11月6日ロイヤリング議事録

講師:北岡満先生

文責:塚上公裕

「建築物の瑕疵に伴う諸問題」

 

1はじめに

私は昭和41年に大阪大学法学部に入学いたしまして、47年に司法試験を通り、修習は27期生でした。今年の修習生が61期ですので、34年ほど先輩にあたります。

私の事務所には法科大学院の一期生がおられ、制度が変わってきているなかで、どのようなかたがいらっしゃるのか楽しみにしております。

今日は学部の学生の方にお話させてもらうということなのですが、私はこのロイヤリングの講義に10年以上きていまして、また、法律相談部にも年に一回参加させてもらっています。そのなかで、できるだけ後輩と接する機会をもちたいと考えています。

私は普段、刑事事件はあまりやっていないですが、建築、行政、医療過誤等を担当していまして、今日はその中でも特に建築物の瑕疵に伴う諸問題を取り上げ、ケースメソッドという、アメリカのロースクールでとられている手法で、私が実際に担当した、若しくは担当している事件を用いて、お話させてもらおうと思います。

 その中で、建築に関する専門用語がでてきたりするのですが、私は建築などについてすべて知っているわけではなく、その分野のことについては全く分からない素人です。

 例えば皆さんは布基礎、束石、根太といった漢字が読めますか。このように業界ごとに業界ごとの言葉があり、弁護士には分かりません。しかし教えてもらえば理解できます。法律用語も皆さんは普通に使っていますが、他の人にはわからないのと同じです。

 では、そのような状態で喧々諤々と論争が挑めるか、といいますと、挑めます。ただしそのためにはサポーターが必要です。建築のことなら一級建築士さん、医療過誤ならお医者さん、特許なら弁理士さん、登記なら司法書士さんといった専門家の方々のサポートが必要です。

 このように弁護士という仕事は色々な方と触れ合う機会があります。そうしてこういった方々とのネットワークをつないでおくことが大切です。もし、本を読んで勉強しようと考えても、本がどこにあって、どのような物を選べばよくて、どの頁を読めばよくて、どの程度理解する必要があるのかといったことから全く分からないのです。

 では具体的にレジュメの事案を見ていきます。

 

 

 

 

 

2レジュメ事例

 

 このような話はよくある話で、見えないところで手を抜く、施工主も了解済み、業者も大丈夫という。しかし途中で施工主が安全性に問題があると聞き、それを聞いていれば了承しなかった、といってこのような訴えをおこすということは本当によくあります。

 

参照資料@(判例 大阪地裁昭和57527日判決 判例タイムズ477154頁)

 

 ではこの事案に対してどのような法律構成が考えられますか。答えとしては債務不履行責任(民法415条)、不法行為責任(民法709条)、請負人の瑕疵担保責任(民法634条)の三つが考えられます。

 ではどうして三つも必要なのでしょうか。

 資料のBを見て下さい。

 このようにそれぞれ請求できる内容や、請求期間が異なるからです。

 そしてこの中には一つ全く異質のものがひとつあります。それが不法行為です。不法行為が威力を発揮するのは本質的に全く違う場面で、それは契約関係のない人の間で使えるといことです。例えば土地を造成した人、建物を立て売った人、その建物を買った人、がいたときに、土地を造成した人と、建物を買った人の間には契約がないため、債務不履行責任等は請求することができないが、不法行為なら可能と成ります。

 

 

事案4

Xは、平成7130日、Yから、自宅(鉄骨造スレート葺3階建)を4280万円で購入した。本件建物は、一部、間取り等についてはXの要望を入れて作られたが、売主仕様の建売住宅として、Yが、設計、施工等すべてを取り仕切って建築された。

 Xが、平成1911月に本件建物を改装する必要に迫られ、本件建物を一級建築士に調査してもらったところ、建物の現況は、Yが平成7年に提出していた建築確認申請書と大きく齟齬し、建築基準法の基準を充たさない瑕疵があることが判明し、改装工事を中止した。建築確認申請書と異なる箇所で主なものは、柱の強度不足、天井裏の梁の強度不足、耐火性能の欠落がある。

 尚、瑕疵修補費用の見積もりは810万に上がる。

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


これは今、私が実際に裁判をしている事例です。自分がYならどのように考えますか。

もう10年以上前の話ですので、法律構成に問題があります(資料B参照)。売買契約の売主の瑕疵担保責任は1年の消滅時効にかかってしまっているため、つかえません。そこで、不法行為責任を問うことになります。

