20091112日ロイヤリング講義

講師:山浦美紀先生

文責:古川真理

 

倒産法実務

〜特に企業再生の手法について〜

 

 本日は倒産法実務に関する講義を行います。皆さんは学部生ということで、倒産法実務についてはあまりなじみがないかと思いますが、ロースクールに進むにせよ、就職するにせよ、倒産の一般的な知識は必要になるかと思います。倒産手続きにも種々ありますが、本日はその中でも私が得意とする企業再生の手法について主にお話ししたいと思います。

 

1講師紹介

 私は、平成8年に大阪大学法学部に入学し、池田ゼミに所属していました。大学卒業後、大学院の司法試験コースに進学し、司法試験に合格し、司法修習を経たのち弁護士登録をし、北浜法律事務所に入所し、現在7年目の秋を迎えました。皆さんはこれまでにロイヤリングで色々な先生の講義を受けられたと思いますが、私の所属する事務所は大阪でも大きい事務所であることからも、比較的企業法務を多く扱っています。他にも企業倒産・再生、企業法務一般から債権回収、個人の離婚等の一般民事、家事、相続も扱っています。大阪で弁護士をするメリットとしては、東京と違って、企業法務を扱いつつも、一般的な民事事件も扱えるということで幅広い分野に携わることができるが挙げられると思います。また大阪大学、大阪女学院短期大学で教壇にも立っています。

本日は仕事の中でも時間的に一番割く時間が多い分野である倒産法についてお話ししたいと思います。

 

2倒産手続きとは

倒産手続きと言ってもいわゆる破産のように借金を帳消しにして、会社をたたんでしまう手続きを清算型と言います。破産の中にも企業の破産や個人の破産があります。清算型の中にも、債権者が少なく、債権者が債権の消し方について同意する場合には特別清算、借金が少なく現存する資産の中ですべて返すことができる場合は清算という風に異なる類型があります。この清算型の手続きを取ると会社は消滅します。破産、特別清算、清算の中ではやはり破産手続きが一番多いです。弁護士としては破産を申し立てる側、あるいは破産管財人という形で関与する場合があります。私自身も破産管財人になっている事件もありますし、管財人代理という形で関与している事件もあります。

一方、再建型という手続きは、会社の経営を維持したまま、会社を再建させる手続きを言います。会社更生法、民事再生法、任意整理などが手段として用いられます。会社更生の手続きは大阪では年間10件程度しか行われません。そのため大阪でも大手の弁護士事務所に所属している弁護士でなければ扱う機会はあまりありません。また、民事再生についても会社の民事再生手続きの件数は多いのですが、非常に専門的な手続きが必要とされるため、個人の民事再生と異なり、最初から最後までかかわる事務所は少ないです。私自身そうした破産手続きを修習中にいくつか経験する中で、扱いたいと思うようになり、大手の事務所に就職したという経緯があります。

民事再生において弁護士は監督委員という形で関与することもあります。自らが破産管財人等になる場合もありますが、逆に債権者の立場から相談を受けることも多いです。代表的な例としては、企業の方から取引先が破産した場合の自らの債権がどうなるのかといった相談や破産した取引先に預けたままの商品をどうしたら取り戻すことができるのかといった相談が挙げられます。私自身が最近関与した事案としては、大手不動産デベロッパーの民事再生手続きが挙げられます。皆さんも、倒産事件に関してはロースクールに進学するにせよ、就職するにせよ携わっていくことになると思いますので、どういった手続きかイメージを持っておいていただければと思います。

 

3民事再生開始決定手続きの概要

(1)目的

民事再生法は平成11年にできた法律で、現在仕事の中で一番用いる回数が多い法律です。

民事再生法の法目的を要約すると、借金を少し減らしてもらい、債務状態を改善して、会社を再生していく手続きということになります。会社再建のために様々な障害を乗り越えなければいけないという点で弁護士の手腕が必要とされることになります。破産は残った資産を整理していくだけなので方向性がはっきりしていますが、民事再生については法律構成のみならず経営面についても考えなければならず、ダイナミックな手続きですがそういうところに破産とは違った面白味があると感じています。

