2010年5月27日ロイヤリング講義

講師:吉田真弥 先生

文責:角穴 雄祐

「新人弁護士の仕事、ロースクール、司法修習について」

 

1 はじめに

6回目のロイヤリングの授業を担当させていただきます、弁護士の吉田真弥と申します。今日のロイヤリングの講義は、司法修習、ロースクール、新人弁護士の仕事についてお話をしたいと思いますので、気楽に聞いてください。ただ、私語だけはしないようにお願いします。

 

最初に皆さんに質問したいのですが、何回生ですか?3回生の人?4回生の人?

この中で漠然とでも良いので、将来ロースクールに進みたいなと思っている人はいらっしゃいますか。

 

私は弁護士になって1年半です。弁護士は10年目でようやく一人前といわれる仕事なので、1年半だとまだまだ新人ですが、みなさんに近い立場でお話できるかと思います。

私は大阪大学のロースクール出身で、私が大学を卒業した年にロースクールができました。なので、ロースクールの第1期生になります。ロースクールには2年コースと3年コースと2つのコースがあります。いわゆる未修コースと既修コースと呼ばれるものです。私は恥ずかしい話、大学の時にあまり勉強をしていなかったので未修コースに進みました。法学部出身なのですが、3年間未修コースで勉強して、阪大のロースクールを卒業した後に司法試験を受けて合格し、1年間の司法修習を経て、今は大阪の裁判所の近くにある弁護士事務所で働いています。

私が今働いている事務所の形態は、個人事務所です。今では大きな事務所から小さい事務所まで様々な事務所があります。この授業でも7月に来られる向井先生も、新人弁護士の話をして下さるかと思うのですが、向井先生は結構大きな事務所にいらっしゃいますので、大きな事務所と個人事務所では仕事内容も変わってくることが、お分かり頂けるのではないかと思います。

今日は私が働いている個人事務所の新人弁護士はどういう仕事をしているのかという所を中心にお話しできればなと考えています。法律事務所は、個人事務所が多いですね。この間雑誌を見ていますと、6割から7割近くが弁護士1人、ボス弁って言うのですが、経営者が1人で業務を行っている事務所がほとんどのようです。

事務所を経営している弁護士のことを業界では「ボス弁」と呼びます。その下で働いている、私のような雇われの弁護士を「イソ弁」と言います。私が働いている事務所はボス弁が1人、イソ弁が私1人の事務所です。事務員さんは2人いるので、合計4人の事務所で働いています。

最近ではTVドラマに出てくるような大きな事務所とか、東京の方だと400人ぐらい弁護士がいる会社のような事務所も増えてきています。大阪は東京に比べるとまだまだ規模は小さいのですが、それでも100人近くの弁護士がいるような事務所もいくつかあります。大きな事務所だと、M&Aなどの新聞の一面に出るような案件を、チームを組んですることもあるようですが、個人事務所だと一般民事と言われる、いわゆる離婚訴訟とか、土地の明渡しとか、債権回収とかが中心です。それでも分野は広いです。毎日色んな案件がきます。大阪には中小企業が非常に多いので、そういう企業の顧問もしています。日々の労務相談ですね。こういう従業員がいて困っているとか、今度契約をすることになったので契約書をチェックしてほしいとか、そのような案件も多くあります。

 

2 法曹になるためのステップについて

それではレジュメの1を見てください。ここには、法曹になるまでのステップを書いています。今までだと、つまりロースクール制度がない時代は、司法試験に合格すればそのまま司法修習に進むという形でした。けれども、2004年にロースクールが設立されてからは、ロースクールを卒業しないと新司法試験を受けられないという制度に変わりました。また、2011年から予備試験と呼ばれる試験も始まります。これを受ければロースクールに進まなくても、新司法試験を受けられますが、まだ概要が明らかでないのと、おそらく狭き門なので、皆さんが大学卒業後、法曹を目指すのであれば、ロースクールに行くのが一般的かなと思います。

