201063日ロイヤリング講義

講師:藤木邦顕先生

文責:古川真理

 

少年事件と子供の権利

 

初めに

私は1983年から弁護士をしているのですが、弁護士になった当初から子どもに関わる問題を扱ってきました。少年事件や子どもの人権を巡る問題は色々な形で現れ、法律家として様々な意味で難しさもありますが、やりがいもあります。ロイヤリングということで、各法律や事件に関する知識を覚えるよりも、各事案に対して弁護士がいかに取り組み、何を手掛かりに仕事をしているのかということを分かっていただければと思います。

少年事件の講義と言えば、少年法の構造や成人の裁判との差異、少年事件の発生件数などを取り上げる場合もあると思いますが、本日はできるだけ具体的な事例に沿いながら、少年事件の現状をつかんでいただければと思います。

本日扱う事例は、実際に起こった事件を基に作られていて、私も実際にこのような事件を扱ったことがあります。

 

第一 少年事件編

 事例を検討する際にはレジュメに記載されている設問を念頭に置きながら、事例を読んでみてください。

 勾留所や家庭裁判所に警察署や検察から送られてくる書類に記載された事件の概要(送致事実)を受けて、設問1〜3のようなことを考えることが、少年事件を扱う弁護士の仕事の入り口になります。

では実際に設問に沿って考えていってみましょう。

設問1:少年Aについて成立する犯罪としてどのような罪名が考えられますか。

学生:強盗罪(刑法236条)が考えられます。

先生:この強盗罪と同じような感じで、他に当てはまりそうな罪はありますか。

学生:強盗致傷罪が考えられます。

先生:本事例では怪我をしたという前提ではないので、強盗致傷にはなりません。

   刑法249条あたりは何が書いてありますか。

学生:恐喝罪(刑法249条)です。

先生:強盗と恐喝の条文には似たような文言が記載されていますが、量刑は強盗のほうが重く、恐喝のほうが比較的軽いです。この二つの罪の差異が刑法の各論でよく問題になります。強盗は「相手の反抗を抑圧するに足るような強い暴行や脅迫を加えて財物を強取すること」を言い、恐喝は「相手を畏怖させるような暴行や脅迫を加えて財物を交付させること」を言います。警察や検察は強盗か恐喝かをはっきり分かるような事実の書き方をしているので、送致のときには警察や検察がどちらを念頭に置いているのかは分かりますが、弁護士は、どのような状況でどの程度の暴行を加えたのか等を本人から聞き、強盗なのか恐喝なのかを判断します。

 

では、現在のところ、少年Aは実際に暴行を行ったとされていますが、暴行も行わず、実際にお金を奪ったわけでもない少年Bはどうなるでしょうか。

設問3:少年Bについて、どのような犯罪が成立しますか。

学生:共同正犯(刑法60条)です。

先生:実行行為を共同にした場合は共同正犯です。しかし、本事案のように一方が実行行為を行い、もう一方は実行行為を行っていない場合の共同正犯は何と呼ばれるでしょうか。これは共謀共同正犯と呼ばれます。もっとも本事案では、少年Bは実行行為の一部を負担していると考えられます。

 

 レジュメ1ページの下から二行目に「捜査段階で少年Aの弁護人、家庭裁判所に送致されてから付添人となった弁護士L」と記載がありますが、これが少年事件にかかわる弁護士の立場を正確に表しています。捜査段階では弁護人、家庭裁判所に送致されてからは付添人になるということを念頭に置いてこれからの事例を見ていってください。

弁護士Lは少年Aの弁護人、付添人となりましたが、少年Aと少年Bとは主張する事実が異なり、利害が反する場合があるので、少年Bには容易に会うことはできません。弁護士は利害関係が反する可能性がある二人の弁護を同時に担当することは、弁護人の利害相反という問題が生じるため実務上は極力避けています。

 

では、レジュメに記載された少年Aと少年Bのそれぞれの言い分と警察の送致事実を見比べて、どこか違っているところはあるでしょうか。こういった点を細かく見比べていかないと弁護の方針などを立てることができません。さて、どこに差異があるでしょうか。

学生:少年Aと少年Bは二人とも、少年Bが殴ったと述べているのに対し、送致事実では少年Aが殴ったことになっています。

先生:そうですね。すると本事案では、少年Aと少年Bの言い分を踏まえると警察の送致事実は間違っているのではないかと考えられます。そして、弁護士は両者の言い分を踏まえた上で、二人に成立する犯罪について再度考える必要があります。

   捜査段階から弁護につく場合ですと、供述調書が作られていく過程に同時進行的に関わり、少年にアドバイスを行うこともできますが、家裁の段階で弁護につく場合ですと、供述調書ができあがった段階ですので、全てに目を通し相違点あるいは一致点を検討することになります。

 

