20101111日ロイヤリング講義

講師:弁護士 室谷 和彦先生

文責 渕山 剛行

 

 

知的財産権概説

〜知的財産権に関する弁護士の活動を中心として〜

 

 

 本日は、知的財産権概説というテーマでお話しします。最初に、知的財産権としてどのようなものがあるか、簡単に説明します。概念や定義など正確な知識については、大学の講義で学んでいただくとして、今日は、イメージとして把握いただければと思います。次に、知的財産権に関する弁護士の役割、つまり、知的財産権に関して弁護士がどのような業務を行っているのかについてお話します。この説明にあたり、皆さんがあまり目にしたことがないであろう特許公報について紹介し、実務のイメージをつかんでいただけたらと思います。知的財産に関する弁護士の関わりについては、おそらく皆さんが思っておられるよりもはるかに多岐にわたる内容だと思います。最後に、よくある特許権侵害の事例をもとに、弁護士がどのような対応をするのかについて説明していきたいと思います。

 

第一 知的財産権とは

1 知的財産権は身近なもの

 知的財産について、最近、何かと話題になるので皆さんもある程度はイメージがあるかと思いますが、私が強調したいのは、知的財産は非常に身近なものであるということです。

資料2を見ていただくと携帯電話の例が挙がっていますが、携帯電話は、様々な知的財産権により保護されています。たとえば、液晶技術については特許権、アンテナの収納構造については実用新案権、スマートなデザインについては意匠権、そして、「au」とか「SHARP」とか「AQUOS」とかいろいろなブランドが表示されていますが、これについては商標権により保護されているわけです。

携帯電話だけでなく、皆さんの手元にある物の多くが知的財産権の保護対象になっております。特許であれば、この教室の中にも多くの特許製品があります。電球は、ご存じのとおりエジソンの発明ですし、蛍光灯なども大発明です。

また、デザインについて言いますと、あらゆる物には、デザインがあります。メーカーとしては製品化にあたって、機能的な観点や美観からデザインを検討することになります。皆さんが座っているイス一つにしても、開発段階でデザインが創作されております。

商標についても、皆さんが持っている物の多くに商標が付されています。例えば、アディダスのバッグの「adidas」のロゴは商標です。ちなみに、「s」の後についているマルRのマークは、レジストレーション・シンボルといって、アメリカの特許商標庁に登録されていることを示しております。

また、皆さんが大好きな音楽や映画、ゲームなども著作権により保護されています。

このように知的財産権法は非常に、身近な法律であるといえます。

 

2 特許制度とは

次に、そもそも特許とはどういう制度であるかについて、よく引き合いに出されるガリレオ・ガリレイの書簡を紹介しながら説明したいと思います。

1474年にイタリアで発明者条例が公布されました。そして、1594年には、ガリレオ・ガリレイが「灌漑用農水機械」に関して特許を取得しています。ガリレオ・ガリレイが王に送った特許取得に関する書状に、現在の特許制度にも通じる特許制度の根幹が端的に表れています。参考までに、これを読み上げます。

「陛下よ、私は、非常に簡単に、費用も少ししかかからず、大いに利益のある、水を揚げ耕地に灌水する機械を発明しました。即ち、ただ一頭の馬の力で、機械に附いている二十本の口からひっきりなしに水が出るのです。しかし、私のものであり、非常に骨を折り澤山の費用を使って完成したその発明が誰でもの共有財産となるのは嫌ですから、恭しくお願いいたしますが、同じような場合に陛下の御厚情がどこかの工場のどんな製作者にも御與えになる御恵みを何卒私に御垂れください。即ち、私と私の子孫、或いは私や私の子孫からその権利を得た人々の他は誰も、上記の私の新造機械を製作したり、たとえ作っても、それを使用したり、他の目的のために形を變えて水やその他の材料を用い適用したりすることを、40年間、或いは陛下が思いを召す期間内は許されないように、若しこれを犯す者は陛下が適当と思召す罰金に処し、私がその一部を頂きますように、して頂きたいと存じます。そうして下されば私は社会の福祉のためにもっと熱心に新しい発明に思いを凝らして陛下に忠勤を励みます。」

つまり、特許制度とは、一定期間、発明に関する技術を発明者のみが使用できるとすること、すなわち独占させることで、発明者に利益を得させ、発明者の更なる発明に対する意欲を高め、技術の進歩を図る制度なのです。