まず、最初に「適性試験」と呼ばれるものを受けることになります。これは、大学受験をされた際にも、大学入試センターを受けてから二次試験を受験されたと思うのですが、それと同じような感じで、一次試験に当たるのが適性試験です。この試験を受験して、その点数を持ってどこのロースクールを受けるかを考えることになります。試験日さえ重ならなければ、いくつかのロースクールを受けることができるので、複数入学願書を出すことが多いと思います。入学願書を出す時には「志望理由書」、どうしてそのロースクールに入りたいのか、どうして法曹になろうと思ったかということを文書で提出するように求めるロースクールがほとんどです。願書の提出後、各ロースクールでの試験を受けることになります。

そして、無事入学すると、未修コースならば3年間、既修コースなら2年間をロースクールで過ごし、卒業したら、その年の5月に実施される新司法試験を受けることになります。新司法試験は何回でも受けられるのではなく、受験回数に制限があります。修了後5年以内に3回しか受験できません。3年間連続で受験して、3回落ちてしまったら、もう法曹になることはできないという制度です。今まで(現行司法試験制度)は、何度でもチャレンジすることができたので、10年、20年と勉強を続けている人もいました。いつまでも方向転換をできないというのを止めよう、他の道も考えた方がいいという国の方針もあったのでしょうか、新司法試験制度では、3回という回数制限ができてしまいました。けれど、3回という回数制限は結構厳しいものだと思います。

私もロースクールの同期が80人いますが、実際に法曹になっている同級生は半分程度で、残りの人達は、まだ卒業してから5年以内なので試験を受けていたり、もう3回受けてしまって法曹になることを諦めた人もいます。そういうことを考えると、ロースクールの間にしっかりと勉強をして、できれば1回で通ることが望ましいと思います。

新司法試験に合格すると、1年間の司法修習をすることになるのですが、その後に二回試験というものがあります。これも司法試験と同じく国家試験です。これは司法修習の1年間で学んだことをちゃんと理解できているかということを試すいわば、卒業試験のようなものです。合格率は新司法試験と比較するとはるかに高くて、90〜95%程度の人は合格します。不合格だとまた来年受けることになります。

このようなステップで弁護士か検察官か裁判官になることができます。裁判官や検察官になりたい人は修習中に申し出て、修習担当の裁判官や検察官から内定をもらうことになります。弁護士になりたい人は、どこの事務所に就職するかというのも一つ大きな問題でして、早い人は合格発表前から、または司法修習中に就職活動をすることになります。最近ではなかなか就職活動も厳しくて、大学からストレートでロースクールに進んだ人は、まだ若くて採用されやすいのですが、中にはずっと司法浪人をしていて年齢だけがいってしまって就職活動が上手くいかないという話も耳にします。採用する側も、社会人経験があったり、理系出身者などアピールできる経歴を持っている人から採用していきます。ですので、就職活動が上手くいかなかった人は、最近では「即独」といって、普通はボス弁の下で何年間かイソ弁としてキャリアを積むのですが、最初から1人で事務所を開業するという人も出てきているようです。就職活動についてですが、人気はやはり東京の大手です。少し、お金の話をしますと、東京と大阪では初任給からしてお給料が変わってきます。東京の大手では聞くところによると1年目から1千万以上の給料をもらっているようです。大阪とか東京の普通の事務所では初任給は600万前後が相場のようですが、最近では就職難なので1年目の給料を300万円しかもらえないという条件でも就職する弁護士も増えているようです。レジュメの最初に書きました法曹になるまでの流れは、今ご説明したような感じです。

 

3ロースクールについて

次にロースクールでどのような授業を受けたとか、ロースクールでの生活はどのようであったかをお話したいと思います。

先ほどもご説明したのですが、ロースクールには2年コースと3年コースがあります。2年コースが法学の既修者を対象としていて、3年コースが法学の未修者を対象としています。何が違うかというと、もちろん卒業する年次が1年違いますので、既修者の人は本当にその1年間をカットしていいのかを判断するために、法律の試験を受けることになります。法律試験の内容は大学院によって違うので、自分の希望する大学院の過去問を見て対策してもらえるといいと思います。

