オムニバス講義・現代中国研究/現代中国研究特殊講義

2015年度大阪大学大学院高度副プログラム:現代中国研究
2015年8月5日改訂

目的と概要

今日の東アジアは,中国のグローバル大国化や日中関係の曲折などによって新たな局面を迎えている。このような21世紀東アジアと中国の現況と趨勢を的確に理解するためには,中国20世紀史や国際政治・経済学など複数の視点の獲得が不可欠である。本講では,各研究科に所属する教員がそれぞれの専門分野から現代中国研究に関わる論点を提示することによって,歴史学の総合性と地域研究の学際性の架橋をめざす。

本講義は大きく分けて2つの部分から構成される。前半では、「20世紀中国の射程」と題し、中国現代史の視点から、中国に対する多角的な見方の前提となる中国の歴史的変遷、および外部との関係において見えてくる広義の中国文化システムについて論ずる。後半では、「21世紀の中国と東アジア」と題し、環境、衛生、文化、言語、経済、外交、安全保障などさまざまな視点から未来志向の中国像、さらには中国と日本、東アジアとの関係について考察する。

すすめかた

  1. 「序論」および「20世紀中国の射程」「21世紀の中国と東アジア」各7回の15回です(序論の4月9日と16日は同内容)。
  2. 毎回,基本的に講義50分・討論40分とし,討論は「GUIDING QUESTION」をもとに行います。
  3. 受講生はあらかじめテキスト『現代中国に関する13の問い―中国地域研究講義』(6月4日と11日の指定資料もふくむ)の当該部分を読み,あわせて「GUIDING QUESTION」について考えておいてください。50分の講義は,受講者がテキストを読んできたことを前提に行います。
  4. 「20世紀中国の射程」(前半)と「21世紀の中国と東アジア」(後半)における7つの「GUIDING QUESTION」からそれぞれ1つを選択し,レポートを提出していただきます。
  5. 評価は平常点(出席状況と討論への積極的な参加)と二回のレポートにより行います。

討論の記録 (STA 林礼釗)

4月23日5月7日5月14日5月21日5月28日6月4日6月11日
6月18日7月2日7月9日(1)7月9日(2)7月16日7月23日7月30日

お知らせ

6月25日(三好先生)の代講について
休講となった6月25日の講義(三好先生)の代講を,7月9日第7限に行います。

レポートの作成について
下記の要領でレポートを作成してください。

【課題】
前半部分(20世紀中国の射程,4月23日~6月11日の7回)と後半部分(21世紀の中国と東アジア,6月18日~7月30日の7回)について,Guiding Questions(授業中に提示されたもの)からそれぞれ一つを選択し,その課題(設問)に対して考察を加えてください。
【分量】
レポート用紙A4 版3~4 枚(4000 字程度以上)
【留意点】
少なくとも三点の関連文献を参照し,かつ本文との対応関係を明示してください。
【提出期間】
前半部分:6月12日(金)~6月21日(日)
後半部分:7月31日(金)~8月9日(日)
【提出方法】
c-forum[a]law.osaka-u.ac.jp に添付ファイルとして送信。件名を「高度副プログラムレポート:氏名」とする。

法学研究科授業評価アンケートのお願い
法学研究科授業評価アンケートをKOAN上で実施します(実施期間:5月18日(月)~6月5日(金))。
回答方,どうぞよろしくお願いいたします。

