・分子レベルで物質の質量を計測している。世の中の物質はそれぞれ固有の質量を持っているため、精密に質量を測定することは物質種の特定につながる。阪大の質量分析グループでは、独自に開発した技術である多重周回飛行時間型質量分析計・MULTUMを用いて研究を進めている。このMULTUMの特徴は小型でありながら大型装置に匹敵する計測性能を有することであり、可搬型にして測定現場で直接的に精密な計測が可能になる。この特徴を活かした具体的な応用として、環境汚染の測定、 火山ガスの分析、 病気の診断などが検討されている。この中でも環境汚染の測定については、社会問題となっているPM2.5への対策に活用することが期待されており、解決を目指すに際しての法整備や社会への働きかけに関して多分野・多領域の協力・協働が重要になることが認識された。
胡毓瑜(人間科学研究科)「課題解決型文理融合研究における交流・協力の取り組みと展望」
本報告では、理学,基礎工学,人間科学と様々な専門性を持つ報告者がこれまで手がけてきた複数の研究課題を紹介しながら、研究における交流・協力の意義と可能性を討議した。その中で特に詳しく説明したのが「カオス解析による心理特徴の分析」という課題である。はじめにカオス現象、脈波の原理と測定方法について簡単に説明した。非線形解析により脈波からアトラクターを描くことができ、最大リアプノフ指数(LLE)と自律神経バランス(ANB)を算出できる。この指標を活用し、人間の心の状態を知ることが可能になる。実験例として、脈波のデータからうつ病患者群と健常者群(学生)に分けて分析を行った結果を紹介した。ここでは患者群のLLEの値は有意に低く、逆にANBは高いことがわかった。また、うつ病患者の脈波と加速度波からのアトラクターの形は健常者と相違が生じることを示した。最後に判別分析により患者と健常者が判断できることを示唆した。このような研究の場合、不可欠になるのは研究上の交流・協力である。特に総合的に検討すべき複雑な課題に対しては、多様な方法の基礎と応用、また多分野・多領域の協力・協働が重要になり、また課題解決を担う将来の一つの発展の方向に位置づけられる。さらに、交流・協力に際し、橋渡し役の研究者の存在が期待され、双方の研究内容の重要性を理解できることが鍵を握ると強調した。

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