各大学院での試験の前に適性試験を受けることになるのですが、大学入試センターが実施している法科大学院適性試験と呼ばれるものと日本弁護士連合会(日弁連)が実施する法科大学院統一適性試験と呼ばれるものの2種類があります。どちらの適性試験の成績の提出を求められるかは大学院によって異なります。なので、両方を受けておくのがベターです。今年は日弁連の試験が6月13日に、大学入試センターの試験が6月20日に実施されるようです。阪大はどちらか良い方の成績を提出すれば大丈夫です。私は大学入試センターの方の点数が悪かったのですが、日弁連の成績を出しても良い阪大は有難かったです。

適性試験の点数は受験者数が多いときには足切りに使われることもあります。良い点数を取っておくと、気持ち的にも楽なのでしっかりと対策を取っておくことが望ましいと思います。公務員試験のような数的処理や国語力を試す問題などが出ます。こういう試験が得意な人は、あまり対策をしなくても高得点が取れてしまいます。私の友達中にも初めから80点、90点を取っている子もいました。私はすごく苦手で、初めは時間内に解ききることさえできませんでした。けれども、慣れれば段々解けるようになる問題なので、苦手な人は早いうちから対策をしておきましょう。LECや伊藤塾などの予備校に通う人も多くいました。私も3回生からLECに通って適性試験の模試などを受けていました。

適性試験対策と並行してすべきことは、願書を作成するためのネタ探しです。それは、主に志望理由と自己PRです。特に志望理由書は重視されます。受験するロースクールによっても目指すべき法曹・理念というのが異なります。また、弁護士の仕事も幅広く、どういう分野の仕事がしたいかも考える必要があります。ロースクールのカリキュラムを見ると、それぞれに理念や特色があります。その中でなぜそのロースクールを受験するのか、つまり数あるロースクールの中からそのロースクールを選んだのかということを、どんな法曹になりたいのかという理由と結び付けて書けるといいと思います。私は志望理由書を書くときに非常に悩みました。ここだけの話、ロースクールごとに志望理由を少しずつ変えて、書いたように記憶しています。良い志望理由書が書けるように早くから準備をしておいて下さい。

さらに、自己PRも加点事由になります。資格も一定程度重視されます。私もTOEICを受けたり、宅建や行政書士の資格を取ったりしました。

各ロースクールに願書を提出した後は、各ロースクールでの試験が行われます。未修者は小論文と面接、既習者はそれに加えて法律の試験があります。私は面接の質問を想定してあらかじめ問答集を作ったり、小論文の過去問を解いたり、時事問題を聞かれた際の対策として本や新聞などを読むなどの準備をしていました。

 

次に、ロースクールでの生活についてお話したいと思います。勉強が大変だとよく言われますが、余り辛いと感じたことはなく、本当に楽しい3年間でした。ただ、期末試験の直前と新司法試験の直前は、楽しくなかったですが。

授業は週に8〜9コマ取っていて、空き時間は学校の自習室で勉強をしていました。阪大の近くに下宿していたので、土日も自習室に行って、時には自習室の中にある談話室で友達とおしゃべりをして息抜きをすることもありました。

ロースクールの授業は一方的に先生が講義をするのではなく、双方向形式の授業です。高校の授業やゼミに近いイメージです。なので、予習をさぼった時には冷や汗をかいていました。また、ロースクールの授業は必ず出席を取るので、ほとんど出席をしていました。授業は、必修科目と選択科目があります。たとえば知財やインターネット法とか、実際に弁護士さんが来て下さって実務科目教えて下さる授業もありました。他には模擬裁判を行う機会もありました。模擬法廷が大阪の中之島キャンパスにあり、弁護士や裁判官役等を決めて模擬裁判を行いました。