設問4:では少年A,Bの言い分を基にすると、二人にはどのような犯罪が成立しますか。

学生:実際に殴った少年Bについては恐喝罪が成立すると思います。少年Aについては…

先生:少年Aは殴っていない、少年Bは殴ったという事実を踏まえると、二人の罪名は変わってくるでしょうか。

学生:二人は脅迫については共謀が認められますが、その後の行為については共謀していないと考えられるので、Aは恐喝罪、Bは強盗罪になると思います。

先生:少年Bはお金をとるつもりで殴り、それを見た少年Aも少年Bがお金をとるつもりであると理解したと述べています。ここで、「共謀」というのはいかなる場合に成立するのかということが問題になります。少年Aと少年Bが犯行に際しての各々の役割分担を事前に行っていた場合は明確な共謀が成立しますが、そういった明らかな共謀が成立しない場合であっても、裁判所は広く「共謀」を認めているのが現状です。本事案のように、少年Bが殴ったのを見て、現場において意思が通じ(「意思相通じ」と言う)、少年Aも金を取ることが目的だと理解したような場合にも、おそらく共謀が成立するのではないと考えられます。あとは、暴行・脅迫の態様や程度によって強盗になるか恐喝になるか変わってくるのであって、二人に同程度の罪が成立するのは間違いないように思われます。

 

また、分け前の比率が少年Aと少年Bで異なりますが、分け前の量によって罪名は変わる

でしょうか。

学生:あまり大きな差でなければ変わらないと思います。やはり、お金を得るまでの行為で罪名が決まるのではないかと思います。

先生:そうですね。やはり、財物を「取る」という行為によって強盗あるいは恐喝が成立するのであって、罪名の決定にその後の分け前の程度は影響しません。

 

では、少年事件は少年法が適用され、成人の刑事事件では刑事訴訟法が適用されると言うのは皆さんご存じのことと思いますが、少年事件と成人の刑事事件の扱いの具体的な差異は何であると思いますか。あるいはどんなところに差異があるだろうと予想されますか。

学生:少年事件では加害者の氏名が公表されません。

先生:そうですね。では成人の刑事事件の裁判所での審理と少年事件の家庭裁判所での審理において違うのはどこになるでしょうか。

 

成人の刑事事件と少年の刑事事件では目的ややり方も違えば、訴訟の構造も全く違います。

成人の刑事事件の構造

成人の刑事事件は下記の図のような順で手続きが進みます。

 少年事件の場合にどこが上記図と異なってくるかというと、勾留に代わる監護措置と言って、捜査をしている段階であっても鑑別所で勾留をする場合があります。また、少年事件においても成年の刑事事件と同様に、警察官による取り調べ等が行われる捜査段階が、成人に係る事件手続きにおける検察官の起訴・不起訴決定と同様のときまで存在します。弁護士は少年事件の場合は家庭裁判所に送致されるまでの間、弁護人として事件にかかわることになります。

成人の掲示事件と少年事件の最も異なる点は、成人の刑事事件においては、起訴・不起訴は検察官の裁量で決められることです(起訴便宜主義)。それに対して少年事件では、家庭裁判所に全件を送致しなければなりません(全件送致主義)

家裁への送致から成人の刑事事件における判決にあたる「審判」までは、単に刑事事件的な調査を行うのでなく、鑑別所に身柄を置かれた少年から事情を聴き、あるいは少年の身柄が鑑別所に置かれなかったとしても家裁調査官を中心に少年の成育歴等を調べ、調査官と裁判官が一緒になり、審判を行います。そして、ほとんどの事件で即日に結論が出され、少年院送致あるいは、保護観察という処分がなされることになります。また、不処分という措置や、児童相談所送致等の措置が取られることもあります。

家庭裁判所は警察に限らず、種々の機関から送られてくる少年について審判を行うことになります。我々弁護士は、逮捕され身柄を拘束されている少年の弁護人として家裁送致に至るまで働き、家裁送致後は付添人として調査官と一緒に証拠や意見を提出し、少年側の意見を審判に至るまで主張していくことが仕事になります。

つまり、少年事件の審判における最終の目的は、成人の刑事事件において想定されているような刑罰を与えることではなく、いかにして少年を立ち直らせるかというところにあります。ただし、全ての少年が教育による更生に適するとは限らないので、審判から検察官に事件を戻す「逆送」を行い、成人と同様の刑事裁判を受けさせることも可能になっています。従来は逆送されるケースは非常に稀でしたが、現在は少年法の改正により、故意によって人の死亡に類するような重大な結果を招いた事件については原則として逆送をすることになっています。しかし、実際には少年が犯罪に至った経緯を踏まえ、審判がなされ、少年院送致とされる場合も往々にしてあります。

 

審判の様子というのも成人の刑事事件と少年事件とは異なります。

成人の刑事事件の裁判では、法壇に裁判官(1人あるいは3人)、法壇の手前の一方に検察官、もう一方に弁護人、弁護人の前に被告人が座るという形の対審構造を取っています。ここでは、あくまで検察官が原告として訴追を行い、弁護人と被告人は当事者として対等に検察官と争い、最終的には裁判官が判断を下すという形がとられているのです。

