20091217日ロイヤリング講義

講師:和田誠一郎先生

文責:古川真理

 

イベントと法律

 

自己紹介

私は司法修習31期の弁護士で、大阪大学19期の出身です。大学では国際公法の川島先生のゼミに所属していました。大阪大学卒業した現在でも同級生や先輩との交流は続いております。私は皆さんとも今後こうした交流を持ちたいと思っております。

 

コンプライアンス

本日はイベントとコンプライアンスというテーマでお話をさせていただきます。

私は通常の弁護士業務も勿論行っていますが、他の弁護士が経験していないようなイベントにも携わってきました。大阪大学で講演をするにあたり、このイベントについてのお話をしたいと思います。私がこの講義でいう「コンプライアンス」はイベントにおいて守らねばならない法律という実務的な意味での「コンプライアンス」です。これは時にリスクマネージメントと呼ばれることもあります。

本日は私が所属しているイベント学会が出版したコンプライアンスに関する本の内容についてお話しさせて頂きます。

まず、イベントを離れ、コンプライアンスとはどういうものかを説明します。昨今、産地偽装など企業による不祥事が発覚するたびにコンプライアンスの必要性が叫ばれています。今では単なる法令遵守という意味でのコンプライアンスではなく、具体的に何をするかという点が重要になってきています。これがイベントとどういう関係にあるかということですが、イベントも対外的な活動をするものでありますから、コンプライアンスの重要性は企業と変わらないにもかかわらず、イベントは企業に比べ、コンプライアンスに対する意識が低いように思います。これはなぜかというと、イベントというのは一過性のものであり組織の体制づくりが不十分であることが多いことに加え、寄り合い所帯のような性質があるからであると思います。こうした性質を有していることにより、責任の所在が不明確になり、結果的にコンプライアンスに対する意識が低下してしまいます。イベントの一過性、寄り合い所帯の性質ということに関して併せて述べておくと、町づくりイベントというものが昨今頻繁に行われますが、これには市や町の職員や商店街連合やディベロッパー、コンサルタントの専門家、市民団体までもが関与する場合があります。しかしイベントが終わればこういう団体は解散してしまうという点で、イベントは一過性や寄り合い所帯の性質があるのです。

ここで、イベントとはどういう性質ものであるかといえば、イベントの主催者は、イベントによって収益を得る、あるいは企業のPRをするといった目的とともに、「イベントを無事に終える」という共通の目標を有しています。この共通の目標は積極的成功に対して、消極的成功と言えると思いますが、私はこの消極的成功のためにこそコンプライアンスが必要であると思います。紛争というのは期せずして起こるものでありますから、こうした紛争を未然に防ぐ予防手段としてのコンプライアンスが必要になってきます。

イベントにおいてコンプライアンスを確立するためには重要な点がいくつかあります。まずは組織の基本構造をはっきりさせるということです。これはつまり主体、主催者をはっきりさせることです。次は組織の中での事務を確立しておくことです。これは業務を具体化させ最終責任の所在を明確にしておくという意味を持ちます。この際、コンプライアンスの担当部門を置いておくことが望ましいです。コンプライアンス違反があった際に、対処する部門がないと対応が後手に回ってしまう恐れがあるからです。例えば神社でのイベントで食中毒が発生した場合はどうするか、花火大会で花火暴発事故が起こった場合どうするか、といった具合です。こうした問題は想像力を働かせて事前に予防しておかなければならないことですので事前に担当部門を決めておくのです。こうした組織体制はできれば文書にしておくのが望ましいです。そして最後に、大規模なイベントにおいてはコンプライアンス規定を作成しておくことが望ましいということです。現在では企業は必ずコンプライアンスコードを策定しています。これと同様のことをイベントにおいても行う必要があります。

2007年までは大阪で御堂筋パレードという大阪21世紀協会が主催するイベントがあったのですが、そのパレードにおける警備計画に関する書類をとっても30ページ近くの冊子になります。御堂筋パレードではこの冊子を関係者に配って、警備計画を周知徹底していました。また、こうした計画をイベントの関係者に理解してもらうことも必要です。更に、こうした計画は見直しも必要ですので、定期的に見直しを行って、よりよりマニュアルを作っていく必要があります。

コンプライアンスにどのようなことを掲げるかというと、最近では地域・社会への貢献を掲げるイベントが増えてきています。これまでのように単にリスクの予防としてのコンプライアンスを掲げるのみならず、地域・社会への貢献のような高い目標もコンプライアンスに必要となっているということです。加えて、企業においても、イベントにおいても最近最も注目されているのが「環境」というキーワードです。環境法令遵守というコンプライアンスを掲げるのみならず、イベントの目的そのものを、環境をテーマにしたものにするなど、コンプライアンスの掲げ方次第でイベントの中身が変わってくるといったケースも起こっています。現在では最早環境に配慮しないイベントというのはありませんが、それ以上に一歩進んだ環境への配慮が求められています。

様々な協賛団体や、参加団体が集うイベントにおいては、その性質上、ある種の反社会団体との接触がなされる場合がありますが、そうした際に毅然とした対応をするためにもコンプライアンスが必要になる場合があります。こうした場合