また、検察庁や裁判所に見学に行く機会もあり、なかなか中に入れる機会はないので楽しかったです。また、希望者は、夏休み中に、エクスターンシップといって、2週間程度、法律事務所や企業の法務部で研修を行うことができます。法務部での研修についてですが、私のときは、SHARPPanasonicで研修を行うプログラムが提供されていました。

また、希望者は、休み中にアメリカやヨーロッパに行き、向こうの裁判所やロースクール等を見学するプログラムもありました。

授業では、レポートの提出が求められることも多くあります。また、学期末には、定期試験があり、不可をつけられることもあります。1年間に8単位以上落とすと上の学年に上がれなかったりするので、私の時は4人ぐらい一緒に卒業できませんでした。

同じ目標に向かって、みんな勉強しているので、わからないところがあったら聞けるような友達もすぐ側にいて、非常に充実していたと思います。友達同士でゼミを組んでいる人達もいました。

もちろん、ロースクール生にとって一番気になるのは新司法試験のことです。3年になると予備校に通う人もいました。

ロースクールでは、サタデースクールといって、土曜日に弁護士さんが来て答案練習をして下さる機会もありました。また、授業で、レポート課題が出て、先生が答案を見て下さることもあったので、みんながみんな予備校に通っていたわけではありません。こういった機会は積極的に活用すべきだと思います。

 

4 新司法試験について

3月にロースクールを卒業して、5月に新司法試験を受けることになります。一言で言うと新司法試験は、体力勝負の試験です。試験期間は5日間で、間に1日休みがあるので実際に試験を受けるのは4日間です。試験は択一試験と論文試験があります。択一は基本六法と行政法の7科目で、論文は民事系科目(民法、民事訴訟法、商法)、刑事系科目(刑法、刑事訴訟法)、公法系科目(憲法、行政法)と選択科目(労働法、破産法、知的財産法、租税法、国際法などの科目から一科目選択して受験する)の試験があります。論文試験は何が大変かというと、すごく試験時間が長いことです。民事系科目は2時間と4時間の合計6時間です。刑事科目も、公法系科目も4時間です。4時間ぶっ続けで試験を受けるのは結構体力的に大変で、それが続くので1日終わるとぐったりです。飲み物は試験時間中に自由に飲んで良いので、甘い飲み物や眠気防止の飲み物や何種類もの飲み物を持ち込んでいる人もいます。冷えピタや熱冷まシートを頭に張って受験している人もいました。私が受験した際の試験会場は、「マイドーム大阪」という、谷町四丁目にある所でしたが、試験会場の隣のホテルに5日間泊まって試験を受けている友達もいました。

試験直前は頭に知識を詰め込むことももちろん大事ですが、試験時間が長いので、風邪をひかないように体調管理を行うことも大事です。

新司法試験が終わったら6月に択一の発表があり、何割かはここで足切りにあいます。本発表は9月の半ば頃です。つまり、受験から発表までの半年間の間は、長い休みとなります。過ごし方は人によって様々です。来年の試験に向けて勉強をすぐに開始する人、旅行に行く人、アルバイトをする人、エクスターンシップで弁護士事務所に行く人など色んな過ごし方があります。エクスターンシップは就職につながることもあります。実際にエクスターンシップ先で気に入られて就職した人も何人もいます。私はと言いますと、初めの1ヶ月はぼんやりと過ごしていたのですが、このままじゃもったいないと思って旅行に出掛けたりしました。夏になり、徐々に発表の時期が近付いてくると不安になってきて勉強をしようと机の前に座るのですが、試験前ほど集中できませんでした。あと、余談ですが、顔がはれるのでこの機会にと思い、親知らずを抜きに行きました。

合格者の名前は、法務省や検察庁に張り出されます。大阪では中之島の検察庁に貼り出されます。また、インターネットでも見ることができますが、みんなが一斉にアクセスするのでなかなかサイトにつながらなくて、余計にドキドキしてしまいます。午後4時半に発表だったのですが、ようやくインターネットで自分の番号を確認できたのは、5時前でした。自分の受験番号を見つけたときは、嬉しいというよりも、もう勉強をしなくていいんだとホッとしたのを覚えています。合格してからの1週間はすごく忙しいです。なぜかというと、司法修習に行くための手続きをしないといけないからです。健康診断に行ったり、どこで修習したいかという修習希望地を提出するのですが、そのような提出書類の作成とか、研修所に出すために戸籍謄本などの書類を集めたりしないといけないので、あっという間に過ぎます。

