20091015日ロイヤリング議事録

講師:三木秀夫先生

文責:古川真理

 

NPO法人と公益法人制度

〜市民公益活動を支える法と実務〜

 

 本日の講義内容である法人に関する規定はご存じのように民法に規定されています。今日は私の実務経験のお話を通じてNPO法人とはどういうものか学んでいただけたらと思います。

 

1 明治以来110年ぶりの法人制度大改革

レジュメに記載されているように法人制度に関する大改正が最近行われましたのは皆さんご存じかと思います。そもそも従来の法人制度においては、営利・非公益に属するのが商法や有限会社法による営利法人と、公益性があり非営利なのが民法34条に規定された公益法人、そして非営利かつ公益性がない中間的な法人となっていました。

しかしこの制度が平成10年に大幅に変わり、この年にNPO法が制定されました。なぜそういう法律ができたのかについては後述することにします。昨年からの法人制度はレジュメ1枚目の下の部分に記されているように、左側の営利法人は会社法によってひとくくりにされ、これまではひとくくりになっていなかった右側の非営利についても、営利側の会社法と対になるように一般社団・財団法人制度によってひとくくりにされました。今回の法人制度改革によって営利と非営利の部分で大きな変革があったと言えます。

 

2 NPOの定義

まずは最初にNPOとは何なのかということを説明していきたいと思います。NPOという言葉は今でこそ皆さん馴染みがあるかと思いますが、私がNPO法の制定に携わったころは誰もこうした言葉を知りませんでした。NPOの定義は最広義のものから最狭義のものまでレジュメに記してあります。

非営利という意味がよく分からない方がいるかと思いますが、営利組織の代表である株式会社と比べると、営利を目的としないというのが非営利であると言えます。よく「NPO」をボランティアと勘違いしている方、「非営利」とは金儲けをしてはいけないという意味だと理解されている方がいらっしゃいますが、実際はそうではありません。

株式会社というのは入っていくお金と出ていくお金の差額によって利益を得ています。株式会社はこの利益を株主に配当します。「営利」というのはこの「利益を株主に配当する」ことを目的としていることを指します。非営利の団体であっても経費というのはかかるので、寄付金や助成金によってそれを賄っています。出ていくお金があり、入ってくるお金があるという意味では会社と何ら変わりません。しかし、「非営利」である場合、利益として余った分を配当せず、次年度の活動費に回すという使い方をします。ですから、非営利というのは金儲けをしないということではないので勘違いしないようにしてください。

私のところに相談にいらっしゃった方のケースでは、大人に対する不信感を植え付けないように専門的なプログラムに基づき、子どもが危険から身をいかに守るかという教育をする活動をしているCAPという組織の例があります。活動の規模を拡大する過程で、資金の自己調達に限界が生じたため、出向いた先からお金をもらおうとしたところ、「ボランティア団体がお金を取るのか」といった誤解のもとで猛反発を受けたというケースでした。このケースにおいて私はCAPの人々に、非営利組織というのは、収益を得て活動を継続するという点では株式会社と変わりないのだから、堂々と対価を要求すべきであるとアドバイスしました。その後、相手方の学校関係者の理解も徐々に広がり、今は「ボランティア団体がお金を取るのか」などといった意識は消えつつあります。

NPOは広い意味がありますが、市民が自主的に活動をして社会的課題を解決していく範囲でいうNPOが、本来のNPOの意味合いに近く、その中でも、法人格を有しているものをNPO法人と言います。

 

3 NGOとは

 NPOとよく一緒に使われる言葉としてNGOというものがあります。こちらは非政府組織という意味で、民間団体であるという意味ではNPOとNGOは実体としては同じものを指します。NGOという言葉からイメージされるのは海外の組織であることが多いかと思いますが、もともとの出発点は国連憲章の中で使用されたことにあります。つまりNGOというのは国連とつながっている団体と思っていただいたらよいと思います。

 

4 日本におけるNPO法の歴史

 六法を見ていただくと、NO法は今では民法の次の次ぐらいに記載されていますが、NPO法制定当時は民法の次に記載されていました。正式には「特定非営利活動促進法」という名で19983月にできました。一般にNPO法と呼ばれています。

 

5 なぜNPO法人ができたのか

 NPO法制定数年前には阪神淡路大震災(1995年)がありました。この後、NPO法を作ろうという動きが活発化しました。私は、大阪発祥のNGOであるSCJ(Save  the Children Japan)というNPO組織が、法人格の取得を考えは始めた頃から、この問題に関心が生じたのが、これに関わったきっかけでした。

皆さんも法人格がないと、どういうデメリットがあるか考えてみてください。法人格がない場合には個人で事務所を借りなければならないので、代表が変わるたびに契約を変更しなければならず、寄付金を受ける際も代表が変わるたびに面倒な手続きが必要となり、企業や行政に補助金をもらいに行った際にも法人格がないとなかなか補助金をもらえないといった場合や、税制面においても不利な点があります。こうしたデメリットゆえに法人格の獲得を主張していたのでした。