のコンプライアンスは反社会団体からの接触を断る盾にもなります。

イベントにおいては守らなければならない法律が種々存在します。食品衛生法、道路交通法、著作権法、不正競争防止法、景品法、個人情報保護法などです。こうした法令の調査もまたコンプライアンスです。行うイベントがどういった法律によって規制されるのかということを調べるのがコンプライアンスであるということです。現在特に重要視されているのは個人情報ですが、個人情報にはイベントを扱う人の名簿や寄付者の名簿、あるいは種々の署名も該当します。個人情報という観点からは秘密保持も重要になります。この秘密保持という観点からもやはり文書を作成しておくことが望ましいです。場合によっては秘密保持契約等を締結する必要があります。当然ながらイベントには様々な団体が集まりますが、こうした大規模なイベントでの秘密保持には配慮しなければなりません。なぜならば、例えば大企業がイベントに参加した際には、その取引先の企業の秘密情報が開示されてしまう場合がありますので、そうした事態を未然に防ぐために注意を促す必要があるからです。また、イベントの特徴である一過性にも注意する必要があります。イベントに携わる人との関係は一過性のものであることが通常ですので、開催中は常に接触をしてコンプライアンスを遵守しているかどうかを確認する必要があります。また、イベントの主催者は、イベント参加者のためというよりも、イベントの出資者のためにイベントを運営する場合がありますが、こうした運営の仕方に対しても注意を促す必要があります。

イベントにおいて特に必要なこととして、近所迷惑を防止するということがあります。騒音やごみの問題について近隣住民や関係者に事前に説明を行い、理解をしてもらう必要があります。上述の御堂筋パレードに代わって現在では御堂筋イルミネーションが行われていますが、そのイルミネーションを写真撮影するために、交通ルールを乱して写真撮影をする人や赤信号で横断歩道を渡る人などがいます。私が同行した大阪府の担当者はそうした人を見かけるたびに、その都度注意をし、気の休まる暇がないようでした。イベントにおいてはこうした気配りが必要とされるのです。

イベントには必ずお金が絡みますから、会計処理は法律に則って適切に行う必要があります。またこうした会計処理を行う人を監査する人を置く必要もあります。こうした会計処理を明朗に行うためには文書の形で資料を残しておくことがやはり必要になります。

興味のある方の為にコンプライアンスに関する参考文献をあげておきます。「コンプライアンス・プログラム作成マニュアル」が経営法友会から出版されています。またコンプライアンスが単なる法令遵守という概念のみならず、環境に対する配慮など大きな概念を含んだ考え方になっていったという点を踏まえると堺屋太一さんの「知価革命」などの本を読むことをお勧めします。

 

イベントを規制する法律の具体例

ほとんどのイベントは道路を使用します。そのため道路の使用に際して警察署の指導が必要になります。こうしたイベントにおける道路の使用に関する法律としては道路交通法があります。交通を目的として存在する道路を交通以外の目的で使用するためには、道路使用許可が必要になります。道路の使用方法の中にはモノを設置する場合があります。この場合は道路占有になりますから、道路管理者の許可を得る必要があります。

また、イベントにおいては、前衛芸術かわいせつ物かで争いのあるようなものが出品されることもあり、わいせつ物陳列罪が問題になることもあります。更には、イベントの参加者が物を売るフリーマーケットにおいては違法なCDやDVDの販売行為に注意をする必要があります。

軽犯罪法の違反というのもイベントにおいては注意すべき事項になります。

また、日本刀などを展示する場合には銃刀法等も問題なります。

特に雑踏の警備には人手やお金がかかりますが、こうした警備に関しても、防災・防犯の両面から警備業法が重要になる場面があります。イベントにおいては主催者による自主警備も行われますが、警備業務を外部業者に委託する場合は、委託際の会社が認定を受けているかどうか確認する作業も必要になります。

また、イベントにおいては遺失物が発生するのが通常ですから、遺失物法に基づいた対応をすることが必要になります。これに関してはインターネットを使った拾得物の公開といった対策が検討されています。

また、イベントに参加する未成年が深夜(23時〜)、早朝(〜4時)に出歩くことは禁止されています。これに該当するイベントとしてはカウントダウンや日の出を見るイベントなどが考えられますが、こうしたイベントは青少年の健全な育成に関する条例違反になる可能性があります。もちろん参加者のみならず、出演者が未成年である場合もこうした条例に配慮する必要があります。

また、イベントにおける火の取り扱いについても十分に注意しなければならず、消防法に基づいて消防署に届け出た上でイベントを行う必要があります。イベント開催の際は喫煙所、避難誘導路の確保や消火設備の設置も行わなければなりません。また厨房を用いる際には建築指導課の指導と検査を受ける必要がありますし、防火管理者の選任、消防計画の策定などを求められる場合もあります。