上記のアンケートに10人の受講生から回答をいただきました。詳細
授業担当教員に回覧し,今後の処方として活かしたいと思います。

スケジュール

序論

20世紀中国の射程

21世紀の中国と東アジア

GUIDING QUESTION

20世紀中国の射程

博覧会における「文明」と「野蛮」の階梯 [福田州平,グローバルコラボレーションセンター] 4月23日
日本は,近代化を進める手段として,欧米で開催されてきた博覧会に注目し,政府主導で1877年から1903年まで,内国勧業博覧会を五回開催しています。今回とりあげる第五回内国勧業博覧会は,事実上の「万博」といえるぐらいの規模でした。本章では特に,同博覧会の場外余興として企画された,日本内外の人びとを生きたまま展示する「人類館」に注目します。この企画で,清国人が展示されようとしたのですが,当時の留学生は反対運動を繰り広げ,清国人の展示を断念させています。しかし,この抗議の言説は,今日的には「政治的に正しくない(politically incorrect)」ものだったといわれています。どこに問題があったのでしょうか?そして,その問題を,現代の中国人と日本人は克服できたといえるのでしょうか?
「民族」概念を使いこなす [木村自,人間文化研究機構] 5月7日
今日的な意味における「民族」という概念は,19世紀後半の日本において創造され,中国に輸入された言葉である。中国においても日本においても,私たちは現在,この言葉を用いて,今日の世界で繰り広げられている様々な紛争や運動をカテゴライズしようとしている。しかし,日本と中国とでこの語によって指し示されるもののニュアンスは,微妙に異なっている。どのような差異と共通点が存在しているのか,事例を用いて確認してみよう。また,本章でも述べるように,「民族」は決して固定的で,本質化されたものとして理解するべきではない。その意味で,いつ,いかなる状況で「民族」が問題になるのかを知ることが重要である。私たちは中国の民族問題を考える上で,「民族」概念をどのように使用していくのがよいのか。本章での主張と,具体的な事例をもとに考えてみよう。
漢族と非漢族をめぐる史実と言説 [片山剛,文学研究科] 5月14日
いま存在する国境線に,歴史の視点から懐疑の目を向けてみよう。たとえば目下,ロシアがウクライナ(とりわけクリミア半島やウクライナ東部)をロシアに繰り込もうとしている。この事の政治的是非や今後の国際的あるいは軍事的帰趨とは別に,ウクライナがかつてのロシア帝国やソ連の一部であった時期が確かにあったことは,いま存在する国境線が絶対不変のものではないことを示唆している。さて4月24日の授業で話題にする,広東・広西からベトナム北部に至る地域は,紀元前2世紀から10世紀まで中華帝国の一部に組み込まれ,広東・広西とベトナム北部の間に国境線はなかった。そして当該地域には,〈漢族〉と〈越人〉が共生・融合する社会が,共通して存在していた。しかし10世紀に,当該地域のうち広東・広西は北宋(その後は南宋・元・明・清)に帰属し,ベトナム北部は中華帝国から独立した国を建てていく。このうち広東側の人々が,自分たちをベトナム北部の人々と差異化する意識=アイデンティティ(具体的には〈漢族〉意識が前面に出ている珠璣巷伝説)をもつに至るのは,分離から数世紀後の15・16世紀である。ウクライナの事例,広東・広西からベトナム北部に至る地域の事例を参照しながら,4月24日までに,いまの国境線に懐疑の目を向けることができる事例をさがしてみよう。
