2010年7月1日ロイヤリング講義

講師:高橋正人 先生

文責:角穴 雄祐

「保険法の基礎と保険改正法の概略」

 

本日はロイヤリングの講義の一つとして保険契約法の話をします。サブタイトルに〜と書いていますが、今日お話ししようと思う中心の部分はそちらになりますが、最低限の知識を付けて頂くために保険法の話をしたいと思います。内容的にはためになる話というわけではないんですけれど、皆さん法律を学んでいて、法律解釈を中心に、法律はすでにあるものという認識を持っていると思います。小学校から法律は国会でつくるものと教わってきていて、六法を見れば載っている。誰が作っているのかも知らないという人も多くいる中、立法の部分についてお話したいと思います。

裁判は神様に替わってするものと考えているかもしれません。人が人を裁くことができるのかという話はよく議論になります。一方で、立法というのは人間の行うものであるというのを感じて頂きたいと思います。

保険法をロイヤリングでされる人は他にいないと思います。まず保険の契約に関する法律がどこにあるのか知らないと思います。今はもうなくなってしまったんですが、元々は商法に入っていました。資料で付けています。法律の授業で法律を資料として配るというのもおかしな話ですが、商法に入っていた時も薄い六法だと省略されていました。

ずっと司法試験の出題範囲外で、司法試験を受ける人は法律のことを一生懸命勉強すると思いますが、範囲外のものまではわざわざ勉強しない。受けない人だと、受ける人ですら勉強しないものを勉強しようとは思わない。けれども、保険というのは日常生活で切っても切れない関係にあるものです。家を持っていれば火災保険に入っているだろうし、自動車の免許を取って運転する人なら自動車保険に入っているでしょう。サラ金に関わらない人はいくらでもいますが、保険に一切関わらずに生きてきた人というのはいないと思います。しかしながら法律家でさえ保険法を知らない。それは裁判官も例外ではありません。

旧商法629条の条文の「偶然」とはどういう意味か。民法で「悪意」という言葉が出てきますが、これは一般に使う「悪意」とは意味が違うということは法律を学んでいれば常識として知っていると思います。しかし、法律家でも商法の「偶然」を一般的な意味だと思っている人がいます。これは事故の発生と不発生が不確定であるという意味で、故意によらないという意味ではないんですね。

わざとやったんじゃないのかというのは免責事由になり、抗弁で保険会社が立証すべきものなんですね。立法というのは人間の営みだと言いましたが、裁判では全てが分かるわけではないんですね。そうかもしれない、そうでないかもしれないと言っていては紛争は解決しません。

偶然という言葉の意味の中に、わざとやったわけじゃないということを含めると、わざとやっていませんということまで立証しなければなりません。それが立証できなければ保険金が払ってもらえないことになります。考えてみると、わざとやっていないということはなかなか立証するのは困難です。ところが、かなりの数の裁判官が「偶然」にわざとやったわけじゃないということまで含んでいると考え、保険金を払わなくていいという判決を出してしまっているんですね。保険というのは複雑で、約款にも「偶然」という言葉が出てきます。これが商法の「偶然」と同じかはともかく、商法の「偶然」の解釈は、どの教科書にも書いてあるような基本的なものです。つまり、裁判官は基本書すらも読まずに判決を書いているということです。

最高裁判所の判例を引用しておきましたが、これは「偶然」というのが教科書に書いてある意味だと示しているものです。また、約款の「偶然」も同様だと書いています。

基本に戻って、保険というものについてお話をしたいと思うんですけれど、損害保険についてまずお話をします。これは保険法では2条6号です。ここにも「偶然」という言葉が出てきていますが、この意味を書かないと間違ってしまうんじゃないかという意見が出ましたが、最高裁の判決も出た後だったのでこのままになりました。

1000軒家があると平均で年に1軒火事が起きる。このように平均を出せることが保険にとっては大事で、大数の法則と言います。

被保険者というのは家の所有者、保険契約者というのは保険料を負担する人で、親戚にあまりお金のない人がいる場合に替わりに払ってやる場合など、必ずしも被保険者と=ではありません。家の価値が1200万円で、1000万円の保険だと一部保険となります。逆に家の価値が800万だと超過保険となります。