(2)関係者

民事再生法第2条に定義されている民事再生手続きの関係者を以下で紹介します。

@再生債務者

破産しそうな会社のことを再生債務者と言います。再生債務者は現状を維持したままで、倒産していくこととなりますので、手続き開始によっても業務執行・財産管理権を喪失しません。清算型の手続きとは異なり、再生債務者側が申し立てるのが民事再生ですから、経営陣の交代をする必要もありません。

A監督委員

言うなれば、再生債務者がきちんと再生していくかを監督する役割を担う人です。任命されるのは、裁判所から指名された弁護士なのですが、大阪では倒産手続きに精通している比較的ベテランの弁護士の先生が選任される傾向にあるようです。監督委員は同意権を有しており、民事再生を申し立てた場合裁判所からなされる監督命令により指定された行為に同意をする役割を担っています。この際、同意なしに行われた行為は無効になります。民事再生申立直後の申立代理人の役割としては、各行為に関する監督委員の同意の必要性を瞬時に判断することが求められます。

B裁判所

民事再生手続きは裁判所が関与しますが、再生債務者に対して後見的な役割を担っています。しかし、実際はほとんど監督委員の監督に服しているというのが実情です。裁判所が何かを決めるということは民事再生手続きにおいては特にはありません。破産や会社更生は裁判所が任命した管財人のもとで手続きが進められますが、そうした手続きとは異なると言えます。

C債権者

議決権者として再生計画案の可否につき決定権を有しています。特に大口債権者である金融機関(多くの場合抵当権を有している)との和解を早々に行っておく必要があります。この別除権者は担保権の実行について再生手続きの制約を受けないため、この担保権の抹消を行ってもらうことが民事再生を行う上で必要不可欠となるためです。

(3)進行表(イメージ)

@申立

弁護士としてはこの申立手続きに関与することになるのですが、期日が迫っている場合に相談が飛び込んでくることもあります。こうした場合は緊急にチームを結成し、早急に対応を検討します。加えて、大きな会社を民事再生させる際には、裁判所に極秘に事前相談にいくこともあります。上場会社の場合、こうした情報はインサイダー情報に該当するので、事務所内でも、守秘義務を徹底遵守することが必要になります。

A保全管理命令

申立から23日たつと保全管理命令というのが出ます。会社の財産を現状維持する手続きになります。これと同時に監督命令がなされ、申立から2週間程度たつと開始決定がなされることになります。また、この間に債権者に対して説明会を行う場合もあります。特に一般消費者が関係者にいる場合には、対象となる債権者の数がとても多くなる上、多くの人が自己の債権がどうなるのかといった点に関して不安を抱くため、問い合わせが多くなります。こうした不安を取り除くためにも債権者説明会を開く必要があります。

B開始決定

C報告書

開始決定から1か月が経過した後、財産目録や貸借対照表を提出します。

 

4実務上の問題(申立代理人として関与した場合)

(1)保全管理命令(民事再生法79条)

裁判所から保全管理命令が発されると、それでの原因に基づいて発生した債務の支払いは原則としてできなくなります。しかし保全管理命令から開始決定までの間に例外的に裁判所の許可を得て支払いを行いうる場合もあります。

(2)関係者への対応

一般消費者からは瑣末な事柄であっても問い合わせが多いのが現状ですが、そういった場合には、民事再生手続きは破産とは違うということを説明します。申立直後は債権者から事務所に大変多くの電話がかかってきますが、どんな問い合わせの電話であっても間違った対応をしてはいけません。このときの対応は弁護士として法律に則った毅然としたものである必要があります。

