2010年78日ロイヤリング講義

講師:中西 淳 先生

                                 文責:納田拓也

― 契約に関する基礎知識と実務 ―

 

始めに

今日は、契約に関する基礎知識と実務についてお話しします。

本日は、パワーポイントを使い講義します。希望者にはパワーポイント資料を授業後渡します。なお、参考資料が手元にありますね。これは、契約の雛形ですが、わざとおかしい条項を入れてみたり、抜かしてみたりしている授業用のものです。

 

1 契約と契約書の関係

まず、契約とは何かということから話します。契約とは、相対立する複数の意思表示の合致を主たる構成要素とする法律要件です。似たものとしては、合同行為(相対立しない、同じ方向を向いている意思表示の結合によって成立する法律行為)があります。例えば会社の定款は同じ方向を向いているので、契約にはあたりません。今日は契約についてお話しします。

契約と契約書は同じですか。契約書と契約は違います。契約は意思表示が一致すれば成立し、契約書はいりません。例外として、保証契約は、書面でしなければなりません(民法4462項)。

では、契約書は不要ですか?ただ、やはり契約書は必要です。なぜなら、(これが絶対正しいとは限りませんが)以下の三点に契約書の意義があるからです。

     最大の証拠

裁判所は、契約書を証拠として非常に重視します。

・合意内容の履行を確保

 書面で残っていたら、相手が履行しない場合、裁判所に行かずに、相手に履行を促すことで、履行をしてくれることも多いです。

・合意内容を明確化

 単なる売買でも、危険負担や所有権の移転時期など当事者で決めないといけないことは多々あります。口頭だけでは不可能です。

 

2 契約書の基礎知識(形式面)

タイトル、前文、日付、後文、署名・記名捺印、印紙について、順に説明します。

 

契約書のタイトル 

 売買に関する契約書だけでも、タイトルには、売買契約書、売買に関する協定書、合意書、覚書などがありえます。これらに拘束力の違いはあるでしょうか。答えは、ありません。どのようなタイトルでも、タイトルによって契約の拘束力には影響がありません。タイトルではなく、内容で、拘束力がいかなるものかを判断します。

付随的な論点としては、売買契約書というタイトルで、実質的には請負の内容が記載されている場合、売買契約書になるのか、請負契約書になるのかという問題があります。

契約書はタイトルではなく内容で判断します。内容が請負なら、請負になります。

そして請負契約としての印紙が必要になります。

 

契約書の前文

法的には特に意味はありません。契約書をわかりやすくするのみ、つまり当事者の理解を助けるのみです。英語の契約書では、前文だけで1p使うことがありますが、実務では、日本では2〜3行で済ませるのが一般です。企業では、契約の担当者が入れ替わることがありますので、タイトルや前文があると、実務では便利です。

 

日付

これは、絶対いるわけではありません。裁判所も、日付がなくても証拠として扱います。

ただ、日付があれば、その日に契約があった、その日に効力が発生したなどの推定が働きます。最近では、民事訴訟規則により証拠説明書を書かなければなりません。そこには、契約の作成日付を書くことになっています。また実務では、日付は必ず書きます。

 

 契約書の後文

後文には、原本の数を記載します。当事者は通常二者いるので、原本は二通必要です。そこで、印紙も二つはらなければならない。ただ、実務では、印紙代が勿体ないので(印紙代だけで、数十万する場合もある)、原本は一つとし、一つは写しとすることもあります。

裁判所も、写しでも、証拠として認めてくれます。一般的に、後文が無いからといって、契約の効力が変わることもありません。ただ、後文は、前文と比べて大切ですので、よく確認しましょう。

 

署名、記名・捺印

署名:自筆のサイン

記名:印字されているもの(e.g. ゴム印、パソコン入力)

cf 民事訴訟法2284項により、署名と押印はどちらか一つで構わない

(ただ、日本の印鑑の使われ方の実務に照らすと、署名の場合でも、どうしても押印ができないという特別の場以外は押印ももらうべきです)

 

押印

実印(市役所で印鑑登録)住宅ローン、遺産分割 不動産売買などで必要となる

認印 (実印以外)

はんこが認印のとき契約は成立するか?→する(契約の成立は、口頭での合意で足りますし、印鑑の制限もありません。)弁護士の委任契約書など、契約の規模により認印も多い。

 

3 契約の当事者

 以上で、契約の形式面について話しましたが、これからは、当事者について話します。

会社と契約するとき、会社の誰と契約をしたらよいのでしょうか。社長、専務、支配人、部長、課長の場合に分けて、見ていきましょう。

 

代表取締役

 原則、代表取締役と契約するのは、問題ありません。なぜならば、会社法3494項により、代表取締役は、会社の業務に関する一切の権限を有するからです。しかし、本当にその人が代表取締役なのかを調べなければなりません。調べ方としましては、名刺ではなく、会社の商業登記簿謄本で確認しましょう。

