2011年2月3日ロイヤリング講義

講師:弁護士 野村 祥子 先生             

文責  林 良樹

会社更生事件について〜具体的事例より〜

                                                                               

初めに

 

みなさんこんにちは、弁護士の野村祥子です。

北浜にある堂島法律事務所のパートナーをしています。事務所では、離婚、会社更生、刑事など幅広い分野を扱っています。弁護士は20名程います。一人で担当する事件もありますが、会社更生事件などは数名で扱っています。

大阪ワールドトレードセンタービルディングの会社更生事件では、堂島法律事務所の中井弁護士(弁護士歴30年目程)が管財人を務め、管財人代理という補佐役を、私を入れて二人の弁護士(同10年目程)が務めました。今日は、WTCの会社更生を具体例として会社更生について話します。

 

1.「事業の再建」を目指すのか、会社をたたむのか?

 1)そもそも再建できるかどうか。目の付けどころはどこか

会社が倒産する、と言うと、会社を畳んでしまう場合と、事業を再建する場合とに分かれます。

来月の資金繰りが持たない、しかし会社は畳みたくないという相談があった場合、どこをポイントに話を聞き、調べるべきでしょうか。

 

(2) 再建するための方策は (1)の前提として

ア 裁判所を使う場合として

裁判所に申し立てる倒産手続としては、破産、民事再生、会社更生(破産は会社を清算する・後者2つは事業を再生する)があります。

破産の場合は財産をお金に換え、債権者に平等に配当します。

後二者は、負債をカットしてもらったり、あるいは分割払いにしてもらうなどの弁済計画を立て、債権者の同意を求めます。中には、新しいスポンサーを見つけて、資金の注入を受けて再生を図るケースもあります。

 

イ 民事再生と会社更生の違いは

 

(ア)管財人が原則付くかどうか(経営者が変わるかどうか)

再生手続では、原則として会社の経営陣がそのまま残りますが(弁護士は再生債務者の代理人の立場)、更生手続では、会社の業務遂行権は管財人(裁判所に選ばれる)が持ちます。

  このことから、どちらの手続を選択するかについて、例えば経営者でもってきたような会社なら再生手続を選択し、経営者が粉飾決算をしていたなど、経営者に問題あるケースであれば更生手続を選択する、といった選択方法が考えられます。

他方、再生手続でも管財人が付き、更生手続でも管財人が付かない事があります(DIP型)。

 

()担保の取扱い

再生手続の場合は再生手続外で担保権者は担保権を実行できますが(別除権)(再生法53条)更生手続の場合は担保実行ができません(更生法50条)(なお、担保目的物の評価分は更生計画により全額支払って貰えることが多いです)。

 

(ウ)再生計画・更生計画の議決可決要件

民事再生法では、頭数の過半数、全債権額の過半数の同意が必要です(172の3)。

更生法では、更生担保権の組(担保権を持っている債権者の組)の議決権総額の3分の2以上、更生債権の組の議決権総額の過半数の同意が必要です

 

ウ 民事再生を選択するか、会社更生を選択するかは、

基本的にはどちらのほうが、より会社の再建に資するか、という観点から決めます。例えば、債権者の顔ぶれや可決要件を見てどちらのほうが好ましいか。担保権が会社の工場に設定されている場合は実行されたら困るので、その実行を止める必要があるかどうか、依頼者(経営者)の希望はどうか、それらを総合考慮してどちらでいいかを決めます。

 

3)会社の事業を再建させるにあたっての手続として、どのような手続きが利用できるか

大きく分けて、法的倒産手続(裁判所を使い、法定手続にのる)と私的整理があります。

法的倒産手続には破産、民事再生、会社更生などがありますが、このうち民事再生手続や会社更生手続は事業を再建させるので、再建型倒産手続と言います。

 

しかし、法的倒産手続の場合、どうしても手続が公になってしまうので、取引先の評判が悪くなることもあります。そこで、私的整理の方法が考えられます。

 私的整理の基本的な方法は、任意整理です。金融機関に集まってもらうなどして、債務の免除や支払期間の延長などを依頼します。このとき、弁護士が代理人として間に入ると、手続はよりスムーズに進むことが多く、また、ある程度の第三者性・公正さが確保されているものとして債権者から信用して頂ける場合もあります。