800万円の家が全部燃えても800万円しか払われないんですね。意図せずにこの価値になるのは好ましくないでしょう。

また、花火屋と氷屋の保険料が同じというのもおかしいですね。この家何に使っていますかという契約の申告に基づいて保険料を定めます。これが告知義務で、1軒1軒回って調べるのも大変なので嘘をつかないという前提で申告してもらいます。

 

今パーっと言ったので意識されていないかもしれませんが、保険金額と保険金の額というのは違うんですね。ここではそういう違いがあるんだという認識で結構です。

次は生命保険についてお話します。これは2条8号です。除かれる渉外疾病定額保険契約はどうなっているかというと、2条7号に記述があって、間にワンクッション(怪我とか病気)が入るものを渉外疾病定額保険契約と言って区別しています。ただ、法律の規定にあまり違いはありません。生命保険は定額保険と言われて、あらかじめ決まった額が支払われることになっています。ある年齢までに死んだらいくらというように決まっていて、例えば20歳の人を集めて70歳までに死んだら1000万円払うというように決める。70歳までにどれぐらいの人が死ぬかは分かっているんですね。これも大数の法則です。1000万円と言ったらその額で、あなたには1000万円の価値がないから500万円ですということはありません。

もう1つは1年以内に死んだらというものです。これは20歳の人が入るのと55歳の人が入るのでは保険料が違ってきます。終身保険というのがあります。期間を定めず、いつ死んでも保険料を払う。人はいつか必ず死ぬので必ず保険料が払われる。これが成り立つのかというと、性質が預金に近いんですね。

損保と生保の違いは、保険価格という概念があるかどうかです。家には価格の差がありますが、人にはそれがありません。人に生命にも差があるんじゃないかと思う人もいるかもしれません。交通事故で死んだ場合の慰謝料は差にはあります。しかし、生命保険ではこういう考え方を取っていません。被保険者という言葉が同じように使われていますが、損保では財産を持っている人。例えば家の持ち主が被保険者になります。一方で、生命保険ではその人が死んだら保険料をもらうという形なので、本人は保険料を受け取りません。

保険というものについて分類を考えたいと思いますが、今までの話では一定額を払うのかそうでないのかという区分でした。もう1つの場合は、人に対してなのか、物に対してなのかという分け方です。これは従来の商法にはなかったんですけれど、新たな規定ができました。あるものが壊れたらあらかじめ決めていた一定額を払う。それが価格とほぼ同じならいいんですが、全然違う場合はどうでしょう。例えば、1万円の物が1年以内に壊れたり盗まれたら100万円払うという保険が許されるかというと、これは賭博になるんです。

もう1つ、賠償責任保険というものがあります。これは損害保険の一種で、一般的なものは自動車保険です。これは従来の商法に規定がなかったんですけれど、注意書きのような形で規定が設けられました。賠償責任を前提としていないような裁判官もいるんです。保険を払うべきかどうかの賠償責任を裁判で争っているのに、保険があるなら払えばいいじゃないかというような裁判官がいました。生命保険とごっちゃになっているんですね。損害賠償額の策定というプロセスを経て保険料は支払われるんです。

車両保険、これは自分の自動車が事故で壊れたり盗まれたりした時の保険で普通の保険です。自動車保険というのは色々ミックスになっているので、自分の過失相殺分を負担することになっているのでややこしい。

今年の4月に施行された保険法についてお話します。これを100年ぶりに改正するということで出来たのが保険法です。一般的に告知義務と言われるのは、生命保険に入る際に健康状態を言うというものです。従来は大事なものを自発的に言う形でしたが、これによって聞かれたことだけ答えればよくなりました。保険の募集員が契約を取りたいために病気があるけれど言わないということもありました。これを告知妨害と言って、これに関する規定も新設されました。保険会社が不利になるのは構わないけれど、契約者が不利になるようなものはいけないというものです。

消費者契約法の関係はありますけれど、そういうものなんですね。書かれているのは辺面的強行規定だけで、任意規定と絶対的強行規定に関しては記述がありません。これは解釈なんですね。わざわざこれは書く必要がないと考えられています。

乾燥イカのお菓子を作っている会社がいて、そのイカで食中毒を起こしてしまった。PL法保険に入っていたんですけれど、その会社がつぶれてしまった。その際に、食中毒になった人に優先権はありませんでした。私の同級生の裁判官が担当していたんですけれど、その時はどうしようもありませんでした。これが改正されて被害者に優先権が当たられるようになりました。

