『現代“中国”の社会変容と東アジアの新環境』出版プロジェクト

2007年7月1日更新

主旨

20世紀第4四半世紀を通じて展開したグローバリゼーションの現実的イシューと,その経済的政治的言説としてのグローバリズムは,圧倒的規定要因として世界をおおっている。経済的には市場経済化と,政治的には民主化に示され,それらは自明の論理として受け入れられているかのようである。しかし,その対極には,グローバリゼーションに包摂された地域社会と国民国家そのものが,いかなる国際的条件下にどのような自己変容と自己維持をとげうるのか,さらにはそうした変容そのものをどのような内的論理で受容するのか,あるいは拒否するのか,その政治的経済的社会的基盤はどのような特徴をもっているのか,などの分析課題が存在しつづけている。

こうした課題群は,歴史の位相としては19世紀から20世紀段階のグローバリゼーションとその包摂過程に内在した論点を内包するものとしても再認識しうるとともに,現代に連続する地域研究の分析課題といいうるだろう。グローバル・イシューの対称的位置には,地域社会や国民国家に内在するローカル・イシューが蓄積され,そこに内在する論理とグローバリゼーションの相互浸透性そのものを分析課題とする地域研究の領域が拓かれてきた。今日にあっては,地域社会や国民国家の境界内のみならず,経済的相互依存性を基礎とした国境横断的越境的まとまりとしてのサブ・リージョンが重要な分析課題を構成しつつある。国民国家の境界を越えて,ある共通性によって地域選択的に結合しうる条件が,20世紀第4四半世紀グローバリゼーションによって準備されたといえるだろう。ここに,地域理解をめぐる,国民国家内地域社会,国民国家,サブ・リージョン,国民国家結合(リージョン),そしてグローバルな多段階的重層的認識の新たな段階を発見しうるだろう。

この五層からなる現代社会の水平的垂直的編成の構図にあって,従来から基軸的役割を担ってきた国民国家の政治的空間的境界を相対化しうる,また,多孔化(ポータル・ボーダー)しうるサブリージョナル・イシューやリージョナル・イシュー,さらにはグローバル・イシューの各レベルにおける課題解決型制度化とその運用が展開し,かつ新たな構想力が問われている。国民国家地域内にあっても,地域社会そのものの自律的内発性要素の増大は,国民国家の政治的正統性を相対化する傾向をみせている。しかし,同時に,これら国民国家レベルの政治的正統性の相対化現象は必ずしも国民国家の統治能力の弱体化ではなく,むしろ対内的対外的変容と変動過程への新たな順応能力の開発,蓄積を意味していることに留意する必要があろう。

本出版プロジェクトでは,上記の学術的背景をふまえて,グローバリゼーション下の「中国」と東アジア地域理解をめぐる,国民国家内地域社会,国民国家,サブ・リージョン,国民国家結合(リージョン),グローバルな多段階的重層的編成という視角からその実態を立体的に構築する。

位置づけ

本出版プロジェクトは,2007年10月の大阪大学との統合を新たな展望のもとで現代日本における中国地域研究の新段階を切り拓きうるという認識のもと,大阪外国語大学言語社会研究科発足後の10年間における中国地域研究の成果をふまえて新たな学知を構築する課題に応えるようとするものである。

大阪大学との再編統合を視野に入れつつ新たな環境下における中国地域研究の可能性を見極めるとともに,そうした文脈のもとで「中国文化」を専攻する教員,OB/OG と大学院生を中心として十年来実施してきた「中国文化コロキアム」,および中国地域研究の研究組織「中国文化フォーラム」の充実・拡大と再編成をめざす。

編集委員会

委員:西村成雄,田中仁,許衛東,加藤弘之,日野みどり,上田貴子,田淵陽子(2007年4月1日発足)。


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