2010年715日ロイヤリング講義

講師:平松 光二先生

文責:古川真理

民事保全と民事執行の実務

 

☆はじめに

簡単に私の自己紹介をしますと、1973年(昭和48年)大阪大学卒業、翌年司法試験合格、司法修習29期、弁護士歴33年ですので、いろいろな事件の経験をしてきております。

今回はレジュメに沿ってやっていきます。

土地の利用関係に関する実際の事件について、民事手続法の流れにそって解決を考えていくことで実務的な感覚にふれていただきたい。まだ民事保全法や民事執行法を勉強していない人は、今日の講義をきっかけに勉強を進めていただきたいと思います。

 

T 事案の説明

もちろん本件の解決方法として、ABの提示する条件で契約を続けるというのもひとつの選択肢であると思います。ただそれでは困ることがあって、土地の上に建物が建ってしまうと、Bの賃借権は借地借家法で保護される借地権として非常に強力な権利となり、Aは最初に契約した場合と比べて、簡単には土地を返してもらうことができなくなります。そこでAとしてはBたちに出て行って本件土地を明渡してほしいと思うわけです。

 

U 問題点の整理

1.まず、Aとしては誰を相手方にするのかということが問題となります。

@ B株式会社については、法人というのは代表者が甲から乙に変わっても人格は変わらないので、そのままB株式会社ということになります。

A 「C総業 代表者丙」は、有限会社でも株式会社でもないのでC総業こと丙という個人と考えます。

B Eについては、ただの抵当権者ということで、登記簿上の占有はありますが、Aの所有する土地の占有はしてないので、本件では相手方とする必要はありません。

 

2.では、Aの請求権の根拠はなんでしょうか。Aは土地の所有者であるので、土地所有権に基づく物権的妨害排除請求権がAの請求権の根拠となります。

Bの土地占有権原は何かというと、Aとの土地賃貸借契約に基づく賃借権ということになります。よってAはBの占有権原をなくすためにBに対して土地の使用目的違反を理由に契約の解除をします。

ではCこと丙はどうでしょうか。丙はAと契約しているわけではないので自らの占有権原というものはありません。丙はBの土地使用権原に乗っているだけです。丙は自らの占有権原はないので、Bの占有権原を援用することになります。そして、B、争うためにはAの主張する契約解除は無効だと主張するしかないわけです。そのために考えられることは、たとえば、本件建物を建築することについてAの承諾を得ているとか主張するのですが、これを証明するのはなかなか難しいと思われます。そこでAは訴訟をすることになります。

 

V 仮処分名命令の申し立て

では、いきなりAは訴訟をすべきなのでしょうか。なにもせずに訴訟をすると、困ることがあります。例えばBが誰かに本件建物を売ってしまったら、訴訟で勝っても執行できなくなってしまうことがあります。それでは困るので、仮処分の申し立てをして仮処分債権者のAに対する関係では所有権が移らないように登記して相手方を固定してしまう必要があります。また、占有も移転しないように、仮処分の申し立てをして占有者を固定しなければなりません。この登記と占有の2つの仮処分が必要になってくる訳です。

処分禁止の仮処分については、民事保全法にあるとおり、申し立ての趣旨、保全すべき権利及び保全の必要性の疎明、担保を立てることが必要になります。申し立ての趣旨については、サンプルにあるように、「債務者は、別紙物件目録記載の不動産について、譲渡並びに質権、抵当権および賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない」と、このようになります。

そして何を保全してほしいか、なぜ保存してほしいかを示す必要があるため、「保存すべき権利=所有権に基づく本件土地明渡請求権」、「保全の必要性=このまま放置しておくならば、本案訴訟で勝訴しても、その執行が不能または著しく困難となるので、保全の必要性があること。」と、このようなことを記載します。

そして、仮処分には担保を立てなければなりません。なぜ担保をたてるのかというと、仮処分というのは申立人の証拠等だけを見て、相手方の言い分を聞かずに一方的に裁判所が決めてしまうので、間違いがあるかもしれないからです。そのような場合に、相手方の損害賠償請求権を担保するためです。

