2010年729日ロイヤリング講義

講師:向井 大輔 先生

文責:納田 拓也

 

大学時代から弁護士2年目までの生活

 

 

弁護士の向井大輔と申します。平成14年に大阪大学に入学し、平成18年に卒業しました。司法試験には平成18年に合格し翌年に司法修習所に入所し、平成20年の9月から弁護士登録をして仕事をしています。事務所は、淀屋橋・山上合同事務所というところです。仕事は基本的に何でもやっています。

今日はせっかく皆さんに来て頂いているので、色々学んでもらえればと思います。大学3年生は、就職活動をするのかそれとも法曹を目指すのかなど、今まさに進路について悩んでいる頃だと思います。そこで今日は、なりたての弁護士についてざっくりとお話しをして少しでも参考にしてもらえればと思います。

 

第1 受験時代から司法修習所入所まで

1 自分のリズム

大学生は、中学や高校と違って大人になるうえでの架け橋だと私は思います。私は中学3年生の頃から弁護士になろうと思っていたので大学に入学してすぐに勉強を始めました。周りの学生を見ていると、将来について必死で悩んでいる人と、将来についてあまり考えず何となく過ごしている人がいました。皆さんには、社会人との架け橋となるこの時期にしっかりと悩んで欲しいと思います。仕事は40年〜50年続けることになります。これは皆さんが今まで生きてきた20数年よりもずっと長い期間です。自分の人生を幸せに過ごすためにも今将来について悩むことがすごく重要です。もちろん大学時代にしかできないことに取り組んで今を楽しむことも大切ですが、進路について真剣に考えることで、将来生き生きと仕事に取り組めると思います。そして周りの人に振り回されず、自分のリズムを大切にしてもらいたいと思います。「周りの人がこうだから、自分もこうしよう」「周りの人のリズムに自分のリズムを合わせよう」というのではなく、自分のリズムをしっかり持って行動することが大切だと思います。

 

2 大学生活との両立

ロースクールを目指して受験勉強をしている人向けになるかと思いますが、私がどんなことをしていたかについて簡単にお話ししたいと思います。大学生活との両立についてですが、「自分自身が納得しているか」という基準で考えて頂きたいと思います。

大学の講義に出るなら、予習をして出るようにして下さい。予習をして授業に出ることで興味を持って臨むことができ、理解もより深まると思います。

続いて、部活動やサークルについてですが、私はバレーボールサークルに入って活動し、キャプテンも務めていました。勉強だけでは耐えられないと思ったので、勉強により集中して取り組むためにも私はサークルに入っていました。

旅行やアルバイトは出来ればやった方がいいと思います。弁護士になってからは長期の休暇はなかなか取りにくいので、長期休暇の取り易い学生時代に旅行に行くことをおすすめします。アルバイトについてですが、私は論文試験後に短期のバイトを複数やっていました。というのも、弁護士になると色々な職業の人たちと話をするので、そういった人たちが何に喜びや苦しみを感じ、どんな人間関係があるのかを知っておくべきだと考えたからです。そこで短期のバイトを業種が被らないように転々としました。様々な人と話すことで貴重な経験になったと思います。

次に受験指導校についてですが、勉強の仕方やコツは学べると思います。法科大学院に進むと勉強が忙しくて受験指導校に通う時間もないと思いますので、もし行くのならば学部時代に行ってもいいかなと思います。

法律家になってからも勉強は続きます。私自身、弁護士になってからも日々勉強をしていて自己研鑚を続けています。試験の法律科目は68科目ですが世の中には何千と法律があります。そして世の中の問題は試験科目だけで解決できるはずがありません。試験では、法律をどう用いるかという発想が問われているのだと思います。最低限の知識はもちろん必要ですが、知識をどう用いるかというのが求められています。

 

3 司法試験受験後・合格・司法修習開始まで

司法試験受験後は、もちろん就職活動はしましたが、先ほどお話ししたようにバイトをしたり旅行に行ったりして学生時代にしかできないことに取り組んでいました。

 

4 就職活動

弁護士の就職活動についてあまり良い話を聞かないので、司法試験に受かっても就職先がないのではないかと不安に思っている人もいると思います。そういう人たちのためにも、どういう目線で採用が行われているか、どういう人が魅力的に感じるか、求められている弁護士像とは何なのかというお話しをしたいと思います。