先ほど、司法試験は3回しか受けられないと言いましたが、落ちた人はどのような進路を選んだかを話しますと、私の周りでは公務員になった人も結構いました。司法試験と並行しながら国一の勉強をしていた人もいて、実際に今は金融庁で働いている友達もいます。しかしながら、なかなか両方を並行して勉強するというのは難しいので、司法試験を2回ぐらい受けて公務員試験に方向転換をする人もいました。市役所だとか裁判所の事務官の道に進む人もいれば、一般企業に就職した人もいました。資格取得のために司法書士にチャレンジしている人もいます。

 

5 司法修習について

次に司法修習についてお話したいと思います。私は大阪で修習をしていました。修習地は、沖縄や札幌、神戸や横浜が人気でした。男の人で独身だと、縁もゆかりもない所に行かされる確率が高いです。友達の中には、修習希望地に記載していなかった地方に行かされて、最初は嫌がっていたけれど、行ってみたらすごく良いところだと気に入ってそのままそこで就職した人もいます。

修習は、@実務修習、A埼玉県の和光での集合修習、B選択修習の3つがあります。レジュメの2ページに書いていますが、実務修習が6ヶ月間、これは法律事務所と裁判所、検察庁の3か所を回ります。そして、埼玉県の和光での集合修習が2ヶ月間あり、最後に、選択修習といって修習地で自分の好きなプログラムを選択して行う修習が2ヶ月間あります。

まず実務修習についてお話します。弁護修習と、検察修習と、裁判所での民事・刑事修習から構成されています。一番みんなが楽しいと言うのは弁護修習です。弁護士の先生方が、美味しいお店にご飯をよく食べに連れていってくれるからでしょうか。私は身近に弁護士の仕事をしている人がいなかったので、初めて弁護士の仕事を間近で見ることができたのが、この弁護修習期間中だったので、すごく新鮮で刺激的な毎日でした。私が修習したのは労働事件を企業側の立場で扱っている事務所でした。私は、新司法試験の際に労働法を選択していたこともあり興味があったので、沢山の事件に触れることができ良い経験ができたと思います。先生方も修習生の私にとても親切でした。

検察修習では、修習生が、実際に被疑者を呼び出して取り調べを行います。検察官にならない限り、そのような経験ができるのは一生に一度きりなので、結構貴重だと思います。かと言って、もちろんそんなに重たい事件などを扱わせてもらえるわけではありません。私は、犬に噛まれて怪我をしたという過失傷害事件の取り調べを行いました。犬の飼い主に、過失があったか色々質問をして調書を作成したことを覚えています。他には窃盗や道路交通法などの犯罪の取り調べを担当しました。検察修習までは弁護士志望だったのに、取り調べを実際に経験して検察官に興味を持ち、志望を変えた人もいました。また、検察修習中に検死といって犯罪に巻き込まれて亡くなった可能性がある人の遺体解剖を見学する機会もありました。私が見学したのは親からの虐待を受けて死亡した可能性のある4歳の女の子の遺体解剖でした。私は解剖を見たのはもちろん初めてだったので、すごくショックだったのを覚えています。