私は、大学で民法を学んでいたので、すぐに民法の34条を思い浮かべ、これによって法人格を取得できるだろうと、簡単に思っていました。しかし実際には、民間の草の根の団体に対しては、はなかなか法人格を与えてくれないという現実に直面しました。

私は、このとき、世の中には財団法人・社団法人がたくさんあるのに、なぜ民間の草の根のNPOが、法人格をなかなか取得できないのかと思いました。そのとき、よくよく社団法人・財団法人の実態を見ると、ほとんどが官製もしくはそれに近いような組織でした。これは、行政が設立許可をした場合には、その後の監督もする必要性があるからですが、私は以下の点がおかしいと思いました。

一つ目は公益性の判断です。私がNPOに携わり始めた頃に、最初から自分たちの組織の法人格取得は不可能だと考えている団体も多くありました。そのひとつにアムネスティ・インターナショナルというのがありました。この団体は、人権活動をしていますから、主務官庁は法務省です。しかし、その法務省の考える人権と、その団体が唱える人権の考え方の違いゆえに、法人格を認めてくれないだろうと考えていたのです。また、まちづくりのある団体も、環境問題についての認識が主務官庁の考えと異なれば、公益性あるものとの判断をしてくれないだろうと考えていました。

私はこうした行政庁のやり方は、官の考える「官益」の優先であって客観的な公益性の判断ではないと思いました。しかし民法34条にいう公益は、官の考える公益=「官益」を基準として運用されているのが現状でした。

二つ目は許可制です。これは行政庁が許可をするか否かという裁量の余地が非常に大きく、許可の基準が不透明であるという弊害がありました。

三つ目は主務官庁制です。この主務官庁とは縦割り組織です。私が経験した事例では、上述のSCJが阪神大震災で被災した子どもへの支援を検討している際に、申請先である外務省から、「外務省に公益法人の許可申請をしている団体である以上は、海外の子どもへの支援でないとならない。この点からして、今回のように日本の子どもたちに資金を使うのはいかがなものか」という連絡が入ったというケースがありました。私はそれを聞き非常に憤りを感じました。民間の団体が自主的に活動を使用としているのに、政府による監督の名のもとで組織の活動の規制はあってはならないことですし、こうした官庁の対応は官僚組織の縦割り構造ゆえの弊害であり、制度そのものに問題があるのではないかと思いました。

私は常に、企業と行政とNPOの3つをセットで考えています。企業ができないことや行政がまだ気がついていない、まさしく最先端なことをしていく組織がNPOであり、これを育てていくための法人格は本来NPOに与えられてしかるべきものですが、今までは行政と関係性の深い組織にのみ与えられてきました。しかし、私はこれを行政という枠から取り出し、NPOに与えていくべきだと思います。本来、営利企業が法人格を有するために選別は行われないにもかかわらず、非営利組織であるNPOが法人格を得るためには、社会の役に立つか否かの行政の観点からの選別が行われるというのは自由主義に反すると言えると思います。

阪神大震災以前から様々な分野でNPOが生まれていましたが、こうした団体は民法34条の法人格の問題で悩まされていました。そこで、法人格を取得するに際して、民法34条を根本的に改正、あるいは法人格を取得しやすくするような特別法を作ろうという話になり東京で会議が開かれました。関西からは私一人参加しました。

奇しくもその会議の翌年に起こった阪神大震災によってボランティアに注目が非常に集まりました。その支援活動の中で、ボランティアをうまく組織して指揮していたのはNPO団体でした。被災者の方の基本的なニーズには行政が対応していましたが、障害を持っている方への対応や、被災ペットの保護など、行政や企業では気が使かないことや、手が回らない部分についてNPOが独自のノウハウを発揮しました。そうした活動を通じてNPOの活動が広く認知されるようになり、こうした組織を社会的に育成するシステムを作るべきではないかという風潮が高まり、こうした流れの中でNPO法を作っていきました。このNPO法は初めての純粋市民立法と言われています。

6 NPO法の概要

NPO法の制定によって、なにが達成されたのかというと、主務官庁制の打破を実現しました。全国的規模の団体の認証は総理大臣、地方規模の団体の認証は知事とするとこで縦割りによる弊害を打破しました。

さらに、認証要件を客観的なものとすることで行政の裁量打破、官庁の考える公益からの脱却を達成しました。

認証申請手続きは、先ほど述べたように、要件をすべて客観的なものにし、申請から4月以内に認証が下りるシステムとしました。この客観的な要件の中で特筆すべきは、過去の事業については問わないということです。過去どういった活動をしていたかを要件にするとそこに行政側の価値観が入ってしまい、許可に際して不利になることがあるのでそうした要件は設けられませんでした。

現在では38千を超えるNPO団体が誕生し、110年間にできた社団法人・財団法人の数を上回っています。大阪府下にも数千はあると思います。NPO法の制定に際してはアメリカの大学の教授の話も聞きましたが、アメリカでは書類2枚で法人格取得の申請ができるとのことでした。日本の制度を話すととても驚いておられたのが印象的でした。従来の日本の制度は世界的に見て非常に遅れており、現在やっと世界標準に追いついてきたということです。