では、どのような担保の立て方をするのかというと、保証金という決まった金額を現金で法務局に供託するという方法になります。あと、銀行と支払保証契約をする方法がありますが、これは銀行に保証金相当額を定期預金として預けて、いざという時にはそのお金を銀行が払うことを保証しますよ、という契約をするということです。しかし、この方法は今は使われていません。ほとんどが法務局での供託で行われます。その理由は、現在は銀行の保証料の方が定期預金の金利よりも高いので、申立人にメリットがないからです。

いくら必要かということですが、だいたい権利の2割くらいの金額が必要です。そして、いついくら戻って来るかということですが、もちろん全額戻ってくることは戻ってきます。少しですが金利もつきます。担保権者である仮処分の相手方(本件の場合は、B及び丙です。)

が担保権を放棄した場合や本案訴訟で仮処分債務者である申立人(本件の場合はAです。)が勝訴した場合に担保の必要性が無くなりますので、全額がかえってきます。

仮処分の決定が出ると、裁判所書記官が登記の嘱託をして、法務局に送ります。そうすると、登記簿に処分禁止の仮処分が載るので、Bが本件建物を売って所有権移転登記がなされてしまったとしても、Aとしては、無視できるということになります。

占有移転禁止の仮処分については、裁判所書記官がするのではなく、執行官がします。占有移転禁止等の記載されている公示板を土地建物のどこかに掲示します。そして仮処分のあったこと。をきちんと調書に残しておきます。要件については、処分禁止の仮処分とまったく同じです。

 

W 訴訟

そして、仮処分もできてAは安心して訴訟を起こすわけですが、訴状には何を記載しなければならないのでしょうか。これは民事訴訟法133条にある通り、当事者、請求の趣旨、請求の原因を書かなければなりません。請求の趣旨が最も重要で、判決で請求が認容されればこの通りの判決主文になります。

どのように書くのかといえば、@「被告Bは原告に対し、別紙物件目録記載2の建物を収去して同目録記載1の土地を明け渡し、かつ平成 年 月 日から上記明け渡し済に至るまで、1ヵ月10万円の割合による金員を支払え。」となります。

「収去」というのは建物を壊して撤去するという意味です。

金員の支払の期限をいつからにするかというと、例えばですが、契約を解除した日からですとか、訴状が届いた日の翌日からというようにしたりします。なぜ10万円かというと、契約で賃料10万円としているからです。「金員」としているのは、具体的には利息の場合もあるし遅延損害金の場合もありますが、主文では単に金額だけを明らかにすることになっているからです。利息の場合もあるし遅延損害金の場合もあります。

次に、A「被告丙は原告に対し、同目録記載2の建物から退去して同目録記載1の土地を明け渡し、かつ平成 年 月 日から上記明け渡し済に至るまで、1ヵ月5万円の金員を支払え」となっています。@と何が違うのかといえば、「収去」が「退去」になっているところです。「退去」とは、単に出ていくという意味です。また「金員5万円」となっており、なぜ変えたのかといえば、Bと丙とでは不法占有の土地の面積が違うのではないかということからきています。

B「訴訟費用は被告らの負担とする」とあるのは、これは必ずこのような訴訟費用の負担の文言をいれます。訴訟費用とは、訴訟を起こす際に必要になる印紙代や、鑑定が必要になった際の鑑定料が含まれます。よく誤解される点ですが、弁護士費用は含まれません。

C「第1項及び第2項に限り仮に執行することができる」とあります。これは大事なことで、原告のAは仮執行宣言をつけてくださいといっているわけです。なぜかというと、これをつけてもらわないと、1審で勝訴判決が出ても、判決は確定して初めて執行力が生じるのが原則だからです。控訴された場合控訴審の判決がでるまで待たなければなりません。上告もされるかもしれません。どんなに裁判所が審理を急いだとしても相当の時間がかかってしまうので、1審の判決の時点で執行ができるようにしておこうというわけです。