裁判所修習では、民事事件を扱う部で2ヶ月と、刑事事件を扱う部で2ヶ月間ずつ、修習をします。裁判官と一緒の部屋で机を並べて、裁判官と共に法廷に入って裁判を傍聴したりします。また、裁判の合間に「この事件の判決文を書いてみて」と言われて判決理由を作成したりします。修習生がだいたい2人〜6人のグループに分かれて各部に配属されます。ちょうど私が裁判所で刑事の修習をしていた時は、芸能人のKHさんの事件がありました。残念ながら私の部ではありませんでしたが、KHさんの詐欺恐喝未遂事件を扱う部で修習していた友人は、「TVで見るより背が高かった」「TVに映った」などと感想を話していました。ニュースなどで、法廷がちょっとTVに映ることもありますが、それで私もTVの端っこに映ったことがあります。それはどんな事件だったかというと、大阪の府知事が原告となっている事件でした。これは民事の事件なのですけれど、府知事が、とある週刊誌を被告として、名誉棄損で損害賠償請求を提起していた事件です。どんな内容の事件だったかというと、週刊誌が無断で写真を撮って雑誌に掲載したことに対して、精神的苦痛を被ったと訴えていた事件です。この出来事が起きた時は、まだ府知事にはなっていなかったのですが、証人尋問が行われたときは、府知事に就任された直後だったので、注目度も高く報道陣も沢山来ていました。その様子を修習生として裁判官と同じ側から見ることができました。被告に対する証人尋問は、府知事自身がされました。TVで見ているように、非常に質問が鋭く、頭の回転がとても早い人なんだなぁと思いました。

大阪での実務修習が終わると、今度は埼玉県の和光市という所に引っ越しをすることになります。和光では、希望すれば寮に入ることができます。結構寮は快適でした。和光ではずっと講義を受けます。今、私が講義をしているぐらいの部屋で10時から17時ぐらいまで毎日みっちりと講義を受けることになります。大阪では通勤ラッシュの時間帯に1時間ぐらい電車に揺られて通勤をしていたのですが、寮だと5分前に部屋を出れば授業に間に合うので朝がとても楽でした。寮の中にはグラウンド、体育館、テニスコートなどもあるので授業の前後に運動をしている人もいました。

和光は東京の池袋から電車で20分ぐらいの所にあります。なので、休みの日には修習生や友達と、お上りさん状態でもんじゃ焼きを食べに行ったり、東京タワーに上ったり、箱根に旅行をしたりしました。さて、勉強の方はというと、二回試験という卒業試験に向けての勉強を本格的に開始することになります。この二回試験という試験も体力勝負の試験で、10時から17時までぶっ続けで行われます。昼休憩もない試験です。昼食をとることは許されているのですが、席で答案を書きながら食べることになります。もちろん、昼食中に喋ったりしてはいけません。50〜60ページぐらいの資料(問題)を渡され、試験事件の半分ぐらいの時間をかけて資料を読み込んで答案構成をし、残りの時間で答案を作成します。たとえば、裁判科目の試験だと判決を起案したりとか、弁護の科目だと裁判所に出す最終準備書面(民事)や、弁論要旨(刑事)を書いたりします。和光ではこの二回試験に向けての答案作成の練習をします。答案を作成して、先生が採点して、解説を受けるという繰り返しで2ヶ月間が進んでいきます。ちゃんと評価がついて返ってくるので、悪い評価がついて返ってきた日には結構落ち込みます。出来の悪い答案を書くと、先生に呼び出されることもあります。「二回試験このままだと危ないよ」と言われた時にはかなり落ち込むことになります。二回試験が近付いてくると、それまで遊んでいた修習生もみんな結構ピリピリして、友達同士でゼミを組んだりして二回試験対策を始めます。また、他には、模擬裁判などを行う機会もありました。

この和光での2ヶ月間の修習が終わると、大阪に戻ってきて2ヶ月間の選択型修習を受けます。これは何かというと、裁判所や弁護士会や検察庁がそれぞれ1週間単位でプログラムを用意しており、その中から興味のあるプログラムを組み合わせ、自分が8週間どんな研修を受けるのかを考えます。人気があるプログラムは抽選が行われます。人気があったのは、検察庁が提供しているプログラムで、色々な所に見学に行くものでした。大阪の西成にパトカーに乗って出かけたり、警察犬の訓練所や、海上自衛隊の船に乗せてもらうことができる見学ツアーです。また、他には、法務省や企業などに行く研修などもあり、選択することができるプログラムは多岐に渡ります。