まず、法律家の就職活動について簡単に説明します。弁護士の場合、夕方頃から事務所説明会に参加し、その後食事会に参加します。そして食事会での会話を通じて人となりを見ていきます。もちろん履歴書等も参考にしますが、成績だけではなく、むしろ人間性が重視されます。事務所によって違いがあるかもしれませんが、少なくとも私の事務所では人間性を非常にみています。何故人間性を重要視するかというと、弁護士の仕事は、人と人とがぶつかる仕事だからです。人と人とのつながりが日々繰り返される仕事なので、言葉の裏側を読み取る力や空気を読む力、隠れた信条に配慮する思いやりが必要になってきます。したがって、人間的な部分に魅力を感じる人と一緒に仕事をしたいと思っているのです。

また、作った自分で就職活動をすべきではないと思います。事務所に気に入られようと自分を作ってしまうとせっかくの個性が埋没してしまいます。「私はこんな人間なんだ」「私はこんな仕事をしたいんだ」というありのままの皆さんを伝えてくれた方が魅力的で目にとまります。自分がどんな法律家になって、どんな事務所に入って、どんな人たちを相手に仕事をするのかということを漠然とでもいいので考えながら就職活動をしていただけたらなと思います。それは他人と相談することではなくて、自分が過去にどのような道を歩んできたかを思い返しながらじっくり考えて下さい。自分がどのような人生を歩んできて、どんなことに喜びや幸せを感じたのか振返ることで、どんな仕事を通じて自分が幸せになれるのかをきっと見つけられると思います。

裁判官や検察官の場合、弁護士とは違った就職活動をすることになります。裁判官や検察官は、司法研修中のアンケートで志望する旨を伝えるべきだと思います。裁判教官や検察教官の目にとまらなければなれないからです。また、裁判官や検察官には成績優秀でなければなれませんので、受験後にも継続して勉強をしておいた方がいいと思います。

 

続いて就職活動における選択基準についてお話しします。この選択基準とは事務所目線ではなく皆さん目線での基準の意味です。内定が出た事務所に行くというのではなく、こういう事務所に行きたいとう明確な基準を持って就職活動をしてもらいたいと思います。

選択基準の1つ目は事務所の大きさ(大規模・中規模・小規模)です。大阪では最も大きな事務所で70人ほど弁護士がいて、中規模の事務所では10人〜20人程度、小規模の事務所では弁護士が1人〜数人程度です。規模によって善し悪しがあるので色々事務所を訪問することで、自分に合った規模というのが分かってくると思います。

2つ目の選択基準は、取扱事件の種類です。企業訪問の際に質問して、どんな事件を扱っているのか質問することでミスマッチを防ぐことができると思います。また、どんな企業の顧問をしているか、どんな業界の企業を相手にしているか、企業の相談と個人の相談の割合、家事事件と刑事事件の割合などについて尋ねるとともに、自分がどんな事件を扱いたいのかについてしっかり考えたうえで事務所訪問をするといいと思います。私自身は就職活動のときに、どんな仕事もやってみたい、あらゆる仕事をやってみたうえで、自分の興味がわくもの、あるいは興味はあまりわかないができるもの、というのを最初の5年くらいでしっかり見極めたいと考えていました。弁護士の仕事は、やりたい仕事でくっていけるというものでは必ずしもありません。興味はあまりなかったものの、実際にやってみると依頼者がつく仕事と言うのもあります。依頼者がつく仕事は自分に向いている仕事だと私は考えています。このように「できることと」と「やりたいこと」という2つの観点から見てみるといいかもしれません。

3つ目の選択基準は、パートナーとアソシエイトの関係・仕事の仕方です。パートナーとは事務所を経営している側のことで、アソシエイトとは事務所に雇われている側のことです。事務所訪問に行ったときに、事務所内での弁護士のやりとりを見ていると、その事務所の雰囲気がよく分かると思います。

4つ目の基準は個人事件の受任についてです。雇われると、基本的には事務所の事件を扱います。それとともに弁護士は自営業なので、自分の知人から依頼を受けた場合などに、事務所として受けるのかそれとも個人として受けるのかという違いは重要だと思います。個人受任ができるかどうか、できるとして報酬はどうなるのかということも、タイミングをみて聞いてみるといいかもしれません。

