2010年722日ロイヤリング講義

講師:弁護士 細見 孝二先生

文責 亀之園 直幸

最近における公共事業紛争の判断と動向

                         

T.国家賠償法2条(概論)

 1.国家賠償法2条の解釈

   国家賠償法21項は、

「道路、河川その他の公の営造物の設置または管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国または地方公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」

と定め、道路等の公物の設置管理の瑕疵による損害への賠償請求を認めている。この条文によれば、賠償の責めが発生する要件は、@対象は公の営造物であること、Aその設置・管理に瑕疵があること、B損害が発生し、C瑕疵と損害に因果関係があること、である。

本講義では『Aその設置・管理にかしがあること』の要件に焦点をあてる。

 2.設置・管理の瑕疵

  (1)設置・管理の瑕疵とは

    「高知落石訴訟」(最高裁判所 昭和45820日判決)の中で、設置・管理の瑕疵とは、「営造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいう、と判事された。

  (2)通常有すべき安全性を欠くかどうかの判断

    では、上記の「営造物が通常有すべき安全性」はどのように判断されるのか。

    この点、「神戸防護柵訴訟」(最高裁判所 昭和5374日判決)の中では、「当該営造物の構造、本来の用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して、具体的、個別的に判断」するものと述べられた。

    そして、現在もこの判断基準が採用されているが、実際の「営造物が通常有すべき安全性」判断は、過去に起きた事件の積み重ねの中から、ある程度の予測をたてながらなされるものであり、かつその判断方法は時代の流れに応じて変更されていくものである。

    そこで、過去及び現在の裁判例に注意を払うことが重要となってくる。

U.国家賠償法2条関連事件

 1.転落事件

  (1)大津地方裁判所彦根支部 平成20918日判決

(判例時報2024100頁)

<事案の概要>

両側に歩道の設置された県道で、日没後日暮れ前に歩道上を電動式自転車走行中の高齢者が歩道沿いの用水路(深さ108p)に自転車もろとも転落し重傷を負った(被害者は後に死亡)。日暮れ前の視界の悪い時間帯に発生し、歩道自体も、マンホール蓋の設置や上り坂があり通行しにくく狭いもの(78p)であるのに、水路の存在を注意喚起の措置および、転落防止の防護柵設置等を怠ったとして賠償責任が争われた事案。

<判旨>

営造物の設置・管理の瑕疵を「当該営造物の構造、本来の用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して、具体的、個別的に判断」するという判断基準に照らし、管理者の賠償責任を肯定した。

大津地裁は、@本件用水路の・・・幅員及び深さは、人が自転車ごとどこにも引っかからずに底部まで転落する場合があるほどに大きく、一旦転落すれば場合によっては・・・重傷となる可能性を内在する程度にいたる、A本件事故発生時は・・・日没後日暮れ前であり、ものの輪郭がちょうど見えづらい時間帯であり、高齢者にとっては尚更である、という認定を行い、本件歩道の管理者は、「街灯の設置」あるいは「用水路の存在を知らせる看板の設置」を行う義務があるとの判断をしたのである。

ただし、利用者の側にも自転車で走ってはいけない歩道を、自転車で走っていたという落ち度があったため、大津地裁は、過失相殺により利用者の側にも85%の責任を認めている。

  (2)広島地方裁判所福山支部 平成17223日判決

    (判例時報189582頁)

<事案の概要>

深夜、自転車で(前照灯をつけて)歩道上を走行し、(バス停留所・電柱設置により走行路が限定されるため)そのまま前進して、水路の溝蓋部分を走行していたところ、その先の溝蓋が途切れており、その部分から自転車もろともに開渠となった水路に転落して死亡したもの。

歩道の構造上、歩道から溝蓋部分へ走行し、そのまま直進走行することが予想できること、事故現場には街頭がなく、溝蓋部分が途切れ、その先に開渠の水路があることを認識させるには不十分であり、水路の構造上、転落すれば生命に対する危険が予想されることから、歩道及び水路を管理する市には、標識・照明等を設置し事故を防止する責任があるとして争われた事案。