また、民事再生手続きを行うということは管理職以下の従業員は知らないという場合が通常ですので、そうした場合には申立日に従業員に対して当面決まっていることに関して説明会を行います。その際には各従業員と名刺交換するなどして各従業員がどういった役割を会社の中で担っているかを把握することが必要です。そうしたやり取りを通じて社員と親交が深まることもあり、民事再生の魅力の一つとなっています。

(3)債権者説明会

債権者に民事再生手続きがどんなものであるのか理解を求めるために行います。通常は申立後開始決定前、再生計画案提出後の2回開くことが多いです。申立弁護士が司会を行うことが通例なのですが、その際には野次とも言うべき質問も飛びますが、そうした質問に対しても毅然と対応できるようになった時は一人前の弁護士になってきたのかなぁという気がします。こうした申立後開始決定前の債権者説明会は荒れる場合もありますが、会社再生のためには一人の利益を優先するわけにはいかないということについて説明を行う場合もあります。

 

5開始決定

申立から1~2週間経て民事再生手続きが開始されます。この際には裁判所から渡されるスケジュール表で今後の予定、弁護士として何をしなければならないのかということを把握しておく必要があります。チームを組んでいる場合には事務所内や会社内で会議を行うこともあります。

 

6債権の種類

(1)再生債権(一般債権、旧債権)

この債権は再生計画によらなければ原則として弁済することはできません。しかし例外として少額債権弁済や中小企業の連鎖倒産防止のための弁済は認められます。このように真に払わなければならない債権者がいる場合や、日々の業務が円滑に進まない場合には例外が設けられているのです。

(2)共益債権

再生手続き開始後の再生債務者の業務によって生じた債権であり、この債権については随時支払いを行って良いこととなっています。

(3)一般優先債権

労働、税金、社会保険料等については労働者等の生活にも関わるため、随時支払って良いこととなっています。

 

これらの債権の種類の判断は学説や判例を頭に入れた上で瞬時に行う必要があります。しかし、このときも誤った回答をすることは許されないため非常に慎重に判断した上で回答を行わなければなりません。こうした判断の際の基準は私自身弁護士になってからの経験に基づくものですが、現在では迷った場合は安易に払えると回答しないという行動指針を確立しています。

 

7再生債権の調査

(1)認否に際しての留意事項

進行表の中の開始決定がなされた後に、各債権者にいくらの債権が自身にあるのかということについて届出を行ってもらいます。届けられた債権が実際にあるのかないのかということをすべての届出について調査するという大変な作業です。この判断は裁判所の判決と同じ効力を有しています。この債権の中には一般債権、別除権付債権があります。一般債権者に関しては議決権と債権額についてイコール関係が成り立ちますが、別除債権者に関しては、担保権が設定されている部分については議決権が付与されないので、担保権不足額の計算等が必要になり、弁護士であっても会計の知識が要求されることになります。

(2)自認債権

届け出がなされていなくても自らが認識している債権のことを言います。

(3)認否後

届出債権額に異議を申立てた債権者に対してその旨を通知した結果、査定手続きや査定異議訴訟が行われる場合もあります。

 

この調査作業は非常に数が多い上、確定判決と同じ効力を有するために非常に神経質になるところです。この債権調査手続きは破産等においても必要になりますが、民事再生手続きの中でも山場になります。

 

8再生計画案の作成

債権調査とは異なりダイナミックな作業になります。再生債権弁済計画書を作成し、再生債権者ごとに総債権額をまとめ、権利の変更方法に従って公認会計士の方と相談しながら弁済額を算出し、弁済方法の要領に従って分割弁済案の作成を行います。弁護士であってもこの場面では簿記の知識が必要になりますので、修習中に勉強する方も多いです。私自身も修習中に勉強しましたが、特にこうした民事再生に手続きにおいては数字を扱うことは避けては通れないので、公認会計士の方と相談しながら作業を進めていくことになります。

 

9付議決定

再生計画案を見て監督委員の弁護士が意見書を書き、債権者に対して呼び出し状や議決票を発送するという手続きになります。

 