また、地震などの災害が発生した場合も、スタッフは全員であらかじめ定められた役割分担通りに動く必要があります。災害発生時の避難の際には二方向避難が求められていますから、これを怠ると責任者は刑事上の罪に問われる場合があります。条例で定められているところによれば、イベントの開催期間、終了日時、施設の構造、消火設備、避難通路、誘導炉、電気配線図、ガス配線図などについて事前に提出しておかなければならないことになっています。

また、イベントにおけるかがり火などの使用についても消防法において規定がなされています。本来こうした火の使用は禁止されているので、この禁止を解除してもらう必要があります。またローソクのライトアップについても禁止の解除が必要になります。

建物の内部にあるものについても、たとえば机やイスなどについて細かく規定がなされています。

また、花火大会などの大会については、開催にあたって許可が必要になります。

また、演出に際してもスモーク効果に用いるガスなども高圧ガス取締法で規制の対象になっています。

また、興業場法の規定に則りイベント会場を設営しなければならない場合や、食品衛生法に基づく飲食店の営業許可なども必要になる場合もありますし、弁当の販売について許可が必要になる場合もあります。なお、学生による模擬店は営業許可の対象外となっています。

その他にも騒音規制法、水質汚濁防止法、労働安全衛生法に基づく統括安全運営責任者の選任や高所でのイベント開催の場合は安全ベルト等の装着、労働基準法などに配慮してイベントを行う必要があります。

またイベントを手伝うスタッフとの間で偽装契約がなされないように派遣業法にも気を配る必要がありますし、イベントにおいてジェットコースターなどの遊具を使用する場合には建築基準法にも配慮する必要があります。

また、福祉のまちづくりの役割のためにイベントを開催する場合があります。そうしたイベントには高齢者や障害者を招待する場合がありますが、こうした場合には福祉関連の法律にも目を配る必要があります。

開催場所が国立公園の場合は国、国定公園の場合は知事の許可を得る必要がありますし、河川を利用する場合には急な増水対策をする必要があります。

また、船の上から花火を上げる際には公安法の規制を守る必要があります。

飛行船、ラジコン飛行機、熱気球を飛ばす場合には航空法の規制を守る必要があります。

神社仏閣でイベントを行う際には神社仏閣法に則り文化庁の許可を得る必要があります。

また、イベントに広告を出してもらう場合には屋外広告物法・屋外広告物条例の規定を守らなければなりませんし、こうした広告を出すことに関してはその規定が複雑であることから専門家に相談する必要もあります。

多くの人が参加するイベントに際してシャトルバスを運行する場合には交通運送法に照らし、許可を得る必要があります。この際に交通渋滞によって迷惑を被る周辺住民への配慮、駐車場の確保は当然必要になります。

会計については税法、独禁法に配慮する必要があります。

富くじを行う場合には景品表示法への配慮も必要になります。

他にも、当然民法、個人情報保護法も配慮すべき重要な法律です。そしてイベントに用いたキャラクターに関する著作権の帰属についてはあらかじめ契約書などで定めておく必要があります。テーマソングや、写真も著作権の適用対象となる点に留意しておかなければなりません。

廃棄物処理法は、イベントにおいて出る廃棄物の処理の仕方を定めますが、私はできるだけ産業廃棄物が出ないようにするという規定をすることこそが現在の時代に即したコンプライアンスであると思います。

清掃を業者に頼む場合には、許可を適法に取得している業者に頼む必要があります。そしてその業者が適切にごみを処理したかについても気を配る必要があります。

また、外国人がイベントに参加する際には出入国管理法にも気をつけなければなりません。

電波を使用する場合には電波法に配慮する必要があります。

他にも、修学旅行などの旅行やツアーは旅行業法、関税については関税法、イベントで用いる種々の照明や音響機械については電気用品安全法、騒音規制法、ワシントン条約、有名人がイベントに参加する際には肖像権についても気を配る必要があります。

 

関与しているイベント

これまでに私は21世紀協会が主催していた御堂筋パレードや上海万博といったイベントに携わってきました。上海万博における仕事としては、万博主催者側と出展企業間の契約書作成の仕事を行っています。更には万博スタッフの就業規則の作成も行っています。また私自身が提案したことなのですが、御堂筋のイルミネーションを万博において使用するための協議を大阪府と行っています。また、泉布館、造幣局、帝国ホテル、OAPをつなぐ回廊を作る作業を、継続的な町づくりの一環として行っています。加えて難波に中華街を作るイベントにも関与しています。更に、大和川の活性化イベントにも関与していますし、大阪に美術館を作ろうというイベントも現在進行しています。

こうしたイベントに携わる仕事は、本来の弁護士の仕事とはずいぶんかけ離れているように思われるかもしれませんが、私自身としては楽しく仕事を行っています。専門的な弁護士の知識を活かして町づくりをしていきたいと思う人がいれば、ぜひ一緒に行っていきたいと思います。本日の講義を通じて、イベントは種々の細かい法律の規制がなされているということを知って頂いた上で、そうした種々の規制がなされ大変ではありますが、イベントを通じて町づくりにも携わることもできるという弁護士の仕事としての面白さも知っていただけたらと思います。

以上