<被告の主張>

福山市は、@開渠の水路がある位置は、走行路限定の原因となる「バス停・電柱」のある場所からは「15m」も離れており、そこから用水路までの見通しも良かったこと、A用水路周辺には「パチンコ店」があり、さらに「車道の車の照明」もあったことから照度は十分であったということ、B被害者は事故前に中ジョッキ2~3杯の酒を飲んでおり「酩酊状態」であったことから、「利用者が予測不能な行動をとった場合に、設置・管理者の責任が否定される」という法理が適用されるということ、をあげて賠償責任がない旨を主張した。

<判旨>

 広島地裁は、@本件歩道を進行する際には、バス停により削られた部分は、・・・歩道横の溝蓋部分を走行せざるをえず、その後も傾斜を避けてまっすぐ進行することが予測されることから、利用者がそのまま用水路に転落する危険性は十分にあるということ、A本件転落地点では照度がほとんどなく、自転車の前照灯だけでは用水路を照らすだけの照度に満たないということ、B本件水路の「1m」という深さは、転落すれば重傷を負うことが通常予測されるということ、をあげて福山市の設置・管理の責任を認めた。

 ただし、飲酒をしていたという利用者の落ち度も考慮して、過失相殺を行い利用者にも40%の責任を認めた。上記判例の85%責任に比べると、本件は歩道の構造上の瑕疵の度合いが大きいことから利用者側の落ち度も少なめに認定されている。

  (3)大阪高等裁判所 平成13123日判決

    (判例時報176557頁)

<事案の概要>

 酩酊した男性(事故前に、ビール大ジョッキ1杯、友人と二人で、日本酒1升、瓶ビール2~3本を飲んでいた)が、歩道を遮る形で設置された高さ38cmのガードレール(事故現場の土地所有者が、1mのガードレールを切除した後に、新たに設置したもの)に躓き、道路下の川に転落し死亡した事案。

歩道を管理する自治体と、河川を管理する自治体及びガードレールを設置した私人に賠償責任があるとして争われた。

<被告の主張>

 大阪府は、@事故現場付近を走る自動車の明かりでガードレールは認識可能であること、A被害者は地元の人間であり、事故現場の地理には精通していたということ、B本件事故以前に同様の事件は生じていないこと、をあげて自己に賠償責任がない旨を主張した。

 そして原審は、酩酊男性が通常の注意を払っていれば本件転落事故は生じえなかったとして、上記主張を認めていた。

<判旨>

     大阪高裁は、歩道の利用者には、身体障害者、高齢者、酩酊者等の交通弱者も含まれるということに言及しつつ、歩道は、このような種種雑多な歩行者が、いかなる季節、天候、時刻であっても、歩道を通行することについての通常有すべき安全性が確保されていなければならないとして、歩道に高度の安全性が要求される旨を示した。

     そして、本件酩酊男性も、前後不覚に陥るほどの泥酔状態にはなく、当然に歩道の利用者として予定される者であるから、この者が安全に通行できない歩道は瑕疵を帯びるものであるとして、大阪府の管理・設置責任が認められた。

     ただし、本件においても、利用者側の落ち度を考慮した過失相殺が行われ、酩酊男性にも60%の責任が認められた。

     <影響>

     この判決を境に、「歩道」についての安全性確保の意識が高まった。

     「歩道」関連の訴訟では、管理者・設置者がほとんど勝てないという状況が生まれた。

  (4)東京高等裁判所 平成13228日判決

<事案の概要>

神奈川県の山中での事件。5月28日の午後7時10分頃、勤務先(高校)で飲酒の後(被害者の血中アルコール濃度は酒気帯び時の3倍の数値だった)、勤務先横の側道を自転車で走行中、側道に沿って設けられていた農業用水路に転落し、死亡したもの。

