20101125日ロイヤリング講義

講師:弁護士 坂和 章平先生

文責 亀之園 直幸

 

都市問題―景観法を軸とした―眺望・景観紛争をめぐる法と政策の新局面―

 

1.はじめに

(1)都市問題に目を向けることの意味

 都市問題は数ある社会問題の一側面である。都市問題に限らず、政治・経済・アメリ カ・中国・EU…等、社会の問題に目を向け(新聞を読み、ニュースを見て)、それと自分との関係を考えていくことが大切である。これを怠れば、日本はこのまま腐っていってしまう。

Q1 大阪万博が開催された年号は?

 →(学生の反応悪い、一名だけ回答)「1970年」

Q2 坂本龍馬暗殺の年号は?

→(学生の反応悪い、一名だけ回答)「1866年」

Q3 大政奉還とは何か?

→(学生の反応悪い、一名だけ回答)「幕府から天皇家への政権返還」

Q4 女性の選挙はいつから始まったか?

→(学生の反応悪い、一人も回答できず)

(2)大学で学ぶということ

 大学で学ぶことは何の役に立つのか、ということはよくわからない。何も考えずに、反応もなく受身で授業を受け続け、その知識が社会でどう生きるのかを考えなければ、そんな学びは本当に何の役にも立たない。

 例えば、今回のテーマである「都市問題」について、大学生が接するのは「行政法」の授業である。しかし、ここでなされるのは単なる知識の詰込みに過ぎない。

 実態を話せば、日本の街づくりを、仕切っているのは「官僚」なのであり、「国会」が立法を行っているなどというのは真っ赤なウソである。

 こうした実態(問題)は、「都市法」を通じて知ることができたものであるが、この「都市法」というものも、問題への切り口(物事を考えるための指針)の一つにすぎない。

 つまり、大学の授業の目的は、こうした視点(問題解決のためのプロセス)を身につけていく、というところにあるといえる。

 

2.都市問題への取組み

(1)都市問題への興味

 都市問題に興味を持ったきっかけは、1984年の「大阪駅前第二ビル商人デモ」事件である。

 以後、戦後65年間の都市問題の動きに着目してきたのであるが、都市問題が面白いのは政治・経済を中心とした社会全体のダイナミックな動き(法律改正の動き)をみせてくれるからである。

 例えば、景観法という法律が、20046月に公布、20056月に施行されているが、この法律にもとづき、兵庫県芦屋市では、市全域が「景観地区」に指定され、さらに、六麓荘という地域では「400u以上の一戸建て」しか建築してはならないという条例(「豪邸条例」とも呼ばれる)が制定された。

 このような条例を「誰が」「どのように」決めたのかという点に着目して眺めていくと、わが国の「社会問題」が浮き上がってくるのであり、こうした点が都市法の面白いところなのである。

(2)都市問題への取組み

 @大阪モノレール訴訟

 19828月、弁護士5年目で経験した訴訟。大阪モノレールの線の引き方をめぐって、蛍池付近の住民が訴訟を提起した事案。

 A大阪駅前第二ビル商人デモ

 19845月に起こった事件。「都市再開発法」にもとづき、大阪駅前の闇市等を排除し、商人たちを、新しく建てた再開発ビルの中に移していくという事業が大阪市によって施行された。これにより、土地の有効利用(権利床・保留床)、都市の近代化、が可能となるとされていたが、ビル内の光熱費・水道代・管理費は高く、さらに、配置になんら工夫が施されなかったため客の入りが激減するなど、商人たちにとっては厳しい事態を招く結果となってしまった。

 この事件をきっかけに、「再開発とは何か」、その問題点について知りたくなり、都市再開発に興味を持つようになっていった。

 B阿倍野再開発訴訟

 19849月に私が地元住民の要請を受けて提起した事業計画決定取消訴訟。1審で敗訴するも、高裁、最高裁では勝訴し、再開発事業の行政「処分性」がみとめられた事案として、判例集にも掲載されている。