それに対して、少年事件では原則として成人の刑事事件における検察官のように訴追を行う存在がいません。法廷での位置関係も、裁判官と対面する形で少年が座り、その後ろには家族や学校の先生がおり、成人の刑事事件における弁護人の位置に調査官や弁護人が座り、その逆側には書記官が座ることになります。訴追を行う検察官がいないので、裁判官は家裁に送致された段階で、事件に関わる全ての記録に目を通した上で審判を行います。これは職権主義構造と呼ばれ、裁判官が少年と相対する形になります。付添人は少年の側に立って、事前に意見を提出し、証人尋問をする場合もあります。ここで重要なのは、「検察官の提出した証拠が十分か否か」という発想で審判を進めるのではなく、家裁に送致されてきた事実と付添人が主張する事実とを勘案して審判がなされるという点です。最近では少年事件にも検察官の関与が可能になっていますが、ほとんどの場合では今でも家裁送致の段階で送られてくる書面の全てを見た裁判官が審理を行うことになります。

 

少年事件の審判における結論を決めるに際しては、調査官の果たす役割が非常に大きくなります。調査官の仕事内容を理解していただくために、レジュメには前述の少年Aの経歴を載せています。実際には、本事案よりも簡単な事件であっても、詳細な資料が作成されることになります。問題は、レジュメに記載しているような環境の子がいたとして、これからどうするかということが重要になります。その点が、調査官、親、付添人が最も悩む点であると同時に、最も悩まなければならない点です。

このとき、少年の周囲の人々へ聞き取りを行い、少年の家庭環境や少年がどのような人物であるか、またその人自身は少年とどのように関わってきたのかということを調べるのですが、この作業は非常に困難です。というのも、家裁送致から審判までは4週間しかないのですが、付添人は最低でも審判の約2日前までには少年の周囲の人々の意見を聞き、少年の処分の方向性を決めていかなければならないからです。これは最長で4週間という意味であって、途中から事件を引き継いだ場合には、更なる時間的制約がある中で周囲の人々の意見をまとめていかなければならないのです。

 

さて、レジュメの親族の意見を踏まえた上で、この少年Aにはどういう環境で、どのように暮らさせるのがよいかでしょうか。またそのためにはどういう処分が望ましいでしょうか。

学生:次男とその勤務先の社長は保護に積極的なようで、少年の預け先として適当な気がしますが、少年に再犯の危険性があるのではないかと思います。

先生:年齢や少年に対する影響力を踏まえると、長男の元に預けるのがいいような気もしますが、地理的な問題がネックになっています。また、祖父母についても同様です。この事案において最も望ましいのは、少年の母と一緒に暮らせればいいと思うのですが、母が再婚している以上、それもなかなか難しいのではないかと考えられます。私が付添人になった場合には、母の支えを受けながら次男と次男の勤務先の社長の元で働くという条件で保護観察にならないかという旨を主張すると思います。

 

10年くらい前ならば本日取り上げたような事件ならば、二度目の犯罪であっても保護観察になる傾向がありましたが、最近では一度保護観察後になった後に再度罪を犯した場合には、処分が重くなる傾向にあります。

処分を受け、二度と罪を犯さない少年がいる一方で犯罪を重ねてしまう少年がいるのも事実です。そういった少年の処分をいかに決めていくかも非常に難しい問題です。

最近は若手の弁護士にも付添人として働く人も多いですが、少年事件においては「少年のいいところをなんとか見つけよう」という姿勢、つまり「自分のいいところを見つけようとしてくれる大人がいる」ということが少年の更生において非常に重要な役割を果たしています。最近では、罪を犯す少年の中には発達障害を抱えていることが罪を犯す遠因となっている子もいるので、少年事件に関わる我々弁護士は各少年についての理解を科学的視点から深める姿勢を心がけながら事件に当たっています。

 

第二 学校における子どもの人権編

 弁護士が子どもに関わるという場面においては、やはり少年事件がかなりのウェイトを占めますが、その一方で子どもの人権を守る活動も非常に重要です。電話での相談等で一番多い相談は、やはり学校におけるいじめに関する相談です。その次に多いのは学校の教師に関する相談です。

 こうした相談を受ける中で、私は安易に損害賠償請求などの法的手段に頼るべきではないと考えています。なぜならば、いじめや様々な理由で不登校になってしまった子どもがいざ学校に行こうとしても、法的手段に訴えた後には、余計学校に行きづらくなってしまうからです。大切なのは、子どもが学校に行けなくなっているのはどういう問題があるからなのかということや、子どもが普通の学校生活を送ることができる環境をいかにして整えるかということであるので、そのために必要な措置を講じていくことを心がけています。少なくとも、子どもの権利委員会に属する弁護士の共通見解では、子どもの利益を守るために大人が何をできるのか、そのために法律をどう使うのかということを基本に考えているので、法律家の道に進む人も、そうでない人もこのことを念頭に置いて頂きたいと思います。

以上