612日ロイヤリング議事録

講師:中川清孝弁護士

「民事介入暴力について」

文責:酒井康徳

 

1 民事介入暴力とその変容

私たちは、お互いに相手の人格を尊重しあって生活しているが、時折、暴力を背景に、他人の人格を無視したような交渉を迫られることがある。一般的に、「社会通念上の限度を超える一切の不相当な行為」を民事介入暴力という。

何を民事介入暴力と考えるかは、弁護士と警察では少し異なっている。

弁護士は、暴行・脅迫などを用いて、人に迷惑になることをさせたり、正当な権利を主張する者を脅すことなどを民事介入暴力と考えている。

一方、警察は暴力団や暴力団の周辺にいる者が暴力団の威力を利用して市民生活や経済取引などに介入・関与する行為を民事介入暴力と考えている。

民事介入暴力を考えるにあたって、弁護士は行為者の肩書きを問わずに、行為を問う。一方、警察は、行為者が暴力団員であるかなど、行為者の属性を問う。しかし、民事介入暴力をする者が必ずしも暴力団であるわけではない。たとえば、右翼や同和団体を名乗り、市民の自宅前に車で乗りつけ、拡声器を使って住人を糾弾するという姿勢を示して威嚇する者がいる。最近では、NPOをよそおって恐喝的な行為をしている者もいる。また、企業でも、表面的にはわからないが裏では暴力団関係者が関係しているということがある。

 

民事介入暴力は、時代とともにかなり変わってきている。最近は色々なパターンのものがある。たとえば、「代金を払わなければ強制執行する」という嘘の葉書を送ってくる類、その他の振り込め詐欺も民事介入暴力の一種といえるだろう。

自分が弁護士になった昭和47年頃、弁護士会と警察は「犬猿の仲」と言われていた。しかし昭和54年から55年頃にかけて、弁護士会も警察もともに社会秩序を守るという意味で共通の目的を有しているとして、互いに協力していくということになった。

従来、警察は民間の問題に介入しないとしていたが、今では民事介入暴力は一方が加害者で他方が被害者という構造になっており、警察のいう「民間」の話ではない。そこで警察が被害者の立場に立って関わりを持つことになる。

 

2 企業や団体における民事介入暴力に対する対応の基本姿勢

民事介入暴力をしようとする者は、その組織の一番弱いところを攻撃してくる。たとえば、ある部署の人がちょっとした失態を犯した場合に、あたかもその失態が極めて社会的に重大であるかのようにして交渉してくるということがある。そのようにされると、ついつい相手の要求に従ってしまうということがある。

企業にせよ行政にせよ、民事介入暴力に対して払うお金は個人のお金ではない。企業は株主の財産といえるし、行政は国民の税金で運営されている。お金を払うことはそれらの人に迷惑をかけるということだ。

ここ何年かで企業のコンプライアンスの必要性が説かれるようになった。たとえば、企業内の不正を告発した人の立場を尊重するシステムなどがある。もっとも、まだ十分に徹底していない部分もある。企業として大事なのは、組織としての対応を確立することだ。窓口の人間に対応を全部押し付けると、その人間が惑わされてより大きな問題に発展することがある。また、その人を窮地に追いやり、極端な場合自殺に追いやってしまうこともあるだろう。窓口の人に対して、企業がバックアップする必要があるだろう。

話を法律の土俵に乗せることも大事だ。企業にせよ個人にせよ、指定暴力団が威力を示して要求行為をした場合、暴力団対策法に抵触することが多い。その場合、警察に相談して中止命令を出してもらうという方法がある。相手が指定暴力団でない場合、弁護士に相談し、告訴などの手段を採ることになる。 

 

3 暴力団対策法と、そのしくみ

暴力団対策法は、平成4年の3月に施行された。平成に入った頃、全国で暴力団が闊歩し、市民を巻き込む拳銃発砲事件などが発生した。その対策としてこの法律は施工された。

この法律では、暴力団が威力を利用して要求行為を行った場合、不当要求行為となり、警察が中止命令を出すことができる。これに従わなければ1年以下の懲役、100万円以下の罰金になる。

