1023日ロイヤリング議事録

講師:大川治先生

テーマ:「刑事弁護の実際」

文責:横江紗也香

 

今日は掲示弁護の実際というテーマで講義をします。私は昭和63年に入学し、大学では遊んでばかりいました。今年で弁護士になって13年になります。普段は刑事事件ばかりやっているわけではないのですがが、弁護士は刑事事件を熱心にやるべきであると思い、講義をします。

最近、凶悪事件が起こっています。例えば、先日の梅田でのひき逃げ事件、オウム真理教事件、神戸連続殺傷事件、和歌山毒カレー事件、池田小事件、光市母子殺害事件などがありました。このような凶悪事件を担当する弁護人は懲戒請求をされたり、脅迫電話がかかってきたりすることさえあります。仕事として弁護活動をしているのに、悲しいことながら被告人の支援者であるかのように報道されます。その背景には「弁護士はどうして悪いやつの弁護をするのか、被害者の悪いと思わないのか」という素朴問いがあるからです。一方、最近は無罪事件もあります。それは、弁護士が無罪を争ったからです。

刑事事件をまったくやらない弁護士もいます。たしかに、刑事事件をやる気をなくす原因はあります。一つは、ドラマのように格好のいい仕事ではないことです。刑事ドラマのように弁護人が捜査することも、法廷ドラマのように法廷で弁護人が「本当はお前がやっただろう」と問い詰めることもありません。二つ目は、先ほど話したとおり、争いのある事件では弁護士がバッシングされることです。三つ目は、無罪をとりたいが、99.9%は有罪判決が出ることです。そもそも起訴便宜主義なので、冤罪事件に出会える確率が低いのです。そして、最後に、ビジネスとして儲かりません。特に国選弁護の場合、微々たる額の報酬しかもらえません。このような状況で刑事事件に情熱を持ち続けることができるか、というのが現実です。

しかし、私は刑事事件をやっています。最近の例で、光市母子殺害事件では、弁護人の主張は荒唐無稽だという批判がありました。だからといって、ただちに刑事弁護制度は必要ない、弁護人は被害者を傷つけることを言ってはいけないという結論が導かれるでしょうか。

犯罪者やその弁護人たちを批判する人は、自分が犯人になる可能性があることを考えていません。たとえば、交通事故、賭けマージャン、覚せい剤など、いつでも、どこでも自分が犯人になる可能性はあります。もし自分が犯人として攻撃された場合に、刑事弁護制度がなかったらどうしますか。自分ひとりで戦えますか。何もしていないのに有罪となってしまいます。実際、日本国憲法ができるまでは、刑事制度は弾圧の制度として使われていました。今日では、日本国憲法は31条で刑事手続を保障しています。多数決で有罪・無罪を決めてはいけないのです。

世界中が被疑者・被告人の敵であっても、刑事弁護人はその味方にならなければなりません。個人のポリシーはさておき、資格を持って弁護士の仕事をしている以上は、味方をしなければなりません。被疑者・被告人が荒唐無稽なことを言っていても、被疑者・被告人がそれを主張するのなら、弁護人は主張してあげなければならないのです。

今まで、刑事事件のやる気をなくす原因が大きいこともお話しましたが、次に刑事弁護のどこにやりがいが感じられるかを話します。

人は逮捕されたら合計23日間警察の留置場にいなければなりません。自分の意思を完全に抑圧された状態で捜査を受けます。警察や検察はむき出しの暴力を使って、被疑者を逮捕・勾留して取り調べるなどの捜査をして有罪判決を取ろうとします。そこで弁護士は、そのむき出しの暴力に対して、言葉(口頭、書面)の力、法律の力で平和的に戦います。ほとんどは有罪となるが、ときには無罪になることもあります。これがやりがいです。

刑事事件は逮捕からスタートします。自分や友達が逮捕された場合、当番弁護士制度があり、弁護士が1回目だけ無料で接見してくれます。逮捕は捜査手続の一環で、23日間の捜査が終わると起訴され、公判手続が始まります。

弁護士はまず、起訴されないように尽力します。逮捕されてから勾留されるまでの48時間の間に何ができるかが重要です。なぜなら勾留までに釈放されれば、起訴される可能性が低くなるからです。しかし実際には難しく、弁護士が行ったときにはもう48時間が経ってしまっていることもあります。

逮捕後から勾留開始までの48時間と、勾留期間が10日間と延長10日の合計23日間、被疑者はほとんど毎日、9時から22時まで取調べを受けます。この期間、身に覚えがない人は「私はやっていません」としかいえないのに、警察には「おまえがやったんだろう」と問い詰められます。この身体拘束されている期間が山場となります。被疑者が否認している場合、なんとか都合をつけて接見に行きます。しかし普通は一日12時間程度しか接見できません。すると、弁護士よりも、一日中会う警察官にシンパシーを抱いてしまい、自白してしまったり、実際にやったこと以上のことを認めてしまったりすることがあります。被疑者が警察には自白しておきながら、私には否認しているというケースもありました。このように、被疑者との信頼関係を築いてアドバイスするのは大変難しいのです。自白調書が取られてしまうと覆すのは難しいので、自白調書を取られないようにするのが弁護士の腕のみせどころです。