<判旨>

本件道路は見通しのよい、ほぼ直線の平坦な舗装道路で道路の一方は勤務先の石垣に接し反対側は用水路に接している。周囲は田園地帯で、勤務先があるほかは殆どが田か畑である。利用は昼間の近隣住民に限られている(通学路か農道としてしか使われない)。本件道路の通常の通行の下では、通行者が道路から誤って本件用水路に転落する危険性は極めて小さい。また、現場に照明設備はなかったが、これは稲の成育への影響を考慮してのことであるし、夜の人通りは少なかったということもあった。さらに、事故当時の付近の明るさは用水路の存在を十分に認識できる程度であった。本件道路は、通常有すべき安全性を欠くものとはいえず、設置管理に瑕疵があったと認めることは出来ない。

    <評価>

     「田舎」と「都会」でも瑕疵認定レベルは異なる。

 

  (5)横浜地方裁判所小田原支部 平成2119日判決

    (判例時報2035号)

<事案の概要>

新しく築造された堤防の天端が管理用通路として歩行者や自転車の通行に供されているが、事故現場付近で途切れている箇所があり、そこでは堤防のスロープを下り、一旦新堤防に平行して存在する旧堤防を通り再びスロープを上がって新堤防の管理用通路に戻る構造になっていた。旧堤防は市道と並行しているが、80センチの段差がある。被害者は、スロープを降り、そのまま旧堤防から段差に気付かず市道に出ようとして、転落死亡した。

<問題点>

 旧堤防から見ると、80cmの段差があるようには見えない。また、案内板が市道側に誘導しているかのようにもみえる。

<被告の主張>

 被告は、被害者はよく道を知っていたのではないかということ、市道の道は悪くブレーキを使って低速進行するのが通常であるということ、被害者は前照灯をつけていなかったということ、現場通路は自転車から降りて通行するのが通常であるということを主張した。

<判旨>

本件事故現場に至る直前の本件スロープは勾配が約6%の下り坂になっているところ、日没後には、照明設備がなく・・・暗闇であるため、本件段差の存在を、早期に認識するのは困難である。加えて、本件事故現場付近の既存堤防のみ木柵がなく、本件スロープからみると、木柵が設置されていない箇所で本件堤防が・・・市道と接続しているかのような外観になっていることから、本件堤防及び本件段差の存在それ自体が自転車等の通行にとって危険性を有するものというべきである。

・・・転落事故を防ぐには、必ずしも、人の転落を防止するために、その体重を支えるに足りる程度の丈夫な柵を設置するという方法をとる必要はなく・・・市道への侵入を防ぐために・・・柵を設けるか、警告板や通行を制限する何らかの措置をすれば足りるというべきであり・・・これらの設置を設けることが、河川の設置管理上、困難であったとはいえない。

そうすると、本件事故は本件堤防の管理の瑕疵によるものということが出来る。

ただし、被害者の側にも60%の責任が認められた。

 

2.原動機付自転車関連事件

 (1)神戸地方裁判所 平成1169日判決

   (交通事故民事裁判例集323867頁)

<事案の概要>

神戸市垂水区の事件。原告は、午後845分頃、原動機付き自転車で市道の左側車線の路側より1メートル中央よりを時速40キロメートルで走行中、後続車に追い越され、(猫の死骸を避けた)同車両に幅寄せされたことから、ブレーキをかけながら0.5メートル程左によった瞬間、路上に放置された凍結防止剤の袋の上に乗り上げて、転倒し障害をおった事例。凍結防止剤は被告がその2日前の午前10時頃に、事故現場付近の植栽帯の樹木の切れ目部分に凍結防止剤入り袋を二つ重ねていた。

<原告の主張>

 走行の邪魔になる障害物を放置してはならない。被告の管理責任の認定を求める。

<被告の主張>

 普段から神戸市バスの運転手に道路上の瑕疵を発見した場合は報告するように依頼していたが、本件については瑕疵の報告なかった。

 凍結防止剤の袋は事故直前に置かれたものであり、本件事故には回避可能性がなかった。

<判旨>

 道路管理者は「道路を常時良好な状態に保つよう維持し、修繕し、もって一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない」(道路法431項)という注意義務があるところ、本件道路は道路上の障害物ゆえに、客観的に道路が備えるべき安全性を欠いていた。