2ヶ月の選択修習が終わるとすぐに二回試験を受けることになります。ですので、選択修習の終わりごろはみんな二回試験の対策で必死になります。二回試験は、5日間に及び、毎日10時から17時まで7時間ぶっ通しの試験なので、体調を崩さずに受け終えただけでもホッとする試験です。以上が司法修習までの話です。

 

6 新人弁護士の仕事について

最後に新人弁護士の仕事内容について少しお話したいと思います。私の仕事内容は、企業法務と一般民事事件が大半を占めます。そして刑事事件を少しやっています。企業法務では契約書のチェックや労務問題の相談が中心です。あと、一般民事事件では離婚問題、相続問題、賃貸借関係、破産、債権回収など様々な案件を扱っています。

事務所に入って初めて担当したのは離婚事件でした。私は妻側の代理人でした。旦那さんが浮気していることが分かって、奥さんの方から離婚をしたいと相談された事件でした。離婚事件は、当事者間での協議すなわち、話合いで解決できないときは、いきなり離婚を求める訴訟を提起するのではなくて、調停前置主義といって、まず家庭裁判所に調停を起こすことになっています。調停では調停委員が、二人の言い分を聞いて、話し合いを仲介することになります。解決に向けて、お互い譲歩しつつ話合いをしていくことになります。私の依頼者は、まだ結婚して4年目ぐらいで、3歳の子供がいました。旦那さんに対して浮気をしたことに対する慰謝料の請求と、養育費の請求をしました。旦那さんの方は、最初は「不倫なんてしていない」と開き直って不倫の事実を争っていましたが、依頼者が、旦那さんと不倫相手の携帯電話のメールのやり取りをデジカメで撮っていたので、それを不貞行為の証拠として見せたところ、旦那さんは観念したのか浮気の事実を認めました。民事事件では、今の話のとおり結構どんなものでも証拠になるのですね。最近の女の人は結構しっかりしていて、浮気に感づいてもしばらくは旦那さんにずっと黙ったまま証拠を掴むまで我慢して動かぬ証拠をとります。例えば探偵を使って旦那さんと浮気相手がホテルに入った写真を撮った上で、これを証拠として使って下さいと持って来られるような人も結構います。さきほどの話に戻りますが、旦那さんに携帯電話のメールのやり取りが証拠として残っていることを伝え、見せたところ、その後はこちらの有利な方向で話合いが進みました。結局、慰謝料300万円と養育費として子供が大学を卒業するまでの間、月6万円を払ってもらうことになり、離婚が成立しました。芸能人だと慰謝料が何千万、何億という話も耳にすることがありますが、100万円、200万円で合意するケースも多いです。なぜかというと、最近では若い夫婦の離婚が増えていて、婚姻1年目や2年目で「離婚したい」と相談に来る人も多いのです。そうすると貯金もない状態なので、ない所からは取れないと言うか、やむなく分割払いで支払ってもらうケースや、旦那さんに蓄えがないので少額で合意するケースもあります。また、時代の流れでしょうか、最近では旦那さんも奥さんも両方浮気をしていたりだとか、mixiなどで知り合った人と浮気をしていたりだとか、そういう相談もよくあります。

私がどんな1日を過ごしているかという資料をレジュメにつけました。だいたい9時ころに出勤してメールやFAXのチェックを行います。この日は相続の事件で裁判所に行きました。その後事務所に戻ってきて、契約書のチェックや電話の応対をします。事務所にいる間は依頼者から電話がかかってきたりなどして、ゆっくりと書面を作成するような時間は余りありません。11時からは離婚の相談を受けました。その後、昼休憩をとりました。お昼もバタバタと過ぎて行くのでいつも30分ぐらいで、昼食をとり、次の仕事に取り掛かることになります。そして、裁判所に提出する書面を作成したり、顧問先からの法律相談を受けたりしているとあっという間に夕方になります。また、当番弁護士制度と言って、逮捕された被疑者が弁護士に相談したいときに弁護士会に依頼することにより、1回まで無料で相談を受けることができるという制度なのですが、この当番の日が、結構割り当てられています。この関係で事件の依頼を受けた警察署に捕まっている被疑者に接見に行ったりもします。夜の6時から7時ごろになると依頼者からの電話もかかってこなくなるので、落ち着いて裁判所に提出する書面を作ることができます。そして、8時半ぐらいまでには事務所を出ます。私はこれでも暇な方だと言われていて、大きな事務所だと夜の12時ぐらいまで仕事をしている人もいます。大手の事務所に行くと、大きな案件を扱えて楽しい半面、結構忙しいようです。毎日12時ぐらいまで仕事をして、土曜日日曜日までも出勤するというような忙しく、パワフルな毎日を送っている同期もいます。