 

 専務

 では、代表取締役ではない、専務取締役と締結した時はどうでしょうか。通常は、専務は代表取締役のことが多いので問題になります。この場合、会社法354条の表見代表取締役の規定により、保護されます。しかし外観法理では、外観の存在、帰責性、善意無重過失の用件が必要となりますので、やはりその人が代表取締役かどうか調べてください。会社のとるべき行為規範として、表見法理に依拠するのは不適切です。

 

支配人(事務所長など)

会社法11条1項により、支配人には事業に関する、一切の権限がありますので、事業の範囲内ならば、支配人と契約を締結しても大丈夫です。また、相手が支配人かどうかは、会社の本店所在地において登記されるので確認ができます。

 

部長・課長

契約の内容によっては有効です。なお係長では裁判例では微妙です。ただは、代表取締役とは違い、会社法14条により、委任を受ける必要があります。なので、その人が委任をうけているかどうかチェックする必要があります。また、実務では代表取締役などの、権限ある人の委任状を契約に添付してもらうこともあります。

 

4 印紙

印紙税法という法律があります。皆さんが、印紙を目にする機会には、飲食店の領収書があります。3万円以上なら200円の印紙を貼らなければなりません。宴会で幹事をされた方は、見たことがあるかもしれません。

契約書にも種類によっては、印紙を貼らなければなりません。印紙税法により、印紙を貼らなければ、貼らないといけなくなりますし、3倍の印紙を払うペナルティ措置があります。ただ印紙がなくても契約には影響せず、成立します。また契約書の印紙代は、契約に定めがない場合は、契約当事者が折半します。これは、民法の規定で、契約費用は折半となるからです。(558条、559条)

写しに関して、原則として印紙は不要です。また印紙税法は日本の法律であり、アメリカなどでは、印紙税法はありません。実務では、日本・アメリカで契約する時、まず日本でサインして、次にアメリカでサインをすることによって、アメリカで契約を成立させ、印紙代がかからないようにすることもあります。

 

5 用語の使い方

推定する:反証を挙げれば、推定を覆すことが出来る。

みなす :反証を挙げても、覆すことは出来ない。

依頼者にとって有利なことは「みなす」、不利なことは「推定する」にします。

 

及び  :並びより、大きい範疇で使用

並び  :お呼びより、小さい範疇で使用

及び、並びは、六法の裏にかいてあるルールでやれば、裁判所も、当事者も理解しやすくなり、細かいですが、実務では重要です。参考には、刑法3条の2 6号があります。

 

又は  :大きい範疇で使用

もしくは:小さい範疇で使用

基本的には、「又は」を使う。参考に、刑法14条があります。

 

前2項:前の二つの項を示す

たとえば、1〜4項あり、4項に前2項とあれば、2項のことではなく、2項・3項両方指します。

 

以上で形式面を終わります。以下、内容面について話します。まずは一般的な契約の話をし、次に、具体的に売買契約で説明します

 

6 契約自由の原則

まず契約の大前提として、契約自由の原則があります。これは、私法上の契約関係は個人の自由な意思によって決定され、国家の干渉を受けないということです。具体的には、相手方選択・契約の内容・契約の方式の自由があります。ただ、内容に関しては、公序良俗などの制限を受けます。

今日は内容の例外事項、強行法規や公序良俗などの話をします。強行法規違反にならないようにするためには、簡単ではありません。なぜなら、独占禁止法、消費者保護法、借地借家法など、強行法規を持つ多くの法律があります。強行法規違反にならないかは、常にアンテナを張って、気をつけなければなりません。例えば、消費者保護法では、業者と個人の契約において遅延損害金は最大で14.6%となっています。また、独占禁止法では、原則、強い企業が弱い企業に対して力を発揮しすぎないようにしています。瑕疵担保責任は、売主からしたら、責任追いたくないですし、契約を解除したくありません。買主なら逆に考えますね。宅建業法では、宅建業者が売主の場合、瑕疵担保責任の期間について、目的物の引渡しの日から2年未満とする場合は、無効とされます。以上のように、強行法規により、契約の自由は、大きく制限されています。法律の知識が必要ですので、勉強するときに、強行法規について、注意してください。

 

7 動産売買契約書

次に、参考資料を基に、動産売買契約書で、説明します。甲・乙共に企業で、売主甲が依頼者、買主が乙です。また対象物は高級なおもちゃです。この契約を例に、どういう点に注意しなければならないかチェックします。

 

基本条件の確定

目的物の特定、代金の支払い方法・支払い時期、引渡しの時期・方法、所有権移転時期、危険負担、瑕疵担保責任

 