 

3 知的財産権の種類

 次に、資料1をご覧ください。知的財産権の種類について図示されております。

(1) 産業財産権

黒塗りになっている、特許権、実用新案権、意匠権、商標権を産業財産権といいます。これらの権利は、特許庁に登録して、権利が発生します。

これに対して、著作権は、登録とは関係なく、創作したときに権利が発生します。例えば、音楽であれば作曲したときに、権利が発生します。

(2) 知的創作物の保護と営業標識の保護

大きく分けて知的財産権は、知的創作物についての権利と営業標識についての権利に分かれています。

特許権、実用新案権、意匠権、著作権などは、知的創作物についての権利です。知的創作をした者に、一定期間その利用を独占させ、ひいては利益を独占させることにより、創作意欲を促進させます。

営業標識の保護というのは、創作物の保護とは全く観点が異なります。営業標識を保護することにより、それを使用する者の信用を保護する制度です。より端的にいえば、ブランドの保護といってもいいでしょう。たとえば、ルイ・ヴィトンを例に挙げますと、そのルイ・ヴィトンのマークが付いていることにより、ルイ・ヴィトンが出所であるということが分かります(出所表示機能)。そして、そのマークが付いていることで、一定の品質を有すると信用します(品質保証機能)。さらに、そのマークが付いているがゆえに、「ルイ・ヴィトンだから買いたい」というように購買意欲が高められるわけですが、マークの側から見れば、マークが宣伝広告をしていることになります(広告機能)。ブランドはこうした効果をもたらすのです。このブランドの効果を法的に保護する制度が、主に商標法です。

また、商標権のように登録をしていなくても、一定の周知な表示、著名な表示は不正競争防止法によって保護される場合があります。

このように知的財産権と一口に言っても、全く異なる二つの制度があります。

 

4 保護の重要性

(1)知財立国ジャパン

知的財産の保護が叫ばれるようになったのは、小泉政権の下、2002年の知財立国戦略大綱が制定されたことがきっかけになっています。

資源のない日本では、知的財産権により、国際競争力を上げるべきという方針であり、それは知的創造サイクルを念頭においております。

レジュメ1頁の図をご覧ください。知的創造サイクルについて説明しますと、まず、研究開発をします。これにより、知的創作がなされると、これを特許庁に出願し権利を得ることで保護されます。そして、その権利を活用しコストを回収します。このコスト回収の在り方としては、独占的実施による場合とライセンス収入による場合があります。これにより、利益を得ることができ、その利益を、再度、研究開発に投下するのです。

(2)メーカーは特許権を利用して大きくなった

このサイクルは難しいものでも、目新しいものでもありません。メーカーが利益を得るために、従来から行われてきたシステムです。日本の大企業はこうしたサイクルを利用して発展していきました。たとえば、パナソニック(旧松下電器産業)ですが、松下幸之助さんの二股ソケットや電気あんかの発明が現在のパナソニックの礎になっています。トヨタであれば、豊田佐吉さんが木製自動織機の特許を取得し、それがヒットし、息子の喜一郎さんがその資金力を使って自動車の製造を始め、現在のトヨタがあるのです。

皆さんがご存じのメーカーの大半は、特許権を活用して大きくなったといっても過言ではありません。もちろん、いい物を開発し、その商品がヒットしたから発展したのであり、特許があるから儲かるというわけではありません。しかし、特許権による独占という制度がなかったなら、今の発展にいたるのは難しいということです。

 

第二 知的財産権を巡る主体

1 機関

()特許庁

先ほど案内したとおり、産業財産権については、特許庁に出願し、登録により、権利が発生します。

()文化庁

文化庁については、皆さんあまり馴染みがないと思います。音楽などの著作物は創作と同時に権利が発生します。しかし、いつ誰が創作したのかということを立証しづらいので、文化庁に登録してもいいということになっています。また、登録が対抗要件になる場合があるので、譲渡等に際して登録をなす場合があります。

去年話題になった小室哲也さんの事件は著作権の二重譲渡に関する事件ですが、文化庁への登録をしておくべきだった事案であると言えます。

()裁判所

知的財産権についての侵害が問題となった場合、裁判所に対し、差止めや損害賠償を求めて訴えます。私人間の知的財産権侵害について、裁判所が判断します。

 