個人事務所でも、他の弁護士と交流する機会もあります。1人だけだと寂しいのではないかと思われるようですが、修習時代の同期の友達と勉強会と称した飲み会を月に1回程度開いていて、その時に今やっている事件でわからないところを相談したり、愚痴を聞いてもらったりしています。

また、弁護士会には様々な委員会というものがあります。委員会というのは、自分の興味を持っているテーマを扱っている委員会に所属して、それぞれ活動を行う場です。例えば、刑事弁護委員会とか子どもの権利委員会とか労働委員会とか消費者の問題を扱う委員会とか、たくさんの委員会があります。その委員会で弁護団を組んで裁判をすることもあります。こういった委員会活動を通じて他の弁護士の先生と知り合う機会があったり、アドバイスをもらえたり、一緒に事件を担当することができるので、個人事務所でもボス弁だけでなく他の弁護士の先生と交流を持つ機会があります。

また、親睦を深める会派があって、そこでは親睦旅行に行ったり、飲み会をしたりゴルフをしたりなどと様々なイベントがあります。私が入会した時には、歓迎旅行で台湾に連れて行ってもらえました。違う会派でも、香港やベトナムに行った人もいました。結構、歓迎旅行で海外に連れて行ってもらえるようです。私の入っている会派では、なんと1年目は5000円で台湾に連れて行ってもらえました。新人弁護士には楽しみな行事でもあります。そういう行事などを通じて、年齢が上の弁護士さんとお話をする機会もあるので、個人事務所でも他の弁護士とつながりが無いということはありません。

レジュメの2ページ目に「個人事件について」と記載していますが、弁護士の仕事には、事務所の事件と個人事件との2種類があります。事務所の事件はボス弁から割り振られる事件です。それとは別に個人事件といって、弁護士個人が受ける事件があります。

個人事件を受任するとその収入は事務所の給料とは別に入るので、新人弁護士は個人事件を積極的に受けて、お小遣い稼ぎをしています。個人事件は、例えば友達の相談を受けたりだとか、刑事の国選事件、あとは弁護士会で行っている法律相談というのがありまして、その法律相談から事件を受けたりすることもあります。国選の刑事事件は、年に何件か割当てがありますので、そういう事件を受任して、事務所事件の他に、個人事件としての仕事を行います。最近は裁判員裁判が始まったので、国選事件の裁判員対象の事件を担当する可能性もあります。

新人弁護士の仕事はこのような感じです。毎日が慌ただしくて、弁護士の仕事が大変だなと思うことももちろんありますが、依頼者の方が相談に来られて、弁護士のアドバイスを聞いて、安心してホッとした表情で帰ってくれたり、事件が全部終わって依頼者から「ありがとう」って言ってもらえたりすると、やっぱり嬉しくて、すごくやりがいのある仕事だと感じます。今日の講義の受講生の中には、ロースクールを目指している方が多いようですが、ぜひ頑張って弁護士になって欲しいと思います。今日の講義を聞いて少しでも弁護士という仕事に興味を持ってくれた人がいたら、嬉しいです。

何か質問はありますか?大丈夫ですか。

弁護士を目指している方もそうでない方も頑張って、立派な社会人になってください。それでは、少し早いですが、終わりにさせていただきます。ありがとうございました。