 

3.日本の都市法制の体系とその特徴

(1)日本の都市法制の体系とその特徴

日本の都市法制は、「都市計画法」を中心として、「○○計画法」・「土地収用法」など200以上に及ぶ膨大な数の周辺法が存在する、という構成をとっている。

 こうした膨大な数の法律を国民が知るわけもなく、これらの法律を把握しているのは官僚だけ、つまり、「日本の都市づくり」は官僚によって支配されているという状態ができあがってしまっている。

 これはなにも「都市づくり」に限ったことではなく、あらゆる分野で日本は一部の官僚によって動かされているというのが実態である。こうした状況は、既得権益・エゴの渦巻く「腐った民主主義」ととらえるべきである。

(2)マンション建替え事業について

都市法制に話を戻せば、その特徴は難解性・複雑性。そのように国民に理解しにくい法制度(頭でっかちで世間の実情を知らない官僚が用意した法制度)は多くの場合、いざという時に機能しにくいという問題点をも含んでいる。

 例えば、阪神淡路大震災時に、大量のマンションの建替えが必要となったが、法制度の不備により、なかなかスムーズに建替え事業が進まなかったという事例がある。

阪神大震災の後、共有という形態をとるマンションの建替えは、「4/5以上の多数決」をもって決定されるという法制度を用意していたが、1/5の反対派がマンション建替えに協力しないという事態が頻発した。老人・若者・労働者…など、さまざまな立場の人間がいる以上、意見の食い違いが生じてしまうというのが実態であり、この実態を考慮しない法律では実際の問題には対応できないということを表している例である。

ここでは民主主義のあり方をどうとらえるかということも考えてほしい。

 

4.景観法について

(1)景観法

 景観法は、20056月から施行されているが、その背景には、日本を観光立国にして中国人富裕層を取り込もうとする狙いもある。

 景観法の概要としては、以下3点を押さえればよい。

 @景観行政団体(景観法7条1項)

 都道府県と政令指定都市・中核市は自動的に「景観行政団体」となる。さらに、その他知事の同意を得た市町村も「景観行政団体」となる。

 A景観計画と景観計画区域(景観法8条)

 B景観地区と準景観地区(景観法61条、74条)

 景観地区に指定された地区では、建築基準法の基準(建物の強度など)に加えて、景観法の基準(建物の色など)を満たさなければ、自由に建築を行うことができない。

 民法・商法が「私人の自由」を原則としているのに対し、このように、都市計画は、「私人の自由規制」の性格を持つものである。

(2)各地の景観政策

@芦屋(資料1112

・資料11

芦屋市の景観地区で、全国で初めて、景観法に基づき、マンション建設が不認定となった事件(平成22213日「産経新聞」)。

建築基準法の基準を満たしながらも、「スケールが周囲の景観(一戸建ての多い閑静な住宅街)から逸脱するものである」として、マンション建設は不認定とされたが、裁判は起きず、業者は当該マンション建設予定地を転売することにした。この土地は350坪もある非常に大きなものだったが、これを一括で買う個人が現れ(さすがは芦屋といったところか)、事態は収束した。

・資料12

芦屋川の河川敷でのバーベキューが条例で禁止されたという報道(平成2299日「読売新聞」)。

こんなところまで条例で決める必要があるのか(道徳・マナーで処理できる問題なのではないか)と考えさせられる。

A京都(資料68

・資料6

歴史的な景観を誇る京都市が、建物の高さやデザイン、屋外広告物について、都市計画の変更や条例の新設・改正によってこれまでより厳しく規制する「新景観政策」を開始したことを報じるニュース(平成19111日「朝日新聞」)。