この事例においても、YXが建築中に、様子を見に来ていたことを主張しているため、事案としては1の事案と似たものとなってきています。

 

資料@

「なお、本件建物に板厚一・六ミリメートルの鉄骨を使用することについて原告から了解を得ていた旨の被告の供述は、建築士としての職務を放棄して原告に責任を転嫁する発言としか理解できないが、これが事実としても、そのことによて被告の責任に消長を来たすものではない。」

 

 

 
 

 

 

 

 

 

 


これはつまり、たとえXが了承していたとしても、Yのプロとしての責任が軽減されるものではない、と判示したものです。Xは素人、Yはプロ、にもかかわらず、Xがいいといったから、というYの言い訳は認められず、責任は軽減されないということです。

 事案1については、補強工事をすること、300万円の減額をしてもらうことで合意しました。

事案4については、始まったばかりで、まだ結果は分かりませんが、Xは女性なのですが、工事を見に来たのはあくまで間取りがどのようになっているのかを見に来ていただけであって、柱が何センチ小さいとか、耐熱が不十分だとかについて全く分かっていないので、そのような責任転嫁は認められないと確信しています。

 

事案2

 Xは、Y1(プレハブメーカー)に対し、自宅の新築を依頼し、代金9500万円で請負契約を締結した。

 Y1はプレハブメーカーであるため建物の本体は自社の商品を提供したが、基礎工事は地元の工務店Y2に下請けさせた。建物が完成し、引渡しを受けることになったが、Xは施工に不安を感じ、一級建築士Aに建物を検査させた。しかるところ、手抜き工事並びに施工上の欠陥があることがわかり、Xは工事代金3000万円の支払いを拒否した。Y1Y2が行った基礎工事につき欠陥並びに手抜き工事があることを認め、残金の減額請求に応じる意向を示したが、(500万円減額)、瑕疵修補等その他の要求は拒否し、残代金を請求する訴えを提起した。

 Xは瑕疵を修補するには、建物を全部建て直さないとできないと主張し、残代金の全額の支払いを拒絶している。

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 この事案は請負契約で、基礎の部分に瑕疵がある事案でした。

 そこで最初の話に戻るのですが、基礎には三種類ありまして、その中で「ぬのぎそ」は長方形に長くある基礎のことで、長方形に長くあるのを布といいます。

 

事案3

 Xは、売主業者Y1が販売する建売住宅(以下、「本件建物」という。)を媒介業者Y2により購入した。

 ところが、Xが本件建物の使用を始めると、付近の線路の列車が通過する際や、前面道路に駐車した自動車のアイドリング等によって、本件建物が異常な振動をおこしたり、壁・塀コンクリートに亀裂が生じた。

 Xは、本家建物の地盤が軟弱性地盤であるにもかかわらず、Y1の基礎工事は不相当であり、これにより、建物の地盤が沈下したために上記の現象が生じたものであると主張している。

 Xは、Y1Y2にいかなる請求がなし得るか。

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 この事案では、建てられたものを買う売買の形式でした。ただし、事案の特殊性としましては、仲介業者が入ってきていることです。

軟弱地盤という問題に対しては、もっとも簡単で、費用のかからない、スウェーデン式サウンディング試験によってその程度を調べました(資料C)。

法的構成については、瑕疵担保責任、不法行為責任が考えられます。

 仲介業者の責任については、重要事項を告知すべきであったといえ、それについて認めた判例が存在します。

 

3最後に

建築紛争は珍しいものではありません。大阪の裁判所でも、26ある部局のうち、2つは常に建築紛争を取り扱っているといった状況です。

 また、裁判だけではなく、ADRも頻繁に利用されています。

 建築に関しては売買契約と請負契約が問題となりましたが、請負契約に似た制度に委任契約があります。例えばお医者さんや、弁護士の仕事がこれにあたるといえます。

請負との違いは、請負は仕事の完成が必要ですが、医者も弁護士も仕事を完成させるとはいえず、必ず病気を治すわけでも、かならず訴訟に勝つわけでもありません。治らないと思っても、勝てないと思っても、それなりの解決をするということもあります。そこで委任だと考えられています。

しかし建物の場合は、どのようなものを建てるか決まっていなければ契約にならないため、請負契約となります。

そこで、建築士さんに依頼する場合はどうなるのでしょうか。建築士さんの場合は、いろんな意見、特に施主さんの意見を聞きながら、一緒に作っていく、という場合には必ず一つの物を作るわけではないので、委任になることが多いといえます。

 以上、本日は私が担当した事案を元に、債権各論のお話をさせてもらいました。

 

以上