710日ロイヤリング議事録

講師:中村善彦

「少年事件について」

文責:酒井康徳

 

◆自己紹介

平成6年に大阪大学法学部を卒業した。平成17年に弁護士登録し、最初の1年間は損害保険会社の顧問になっていた法律事務所で勤務し、交通事故による損害賠償事件について主に加害者側で弁護活動をすることが多かった。その後、親族に弁護士業をしている者がいたので、スペースを借りて開業している。普段は一般市民相手の飛び込みや、市民法律相談から仕事を受けている。個人の破産や、事業者の民事再生、刑事事件などをしている。最近は少年事件に力を入れている。これまで78人の少年と関わった。

今日は、少年事件の手続き一般と、少年事件について私の経験を話そうと思う。

 

刑法や刑事訴訟法の勉強はしていても、少年法は馴染みがないかもしれない。しかしみなさんが弁護士、検察官、裁判官になればこれと関わることも多くなるだろう。また、将来は子どもの親になるだろう。また、来年から始まる裁判員制度では、裁判員として少年と関わることになるかもしれない。そのときに今日の話を活かしてもらえればと思う。

 

少年事件を扱う場合に忘れてはならないのは、少年の保護という観点である。これを強調しすぎると被害者側の共感を得られないため難しいことだが、少年法はあくまで少年を保護していこうというのが趣旨だ。たとえば鑑別所や少年院を刑罰と思っている人も多いと思うが、そうではない。少年がなぜ犯罪を犯したかを解明するには、親との関係や学校生活など環境を知ることが必要だ。たとえ少年であっても、犯した犯罪に対してそれなりの処分が下されることは当然だと思うが、少年の場合その後の人生が長く、また立ち直ってくれることが大人の場合よりも多い。そこで、法は少年に処罰を与えるのではなく保護を与えようとしたのだ。ここには、少年の身の周りの劣悪な環境をできるだけ取り除いて更正をサポートしようという観点がある。刑法、刑事訴訟法と違う点である。

 

少年法の対象となる少年は犯罪少年、つまり犯罪を犯した少年である。刑法では14歳未満の少年について刑事責任能力がないと定めているので14歳以上で刑罰法規に触れた者がこれにあたる。他方、触法少年と呼ばれる者は14歳未満でありながら刑罰法規に抵触する行いをした者であり、少年法の規定に基づいて処分される。また、虞犯少年は犯罪を犯す恐れのある少年である。大人の場合は一定の刑罰法規に触れない限り刑罰を科されることはない。それに対し、虞犯少年は罪を犯すおそれがあるだけの場合でも、非行に走ることから保護するという観点から、処分の対象になる。

刑事事件の場合は公正さを担保するため憲法37条で裁判の公開が義務付けられているが、少年審判は非公開である。少年の場合、一定の重大犯罪を犯した少年がマスコミの報道などで氏名や顔が明らかになると、更正後の再出発が困難になる。

また、今回の少年法改正で、被害者傍聴の導入が問題になっている。これまで被害者は少年審判を見ることできなかったため、被害者側はマスコミの報道により、いわば「さらし者」にされているのに、なぜ加害者が公開されないのかという批判があった。少年法を扱ってる弁護士の中では、導入について反対意見が多いと思う。

 

これから、少年事件の手続きについて、刑事事件と比較して、その特色を説明する。

刑事事件では、被疑者が逮捕され検察官に送致され、最大20日間勾留される。その間に裁判のための証拠資料が集められる。そして検察官により起訴され、裁判手続きを経ることになる。ここでは、警察や検察官が法律家として関わってくることになる。

一方、少年事件の場合、逮捕され、勾留または勾留に代わる観護措置が採られ、資料が集められる。少年は、身柄を取られた後、家庭裁判所に送られ、観護措置をとられることが多い。この場合、少年は鑑別所に入れられる。ここでは、心理学や教育学、社会学や幼児教育などの専門知識を持った鑑別技官が、少年に本を読ませたり切り絵をさせたりして少年の性格を調べる。また、家庭裁判所調査官は少年のこれまでの生活や親との関係を調べる。少年事件では、少年保護の観点から、少年が犯した犯罪以外にも多角的な要素が判断されることになる。

 

少年の処遇には次の4つの種類がある。

審判不開始は、そもそも犯した犯罪が軽微であり家庭裁判所が審判を行わないときである。

 不処分は、そもそも犯罪事実がなかったり、軽微だった場合になされる。

 保護処分は、保護観察と少年院送致等がある。保護観察は少年院等に送るほどではなく、自宅でも十分更正が可能な場合に、1ヶ月に12回程度地域の保護司と面会を続けることである。