2 弁理士

 弁理士は、もっぱら出願から登録までの特許庁に対する手続きを行います。

資料3(特許出願のフロー図)を見ていただければ分かるように、発明者は発明を行った際には、まず特許出願を行わなければなりません。

審査請求を経た発明については実体審査がなされます。ここで新規性、進歩性、先願といった特許要件が判断されます。

実体審査が行われると、多くの場合、拒絶理由が通知されます。代理人はそれに対して、意見書を提出する、あるいは補正を行います。

登録査定となれば,特許が登録され,特許公報が発行されます。

拒絶査定がなされた場合は、不服審判を特許庁に対して請求することができます。

 弁理士は、もっぱら、これらの手続の代理人となります。

3 弁護士

弁護士は主に私人間の紛争に際して登場します。AとBという紛争の当事者の代理人として訴訟を行ったり、警告をしたり、AとBの間のライセンス交渉の契約書作成を行ったりします。つまり、弁護士が知財に関して登場する場面は、主に、侵害などのトラブル処理とトラブル回避のためのライセンス交渉及び契約書作りになります。

 

4 特許公報を読んでみる

弁護士の仕事を詳しく見ていく前に特許公報を読んでみましょう。資料4をご覧ください。これは、「超立体」という名称で有名になっているマスクの特許です。

最初のところには、登録番号や主体などの表示があります。もっとも、特許公報に特許権者として記載されている場合でも真の特許権者でない場合があります。譲渡がされている場合等があるので、不動産の登記簿と同様、登録原簿を確認する必要があります。

次に、「特許請求の範囲」について記載がありますが、これは、権利の範囲を特定するものです。この公報では、一つ目の請求項が一番広く、二つ目の請求項以下はそれを限定していく形で記されています。特許権侵害とは実施している発明が特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲に属する場合を指します。つまり、特許請求の範囲をどのように記載するかで侵害となるか否かが決まるため、特許請求の範囲の記載はとても重要になります。

次に、「発明の詳細な説明」について記載がありますが、これは、「産業上の利用分野」、「従来の技術」、「発明が解決しようとする課題」、「課題を解決する手段」という順で記載されています。

その次には、「実施例」が記載されています。

特許公報の読み方ですが、最初に図面を見ながら実施例を読んでいくとイメージがつかみやすいです。具体的なものから理解し、その上で抽象的なものを理解していく方が、能率的です。ですから、特許請求の範囲、いわゆるクレームは最後に読むのが通常です。

 

5 文系でもわかる

特許発明は理系の分野のものであり、文系には分かりにくいものと思われている方もいるかと思います。しかし、そんなに難しい技術に出会うことはそれほどありません。用語が聞き慣れないので、難しいと思ってしまうだけです。ノーベル賞を取ったような技術でも、明細書を読み、説明を受ければ理解できるものです。自分で研究開発するのとは違い、できあがったものを理解するだけですので、時間をかければわかります。

もちろん、有機化学などは分かりにくいでしょうが、機械分野などは、文系の方であっても十分理解することができます。文系だからといって、臆することはありません。

 

第三 知的財産権に関する弁護士の役割

 知的財産権に関する弁護士の役割としては、大まかに分けると技術系、デザイン系、表示系に分けることができます。

1 技術系

技術系としては、特許と実用新案がありますが、実用新案に関しては、最近は、あまり用いられていません。なぜかというと、権利行使する際に実用新案技術評価書を提示することが必要なのですが、無効の評価がなされることが多いので、結局権利行使が行えないからです。そのため、最近は、あまり出願されていないのが現状です。

したがって、実際には、技術系といえば、ほとんど特許の話になります。

(1)特許権等侵害の場面

甲社がA特許を有しており、乙社がA特許を侵害すると疑いのあるB製品を販売しているとします。

甲社の担当弁護士の立場に立つと、乙社に対して警告を内容証明郵便で行い、B製品の販売差止と在庫の廃棄、そして、損害賠償を請求します。

そうすると、乙社からA特許は無効であるといった反論や、そもそもB製品はA特許の技術的範囲に属さないという反論がなされ、交渉が始まるということになります。

そして、交渉が上手くまとまらなければ、甲社は訴訟を提起することになります。

(2)無効審判・審決取消訴訟

侵害訴訟が提起された場合、相手方の弁護士は対抗手段として特許無効審判を請求してくる場合があります。この場合、侵害訴訟と無効審判とが並行して争われることになります。無効審判において、無効審決がなされると、特許権者、先の例では甲社は、この無効審判の取り消しを求めて知財高裁に審決取消訴訟を訴えます。請求不成立(有効との判断)の審決がなされると、乙社は、審決取消訴訟を訴えます。