私的整理のための手段として設けられている機関として、@中小企業再生支援協議会、A事業再生実務家協会やB企業再生支援機構などがあります。それぞれ、産活法などの法律上の規定に基づいて手続を進めており、裁判所は関与しません。法律上の根拠がある機関ということで、全くの債務者自身が行う任意整理に比べて債権者の側からするとある程度公正さが担保されているという安心感があります。

私的整理だと、例えば法的倒産手続きに係属すると、解除権が発生するという契約書の規定があったりする場合にも、これに該当しない、ということになったり、あるいは一部の債権者(銀行や、大きな債権者)のみを相手にすることもできる、といったメリットもあります。

 

このほかの私的整理手続として、特定調停があります。これは、債権者の個別同意を要するという点で私的整理の一種ではありますが、裁判所が関与する手続です。法的な手続をとりたくない債務者側と、裁判所の御墨付きが欲しい債権者との利害調整を図れます。

 

4)相談を受けた弁護士として

(資金繰りがショートしそうだが、会社は畳みたくない、と言う相談があったらどうしますか?)

アまずは、行き詰まった原因を探ります(ヒアリング・決算書調べ)。よくあるのは過大債務です(収益に見合わない設備投資)。経営陣の経営手法に問題がある場合もあります。

  イ次に、その原因は取り除けるかを検討します。(延べ払いの合意や債務カットの可能性、経営の改善策等があるか)

ウその事業が生かす価値がある事業か検討します。

   (利益を生んでいる、希少な物を生産しておりスポンサーがつく、など)

   事業を取り巻くステークホルダーも考慮します取引先がたくさんいて、多くの人に迷惑をかけるのはよくない・従業員を解雇したくないという価値判断も働きます。

エ債権者のなるべく早く弁済を受けたいという利益も考慮に入れます。

 

2、「再建型法的倒産手続」〜多数決で再建カットしつつ、事業は継続したい

 

(1)会社更生手続の流れ

  大きな流れとして、財産と負債の確定をする、一方で更生計画(事業の再建計画を含む)を作成する、という流れになります。

  ア財産評定をして更生会社に属する財産の評価をします。必要に応じ、不動産鑑定士や公認会計士に手伝って貰います。

イ 負債の確定をします。債権額に争いがあるときは、査定申立て(裁判所の決定の手続)(時間が短い)がなされ、さらに不服があれば訴訟になります。

  ウ 更生計画を作成します

エ 管財人として否認請求をしたり、更生会社をめぐる法律問題(WTCなら更生法483項と「賃料の6ヶ月分」の範囲など)への対処をすることもあります。

 

3、会社更生手続を選択することになった。管財人の立場から見れば?

(1) 管財人には誰がどのように選ばれるか

   裁判所により、弁護士のみまたは弁護士(法律面)+会社の人(事業面)が選ばれることが多いです。

   管財人は裁判所の決定により、管財人報酬を会社から貰えます。

 

 (2)管財人の使命

ア 事業の再生

 清算型の再生・更生は許されるか?

     更生会社等が事業譲渡をすると、譲渡された事業自体は従前通りですが、抜け殻になった法人自体は清算することになります。

    これは多用されている手法の一つ (法人自体が生き残るのが法の建前だが)です。

 

イ ステークホルダーの利害調整

   管財人はある程度公的な使命をも担っているものといえ、弱小な取引先の保護、地域における更生会社の役割、従業員の雇用維持、更生会社の負うべき社会的義務なども考えます。配当の最大化だけではありません。生きている会社を扱うので、そこに関わる影響や人のことも考えねばなりません。

 

4、会社更生実例〜(株)大阪ワールドトレードセンタービルディング

 

 (1)会社概要

   WTCビルには、もともと複数の企業などが入居していましたが、更生手続開始時には既にこれら企業は出ていってしまっており、大部分に大阪市が入居していました。 株主は大阪市が99パーセント以上の株を保有していて、従業員(総務、テナント紹介)は22名いました。