 (本件袋は、事故直前に誰かにより本件道路に放置された可能性が高く、被告としては、時間的に遅滞がなく、これを現状に復し、道路を安全に良好な状態に保つことは不可能であり、管理者に管理瑕疵責任はないとの主張に対して)管理者が、道路通行上の障害物を除去するなど道路の安全を現状に復し、道路の安全を保持することが時間的に不可能であったとの立証がない。更に管理者は、本件袋を事前に道路付近に設置する以上は、その管理に意を用い、路上への落下防止、盗難防止等に万全を尽くすべきであるのに、紐などで固定するあるいは町内会等との連携の下に本件袋の管理に万全を期すことなく、安易に落下防止措置、盗難防止措置等を採らず、且つ本件袋を二つ重ねて設置したことにより本件袋を事故現場に放置または移動させたのであるから、被告は本件道路の管理瑕疵責任を免れない。

     ただし、被害者の側にも25%の責任が認められた。

 

 (2)熊本地方裁判所 昭和51310日判決

   (判例時報824号)

<事案の概要>

単車(原告はバイクの運転経験はなかった)が非舗装の路肩を走行していたところ、補修されないで放置された長さ1.75メートル幅0.8メートルの水溜りに入り、そこより8センチ高くなっていた水溜りの端の舗装部分に突き当りハンドル操作の自由を失い他者に衝突転倒、運転手死亡。

<判旨>

事故現場付近の車道の道路状況からすれば、単車が路肩部分を走行することは、道交法の禁止規定にかかわらず、客観的に十分予期されるところであり、且つ前記段差は、路肩部分の進行方向にあって単車が強い衝撃を受けるほどの高低差があったものであるから、放置されてよいほど軽微な損傷ではないと認められる。(しかもその点検、整備が安易であった)してみれば、前記路肩部分の段差は道路の安全性を欠くものとして、被告国の道路管理の瑕疵に当たると認められるのが相当である。

<評価>

 道路上の穴に関する事件において、設置・管理者はほとんど敗訴している。

 

3.植栽事件

   名古屋地方裁判所 平成2136日判決

  (判例時報2043109頁)

<事案の概要>

公園で7歳の児童が遊んでおり、公園から自転車を運転して公園内から道路に出た際、道路上を進行してきた自動車に衝突して死亡したもの。公園出入口は公園から道路に向けて下り坂となっており、幅4メートルの出入口に2本のポールが立てられているだけで、公園を出る者に対する一時停止や左右確認を求める看板はなく、自転車の飛び出しを防ぐ措置がとられていなかった。また公園の道路に面する側に樹木が隙間なく植えられて繁茂したままとなっていたため、公園内と道路上とで殆ど見通すことが出来ない状態にあった。

<判旨>

本件事故当時、本件公園内にいる年少の児童が、遊びに夢中になるあまり、本件道路上を進行してくる車両の有無動性に対する注意を欠いたまま、自転車を運転して本件出入口から本件道路へ進出してしまう危険性が相当に高かったものと解される。

本件事故当時、本件公園内においては、本件道路に面した東側において、樹木が繁茂したまま放置されていたために、本件公園内と本件道路上との見通しが防がれており、その結果、本件道路上を進行する車両の運転者にとっては本件公園内の状況を把握することが出来ず、また本件公園内にいるものにとっては本件道路上の状況を把握することが出来ないこととなるため、本件道路上を進行する車両と本件出入口から本件道路上に進出する自転車とが衝突しやすい非常に危険な状況が生じていたものと解される・・・

そうすると、本件事故当時において、本件公園は、自動車の通行する道路に出入口が面した公園として、通常有するべき安全性を欠くに至っていたものと解するべきであり、その管理には瑕疵があったものと認められる。

(参考判例 大阪地方裁判所 平成131025日判決 大阪三原町中央分離帯の植栽による視界制限の事例)

 

V.まとめ

 国家賠償法2条関連の事例は多い。行政法の理解を深めるためには、このような具体例に注意を払っていくことが大切である。