実際、3年前に殺人の否認事件を担当しました。朝7時ごろに30分から1時間ほど接見し、昼間に接見、夜にも接見しました。すると、本人も気力を保って否認をつづけました。刑事ドラマでは、23日間は無罪の証拠さがしや証人集めなど格好のいいことをやっていますが、実際は力技です。この期間、弁護士には捜査に関する情報がほとんどありません。情報源は、「こんなことを聞かれた」という被疑者の言葉のみです。これを聞いて、弁護方針を立てるのは、風景を見ずに絵を描くようなもので、なかなか難しいことです。

自白のケースは軽微な事件であったり、被害弁償をしたりすると不起訴になることもあるが、否認のケースは100%起訴されるので、延々と身体を拘束され続けます。一応、起訴後に保釈手続はありますが、保釈を請求しても否認事件の場合は保釈されません。

また、ガサ入れ(家宅捜索)をする場合、警察はこっそり捜索差押令状をとります。弁護人、被疑者には知らされません。実際に犯罪をしている場合は証拠隠滅などのおそれがあるからです。ガサ入れは朝7時くらいに突然警察が来て行われます。この時間だと、弁護士に連絡しようにも、連絡がつきにくいので、弁護士が立ち会うことは難しいです。したがって、差し押さえてはいけないものが差し押さえられた場合は、後の裁判で争うしかありません。さらに、差し押さえを受けた人はそのまま連行されることも多く、そこで自白調書がとられてしまいます。

自白事件の場合は否認事件とは違う大変さがあります。例えば軽い交通事故事件の場合は、弁護士は保険会社と折衝します。暴力事件の場合、被害者に謝罪をして示談で解決します。そして、被害弁償を行ったことや示談が成立したことを検察官に言って、不起訴にしてもらいます。これを23日間でやるのは結構大変です。

実際、被害者との示談は難しいです。私が、「加害者が書いた手紙と、迷惑をかけた分のお金を払いたい」、と言ったら、待ち合わせ場所に黒塗りの車が来て、南港のほうへ連れて行かれました。途中は怖かったのですが、結局ファミレスで穏やかに示談が成立しました。また、痴漢事件の示談では、被害者の父母に謝りに行くと、「あなたは結婚しているのですか。子供をもった親がどんな気持ちになるかわかるのですか。」と怒られました。私が痴漢をしたのではありませんが、平身低頭の姿勢でいると、結局示談が成立しました。

起訴されたら公判弁護をします。101日に起訴されたとして、第1回公判期日は12月初旬ごろです。約2ヶ月間は準備期間です。弁護士としては準備できるが、被告人としては早くして欲しいと思います。この期間、弁護人見ることのできる証拠は検察官が裁判所に提出しようとする証拠(請求証拠)のみです。それ以外は、見ることができません。見ることができない証拠の中に被告人に有利なものがあることもあります。そこで、検察官に証拠開示するよう請求するのも弁護活動の一つです。証拠開示がされたら弁護側もいろいろな主張ができるのです。裁判員制度の下では、証拠開示をするか否かの争いに裁判員を巻き込むべきでないので、公判前整理手続で証拠をどんどん出させるようになっています。

 迅速な裁判について、有罪執行猶予付き判決が見込める場合は、できるだけ期日を早くしてもらえるよう裁判所と交渉します。第1回公判期日に結審して、第2回公判期日に判決をもらうのが理想です。一方、執行猶予付き有罪判決をもらった前科があり、猶予期間中に犯罪をした場合は、逆に、期日を遅くしてもらいます。なぜなら、執行猶予期間中に実刑判決をもらうと、猶予が取り消されて猶予された期間も加算されるからです。裁判所もこのことは熟知していて、猶予期間終了後に判決言い渡し期日を設定してくれます。

公判期日の手続は、まず、人定質問をし、人違いのないよう氏名、本籍、を被告人に言わせます。このとき自分の本籍を知らない被告人がいるので、もし、将来弁護士になって、弁護人をやるときには、被告人に自分の本籍を言えるように教えてあげてください。次に検察官が起訴状を朗読し、裁判官が被告人に対し、権利告知をします。そして被告人、弁護人の罪状認否があります。次に、検察官の立証、弁護側の立証と手続が進行します。弁護人の立証のうち、証人尋問があります。自白事件の場合は、裁判官も人ですから、ほろっとさせれば情状の立証は成功です。法廷では嘘はついてはいけないが、こういった裁判官の心を動かすような工作はします。

最後に、今日の話のまとめをして終わります。刑事弁護はたしかに大変である上に儲かりません。しかし、必要な制度です。また、茶番劇だと批判されることもありますが、大真面目にやっています。また、裁判員制度に批判的な意見もありますが、私は肯定派です。無罪率が上がるかもしれないし、やりがいがあるかもしれません。これから刑事裁判がどう変わっていくかを見ながら、報道に耳を傾けてほしいと思います。

法曹になりたい人は、ぜひ私の話を覚えていてください。検察官になる人は、弁護人とフェアに戦ってください。裁判官になる人は、弁護人にあたたかいまなざしをください。

弁護士になる人は、刑事弁護も頑張ってやってください。法曹にならない人は、弁護士とはどういうものかの普及に努めてください。

 

以上