65日ロイヤリング議事録

講師:吉岡康博先生

「消費者被害の実態とその救済」

文責:酒井

 

今日は、消費者被害の現状と、そのような消費者被害事件について、法律を使ってどう救済するかを話そうと思う。みなさんの友達や家族の方も消費者被害に遭うかもしれない。そのことを念頭において話を聞いてくれたらと思う。

 

1 悪質商法あれこれ

(1)  被害の実態

「○○商法」といったとき、何を思いつくだろうか。いくつくらい思いつくか書き出してみて欲しい。たとえば、高齢者を狙って家屋のシロアリ駆除等を通常の3~4倍もの代金を請求する「点検商法」、消防署から販売に来たといって消火器を訪問販売する「かたり商法」、旅行の割引券等を贈呈するからと言い営業所に呼び出して商品を売りつけられる「アポイントメント商法」などがある。

また、特に高齢者の方々に多いのだが、一度このような商法に引っかかった消費者が、業者のいわゆる「カモリスト」に掲載され、別の業者からも次々と商品を購入させられるという問題もある。お年寄りはクレジットの審査が緩いという過剰与信の問題と相まって、多額のクレジットを組まされてしまうことがある。

「ネガティブオプション」という悪質商法もある。ある日突然、たとえば大日本帝国時代の写真を集めた写真集が家に送られ、5万を代金として請求されるというようなものである。家族の誰かが購入したのかと勘違いして振り込んでしまうこともある。この場合は契約が成立してないので、商品を着払いで送り返せばよい。

また、司法書士の資格を取得できるなどと称して高額の教材を販売する「資格商法」がある。

クレジット会社を使った立替払いが問題になることもある。たとえば、倒産した英会話学校にクレジットで支払った授業料は返還されないのか、あるいは、分割払いで支払った場合に倒産後も分割金を支払わなければならないのかといった問題がある。

このような消費者問題について、70歳以上の高齢者が国民生活センターに相談したケースは、2006年で13万人以上いる。相談もせずに泣き寝入りした人が大半だと考えれば、世の中にどれほど高齢者を狙った悪質業者がはびこっているかがよくわかる。

 

(2)  救済方法

ア. クーリングオフ

クーリングオフ制度というものがある。契約後も一定の間、頭を冷やして契約について再度検討する期間を認め、契約解除を無制限に認める制度だ。これをアポイントメント商法や訪問販売の事例で考えてみよう。クーリングオフするためには、法律上、8日以内と規定されている。

では、何から8日以内か?契約されてから、ではない。契約書面を受け取ってから8日以内とされる(特定商取引法9条1項)。

クーリングオフをするには、事業所以外の場所で締結された契約であることが必要だ。キャッチセールスは客を自分の営業所に連れてくるから、契約が事業所で締結されたとしてクーリングオフできないようにも思えるが、この場合は訪問販売に当たるとされる(特定商取引法211号、経済産業省令1条)。

では、どんな商品でもクーリングオフできるだろうか?浄水器はどうだろうか?お酒や、果物はどうだろうか?クーリングオフ可能な商品は、経済産業省令で「指定商品」に指定されているものに限定されている。「指定商品」はたくさんあるので、一度インターネットで「指定商品」を検索するなどして調べてみて欲しい。面白いものとして、盆栽・鉢植え、犬猫、みそ・しょうゆ、かつらなどがある。お酒・果物は指定商品ではない。

たとえば、化粧クリーム10個セットを購入した場合で、1個封を開けて使ってしまったときでも、未使用の9個についてはクーリングオフすることができる。

クーリングオフをするには、相手の業者に対してその旨の通知を送ればよい。商品の送料は業者の負担になる。商品が工事を伴うものだった場合は原状回復を請求することもできる。