弁護士は特許無効審判、審決取消訴訟、侵害訴訟を並行して担当することになります。

(3)ライセンス契約作成・締結代理

ライセンス契約の契約書案を作成したり、契約締結の代理人を行ったりすることも、弁護士の重要な業務です。

もっとも、日本の大企業では、知財部がライセンス交渉を行うことも多くあります。その場合、弁護士は裏方としてチェックすることになります。電機メーカーなどは、特許がたくさんありますので、多数の特許についてクロスライセンスにより処理することも少なくありません。

これに対して、外国企業の場合には、弁護士がライセンス契約書を作成するのが必須です。弁護士以外の者が契約書を作成するなど、念頭にありません。しかも、細かいことまで契約で取り決めることが多く、数10ページの契約書(しかも、英文)になり、弁護士としても、ライセンス契約の作成は、大変な作業となります。

(4)ベンチャー支援

技術者が発明をしました。これから、この技術でベンチャー企業として頑張っていきたいという場合の相談もあります。この場合、相談内容は多岐にわたります。

必要に応じて、出願に関すること、会社設立に関すること、販売店・代理店契約(この契約しだいで商品の売れ行きが変わるので非常に重要)、商品名・商標・広告にいたるまで幅広くアドバイスを行います。

こうしたベンチャー支援というのは弁護士の仕事として希望に溢れ、夢のある仕事であると言えますが、検討事項がたくさんありますので難しい仕事です。

(5)職務発明関係

職務発明については、有名な青色発光ダイオードの事件があります。

中村教授が、日亜化学で青色発光ダイオードの研究を行い、発明をなし、日亜化学が特許権を得て、今、順調に営業しているわけです。

一審では相当対価額が200億円と判示されました。控訴審において6億円(遅延損害金を含め約8億円)で和解がなされました。

この判決が出たころ、たくさんの職務発明の訴訟が提起されましたが、その後、特許法35条が改正され、しばらくは職務発明に関する紛争は下火になっておりました。平成21年ころから、相当の対価の算定方法をめぐって多くの紛争が生じております。

 

2 意匠等に関する業務

(1)意匠すなわちデザインに関する業務としては、意匠権侵害の事案について、相談・交渉・訴訟があります。相談・交渉・訴訟の流れは、概ね特許の場合と同様です。

 意匠の事件では、交渉でまとまることが多く、訴訟にいたらないことが多く、大阪地裁でも年2件程度になっております。

権利者から、被疑侵害者に警告がなされると、被疑侵害者としては、自社製品が登録意匠と非類似になるように設計変更する例が多いのです。現実の損害額も、それほど高額ではないので、交渉で解決金が決まる例が多いのです。

(2)意匠登録をしていない場合でも、形態を模倣されたとして、不正競争防止法2条1項3号で差止め・損害賠償を請求することができる場合があります。但し、3年の期間制限があります。

形態模倣の例としては、中国などから輸入されてくる模倣品が圧倒に多いので、税関差止めの申請を行うこともあります。

 

3 商標等に関する業務

(1)商標に関する業務としては、商標権侵害に関する相談・交渉・訴訟が主な業務です。いわゆる偽ブランド対策です。

商標についても、商標登録がない場合でも、不正競争防止法2条1項1号または2号により保護される場合があります。

(2)また、商標ライセンスについても、弁護士が関わりますが、この商標ライセンスに関する契約というのは、多種多様です。皆さんが思いもよらないところにも商標権のライセンスというのは関係してきます。