 検察官送致は、少年が、単に保護するだけで済まない重大な犯罪を犯した場合に家庭裁判所から検察官に少年を送致するものである。一般に逆送と呼ばれる。この場合、検察官が大人が犯罪を犯した場合と同じ手続きで少年を起訴し、有罪判決を受ければ少年は刑罰を受けることになる。16歳以上の少年が故意で人を殺した場合、原則として逆送される。故意の殺人はもちろん、傷害致死罪でも逆送されることになる。マスコミの報道では、逆送された場合でも少年の名前は伏せられることになっている。ただ、地方裁判所に起訴されるため、裁判は公開されることになる。

 

 少年審判の対象となるのは、非行事実の存否と、要保護性の有無及びその程度である。

 審判では、本当に検察官が主張する犯罪事実があったかを確定させることになる。最近では大阪地裁の所長が襲われた事件で、この点が争いになった。

 審判で非行事実が認定された場合、いかなる処分にするかを判断するにあたり、要保護性の有無、すなわち国家が少年を保護しなければならないかどうか調べることになる。保護の必要性が低い場合は保護観察になりやすいし、逆に高かった場合は少年院送致になりやすい。いかなる処分が適切かを判断することになる。

 

次に、このような少年事件に弁護士がどう関わっていくかを話そうと思う。

ドラマでは、会社の重役や政治家の子が犯罪を犯してしまい、親が多額の報酬を支払って弁護士に依頼する、というシーンがよくある。しかし私扱う事件でそのようなものはなかった。親が子供を保護しようとしない場合や、親と連絡を取れない場合、適切な審判のためには少年に弁護士をつけたほうがよいと家庭裁判所が判断し、弁護士に依頼をしてくる。その依頼が、少年事件に関心を持ってる弁護士の団体に回ってきて、弁護士が事件を受けることになるのだ。これまで私が扱った少年事件の8件中7件はこれだった。

裁判所の依頼で回ってくる事件は、親が少年のことを見ていないことがほとんどだ。親がどこにいるのかわからなかったり、弁護士に依頼するとお金がかかるから弁護士をつけないという親もいる。この場合に、どうやって少年が弁護士つけるだろうか。親の事情で少年が弁護士をつけられない場合、少年自身が弁護士会に申し込むことで、弁護士費用を弁護士会に立替えすることを依頼できる。この場合、少年は弁護士費用を払わなくてよいということになっており、少年に弁護士をつける機会を保障している。

こうして少年事件を引き受けた弁護士は、違法捜査の是正をする。少年は大人以上にもろく、大人の圧力に対して脆弱である。取調べで、やってもいないことをやったと言わされたり、ことさら自分が悪質なものと仕立てられていてもこれを制止することができない。そこで弁護士は足しげく接見に行き、警察に何を言われたか、やってないことは認めるな、言いたいことは言え、言いたくないことは言うな、とアドバイスする。

また、勾留または勾留に代わる観護措置により、家庭裁判所に対し少年について捜査機関が調べた捜査記録が送られているため、これを閲覧・謄写し、記載事実が正確かを少年に照合する。ここで少年の言い分と違うことがあれば、審判で反論し、少年の主張を補完していく。

少年が自宅に帰らされている場合や、少年の親がしっかりしている場合、少年を連れて被害者に謝罪に行くことになる。そうでないと被害者がほったらかしになってしまう。もちろん、被害弁償をしても処分されてしまうことはあるが、被害者に対してきちんと対応しなければいけないということを少年に理解させるために謝罪させるのである。

 

少年審判では、仮に少年が鑑別所から出たとした場合、更正するための環境が整っているかが重要である。

公立学校の場合、審判になったということで直ちに退学にはならない。そこで弁護士は少年の担任の先生に会い、学校としてどう対応してくれるかということを話し合う。先生に審判に来てもらい、今後も学校で教育をしていくと言ってもらうこともある。

学校に通ってない少年の場合、働くところがあるかどうかが大事だ。そこで、少年の勤務先を確保することも弁護士の仕事になる。少年が勤務していた会社があれば、その会社に話に行き、雇用の継続を交渉することになる。少年が仕事先をクビになった場合、裁判所から保護観察処分をすることに難色を示されることがある。

少年に帰るところがないと、裁判所は少年院送致という判断をする傾向にある。少年の犯した犯罪だけを捉えれば少年院送致をするほどでなくても、帰るところがないからということを理由に少年院に送致されてしまうことになるのである。そのため、裁判所からは少年の受け入れ先を探させられることがある。

