ワークショップ「現代中国研究、台湾研究、華僑華人研究と日本、もしくは大阪」

宮 原 曉

1.趣旨

P・A・コーエンが著した『知の帝国主義』において、中国学、中国研究が植民地主義と不可分のものとされたように、今日の中国研究や華僑華人研究、アジア系アメリカ人の研究は、アメリカに留学した中国系、台湾系、華僑華人系の研究者などをその担い手として囲い込みながら、ユーロセントリックな知の階層に組み込まれている感がある。一方、中国における中国学、台湾における台湾研究、華僑華人にとっての華僑華人研究は、ときに正当性をめぐる本質主義的言説を生み出しながら、政治的なインパクトを持ってきた。たとえば1980年代後半以降の台湾史の興隆は、民進党を中心とした台湾独立運動を下支えしてきた。

このように歴史的、社会的コンテクストないしは東アジアをめぐる政治力学を強く意識せざるを得ない研究分野としての現代中国研究、台湾研究、華僑華人研究に対して、「日本」の研究はある種独自の位置に立ってきた。あるいは、「日本の」と大上段に構えるのではなく、「大阪の」とか、「私たちの」といった主体性に置き換える必要があるかもしれないが、いずれにせよその立ち位置は、中国人や台湾人、華僑華人によって担われる現代中国研究、台湾研究、華僑華人研究と近代によって飼いならされた現代中国研究、台湾研究、華僑華人研究の双方を俯瞰、もしくは双方との距離を感じることのできるものである。

本ワークショップの目的は、次代の現代中国研究、台湾研究、華僑華人研究を担う若い世代の研究関心がどのような方向に向かおうとしているのか、またその立ち位置が知の階層性に対してどのようなインパクトを持つのか、歴史的コンテクストのなかで考えてみようというものである。そうすることで「日本」、あるいは「大阪」の現代中国研究、台湾研究、華僑華人研究が今後向かう方向性について考えてみようというのである。

2.構成

全体の構成は、前段セミナーの時間が押してくるだろうことを予想して(A)趣旨説明(4分)、(B)話題の提供(各自3分)、(C)ディスカッション30分(議論15分+総括15分)、合計1時間に設定しなおしました。時間が残れば、フロアの参加を求めたいと思います。

(A)趣旨説明(4分)
(B)話題の提供(各自3分) 7名  趣旨説明とあわせて合計25分
報告者が各自の研究テーマ、研究の概要について報告します。
その際、報告者の研究テーマを歴史的コンテクストのなかにとらえたときのその意味、報告者の立ち位置などにも触れるよう試みてください。また、ディスカッションでとりあげるテーマ(キーワード)のいくつかにも触れてください。
(C)ディスカッション 30分
全体を二つのパートにわけます。
はじめの15分は、糸口となるテーマについて議論したいと思います。ケーススタディー的なものが主体となるかと思いますが、もう少し抽象的な議論をしていただいてももちろん結構です。いずれの場合も日本における学術研究の特徴と研究者のスタンスを中心に議論できればと思っています。

キーワード

(現代中国・台湾・華僑華人研究と「日本」における学術研究)
戦後 東京 大東亜共栄圏 客観性 革命 満鉄調査部 台湾旧慣調査
(知のヘゲモニーと東アジア)
アメリカ 知のヘゲモニー 地政学 人権 近代 ナショナリズム 共産主義
(周縁性)
人権  民主主義  環境問題  女性

以上のテーマをめぐる議論を踏まえて、次の1~5の問いのいくつかに答えていくことでディスカッションの総括としたいと思います。
1)現代中国研究、台湾研究、華僑華人研究は、どのような歴史的コンテクストのなかにあるのか。
2)日本、さらには大阪における現代中国研究、台湾研究、華僑華人研究は今後どういった方向にすすむべきか。

3.参加者の皆さんにお願いしたいこと

ワークショップの言語は、テーマとオーディエンスを考慮し、英語と中国語ということになります。そこで参加者の皆さんには、次のことをお願いいたします。
(1)話題の提供(各自 3分程度)でご報告いただく、研究の概要を日本語と中国語ないし英語で作成してください。(相互にメールでお流し下さい。)
報告者の研究テーマを歴史的コンテクストのなかにとらえたときのその意味、報告者の立ち位置などにも触れるよう試みてください。また、ディスカッションでとりあげるテーマ(キーワード)のいくつかにも触れてください。
(2)上であげたテーマ(キーワード)のうち、ご関心のあるものいくつかについて意見を配信してください(日本語で)。これはワークショップの流れを事前に日本語で確かめておくという意味合いですので、模擬ワークショップのつもりで、レスポンスしてみてください。ごく短いものでも結構です。
もしもうまく流れができたら、ワークショップも同様の流れで行きたいと思いますので、中国語もしくは英語で発言することをご想定ください。
(3)総括として次の二つの質問のいずれか、もしくは両方について参加者の方一人ひとりに最後にまとめていただきます。どちらの質問に答えるのか決め、ご準備ください。選んだものをお知らせください。
1)現代中国研究、台湾研究、華僑華人研究は、どのような歴史的コンテクストのなかにあるのか。
2)日本、さらには大阪における現代中国研究、台湾研究、華僑華人研究は今後どういった方向にすすむべきか。

中国文化フォーラム第1回セミナー案内文より

抽象し一般化するという科学におけるひとつの方向性にもかかわらず,「中国学」の研究対象は,客観性を越える存在感をもって私たちに迫ってくる。それは,私たちが生きている間に「中国学」のごく限られた部分しか触れることができないということと相まって,私たちにとって中国が情緒的な側面を抜きにして語ることのできない存在であることによる。

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