不当要求行為には、たとえば、交通事故の示談に介入し金品を要求することが挙げられる。ささいな事故なのに大怪我をした、大きな損害を被ったといい、多額の金銭を要求することである。また、店で購入した物品に問題があり病気になってしまい大きな契約の機会を逃したといって、もし本当でも本来数千円の見舞金で済むところを多額の金銭を要求する。

 

暴力団は全国に8万人超いると言われている。平成4年頃から、人数はそれほど変わっていない。変わったのは、暴力団を辞めたが、辞めてからも暴力団と同じことをやってるという準構成員の数が増えて、構成員の数と逆転したということだ。指定暴力団の構成員だと暴力団対策法の網にかかるが、準構成員であればかかりにくいからだ。

中止命令を出してもらうには、要求行為が「威力を示して」いることが要件だ。たとえば○○組の名刺を出すことがそれにあたる。しかし、そのような名刺を出さなくてもその者が暴力団関係者であることについて知っている人についてはその限りではない。また、組事務所で交渉をさせられることも威力を示してといえる。また、喫茶店での話し合いでも、相手が携帯電話で暴力団関係者らしい人物と会話することも威力を示すことになる。 

こういう要求行為をした場合、たとえ相手が現に利益を得ていなくても中止命令を出すことができる。

これまで、すでに何万回という中止命令が出されている。ほとんどの場合、命令に違反して不当要求行為を続けることはなかったと聞いている。これが暴力団対策法の一番大きな柱だ。これが色々ある解決方法の1つであることは間違いない。

 

4 事例から学ぶ民事介入暴力への実務的対応

事例1

環境保護団体から、一口5000円で環境保護のための賛助金の支払い要求を受けた。これを断ったところ街宣車を出して糾弾するとすごまれた。それを聞いてこちらは震え上がる。相手は暴力団かどうかはわからない。この場合どうしたらいいか。

こういう輩はあちこちで同じことを言ってまわっている。これにお金を渡すことは不当な団体への資金援助に他ならない。また、わずかな金額だからといって応じてしまうと、新たに別の団体からも要求が来る可能性がある。団体は名前を変えてくるが、後ろで操っているのは同一の人物であることがあるからだ。

支払いに拒絶すると決めたら、内容証明郵便で拒絶通知を出すべきだ。場合によってはそれを弁護士に頼むこともある。

 

 事例2

突然頼んでもいない書籍と請求書が届く。購読には15万円するという。これも支払いに応じると上で言った問題が生じる。

この場合、一番いい方法は開封しないで送り返すことだ。「受け取り拒絶」と明示しておくとよい。民法上契約には申し込みと承諾が必要であるから、相手方の申し込みを承諾しないという姿勢を示せば問題はない。

もし開封してしまった場合、購読を拒否することを明確に伝えて返すべきだ。開封したからといって承諾したことにはならない。「今後も購読する意思がないので二度と送らないように」と明示するとよい。

 

事例31

大家が、賃貸マンションの1室に暴力団事務所が入ってることに気がついた。これを追い出すにはどのような方法を採ればよいか。

多くの場合、最初にマンションを借りたときは暴力団の名義を使わず、普通の住居に使うような名義で借りている。にもかかわらず組事務所としてマンションを使用しているとなると、用途外使用として契約の解除を求めうる。また、場合によっては無断転貸ということもできる。家賃滞納があれば好都合で、それを理由に契約を解除すればよい。

最近では契約する時点で「暴力団事務所として使用した場合、契約を解除する」旨の条項が定められることが多い。

 

事例32

上の例に対し、分譲マンションの1室が組事務所に使われている場合はどうだろうか。この場合、マンションの所有権は組にあるから、家を何に使おうと自由という側面があり、追い出すことが難しくなる。