 

 (2)財務状況

    更生手続申立の直近の決算の状況は、経常利益が約9億、 負債が約642億でした。

 

 (3)申立に至った経緯

1)過大な借入金負担

建設資金が計画を大幅に上回り、開業当初から過大な借入金負担を抱えていました。平成15年には特定調停を申立て、調停成立に至るも、大阪市からの賃料収入減少(市民から賃料が高いと主張されて賃料を下げた)などにより予定通り返済を行うことが困難な状況にありました。

2)府庁移転条例案の否決(直接的な引金)

平成21年2月議会にてWTCビルへの府庁移転条例案が審議されたが、可決に至らず(府と市とのいがみあいがあったことが理由の一つと言われている)、既に資金繰りの破綻を目前としていたWTCは更生手続開始を申し立てました。

 

 (4)更生法選択の理由(民事再生ではなく)

@    更生会社は第三セクターであり、手続の透明性・公平性が求められました。そこで、裁判所から選任された管財人によって進められる更生手続がふさわしいと考えられました。

A    更生会社のほぼ唯一の資産であり、事業の用に供しているWTCビルについて、公平性・透明性のある担保目的物評価を行うとともに、担保権者による処分を制限することが相当でした(実行されたら資産がなくなる)。

 (5)更生の方針

   スポンサーに担保目的物であるWTCビルの評価相当額の拠出を求め、事業譲渡、資産譲渡もしくはMA型いずれかの形式によって同ビルをスポンサーに譲渡することを考えました。上記拠出金を原資として、更生担保権及び更生債権に対する弁済を行います。

 

(6)ポイント

  更生手続を進めるにあたってのスケジュール設定において、本件では債権者に地方自治体が含まれていたため、議会日程との調整が必要でした。

  スポンサー(ビルの買い手)選定のあり方。民間事業者と地方自治体という性格の異なる者がそれぞれ候補者として選定手続に関わるときに生じる不均衡の調整が必要です。(管財人の方針では、公平にあらゆる人に声を掛け、もっとも条件のいいところに売ることにあった。主な条件は、南港地域の活性化につながること、買値もよいことである。)

− 議会の議決が停止条件となる地方自治体による意見表明

− 更生会社が候補者である地方自治体に関する情報と情報公開法との関係。

・10月に府議会において審議にかけられ、議案としては、府庁を移転する条例案と、WTCを購入する議案との二つがありました。条例案は否決(府庁移転)されましたが、WTCビル購入のための債務負担についての議案は 可決(購入予算)でした。ビルを購入しても良いが、府庁の移転はダメ、という議員の考え方はよくわからないが、管財人としては、府が買ってくれたのは、買値も良く、府自身が使ってくれ、地域の活性化につながる可能性があるという点でよかったと思います。

府に対しては、従業員の雇用確保のため、WTC社という法人を残し、その株式を府に買ってもらうという方法の提案をしましたが、府が新たに第三セクターを持つのは難しいようで、最終的に会社は清算することになりました。従業員に関しては、管財人から市長に雇用の確保を依頼しました。

 ・賃貸借契約と敷金の共益債権化

−更生法48条3項について

更生会社に敷金を入れている賃借人の場合、敷金は更生債権として更生計画による債権カットの対象になるが、更生手続開始時における賃料の6か月分相当額までは、手続開始後にその賃料を支払うことにより、契約に従って返還してもらえます。ここで、手続開始後に賃料値下げがあったときはどうなるのでしょうか。また、「賃料」に共益費が含まれるのか、といった点について検討しました。

 

5、最後に

WTCは、第三セクターであり、特殊な要因がありました。府によるビル購入に至るまでに、政治的な演出や議会対策が必要になりました。

会社更生事件では弁護士が管財人になることがほとんどですが、倒産法だけではなく、民法(賃貸借、担保)、借地借家法その他の法令知識やステークホルダー間の利害調整(会社としての立場、債権者の代表としての立場、公正な第三者としての立場)などの力が求められます。会社更生事件は、そうそう携わる機会はないものの、法律家としてだけではなく、経営者としても関われるという面白さがあります。

 

                                 以上