5つ目の基準は独立のしやすさです。もし自分が将来独立したいのであれば、過去1人も独立者がいない事務所よりは、過去に独立者がいる事務所の方がいいと思うので、この点についても確認してみるといいでしょう。

6つ目の基準は、人柄・若手弁護士の目です。この基準が最も重要だと思います。自分が弁護士事務所に入るとまずは若手弁護士になります。入って1~3年目の若手弁護士がどんな目で、どんな仕事をしているのかをしっかり見極めてもらいたいと思います。若手弁護士が生き生きと仕事に取り組んでいるかどうかが、自分が入って生き生きと仕事に取り組めるかどうかに関連してくると思います。

7つ目の基準は、尊敬できる弁護士・人柄です。訪問していきなり尊敬できる弁護士を見つけることは難しいかもしれませんが、もし見つかれば1つの基準になると思います。

8つ目の基準は、ライフスタイルです。休日や仕事後どんな風に過ごしているのか、家族とどのように過ごしているのかといったライフスタイルを知ることも参考になると思います。

 

次に、すべきこと・すべきでないことについてお話します。すべきでないことは、先ほどもお話ししましたように、個性を埋没させないで下さい。主体的に就職活動をして下さい。厳しいと言われている時代だからこそ、自分が選びに行くんだという姿勢の人が魅力的にみえると思います。自分がどんなことをしたいのかしっかり考えてみてください。そうすればその後の人生も充実してくると思います。

すべきこととしては、積極的に自分がどんな人間なのかをアピールすることも重要ですし、一方でその事務所がどんな事務所なのかを知るための質問事項を考えて質問することも大切です。同じ質問を色んな事務所にぶつけると、それぞれ答えが返ってきて違いも分かってくるはずです。そして自分とその事務所の合致具合で行きたい事務所というのを選んでもらえたらなと思います。

聞いたことがあるかもしれませんが、弁護士に限らず就職活動というのはお見合いと一緒です。就職活動において、人間性や人柄はどうか、一緒に仕事をしていて楽しいか、という点は重視されます。もしも自分の個性を前面に出して人柄を伝えても採用されなかった場合には、自分が行くべきではなかった事務所や企業だと思えばいいと思います。一方通行ではなく相思相愛の事務所や企業に入ることが幸せにもつながると思います。自分の個性や人柄を伝えて、それが事務所柄に合致するかどうかを基準にしてみてください。

 

第2 弁護士12年目の生活

 

1 日々の業務

弁護士になってから約170180件の事件を担当しました。弁護士は新人もベテランも関係ありません。新人であっても1人で第一線での現場対応をしなければいけません。この点は民間企業との違いだと思います。1年目、2年目関係なく上の先生も同じように扱ってくれます。責任と面白さがある仕事だと思います。分からないことや知らない法律、見たことのない法律がほとんどです。まずどの法律を用いるかというところから始まります。このときに最も重要なのが、事実関係の聞き取りです。法的にどうかを考えることも重要ですが、その前に事実関係を確定させることが必要です。例えば110まで事実関係があるのに、1357の事実関係しか聞きとれなければ法律を当てはまる段階になって問題が生じてしまいます。

法律家にとって、事実の分析は非常に重要です。事実を聞きとって、ルールをあてはめて、いかに結論を出すかというのが法律家の仕事です。この事実の分析能力は法律家に限らず、日常の問題解決のために役立つと思います。しっかりと事実を見定めていくことで、問題点がどこにあるか分かってくるものです。企業などでも人間関係などで困ることがあると思います。そしてそれは事実に色々な評価が加わっていることが原因だと思います。法律相談に来る人も、色のついた事実を持ってくる人が多くいます。色を抜いていくことで、落とし所であったり、双方の感情のもつれであったり、ありのままの事実がみえてきます。このように事実を分析する能力は人間関係を円滑に進めていく上でも役に立つと思います。

 

2 事務所事件・個人事件

事務所事件というのは、事務所に来た事件を上の先生と一緒にやるものです。そして個人事件というのは、自分自身に依頼が来たものです。個人事件には例えば、弁護士会の法律相談で受けるものや、国選のものがあります。また、1度担当した依頼者から次の依頼者を紹介されることもあります。