法治主義発展史とそこにおける中国 [高田篤,法学研究科] 5月21日
中国においては、「法治」が強調されるようになり,また,一般に、そこにおける法治主義の発展が求められている。しかし,他方,それは困難な課題でもある。そこで,法治主義発展の歴史を概観し,それとの比較,特にアジアの隣国日本における展開(大日本国憲法の成立,発展,崩壊)と旧社会主義国ハンガリーにおける展開(社会主義憲法からの転換)との具体的比較の視座を獲得した上で,中華人民共和国憲法体制における法治主義発展の課題と展望について考える。具体的には以下のことを考える。
1) 中華人民共和国憲法のどの規定が権力分立を阻害しているか?
2) 中華人民共和国憲法において立法機関,立法はどのような性質のものか?
3) 中華人民共和国憲法のどの規定が権利制限を可能にしているか?
4) 中華人民共和国における法治主義発展について,どのような道筋が考えられるか? その際,何が障害となり得るか?
日中関係の転機と歴史叙述(5月21日改訂) [田中仁,法学研究科] 5月28日
2012年,日本政府の尖閣諸島国有化に端を発する中国各地で起こった反日デモにより,日中関係は極度に緊張し,1972年の国交正常化以来最も厳しい局面を迎えた。1980年代以降の日中関係は鄧小平の改革開放政策のもとで着実に発展し,ヒト・モノ・カネ・情報の交流は不可逆的に拡大・深化した。このようにして有史以来はじめて対等の立場で良好な関係を構築してきた日中関係は,現在,転換点に立っている。昨年11月,日中首脳会談を実施するにあたって交わされた4項目の政府間合意が示すように,問題の焦点は領土問題と歴史問題である。歴史問題について言えば,合意の第2項目「双方は,歴史を直視し,未来に向かうという精神に従い,両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」が示すように,「歴史の直視」をどのように解釈するのかをめぐって両者に見解の隔たりが存在する。これらは“戦争の語り”や歴史認識に関する公的な政治的解釈であるが,私たちは,日本と中国さらに東アジアに通用する歴史認識をもつことは可能であろうか。
ことば,歴史,アイデンティティ―台湾映画『海角七号』をめぐって [林初梅,言語文化研究科] 6月4日
1990年代以降の台湾では,植民地時代をめぐる郷土の記憶が多く語られています。そこで注目したいのは,その語り手には日本人引揚者,日本語世代の台湾人ばかりでなく,戦後世代の台湾人も含まれているということです。三者の間で郷土をめぐる記憶はなぜ共有出来るのでしょうか。映画『海角七号』を事例としてそのプロセスを考察してみましょう。
中国における「裁判」の理念・役割、そして限界? [坂口一成,法学研究科] 6月11日
司法権の独立,裁判官の職権行使の独立は近代立憲主義の大原則である。特に有罪か無罪か,また有罪の場合は刑罰量を決める刑事裁判では,人権侵害・政治的抑圧に対する憂慮から,政治権力からの独立の必要性・重要性が認められる。他方,中国ではこうした考えは採られていない。そこで認められているのは,政治権力のコアである「共産党の領導」の下での「裁判の独立」である。司法の独立をめぐる両者の態度は截然と異なる。中国のこうした裁判システムはどのような文脈・環境で,如何なる論理で正当化されているのか,(どのような裁判システムでも問題は生じうるとして)実際にどのような問題が生じているのか,また我々はそれを如何に把握すればよいか。