フランチャイズ契約などもその一例です。フランチャイズ契約は、商標ライセンスと継続的商品供給契約からなります。

また、代理店契約も商標権と密接に関係しています。継続的契約+一定の範囲内での商標の使用契約が代理店契約になります。

(3)商標については相談の内容も多岐にわたります。

特に、広告の内容や方法についての相談が多いわけですが、商標の使用にあたるかという点に関してたびたび問題が起こります。たとえば、新聞の折り込み広告において、キティちゃんのマグカップの写真を掲載したとします。これは、サンリオから仕入れた商品であったとします。この折り込み広告にキティちゃんのイラストを小さく掲載したとします。キティちゃんの顔は著作権で保護されると同時に、商標登録もされているので商標権も問題になります。折り込み広告へのキティちゃんの掲載が、その使用態様により、商標的使用にあたったりあたらなかったりするので、商標権侵害になるかならないかを確認するため、相談に来るわけです。

商品パッケージのデザインや懸賞品のネーミングなども、相談の対象となりますが、これらの相談も商標権関係なのです。

 

4 営業秘密

営業秘密に関する相談は多いのですがパターンは決まっています。

甲会社の従業員Aが、甲会社を退職した後に、甲会社と競業する乙会社を新たに立ち上げ、元従業員Aが、甲会社の顧客名簿を用い乙会社の営業を行い、顧客を奪ったという事案です。

甲会社としては、売上げが激減したので、調べてみると、元従業員Aが作った会社に顧客を持っていかれて、激怒して相談に来るわけです。

このような場合、顧客名簿は営業秘密であるとして、Aおよび乙社の行為は不正競争防止法違反であるとして、差止め及び損害賠償を求めます。この種の訴訟は、頻発しております。甲会社の損害額も、高額になることが多く、熾烈な訴訟となります。

 

5 著作権

写真、イラスト、プログラムなどをめぐって著作権に関しては相談が多数あります。

IT関係に関し、プログラムのみならず、デジタルコンテンツをめぐる著作権の争いは多岐に渡ります。

デジタルコンテンツは、複製が容易であるため、著作権侵害が拡大することが多く、インターネットが発達しているため、拡大を止めるのが難しい状況です。

 

第四 ケーススタディー

 最後に,特許権侵害の事件について,実際にどのような検討を行うのかについてお話ししましょう。

【事例】 

A社より、B社のX製品がA社の特許を侵害しているとして、B社に警告書が届いた。B社は、顧問弁護士甲に連絡。

 

1 弁護士甲が最初にすること

 弁護士甲としては、B社から相談を受けるにあたって、警告書、特許公報、登録原簿謄本、X製品のパンフレットを送ってもらうように指示します。

B社が製造・販売しているX製品がどんなものかわからないと話になりませんので、X製品のパンフレットを入手するわけですが、パンフレットだけではわかりにくいという場合には、面談の時に現物を持ってきてもらいます。

また、X製品の開発経緯、製造販売開始時期、販売数・販売状況等について、整理するようB社の担当者にお願いしておきます。

特許公報を一読して面談に臨みます。

 

2 第1回面談

(1)特許権等について

第1回の面談では、まずは特許権者について、登録原簿謄本で確認しなければなりません。登録後に、特許権が他の人に移転している場合があるので、特許公報の記載を鵜呑みにできないからです。

次に、権利期間も確認する必要があります。特許期間が切れている場合は、もともと、紛争になりません。また、例えば、あと2カ月で期間がきれるような場合、B社としては、差止めの心配はないわけです。

特許発明の内容について、技術者から説明を受けて、正確に理解することも重要です。弁護士が、特許公報を一読しても、技術内容を正確に理解することはできないので、技術者から周辺技術やその特許発明の特徴などを説明してもらうのです。

さらに、X製品は、そして特許発明と対比して、どこが違って、どこが同じかについて説明を受けます。

(2)B社の事情聞き取り

次にB社の事情について、聞く必要があります。一般民事と異なり、過去のトラブルの清算ではなく、現在進行形の紛争ですから、単に紛争の内容だけを検討すればよいわけではなく、経営的あるいは営業的な観点からの検討も必要だからです。

まず、B社の業界での位置づけについて、例えば、B社がシェア8割であれば、営業面でA社に優位なので、それを基にした交渉も考えられます。

B社が業界でリーダー的存在である場合には、A社とB社の社長同士のトップ会談での処理も検討すべきでしょう。A社とB社が、もともと、仲が悪くない場合も同様です。B社が有している特許権をA社が実施している可能性がある場合などは、クロスライセンスも検討すべきでしょう。