保険法を作るに当たって、内容について議論がありました。商法の条文そのものに問題があるのではないかという認識を持つ人が多くいました。議論していく中で、契約者に不利になっているのはおかしいんじゃないかという意見が出ました。弁護士会の中でグループを作って、国会議員に働き掛けをすることになりました。

資料につけた意見書は元々10ページ以上あるものだったんですが、A41枚にまとめて、保険法にどのような問題があって改正してほしいかというものをまとめました。

保険金の支払時期が具体的に示されていない。法律に明記すべきだと国会に訴えました。責任開始前保険に加入している人の生きた意に反する場合が非常に多い。告知義務(病気を隠していた)に似ているという所がありますが、告知義務はいつまでも言えるわけじゃないし、因果関係がなければ払われないのもおかしい。

保険約款の規制をする内容については非常に苦労しました。弁護士を数10年やっている人が集まって文章を直しながら、阪大の山下先生にも手伝ってもらってまとめました。ちなみに保険法の講義は隔年で来年あるそうです。できれば来年取ってもらってきちんとした講義を聞いてもらいたいなと思います。

支払時期条項の条文をパッと読んで分かった人がいたらすごいなと思います。「日後の日」なんていう表現は他で見たことがありません。調査が必要な時は調査が終わった日と書いていました、最高裁平成9年の判決で、「調査が終わった日」という内容は無効に等しいという判決が出ています。約款に30日と書いていれば30日になります。

資料の3ページから見て下さい。保険法の法案が日数を定めていないということを国会議員に申し立てて、国会議員の1人がこういう議論をした。参議院の方が詳しいので参議院の方を載せました。

約款に対する規定をすること、考え直せということ含まれています。先ほどのA41枚のやつと照らし合わせて頂くと分かると思うんですけれど、我々の提案のほとんどが議論されています。

最近出た面白い判決の話をしたいと思います。資料の7番。これは何を言っている判決かというと、ごくごく普通に生命保険で使われている約款が無効だとされた事件です。これは今上告されています。ある月の保険金を払ってもらおうとすると、この日までに払わないといけないという規定があった。自動引き落としなので引き落としができなかった時には1月猶予があってその日までに払わなければいけない。落ちない→1カ月経つ→その前の月の分が払わなければ解除するというものですが、これは無催告解除じゃないのかという議論がありました。約款なんかで、民法の任意規定に比べて消費者の権利を信義誠実の原理に照らして制限していいのかというものでした。

また別に、ハガキが来るんですが、正式な催告と言えるかという議論がありました。それが資料の6番。

保険料の不払いに対して約款等によって催告を不要とはできないようにしようと考え方もあります。

非法律家の当事者にとって催告がない。海外では必ず催告をするようにという法律もあります。「はがきで対応しています」という主張があって、両面から議論が出ているんです。結局どうなったかというと、今まで通りハガキでやっているし、それでいいんじゃないか、保険法で決めなくてもということである種うやむやになりました。これは消費者契約法に反する、無催告であるとなりました。そもそもこういう決め方で、履行期はいつなのか、いつからが遅滞なのか。同志社大学の木下先生が大阪弁護士会で講義をされたのは、消費者がこの規定を見た時にいつまでに払えばいいかとわかればいいんじゃないかということでした。催告期間は2週間ぐらいで、ハガキを催告と言いますかというと、保険会社は言いませんと言ったんです。

催告に関しては非常に色々な問題があります。厳格な記述に従わせるのは酷だ。辞めたい人が辞めれるようにこうなっているんだからバランスがとれているでしょうと、学者の中では批判的な人もいて、最高裁でこのままいくかはわかりません。

資料5の1番頭、保険法部会の構成を見てほしいんですが、幹事の上から4番目に尾島という人がいます。この人は非常に煮えきらない議論を見ていたんですね。ハガキも送っているし、実務に任せましょうという議論を見ていた人なんで、法制審議会でどうしてそうなるんだと思っていて、消費者の不利益になるんだという判決を書かれたんです。木下先生にこの話を教えて頂いたんですが、やっぱり気に入らなかったんだなという感想でした。法律というのがいつの間にかできてというのではなく、色々な人の信念や、あの時の仇というような考えも入ってできているんだよというのが私の今日の講義でした。こういうのもあるんだということを考えながら保険法の講義を受けて頂いたらと思います。消費者契約法の話も出たので、そのあたりも勉強してみて下さい。それでは私の話はこれで終わります。