21世紀の中国と東アジア

中国の開発と環境 [思沁夫,グローバルコラボレーションセンター] 6月18日
環境問題は近代化が内包する本質と直接的に関わる課題である。その意味において,環境問題解決への道は,私たちの内面の変化の問題と言える。多様な環境に適した多様な文化や主体を尊重し,その内部から新たな理念を構築できるかどうかが鍵となる。中国では社会主義体制が支配的である一方, 市民の自発的行動により,環境保護や人間の健康,食の安全・安心の確保に対する取り組みがなされ,状況は変化しつつある。例えば,1990年代以降に環境NGOが中国で誕生している。グローバル化の進展に伴い,中国環境NGOの活動及び規模は拡大しており,環境問題の解決に向け国際的連携が進み,その活躍が期待されている。しかし,中国の政治的及び社会的制約は色濃く,環境NGOの成長には限界がある。また,中国企業の経済至上主義,利益主義は自然環境を犠牲にしている。遊牧民や少数民族は社会の周縁に追われ,発言権は剥奪され,彼らの貧困,労働,人権問題はより一層深刻化,複雑化している。21世紀において,中国の成長,社会の安定と持続性は環境問題と深く関係している。中国の決断は国際社会の影響を受けると同時に,国際社会にも大きな影響を与えるのである。
中国ロックに見るワールドインパクト [青野繁治,言語文化研究科] 7月2日
中国は,文化大革命の後,クラシック音楽やジャズのような欧米音楽の禁止という頚木から解き放たれて,積極的に海外の音楽を取り入れようとした。その過程においては,精神汚染批判のようなアレルギー現象も生じたが,鎖国状況のなかで立ち遅れた文化の進展を,海外の文化を積極的に取り込むことによって,補おうとした。しかし近代以降,中国は外来の文化をありのままに受け入れてはこなかったのではないか。伝統文化と西欧近代文化との衝突があって,精神は中国,技法は西洋といったような中体西用的な姿勢が19世紀の洋務運動で見られ,それ以降も外来文化を「中国的**」のように,中国流に改造して受け入れてきたのではなかったか。果して中国ロックは,中国化されたロックなのか,ロックの衣装をまとった別ものなのか。
「経済大国」化する中国のインパクトと新たな成長へのジレンマ [許衛東,経済学研究科] 7月9日
2010年における日中のGDP逆転は世界第二の「経済大国」の座に漕ぎ着けた中国の躍進ぶりを象徴する出来事であったとするならば,2020年代前半に起こると想定される米中GDPの逆転(購買力平価PPPベース)は果たして世界経済秩序のパワー・トランジッション(力の移行局面)を意味するものなのだろうか? 答えは明らかにノーである。なぜなら,アメリカを中心とするグローバル・ガバナンスによって担保される東アジアの地域秩序に中国が圧倒的な力を持つヘゲモンとして登場するとは考えられないし,中国国内においても格差や技術革新の力不足などの問題が山積しているからである。つまり体質の弱い肥満児の如く,本格的な経済大国に脱皮しきれていない中国社会の現実がある。では,(1)中国の持続的発展の可能性は依然あるのか? (2)中国の市場革命の成果は開発モデルとして有効なのか? (3)「中進国の罠」が待ち伏せている成長段階の壁を突破できるのか? (4)アジアの経済統合及び日中経済の相互依存関係は前進か停滞か? ここに巨視的・中長期的な視点から中国経済成長の意味を問う。
食の安全・安心・信頼 [三好恵真子,人間科学研究科] 7月9日第7限
食の安全性を巡り,ステークホルダー間に摩擦が生じるのは,心理的要因に誘導された「安全でも安心できない」という社会構造に起因していると考えられます。 ここでは,日中間の外交問題に発展してしまった中国食品に関する具体的な事例を元に,多次元的な分析を行った結果を紹介します。これらを議論の素材として,以下の3つの視点に発展させつつ考察してみましょう。
(1) 中国食品の安全・安心について
(2) 中国食品等を巡る日本のメディアの報道とそのあり方
(3) 食を通じての日中関係から見えてくる課題と今後の展望
アメリカの戦後台湾政策 [高橋慶吉,法学研究科] 7月16日
米中和解前におけるアメリカの台湾政策の特徴は何でしょうか。その特徴を踏まえた上で,米中和解によってアメリカの台湾政策がどのように変化したのか,考えてみましょう。
過渡期にある中国の核戦力と核戦略 [竹内俊隆,国際公共政策研究科] 7月23日
中国は,GDPで世界第二の経済大国になり,軍事力も着実に増強している。21世紀の中葉には,GDPでアメリカを抜くとの予測すらあるほどである。そこで問題になるのは,今後ますます影響力を拡大すると思われる中国の世界における基本的な「立場」であろう。すなわち,共産主義国であるがゆえに,現状の資本主義的自由貿易を基盤とする体制全体の変更を目指す挑戦国になるのであろうか。それとも,自由貿易体制の変更を目指さないどころか,その中に包摂されて「責任ある利害関係国(responsible stakeholder)」になるであろうか。現状では,中国は明確な意思決定をしていないと思われる。中国の国内事情だけではなく,世界の経済的・政治的・軍事的環境にも影響を受けるが,今後の中国の行動を注意深く観察する必要があることは間違いない。
「華僑」「華人」と東アジアの近代 [宮原曉,グローバルコラボレーションセンター] 7月30日
(1) 近代国民国家体制のコンテクストのなかで「華僑」ないし「華人」の概念は,どのように登場してきたのだろうか。
(2) 16~19世紀の中国系移民の歴史は,「東アジア的近代」について何を示唆するだろうか。

テキスト

参考文献

20世紀中国の射程

21世紀の中国と東アジア

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