しかし、これは住民にとっては非常に迷惑なことだ。暴力団員による発砲の危険等があり、恐怖感がある点では、分譲でも賃貸でも同じことだ。周囲に居住する人間が平穏に生活する権利は人格権として判例でも認められている。これに基づいて組事務所を排除することは可能である。マンションだと区分所有法に基づいて、一定の要件の下、その物件を競売にかけることができる。

このような方法で住民の意思統一をして手続きをしていくことが考えられる。

 

事例4

経営するレストランの客が、料理に異物が入っていたとして多額の治療費を要求してきた場合、どうすればよいか。

相手が指定暴力団とわかれば中止命令の可能性がある。この場合でも、相手の話を無下に聞かないわけにはいかない。そこで、聞く機会は設けるべきだが、一般的に言って、不当な要求しようとしてる者には1人で会わないことだ。必ず相手以上の人数で会うべきである。そして、組事務所などの相手側の場所で会わないことだ。また、冷静に相手の言うことを聞き、メモを取り、話を録音・録画するなどすべきである。

こういった場合に、相手が「悪かったと認めてくれたら気が済むから、一筆書いて欲しい。金にしようとは思っていない」と言ってくることもある。そこで念書を書いてしまうと苦難の始まりである。念書がこちらの過失を認めた証拠になり、相手は以後それを振り回して交渉してくる可能性が大きいからだ。

また、相手にはお茶や飲み物を出さないことだ。出すことで歓待してると思われないようにする必要があるし、出したものを投げつけられても困るからだ。

 

事例5

@料理店を経営していたところ、暴力団員が来店し、用心棒代要求した。これを拒絶すると、以降、店に来て大声を出し、客に迷惑をかけるようになった。これを止めると暴行を加えられたため、結局用心棒代を払ってしまった。これを返して欲しいがどうすればよいか。

Aホテルの喫茶店内で暴力団の抗争による発砲事件があり、従業員が負傷した。暴力団の組長に慰謝料等の請求ができるか。

暴力団相手に金を返せと言ったり損害賠償請求をしたりすることはできるだろうか。

昔は、そのようなことを考えることすら恐ろしかった時代だったが、今は弁護士は平気で暴力団に請求している。

たとえば、拳銃を撃った組員は鉄砲玉に過ぎず、財産を持っていない。これに賠償請求をしても現実に金銭を取れず、意味がない。少なくとも、その者の親分に対して請求できるかどうかが問題になる。

会社の従業員が交通事故を起こした場合、被害者は会社に損害賠償請求できる。民法上の使用者責任である。では、暴力団の場合も同じことが言えるか。暴力団に雇用関係・従業員関係が考えられるか、抗争などが業務の執行といえるか、が問題になる。

最高裁の判例では、親分も使用者責任を負うとされた。ここでいう親分とは、暴力団組織の一番上の者を指す。判例では、ある組の傘下である3次団体の組員がした不法行為について1次団体のトップに対して損害賠償請求できるとされた。縦割りの組織であり、指令が行き届いているからである。

また、抗争が業務の執行といえるかという点に関して、最高裁はこれを認めた。暴力団の業務としてはシノギ等めぐる一般的な縄張り争いが挙げられるが、鉄砲の打ち合いである抗争まで業務の執行と認めたのは異例だ。

だから@もAもトップに対する返還請求、損害賠償請求は可能である。

 

5 民事介入暴力の加害者にならないことの重要性について

今までの話を聞いて、みなさんは自分は民事介入暴力の被害者になることはあっても加害者になることはないと思っているだろう。しかし、たとえば会社の人が理由のないお金を暴力団に支払うことは株主の損失に関わる。

平成の初め頃、土地や株券の価格が高騰していたバブル景気の時代、不動産の証明書を発行する町の職員が、調整地域(家を建ててはいけない地域であり、値段も極めて安い)の土地に、当該土地が今後調整地域から外れるという証明書を出せとエセ同和団体から要求され、そのような証明書を出してしまった。後日、その土地をつかまされた買主が町を相手に1億円の損害賠償請求をして認めれたということがあった。

