本報告は、内モンゴル近現代史研究の視点に立ち、発展著しい中国の中心-周辺関係を、その歴史と実像から考察し、さらに周辺地域における動的な「民族境界」の維持・変容をめぐって議論するものである。
1990年代における東アジアの社会保障制度は,社会保険を中心にしたソーシャル・セーフティネットの構築が主流であった。これは世銀・IMFの推奨する「小さな政府,市場主義,規制緩和」に沿う改革でもあった。エスピン・アンデルセンの福祉国家モデルを援用すれば,市場から社会サービスを到達する「自由主義レジーム」へのシフトともいえる。ところが「自由主義レジーム」は市場への依存度を高めるために,市場が機能しない局面(経済危機,産業構造の変動期など)では却って国家と家族への依存を深める結果になる。この時,途上国において国家はしばしば財政危機に陥り,市場主義の中で所得格差が拡大した家族は相互扶助機能を後退させている。このため国は「最低限の生活保護」に特化せざるをえない。その結果,期待された社会保険ではなく,逆に従来型の社会扶助の割合が増大する。華南においても,社会保険制度の設置はかえって従来型の家族間の相互扶助と財政依存を増大させることになりつつある。
私は中華人民共和国と同年齢で,大学・大学院時代が「文革」と重なる世代である。このため1949年の中国革命とは何か,「文革」とは何か,という問いに答えるのが私の研究の大きなテーマである。その答を得るために「婚姻法」とともに新中国成立の象徴とされる土地改革に至った旧中国農村の実態と変化を探りたいというが現在の研究の目標である。これまで旧中国「農村の悲惨さ」は強調されてきたが,必ずしもその実態は明らかになっていない。日本の各大学等には戦前の実態調査で収集した一次史料が多数収蔵されており,その中で比較的大きな割合を占めている江南地方の地主文書の分析を通じて,旧中国農村,地主経営の実態解明と通説の再検討を行っている。報告では,日本を中心に一次史料の収蔵状況とその分析を通じて得られた江南の地主・小作の実態と変化を述べて,併せて現在の中国で大きな問題となっている都市と農村問題を歴史的文脈から考えて見たい。