売主が依頼者

代金債権の回収など依頼者の利益を守ることが必要です。例えば、期限の利益喪失や解除条項があります。

 

契約書の確認の視点

 契約書で、意図している取引を実現できているか。

 必要な条項の抜けはないか。

 記載のある条項で、(不当に)不利な条項はないか。

 契約書の文言で不明確なものはないか。

  以上の四点を、過去の契約の例を見たり、想像力を使ったりして(後でこんな問題が起きるかも)チェックします。

 

明確になると不利な時は、わざと必要な条項を抜かしたり、わざとぼかしたりすることもあります。この場合、民法や商法(一般的には、ニュートラル、どちらに有利でも不利でもない)で補います。

 

8 ここで参考資料を読んで、参考資料の契約に何か問題があるか5分ほど考えて下さい。

 

目的物の特定

民法401条により、目的物を定めていないと中級の物になってしまいます。売主は低級を売りたいかもしれませんので注意しましょう。

 

支払方法・時期

 参考資料には、この規定があります。もし規程がなければ、民法573574によります。

 

引渡し

参考資料では、2条で書いています。この例では引渡期日を725日と指定しています。よって,その日に、目的物を引き渡さなければならないということになります。724日に持って行っても,引き取りを要求できません。引渡期限と期日は違います。細かいですが、実際問題になりえます。契約書の作業には、大きな視点、細かい視点も必要です。

 

所有権移転条項

 この契約書では所有権移転の時期はありません。そこで、民法を見ます。ここでは、目的物は、不特定物なので、特定した時に移転します。そこで、お金をもらっていないのに、所有権が移転してしまします。売主が立場強いので、売主の有利なように、代金完済の時の移転するように、書き換えます(本件商品の所有権は、乙が甲に対して売買代金を全額支払った時をもって、乙に移転する)。所有権は長く有していたいです。所有権があれば,所有権に基づく請求ができます。

 

危険負担

この契約書には書いてありません。そこで民法を見ます。今回は不特定物売買なので、特定したときに所有権とともに、危険も移転します。実務では、引渡し時が多いです。534条では、すぐに危険が移転してしまうので、実務では、契約で定めます。また、危険の移転時期により、売買代金が変わることもありえます。

 

瑕疵担保責任

商法526条を見ます。会社間なので、民法ではなく、商法を適用します。依頼主の売主としては、担保責任を制限したいです。今回は5条に書いています。実務では、「一切責任を負わない」とすると、製品に責任をもっていないと思われることもあります。責任については、修理する・代物弁済・損害賠償などがあります。売主側なので、期間や責任の内容などで制限します。

 

任意処分条項

 今回は4条に書いてあります。相手が受け取らない時は、商法524により催告・競売をし、競売代金から売買代金を回収します。しかし、催告や競売をするのは負担が大きいです。そこでより簡単に代金を回収できるように、催告不要、競売不要・損害賠償にも充当可能という規定を設けています。

 

期限の利益喪失

今回は、あえて分割払いにしていますが、気をつけなければならないのは、一回目遅れても、二回目を今すぐ払えと主張出来ないことです。そこで、期限の利益を喪失させて、債権回収行動に移れるようにしておく必要があります。

 

解除条項

今回は7条に書いていますが、売主としては、催告なしで解除したいです(即時解除)。一般論としては,即時解除としておく方がよいでしょう。

 

遅延損害金

買主がお金を払ってくれない時、商法では年6分しかとれません(商法514条)。売主としては、もっと高くしたいです。またお金を払っていない人は、他にもはらっていないことが多いです。そこで、遅延損害金を高くします。すると相手側は、それを優先して支払ってくれます可能性が高くなります。原則として、公序良俗に反しない限り、遅延損害金は、いくらでもいいですが、個別具体的に、消費者保護法や利息制限法を参考に20%前後とすることがよいと考えています。

 

保証

保証人が署名・捺印していません。ここを直す必要があります。第三者の義務を定めた場合にもかかわらず、当該第三者が署名・捺印していないことがたまにあります。注意が必要です。

 

公正証書化

公正証書化すると、証明力が高くなり、また金銭債権については、強制執行認諾文言付きの構成証書とすることで、判決なしに強制執行できるようになります。裁判は時間かかりますので、公正証書にすると便利です。

 

専属管轄

今回の書き方では、付加的な合意管轄になってしまうかもしれません。きちんと専属的合意管轄になるようにしましょう。

 

9 最後に〜契約実務の雑感〜

・様々な条文の知識が、契約書には必要です。そこで、弁護士になっても、民法・商法は大切です。しっかり勉強してください。

・立場が弱いと、あえて契約をぼかすことも重要になることがあります。

・依頼者に有利すぎると、相手に不信感を与えることもあります。

 

                                     以上