このように、弁護士の大きな役割としては環境調整してやることがある。これが大人の刑事事件と違うところだ。少年事件では、弁護士次第で少年の処遇が変わってくるし、弁護士が努力するほど少年がいい方向に変わっていってくれる。だからこそ少年事件を扱う弁護士は頑張るのだ。

 

大抵の少年にとって、身柄を拘束されるのは人生で初めてであり、精神不安定に陥る。このようなときに捜査機関から取り調べを受けるため、弁護士は少年の精神的な支えとなるために少年に会いに行くことが大人の場合に比べても重要だといえる。

しかし、少年とのコミュニケーションは難しい。裁判所から依頼を受け弁護に向かうわけだが、「呼んでもいないのに何しに来たんだ」と思う少年もいる。少年に対して、弁護士がつくメリットを説明してもなかなか心を開いてくれないことがある。そういったときには、いきなり事件の話をするのではなく、趣味の話から入ることにしている。もっとも、最近は漫画や音楽でもジェネレーションギャップを感じている。

弁護士は法律を使って、事実を要件にあてはめて結論を導き出すということをするのだが、実際の仕事では要件にあてはめる事実を聞き出すこと自体が難しかったり、本人が勝手な解釈で結論を出していたりして、それを説き解く必要がある。また、少年にとっては、自分が何をやったか、今後どうしたいかを言うことも難しい。そもそも弁護士との信頼関係を築くことも難しいのである。

少年事件に限らないことだが、弁護士にとって人とのコミュニケーション能力が非常に重要になってきている。たとえば、少年が捜査記録と違うことを言ってる場合、捜査資料に書いてあることが頭にひっかかって、少年に対して検察官のような質問をしてしまい、へそを曲げられてしまうこともある。みなさんもコミュニケーション能力を友達や親との日々の関わりの中で身に着けていって欲しいと思う。

 

法曹のほかに少年事件に関わる人々として、家庭裁判所調査官がいて、少年に対しいかなる処分をするのが適切かを判断する資料を集めたり、少年の周囲の人間から話を聞いたりする。また、鑑別技官は少年に読書をさせたり、精神能力のテストをしたりする。

弁護士の仕事をしていると、違う分野の人と話すことが役立つことが多い。みなさんの周りの人でも経済学や会計学をやってる人がいるだろうが、そういった人と話しておくことも今後役立つだろうと思う。

 

私の扱った事件で、母親が病気にかかっているにも関わらず父親が育児・家事を理由に母親を入院させず、病気を悪化させ、それに反発した少年が暴力をふるって審判に付されたという事件があった。

また、生まれたときから施設に預けられていた少年が、17歳になって母親のもとに帰るが、環境に馴染めず非行に走ってしまい、事故を起こして審判に付された事件もあった。

このように、事件を起こした少年は、劣悪な環境での生活を強いられていることが多いということに気がついた。そこで最近は子供の権利について積極的に関心を持ち、児童虐待の問題など様々なジャンルに関心を持つようになった。

弁護士を志望する人の中には、ある特定の仕事をしたいからという理由で弁護士になる人もいるだろう。しかし、弁護士は仕事をしているうちに多くの事件を受け、その関心がどんどん広がっていくものである。弁護士の仕事のいいところは、一つの分野を掘り下げていくうちに他の分野についての知見を得ることができ、色々な仕事に関わっていくことができるところだ。

少年事件は儲けにはならないが、子供の問題に関わっていくことで、様々なジャンルで様々な人と関わることができる。この仕事を選んでよかったと思うところだ。

そして弁護士に必要なのは、法律の勉強だけではない。依頼者や相手方とコミュニケーションする力が必要だ。

様々な分野に関心があって、人と関わることが好きな人は、弁護士に向いていると思う。

 

環境が劣悪な子ばかりでなく、普通の家庭環境にいる子が重大な犯罪を犯してしまうこともある。そのような子をどうすれば加害者にせずに済むか、事件を止める方法はなかったのかを考え、個々の少年事件を単に一つの事件として扱うだけでなく、同じことが起こらないためにどうすればよいかということも掘り下げていきたいと思う。そして、1人でも多くの少年が立ち直っていってくれればという思いでいる。

 

みなさんは将来、法律家になって子供と関わっていくかもしれない。親として関わっていくかもしれない。裁判員として関わっていくことになるかもしれない。そのときに、今日の話を参考にしてもらえればと思う。

 

以上