B社の経済状態が良好でない場合には、A社からX製品の差止訴訟を提起されても、応訴すること自体が経済的に困難な場合もあるでしょうし、そこまで行かなくとも、製造・販売の差止めが認容されると、工場がストップすることになるので、その時点で倒産の危険も出てまいります。このような点も,考慮しておかなければなりません。

このように、単に特許権を侵害しているかどうかだけでなく、B社をめぐる周辺事情を検討することも重要になるわけです。

次に、X製品が、A社の特許権を侵害しているか否かを検討するため、X製品の開発経緯、製造販売開始時期等について、B社から説明を受けます。A社の特許出願前から製造販売しているような場合には、先使用権や公然実施が問題になります。

販売数や販売状況も重要です。ほとんど売れていないため、X製品は、もうすぐ販売を終了する予定であるような場合には、それを前提とした交渉を行うべきです。他方、B社にとってメイン商品であり、現時点で販売状況も良好で、多くの利益を生んでいる場合には、B社としては、容易に製造・販売を止めることはできません。そうすると、@X製品が特許発明の技術的範囲に属するか否か、また、A特許発明に無効事由がないかについて、徹底した検討が必要となります。ここで、注意を要するのは、@Aは、面談の時点では、はっきりとわかっておらず、調査してから明らかになるという点です。

このように、面談では、検討事項は、技術、経営、営業にわたるので、B社からは,技術者、経営者、営業担当者等にも来てもらうことになります。

(3)       A社の事情

 A社の事情として、A社の業界での位置づけや、実施品が主力商品か、実施品の販売開始時期、ライセンシーの有無などを確認します。

 A社にとり、特許発明の実施品が主力商品である場合には、強気で臨んでくるでしょう。ライセンシーがいる場合は、ライセンシーとの関係からして、A社としては、容易に示談に応じることはできないでしょう。

 他方、出願前から実施品が販売されているような場合には、公然実施による新規性欠如となり、特許権が無効になるので、そのような事情がある場合には、証拠の確保が重要になります。

(4) 解決方法の検討

 上記の事情を聞き取った後、B社としては、製造中止して金銭的解決を図るのか、ライセンス契約を締結するのがよいのか、特許権侵害ではないとして争うのか、選択肢を検討します。

 

3 調査

 特許権侵害について争う場合には、次のような調査が必要です。

まず、出願から登録に至る特許庁への提出書類(包袋記録)をチェックします。出願段階で新規性や進歩性が出願段階で問題になっている場合もあります。また、特許庁への意見書で、特許発明の用語の意味を限定解釈しており、その解釈であれば、X製品は、技術的範囲に含まれないというような場合もあります。このような資料は,特許権侵害か否かを検討する上で,非常に有益です。

また、新規性、進歩性を欠くことはないかを検討するため、この特許発明に関する従来技術を調査します。この調査というのはなかなか大変でありまして、日本だけでなくアメリカの特許やヨーロッパの特許も調べますかとなれば多額の費用が必要になってきます。これは弁理士や調査会社に依頼をするわけですが、どこまで調査するのか、どれだけの費用をかけるのかについて検討が必要です。

4 第2回、第3回面談

第1回の面談の結果や、調査結果を基に、X製品がA社の特許権を侵害か否かの検討をしていきます。

また、X製品について、どうも侵害の可能性が強いという場合には、設計変更が可能か否かについても検討します。

これらを基に、B社に有利な解決方法を検討し、回答書を作成します。

一方で、従来技術の調査を継続するか否かについても検討をします。例えば、日本の公開公報について調査は終わっているが、アメリカの公報も調査するかどうかを検討するわけです。

 

第五 最後に

一般民事では、紛争は過去の精算であり、将来に向かうことがらではありません。これに対して、知財事件は、これから先どうしていくかという将来のことを検討する必要があります。また、技術、営業、経営という多岐にわたる観点での検討が必要になります。

このようなことから、知財を専門とする弁護士は、紛争解決のために働くというよりは、技術担当者、営業担当者、経営者、さらには弁理士などをうまく調整しながら仕事を進める必要があり、いわばディレクター的な、統合的にまとめていく役割を期待されているといえます。

最後に、大阪で知財を扱っている弁護士は、非常に少ないのが現状です。ですから皆さんも知財に興味を持たれたら、やりがいのあるおもしろい仕事ですので是非志望してみてください。

以上