では、通知はどのように出せばよいだろうか。郵送手段としては、内容証明郵便、配達証明、配達記録、簡易書留などがある。違いを簡単に説明しておく。内容証明は、送った文書の内容の控えが郵便局に残るので、後日文書の内容を証明できる。配達証明は、配達記録という証明書が返送されてくる。配達記録は、配達証明書はないが、郵便局が引受けと配達を記録するものである。現在では、インターネットで配達状況を参照することができ、費用も低額である。簡易書留は、郵送物の紛失時に郵便局が一定額の補償をしてくれるというものだ。クーリングオフでは、通常、内容証明と配達証明をあわせて出すのがベストということになる。

クーリングオフの通知書を出した時点で契約は解除となる。法が、意思主義を採る民法とは異なり、発信主義を採用しているからである。そのため、通知書が業者に届かなかったとしても解除したことになる。また、郵便局が閉まっている時間帯でも、通知書をコンビニから宅急便で出せばよい。

では、契約書面を受け取ってから8日が経ってしまうと、クーリングオフすることは一切できないのか?場合によってはクーリングオフできる。書面を受け取ってから、というときの「書面」は、特定商取引法と経済産業省令により、記載事項が定められており、ここで定められている事項の一つでも欠ければそれは「書面」とは言えないので、「書面」を交付したことにならず、したがって8日を経過していても解除することができる。8日を過ぎているというときでも、契約書面を穴の開くほど見て欲しい。悪質業者ほど担当者に教育が行き届いておらず、書面に不備があったりするものだ。

  

イ.支払い停止の抗弁

 クレジット契約の仕組みを話そうと思う。クレジットカードを使えばポイントやマイルが貯まるが、そのマイルがどこから来ているかということも説明したい。

 物品の売買契約を例に取ると、消費者と販売店が売買契約を締結した場合、販売店は、商品引渡し債務を、消費者は代金支払い債務を負う。消費者は、代金支払い債務について、クレジット会社にいったん立替払いしてもらう。この場合、消費者はクレジット会社との間で、消費者が買い物をしたときはクレジット会社が立て替えて支払うという内容のクレジット契約を結んでいる。そして、販売店はクレジット会社から一括で代金の支払いを受ける。一方、販売店と信販会社は加盟店契約を結んでいる。加盟店契約では、たとえば、商品代金が10万円の場合、販売店に95000円を支払い、差額の5000円をクレジット会社の手数料として取ることとなる。ポイントやマイルはこの5000円から一部を消費者にバックしているのだ。

 ここで、抗弁権の接続について説明をしよう。上の例で、例えば消費者が販売店との売買契約について、詐欺を理由に取消した場合、売買契約は遡及的に無効になるから、販売店は代金を消費者に返還しなければならない。しかし、クレジット会社が代金を立替払いしているときはどうか。このとき、契約を詐欺を理由に取消したことをクレジット会社に通知することによって、消費者はクレジット会社に対抗することができる。これが抗弁権の接続である(割賦販売法30条の4)。ただし、一定の制限があり、割賦払いの場合は2ヶ月以上3回以上に分割されているときのみ抗弁権の接続が認められる(法231号)に過ぎず、一括払いの場合は認められない。また、既払い金の返還はできないとする最高裁判例がある。

これを主張する方法は、クーリングオフの場合と同様に、内容証明で書面の郵送によることになる。この場合、販売店とクレジット会社の両方に出す必要がある。

 

 現在、特定商取引法・割賦販売法が改正されようとしている。私が一番大きい改正だと思うのは、既払い金返還ルールを定め、一定の場合に既払い金を返還させることができるようになることだ。また、過剰与信規制として、クレジット会社に借り手のクレジットの利用状況を調査する義務を負わせるということがある。また、割賦要件の見直しとして、ボーナス払いの場合も抗弁権の接続が認められるようになる。また、指定商品制の見直しとして、原則としてクーリングオフを認め、認めない例外的な物品を列挙するようにする。これまで経済産業省のリスト外にある商品について被害が多発するまで指定商品化されず、イタチごっこになっていたが、これにより格段にクーリングオフできる場面が広がることになる。