 

7 認定NPO法人制度

認定NPO法人制度とは税制面での優遇がある制度です。誰に対する優遇かというと、一定のNPOに対する寄付をする際に個人や企業にかかる税を安くしようという制度です。認定の基準を分かりやすく言うと、収入に対する寄付金の割合が3分の1を超えていれば認定NPOとして認めるという基準です。つまり行政の基準で選ぶのではなく、たくさんの市民に支えられているNPO法人に対してこの認定を与えようという制度です。しかし、実際この認定基準は非常に厳しく、なかなか認定されないのが現状です。

 

8 公益法人改革について〜民法の大変革と課題

公益法人制度改革については、NPOとどうかかわってくるのかが問題となります。レジュメの@についてですが、今まで市民が自由に活動できるための法人制度がなかったので、NPO法人制度を作りました。Aについては、今まで非営利であり非公益である部分の団体をまとめる法律がありませんでした。そこで、中間法人制度というものを作りました。Bについては、営利化した公益法人の問題に影響を与えたのがNPO法です。NPO法の根底にある、NPOを育てようという考え方が公益法人制度改革にも通じています。

新制度のポイントとしては、旧制度において一体としてなされていた法人の設立の許可と公益性判断を分離されたことが挙げられます。それにより、公益性がないと判断されたことによって法人格が取得できないということはなくなり、登記のみで容易に法人格が取得できることになりました。営利組織である株式会社などが法人格を取得するプロセスと全く同じになったと言えます。

この新制度の下では、公益認定を誰が行うかということが問題となりました。ここでは行政とは異なる市民から選んだ有識者による公益認定委員会が認定を行うということとしました。この公益制度改革の際に、NPOもこの組織に組み入れればよいのではないかという議論が行われましたが、行政主導で行われたこの改革はやはり行政関与の色彩が強く、NPO側としては使い勝手が悪いのではないかという懸念を理由としたNPO側の反対により、この公益法人認定制度とNPO法が併存することとなりました。

公益社団・財団法人の公益性の認定は形式的には総理大臣や知事が行いますが、実質的には民間人から選ばれた公益認定委員会が行います。このときに用いられる認定方法はパブリック・ベネフィット・テストと呼ばれる方法です。有識者が判断を行うので、ある人は、これを「賢者の判断」と言いました。ここでは、法人が目的として行う活動に公益性があるか否かを審査します。先ほどお話した認定NPO法人の認定に際しては、その法人が寄付者にどれだけ支えられているかというパブリック・サポート・テストという判断方法を用いていて、公益法人認定の方法とは差異があります。この2つの方法はどちらも一長一短であり、どちらがよいとは一概には言えません。

公益法人制度の今後の課題としては、本当に公益認定が市民の立場から行われるか否かについて、第三者の立場から公益認定委員会を監督していく必要があります。実際に公益性があるか否かについて疑問符のつく組織がいくつかあります。一番気になるのは、対立する公益を主張する団体についてどのように扱うのかという点であり、これに関しては今後も注視していきたいと思っています。

 

9 「営利」と「非営利」のボーダーレス化

私の仕事の大半は株式会社関連のことなのですが、営利と非営利の間の距離が昔に比べて接近し、ビジネス化してきているNPOなどもあるという側面もあると感じています。具体的には障害者の方にパソコンを教えることで、自ら社会の一員として働き、税金を納めることのできるように支援しているNPOがありますが、こうした活動はまさしく企業活動であると思います。

加えて、今や企業自身がNPOを支援するのは当然の流れになっています。しかも、昔の企業の社会貢献は大々的に企業名を冠して行っていましたが、最近の企業によるNPO支援は裏からの支援である場合が増えてきています。

会社法を利用した非営利組織的企業も誕生しています。というのもレジュメの7・8ページに記していますが、@規制の柔軟化、A「営利」の規定の変化、B「営業」から「事業」への文言変化などの特徴が会社法には見られます。これは営利と非営利の間のボーダーレス化を促進していると言えるのではないでしょうか。

 

最近は大学生の就職先として、私のころには考えられなかったのですが、NPO組織を選択する人が増えてきています。私が理事を務める団体が開く就職セミナーには多くの大学生が訪れ、訪れる人々も高学歴化しています。最近では国際機関に就職する人も増えています。NPO組織は一般企業と比べて収入が低いという側面はありますが、やる気や、やっている中身は企業と比べて全く違うものですので、もしこうした活動に関心がある方は就職先として考えてみてはいかかでしょうか。

20世紀は企業中心の社会でしたが、21世紀はNPOも中心となる時代であると思います。是非とも関心があるなら、こうした分野にもチャレンジしてみてください。今日のような話をはじめて聞いた方もいるかと思いますが、行政の道に進む場合もNPO活動抜きに行政は語れません。ですので、行政の分野に進まれる方にも是非ともこの分野に関心を持ってもらいたいと思います。

以上