10債権者集会

大口の債権者には白紙委任をしてもらった上で、可決が行われるようにしておく場合もあります。大口債権者には事前に同意してくれるよう頼みに行くことが多いのですが、大口債権者としても、反対することで企業が破産してしまうと資産がますます劣化してしまうため、反対するメリットもないことから同意してくれる場合が多いです。

 

11認可後

再生計画案が認可されると、分割弁済案の通り返済していくということになります。認可決定が確定しても3年間は手続きが継続し、監督委員等の監督に服しますが、一定弁済がすむと会社が復活していくこととなります。認可決定により同意、報告事項の内容は緩やかになったりします。

 

こうした流れにより、民事再生手続きが進められていくことになります。弁護士の中にはこうした手続きを一切されない方もいらっしゃいますが、この仕事を通じて会社の役員や社員の方と親しくなり、その会社に就職したかのように愛着を感じるようになると、その会社を再生することができたときは非常に達成感を感じることができ、やりがいのある仕事であると感じています。

現在では、民事再生手続きを、破産する前に資産を劣化させないための、段階的な清算型の民事再生として用いる場合もあります。こうした手続きを考える作業も非常に面白い部分であり、M&Aといった事業譲渡も絡んでくることから、ダイナミックな仕事ができる場面です。しかし、民事再生の件数は少なく、実際には破産事件の方が多いのが現状です。それでも民事再生の方が面白いと私が感じる理由は、民事再生は人との付き合いがあるという点です。破産手続きはある意味機械的に資産の整理をしていく作業ですが、民事再生においては会社の人や債権者といった多くの人に出会うことができるので、個人的には面白いと感じています。

私自身は倒産手続きがしたいということもあり、大きな事務所を志望し就職したのですが、企業の側に立って弁護士の仕事をするに際しては、弱者の味方ではないように見られることもありますし、世間の人々の人権派弁護士に対する視線に比べると冷たい視線を感じることもあります。しかし私としては企業全体を守り、活性化することにより従業員を含め、多くの人を幸せにすることができると考えており、企業の側からの人権救済ができると考えています。企業としてもやるべきことはやった上で、全体的な利益を考慮しているという事実を踏まえると、企業法務を扱っている弁護士が人権派でないと言うことは決してできないと思います。大企業の側に立って仕事を行う場合であっても、企業の側からの人権救済も可能ですので、そういった面も企業法務の醍醐味であるということを認識していただけたらと思います。特に倒産手続きにおいては、債権者の側から登場する弁護士もいますが、企業側に立つ弁護士としては、一人の債権者の救済も勿論大切ではあるのですが、一人を救済することによって他の債権者を適切に救済できなくなるという事態は避けるべきであり、全体の調和を重視することも必要であると弁護士業務を通じて感じています。

 倒産手続きの流れは以上になりますが、私は女性弁護士ということもあり離婚、家事事件等についても扱っています。

私自身は、当時就職難であったということもあり、就職は全く考えずに、弁護士を目指していました。やはり資格を有しているということで結婚・出産後も仕事に復帰できたので、そうした点で資格を有しているということには大きなメリットがあると思います。

また弁護士は就職した人よりも一年目から裁量が大きいという特徴があり、一年目から独立して働くことができます。とはいえ、大きな事務所に勤めているという点で、個人の裁量が大きい弁護士として働きつつも、企業のような組織で働くことの楽しさも味わうことができ、楽しく仕事をしています。今では大手の企業の中で社内弁護士として働いたり、官公庁で働いたりと、弁護士の活躍の幅が広がっています。様々な仕事ができるという点で弁護士はよい職業であると思いますし、やはり資格であるという点で、女性にはいい職業ではないかと思います。

皆さんも学部時代にはそれなりに勉強もしつつ、サークル活動等を通じていろいろな経験を積んでいかれるのがよいかと思います。

大手の事務所に勤めておりますので、皆さんと今後お会いする機会もあるかと思いますので、こうした機会を持てたことを嬉しく思っております。ありがとうございました。

以上