それでは、私が弁護士になってから中心的に扱った民事再生事件と少年事件についてお話します。

平成20年の9月に弁護士になって、翌年の1月に申し立ててつい最近終わった民事再生事件があります。弁護士になって4ヶ月目に1つの工場を任されました。民事再生を申し立てると債務の弁済がいったん止まり、その旨が債権者に通知されます。すると債権者が工場に押し掛けてきます。私はそのときに、債権者に対して手続きの内容や今後の流れについてしっかり説明をしました。弁護士の仕事はこのように4ヶ月目であろうが20年目であろうが1人のプロとして仕事をやっていかなければなりません。

続いて少年事件についてのお話をします。ある日ある親御さんから、「1週間後に少年審判があります」と電話がかかってきて担当した事件があります。少年は高校入試を目前に控えており、現役での高校進学は無理だとしても1浪での高校進学を希望していました。そのためには、少なくとも長期の少年院ではなく短期の少年院の必要がありました。(長期の少年院の場合は1年ほど少年院にいるため、受験に間に合わないので。)この1週間はこの事件のことばかりしていました。毎日少年鑑別所に行って少年と話をしました。そしてご両親とも3回程打ち合わせをしました。学校に行って話を聞き、親友の親に会って話を聞き陳述書を書きました。また意見書を提出するために、裁判所調査官とも面談をしました。そして裁判官にも、この子は少年院に行く必要がないということを伝えるために、面談を設けてもらいました。このように怒涛のように1週間は過ぎて行きました。私は、保護観察の方が適しているとおもっていたのですが、結局長期の少年院という決定が出てしまいました。そして少年やご両親と相談して納得できないということだったので抗告をし、短期の少年院に変更されました。(短期に変更されることはごくまれ)そして少年は短期の少年院を出た後、1浪で高校に進学することになりました。

これは事務所事件ではなく、自分一人でやっている個人事件です。このように、弁護士になって数カ月の頃から今まで継続して、第一線で扱っている事件もあります。少年事件では決められたルールはあまりなく、「その少年が少年院に行く必要がない」ということをいかに裁判官に説得するかが重要です。少年事件と刑事事件は単に年齢が違うだけではありません。少年法の1条を見ると分かると思いますが、少年法の目的と刑法の目的は全く違います。少年法では、その少年が更生するかどうかという点に重きが置かれています。少年自身の変わっていく様子が実際に感じられ、非常にやりがいを感じます。

 

3 委員会活動

大阪は委員会活動が活発です。私は消費者保護委員会に所属しているのですが、他にも刑事弁護委員会、行政問題委員会、司法委員会、法教育委員会など様々な委員会があります。

 

4 弁護団活動

私は縁あって電話リース被害弁護団に入っています。会社などにあるフックが大量にある電話機を知っているでしょうか。このような電話機を老夫婦が経営しているような個人商店にリースさせるという問題を扱っています。

リースはレンタルと違って、途中でやめても残りのリース料を支払わなければいけません。

業者はこういったことを知らせずに、電話代が安くなるなど言葉巧みにリース契約を結ばせるのです。そして、業者は株式会社や有限会社を狙います。何故なら、事業者は個人消費者と違ってクーリングオフが出来ないからです。弁護団が発足して34年目ですがこれまでに600件の相談を受けています。

 

5 同期のつながり

弁護士になって1年目、2年目から第一線で仕事に取り組むので悩みは尽きません。そして上の弁護士に悩みを相談しにくいこともあります。そういったときに、大学の同級生やロースクールの同期、同じ修習期の仲間などが非常に頼りになります。

 

第4 法律を使う仕事に就く方へ

法律は1つのルールですが、まずは事実関係をしっかり読み取って下さい。次にそこにあてはめるべき法律を自分で持ってくる。そして法律をあてはめてしかるべき結論を導き出す。しかるべき結論があるからこそ、もってくる法律を考える楽しさがあるのだと思います。法律ありきではありません。皆さんのうち多くの人が法律を用いる仕事に就くと思いますが、法律を活かしてほしいと思います。自分が正しいと思ったのであれば、そのために必死で考えてもらいたいです。「泣き寝入りをしない、させない」という考えを自分の周りに広めていってほしいと思います。

 

以上