請求の原因、これは要件事実ともいいますが、@「Aは本件土地の所有権を有すること。」これが請求の源ともいえるものです。

A「Bは本件土地上に所在する本件建物を所有し、もって本件土地を占有していること。また、Bは本件土地を車両及び資材置き場として使用占有していること。」これはこの土地をBが占有しているということを言っているわけです。 

B「AB間の本件土地賃貸契約は、Bの契約違反(債務不履行)(車両及び資材置き場という使用目的に反して無断で建物を建築したこと)を理由の解除されたこと。」

C「丙は本件建物の一部をBから賃借または使用借し、もって本件土地を占有していること。また本件土地を車両及び資材置き場として使用占有していること。」

D「Bの本件土地の不法占拠による賃料相当額損害金は1ヵ月10万円、丙の不法占有による賃料相当額損害金は1ヵ月5万円であること。」これは附帯請求である金員請求の根拠となります。

証拠方法と添付書類についてなにが必要かといえば、まず土地建物の登記事項全部証明書というものです。これは昔でいう登記簿謄本です。今は登記事項は全部コンピューターで管理されています。

賃貸借契約書、これは本来Bが自らの占有権原として出すべきものですが、先回りして出しておくということです。

書留内容証明郵便(賃貸借契約解除通知書)、これはAからBに対して、契約違反の理由により契約を解除しますという内容のものです。

郵便物等配達証明書、これは内容証明郵便による契約解除の通知が確かにBに配達されたということを証明するものです。解除の意思表示というのは相手に到達して初めて法律効果が出るので、Bにそんな書面は受け取ってない、と言わせないためのものです。

現場写真、これは絶対出さなければならないというものではないのですが、裁判官に現場イメージを持ってもらうために通常出します。

名刺(C総業代表 丙)、これは「C総業 代表者丙」を示すものです。これがないと、C総業って誰がやっているのか?ということになってしまいます。

履歴事項全部証明書、これは昔でいう商業登記簿謄本のことです。これも今はコンピューター化されています。なぜこれが必要かというと、現在のBの代表者は乙であることと、その前には甲から乙に変わっているということがわかるからです。

固定資産税評価証明書、これは本件土地所有地の市の固定資産税係が発行するもので、この物件は課税上いくらかを証明するする書面です。これは訴額の算定根拠となります。

訴訟委任状、これはAが弁護士に訴訟を頼んだということを示すものです。

民事訴訟法のルールでいうと争いのない事実は立証する必要がないので、被告らの答弁の内容を見てから証拠を出せば足りるはずですが、今は、審理促進のために訴状の段階でこれらの主な証拠をほぼすべて出すということになっています。

そして判決は、勝訴すれば主文は請求の趣旨と同じものとなり、仮執行宣言がついたという前提でこれから執行の話をしていきます。

 

X 判決の執行

債務名義=執行力ある判決正本といういわば執行可能な「お墨付き」です。判決送達証明書、これは相手方に不意打ちにならないための執行の要件なので、執行官のところへ持っていくことが必要になります。では民事執行法の条文を開いてみてください。この法律は読むのは頭が痛いですが、必要で大切だからよく使う法律です。債務名義は22条に書いてあり、仮執行宣言が債務名義となることがわかります。168条は、金銭の支払いを目的としない強制執行についての条文です。お金を払えというのではなく、何なにを引き渡せというものですね。執行官が債務者の不動産に対する占有を解いて債権者に占有を取得させることができるというわけです。

しかし、土地上にある車などはどうなるでしょうか。これらは執行の対象外となるので、「目的外物件」として他へ移動させるということになります。つまり執行官がAが頼んだ業者と一緒に来て、持っていきます。保管はどうするのかというと、相手方が受け取ってくれればいいですが、受け取ってくれない場合は、動産執行の方法で売却して処分することになります。具体的には、期日を決めて競りに出し、たいていは入札する人がいないので、自分で買って自分のものとしたうえで処分することになります。