・資料8

京都市の新景観政策の具体的内容が記された資料。

眺望景観創生条例(攻めの景観条例)を打ち出す京都市。従前の景観条例は「美しい眺望」など、個人の主観によってブレが生じてしまうような基準も見受けられたが、今回の眺望景観創生条例は、「眺望景観」について、「特定の視点場から眺めることができる特定の視対象及び眺望空間から構成される景観」と一般的定義を定め、さらに8項目の具体例を定めることで、保護すべき景観の範囲を確定することに成功している。

(3)判例・裁判例

       上記の芦屋市・京都市の事案では裁判は起こらなかったが、裁判には白黒をはっきり

させるというメリットがある。

@鞆の浦事件(資料13

  万葉集に詠まれた景勝地で、映画「崖の上のポニョ」の舞台になったとされる広島県福山市の鞆の浦で、県と市が進める埋め立て・架橋事業をめぐり、反対する住民らが県知事を相手とし埋め立て免許の交付差止めを求めた行政訴訟の判決が、広島地裁であった(平成21101日「読売新聞」)。

  この訴訟では、「原告適格を誰が持つか」ということが争点となり争われたが、広島地裁は、「漁業権を侵害された住民」のみならず、「景観を侵害された住民」にも本訴訟における原告適格を認めた。これは画期的な判決である。

  こうした判決がでたのは、「小田急事件」など過去の判例の蓄積があったからこそであるが、このように、訴訟・判例の積み重ねで国のあり方は変えていくことができるのである。

A国立マンション事件

国立市がマンション事業主に対し、当該マンションの高さ20mを超す部分について撤去命令を出したが、事業主はこれに対して国家賠償請求訴訟を提起した(平成141218日「朝日新聞」)。

一審判決は、マンション事業者は地元の「景観利益」に基づき、市に対して、差止め・損害賠償を請求できるとした(「景観利益」を強い権利であるとした)。

これに対して最高裁判決は、「景観利益」というものは認めたが、これに基づいて差止め・損害賠償ができるということはできないとした(「景観利益」を弱い権利としてしか認めなかった)。

 

(4)景観法を軸とした―眺望・景観紛争をめぐる法と政策の新局面(資料17

  坂和先生が手がけられている本についての資料。「景観法を軸とした―眺望・景観紛争をめぐる法と政策の新局面」は、この本の仮題であるが、その内容は「景観法」という法律を中心として、これに関わる都市問題を読み解くというものである。

  その中では、上述の「鞆の浦事件」・「国立マンション事件」も採りあげられている。

(5)具体例―つくば田園居住シンポの開催(資料18

つくばで、新しい街づくりへの挑戦が始まっているが、その中ではさまざまな問題が生じてきている。

その一例として、緑地の導入問題がある。

これは、土地区画整理事業を行い、所有者に新たに割り当てられた土地上に、「緑地」を導入することで、「緑住農一体型住宅地」の増設を図ろうとするものである。

しかし、土地区画整理事業を行った場合、所有者に新たに割り当てられる土地の面積は、「減歩」によって元の土地面積に比べて縮小されるのが通例であり、土地区画整理事業対象地の土地所有者からは「ただでさえ面積が減った土地の上に、緑地を作ることなどもったいなくてできない」という不満の声が上がるのが普通。しかしここではそれを実行しようとしている点で先進的だ。しかしクリアーすべき問題も多い。

 

5.おわりに

(1)なぜ弁護士として都市問題・土地問題に関与するのか

@ 日本の政治・経済を見る大きなバロメーター

 例えば、バブル時代の都市問題・土地問題。

 A 日本の民主主義を考える大きなバロメーター

 B 日本のあらゆる法体系を考えるよき教科書

 C 理念と現実とのバランスを考えるよきテーマ

  キレイごとよりも、実践で、どう妥協させるのかを考えなければならない。

 D 「法的専門家かつ実践者」たる弁護士のテーマとして最適

  「法的専門家」=学者にも負けない、という意味をこめている。

(2)学生へのメッセージ

 「社会的」視点をもって勉強し、単なる金儲けのためではなく、世のため・人のために働く弁護士になってほしい。

 

 

以上