組織として対応していたらこんなことはなかっただろう。

 

ある会社員がAという暴力団員から脅かされていたため、Bという暴力団員に相談した。Bは任せておけと言った。後日、Bがやってきて、「Aを撃ち殺した。しかし相手の暴力団に知られてしまったので和解金として3億円ほど必要だ」と言ってきたので仕方なく払わされしまった。

「毒には毒を」という考えで不法な勢力を利用するとこのようなことになってしまう。また、そのような者を利用すること自体が大きな罪である。

みなさんも将来、藁をもつかむつもりでそのような者に頼みたくなることがあるかもしれないが、「一度手を染めると必ず報いは来る」ということを今から自戒しておいたほうがよいのではないかと思う。

確かに時間はかかるかもしれないが、一番の近道は表から行くことである。

暴力団に正面から立ち向かっていくと、暴力団の仕返しがあるかもしれないという恐れがあるだろう。しかし、私は民事介入暴力事件を20年近く扱っているが、仕返しをされたことは一度もない。

事件の中には、あるゴルフ場が長年関わっていた暴力団をある日突然排除したところ、ゴルフ場のグリーンにガソリンをまかれて火をつけられ、支配人が攻撃されたということがあった。きっちり最初から暴力団に対するスタンスを決めて断っていたらこんなことにはならなかっただろう。暴力団とはコンタクトを持たないのが一番だが、もしコンタクトがあるのなら、慎重に対応していかないとしっぺ返しを受けてしまう。弁護士は慎重の上に慎重を期してこれに対応する。民事執行で組事務所に立ち入るときには、必ず警官に立ち合ってもらう。暴力団相手に訴訟するときは、警察に自宅や弁護士事務所を警備してもらう。このように万全の体制で臨めば問題はない。立ち向かうにあたっては警察や弁護士と緊密な連携をとることは必要である。

 

6 民事加入暴力事件に関する弁護士の役割と手続きと費用について

弁護士の役割は、法律の専門家として採るべき道筋を指導し、自らもそれを実践することだ。必要に応じて警察に協力を求めながら必要な手続きを行う。たとえば、暴力団相手に内容証明郵便を送ることも、交渉することも、弁護士にしかできないことだ。また、弁護士が助けることは依頼者の心の支えになる。

手続きにかかる費用は、内容証明郵便を出すことは3万円程度、弁護士名義で出す場合は5万円程度かかる。仮処分、裁判をする場合は、訴訟物の価格によって異なるが、何十万円から何百万円まで色々な場合があるので弁護士と協議して納得のうえ委任すること。訴訟費用を負担できない人のために弁護士費用を立て替える制度もある。

 

7 エピローグ

暴力団、社会的な不法な勢力に対する3つの心構えがある。「3ない運動」と呼ばれている。

 1つ目は、「恐れない」ことだ。恐怖することから全ては始まっていく。

2つ目は、「金を出さない」ことだ。一般的には低額なら払って済ませてしまおうという事なかれ主義が見られるが、しかしそれが新たな金銭の要求につながることもある。そして社会全体にそのような団体が膨張していくことに対し、危機感を持たなければならない。 

 3つ目は、「利用しない」ことだ。他人に迷惑をかける団体を利用するということは自分自身も他人に迷惑をかけることになる。また、自分に次の迷惑を引き込むことにもなる。

 

学生からの質問

「関西と関東の暴力団で違いはあるか」

暴力団は近年統合されてきている。たとえば、関東の国粋会が関西の山口組に統合されるなどしている。そのため山口組が全国的になっており、山口組のやっていることは全国の暴力団がやるようになったから、西も東もあまり変わらないのではないか。一般的に言えば、関西のほうがどぎついことをやっているかもしれない。

 

以上