建物についてはどうでしょうか。動産と同じように処理して、取り壊してしまってよいでしょうか。結論から言うと取り壊すことはできません。なぜできないかというと、土地を明渡すことと、建物を壊すこととは別のことです。それぞれ講学上の言葉で「与える債務」と「為す債務」との違いにあたります。「与える債務」は直接強制できますが、「為す債務」については代替執行か間接強制ということしかできません。つまり、強制的に収去という行為をBに直接やらせることは人権上できないのです。本件では代替執行をすることになります。

具体的には、「債権者の申し立てを受けた執行官は、別紙物件目録記載の建物を債務者の費用をもって収去することができる。債務者は、あらかじめ債権者に対し、上記建物を債務者の費用で収去するための費用として100万円を支払え」という授権決定と費用前払決定をしてもらうことになります。これにより執行官が債務者に代わって、債務者の費用をもって建物を収去することができるのです。

そして普通は執行立会人という執行に精通しており、いわば弁護士よりも詳しい人たちが立会い、弁護士はその人たちに執行の実務はほとんど丸投げすることが多いです。そのため弁護士もこの分野について得意という人は少ないように思います。

壊したあとの廃材は、動産となりますが、もちろんBの所有物です。この処理については差し押さえて動産と同じように処理します。ただし、建物についてEの抵当権がついているので、Eの抵当権の物上代位権が建物をこわした廃材に及び、競売で売れた廃材が仮に10万円だとしたら、執行官が配当手続きをしてEに配当することになります。

 

Y もし仮処分をしていなかったらどうなるのか

本件のようなケースでは仮処分はまず行われるものであり、しないということはまずあり得ないのですが、理解を深めるために考えてみましょう。これは建物の所有権あるいは占有の移転時期がいつかによって対応が異なります。

 すなわち所有権の移転時期や占有の移転時期が、本案訴訟の口頭弁論終結時の前か後かということで区別するからです。これは民事訴訟法1151項3号、民事執行法23条1項3号により規定されています。どういうことかといえば、口頭弁論終結後の承継人については確定判決の効果も及ぶし、強制執行もかけることができるということです。口頭弁論終結時とはいつかというと、裁判所が「これで結審をします」といった日であり、判決正本には必ず口頭弁論終結時はいつと書いてあります。この場合には承継執行文というものが必要になりますが、移転時期が口頭弁論終結後だということが証明されれば、出してもらえます。これに対して、口頭弁論終結前の承継人については、占有を承継した人を本来は訴訟にひっぱりだして訴訟手続を承継させることができたはずです。その人に訴訟を承継させるべきであるのに、そうしなかったので、この人を相手に新しく訴訟をやり直さなければなりません。これはとても面倒なことです。このことから本件のようケースでは仮処分は絶対にしておかなければならないということがわかります。

 

Z まとめ

相手方のBや丙が、Aと争っても勝目がないと思って任意にAに協力すべく、和解を申し入れてきた場合には、それを受け入れるということも賢明なことだと思います。ただしその場合には、相手の話をよく聞いて騙されないようにしなければなりません。たとえば一定額の立退料と交換に土地建物を明渡す和解ができた時には、相手方からは必ず残留物の所有権放棄の一筆を取り、必ず現場で立ち会ったうえで、立退料を支払う様に気をつけます。

いままで話してきたことができるようになるためには、民事保全法、民事訴訟法、民事執行法に精通し、使えるようにしておかなければなりません。そうすることによって、最終的な解決から考えて、そのためにはどうすることが必要で、なにが邪魔しているのかという、手続的には逆のことを考えることによって、今やらなければならない手続きがわかっていくようになっていくと思います。手続法の勉強は、条文も読みづらく正直いって特に最初は大変ですが、だんだん慣れてきます。今日の私の話を少しでも参考にして頑張って勉強していただきたいと思います。