20101028日ロイヤリング講義

講師:弁護士 井上 元先生

文責 亀之園 直幸

住民監査請求・住民訴訟

                

第1 住民訴訟・住民監査請求とは何か?

【住民運動・損害賠償請求訴訟】

 @マンション建設反対運動、A公害(不法行為に基づく損害賠償請求)など

基本的にはこの2類型。@は日照権等、Aは健康等どちらも「個人の権利侵害」が問題となる。

【住民監査請求・住民訴訟】

 ・地方自治法242条、242条の2に基づく手続

 ・特色

  客観訴訟である

   個々人の個人的権利利益の保護という見地とは無関係に行政活動の客観的適法性の保障を直接の目的としたもの(主観訴訟の目的は個人的権利利益の保護)

   例)選挙無効訴訟(公職選挙法203条・204条)

     当選無効訴訟(公職選挙法207条・208条)

  ・対象 地方自治体の財務会計上の行為

第2 住民監査請求・住民訴訟の手続

 1 住民監査請求(242条)

 ― 監査請求要件 ―

(1)地方公共団体の長、委員会、委員、職員について

(2)違法または不当な

(3)@公金の支出

   A財産の取得、管理、処分

   B契約の締結、履行

   C債務その他の義務の負担を負うこと

   D公金の賦課、徴収を怠る事実

   E財産の管理を怠る事実

 

(1)住民一人でもできる(メリット)

  cf. 事務監査請求(122項、75条)は有権者の50分の1以上(大都市では難しい)

(2)費用は無料

(3)監査請求前置主義  監査請求を経ていない住民訴訟は却下される

(4)(各行為があってから)1年の期間制限

  但し、正当な理由があるときはこの限りではない(2422項)

(5)監査委員(195条〜202条)

  大半が行政OB、議員。監査請求はほとんど機能していない

つまり、「住民側」に立っている監査委員はあまりいない

 

 2 住民訴訟(242条の2

1号 差止請求

  当該執行機関または職員に対する「当該行為」の全部または一部の差止めの請求

2号 取消請求・無効確認請求

  行政処分たる「当該行為」の取消の請求、無効確認の請求

3号 怠る事実の違法確認請求

  当該執行機関または職員に対する「当該怠る事実」の違法確認請求

4号 履行請求(平成14年改正で代位請求訴訟を変更)

  職員又は相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求を当該地方公共団体の執行機関などに求める請求

 

4号の平成14年改正の経緯

 「長」本人に対する億単位の訴訟は弁護士を立てる煩もある。そこで「長」団体の声により本号が改正された。

(1)監査結果から30日以内に提訴

(2)訴額は算定不能(∵住民個人の利益を求めるものではない)

  ⇒160万円として扱われる(印紙代 13,000円)

(3)対象行為の特定

(4)職員の特定 権限者はだれか? ex.専決

(5)弁護士報酬(242条の212項)⇒勝訴時には相当額を請求可能

第3 具体例

 1 政教分離

 ・憲法89条「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。」

 ・津地鎮祭事件(最大判昭和52.7.13

⇒住民監査請求・住民訴訟の手続に則って処理がなされた事件。「目的効果基準」が示された。

・「津地鎮祭事件」以降、政教分離を争う住民訴訟は多くみられる。

  その一例として資料@「最高裁、一転「合憲」神社関連行事に市長参加」(最一小判平成22.7.22裁判所HP)がある。

 2 食糧費等の不正支出

・井上先生の担当事件「@大阪市の食糧費」「A大阪コクサイホテルプール金」

 ⇒プール金とは、未だホテル利用の事実がないにも関わらず、前もってその利用料をまとめ払いするという制度であるが。本来公金支出はその利用ごとに処理しなければならないとされているため、本件プール金の一部違法が認められた事案

・資料A「「金回りが不透明」不正経理で市民オンブズ、県警提訴」

・資料B「タクシー券利用、京都市教委職員が全額返還」

 3 交際費等

・資料C「北九州・前市長交際費訴訟、市側の敗訴確定」

・資料D「地裁「裁量権乱用」桜川市長、懇親会・結婚式に公用車市長に返還命令」

 4 議員の視察等

⇒観光地を視察先とするケースが典型例。議員の裁量が広く認められるため勝訴しにくい

・資料E「海外視察市議らサンバ鑑賞、関市に返還請求を命令」(住民勝訴)

・資料F「専用バス代返還を 岡山市議海外視察、住民が提訴」(未結)

・資料G「「宿泊、公務でない」代金返還命じる判決 桜川市議、視察の晩に破廉恥ショー」

 5 費用弁償

・地方自治法2032項「普通地方公共団体の議会の議院は、職務を行うため要する費用の弁償を行うことができる。」

・資料H「最高裁が逆転判決 札幌市議への費用弁償」(最三小判平成22.3.30

    ⇒実際に交通費程度しかかからないのに「1万円/日」支給されていたことが「報酬

の二重取り」ではないかと争われた事案

 6 政務調査費

・地方自治法10014項「普通地方公共団体は条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究に資するために必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務調査費を交付することができる。この場合において、当該政務調査費の交付の対象、額及び交付の方法は、条例で定めなければならない。」

⇒何が「政務調査費」にあたるのかが問題となる

・最三小判平成22.3.23判時208024

(「任期満了と知りながらパソコン購入」→高裁「適法」→最高裁「差戻し」)

・資料1088000円「違法」11万円は「適法」函館市議政調費で最高裁判決」(「違法」)

・資料11「弘前市議23人の違法支出認める 政務調査費訴訟で青森地裁」(「一部違法」)

・資料12450万円「不適切」仙台市議13人の政務調査費 監査委員、返還請求勧告」

・資料14「市民団体監査請求、県監査委員が棄却 自民会派への」

・資料15「県議会の政調費、返還求めて提訴 市民オンブズ」(「16泊」→違法)

 7 行政委員の報酬

・地方自治法203条の22項「前項の職員に対する報酬は、その勤務日数に応じてこれを支給する。ただし、条例で特別の定めをした場合は、この限りでない。」

月に数回程度しか出勤しないのに数十万円を受け取る、などといった問題

 8 給与条例主義

・資料26「高砂市の敗訴確定 市職員互助会「退職祝い金」訴訟 上告棄却」

⇒「互助会」は本来職員の福利厚生をはかるため、自治体から補助金を受け取っている

が、これを職員の退出給付金として給付するという行為が横行している。

  これは互助会を間にかませた給与条例主義の潜脱行為であり、今では認められない。

 9 談合

・談合とは

 公共事業の請負業者を決定するに当たり、自治体が「見積・仕様」を行い、「予定価格」及び「最低制限価格」を決めて、「登録業者に「入札」させるという手法がとられるが、ここで登録業者が口裏を合わせて、できるだけ「最高落札価額」に近い値で落札しようとする動きのことを「談合」という。

・実情

 通常の入札方式によるならば、落札価額は「最低入札価額」と「最高落札価額」の丁度真ん中にあたる価額となるはずであるが、「談合」の方式によれば、「最高落札価額」の98%にあたる額におさまる事例がほとんどとなる。

・処理

 住民訴訟により自治体に損害賠償請求をさせることとなる。その損害額の立証の煩は民事訴訟法248条「損害額の認定」の規定を利用して解決される。

10 弁護士報酬

・地方自治法242条の212項「第1項の規定による訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、弁護士又は弁護士法人に報酬を支払うべき時ときは、当該普通地方公共団体に対し、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。」

・資料36「宇治市発注談合 市に900万円命令」(最一小判平成21.4.23

  相手方は住民訴訟が住民の個人的利益の救済を目的とするものではないとし、弁護士報酬は法定の訴額「160万円」を基準とするべきと主張した。しかし、裁判所は市に対し弁護士報酬900万円の支払いを命じた。

・資料39「住民訴訟費巡り、川崎重工を提訴 京都市、焼却場談合で」