 

 

2 金融商品取引

(1)  商品先物取引・証券取引と被害の実態

漫画「ナニワ金融道」には、先物取引で小学校の教頭先生が多額の財産を失うという話があるが、読んだことはあるだろうか。「先物取引は怖い」と漠然と考えている人も多いのではないか。先物は、十分な財産や投資に関する知識・経験を十分に有する人が普通に取引しているのであれば問題ないのだが、実際は、半ば詐欺のようなことが行われることがある。

先物取引とは、文字通り「先の物」を取引することであり、元々は、リスクヘッジのために生まれた。たとえば、ある農家が、半年後に収穫できる小麦を、収穫前に安定した価格で売りたいと考えている。収穫時期には、豊作のため小麦価格が下落するおそれがあるが、収穫前に契約で定めた通りの価格で売ることを約束しておけば、安定した収入を得られることができる。他方、不作で小麦の価格が高騰しても、この農家は、契約で定めた安い価格で売ることになり、損をすることになるが、元々この価格で売ることを予定していたので、実質的に損はないと言える。先物取引は、大阪中ノ島の米の取引で初めて考案されたと言われている。

この先物取引が投機取引として現在利用されている。たとえば、金の先物取引を例に取って説明する。金を1グラム3000円として、1000グラム単位で取引するとしよう。金の現物を1000グラム買うためには、300万円の現金が必要だが、先物取引ならば、証拠金といって13万円ほどのお金を積むだけで1000グラムの金を買えることになる。その後、3000円の金が3010円に値上がりすれば、10000円の利益が出るし、逆に、2990円に値下がりすると10000円の損失が生ずることになる。わずか13万円の投資でわずかに10円相場が動くだけで、10000円の損得が生ずるというハイリスクな取引であることが分かるであろう。場合によっては、一日でマイナス10万円といった損失が生じて追証を請求されることもある。このように、非常にハイリスクな取引だといえる。

これを資金に余裕があり、知識・経験も十分な人がやるのならいいが、現実は必ずしもそうでない。およそ投資取引経験のない人、資産が十分でない人、高齢者など判断能力が十分でない人に対しても、業者は先物取引を勧誘する。消費者が十分に理解できないと、取引が一任になり業者の判断で行われてしまう。例えば、相場が上がっているのに逆に売るなどして損失が発生し、業者は手数料をとって儲ける。以前、業者が顧客と対立する取引を行う「向かい玉」が問題になった。

このような悪徳商法をする会社の社員は、「今月の預かり金は1人いくら」といった過大なノルマを課せられたり、逆にノルマ達成による多額の報酬が営業マンにとって魅力であるために、このような勧誘が行われることが多いのである。

 

(2)  救済について 

弁護士としては、会社に対して取引履歴等から明らかに手数料稼ぎが目的であると指摘したり、取引所に照会をかけて「向かい玉」をしていることを指摘したりして会社に対して金銭の返還を請求する。これらには一定の割合で応じるものの、全額を返還しないことが多い。被害者が納得いかない場合は、裁判によることになる。

 

(3)被害者に落ち度があるとして過失相殺できるか?

裁判では、不法行為に基づく損害賠償請求をする。このような事件を扱っていて悔しいのは、たとえ会社側の不法行為を立証できたとしても、過失相殺され損害賠償額が減額されてしまうことだ。被害者である消費者にも、会社から与えられた書面を読む機会があったのであり、冷静に考え取引を継続しなければ損失を被ることはなかったというのである。

しかし、業者に不当な勧誘をされて取引を始めた高齢者に対して、冷静かつ客観的に判断せよというのは無理なことである。そもそも、過失相殺は、過失と過失が競合したときに問題になるものであるところ、先物取引詐欺の場合、たとえ高齢者に落ち度があるとしても、業者は故意で高齢者に違法な勧誘を行い、損失を発生させているのである。故意の不法行為に対してなぜ被害者の過失が問われるのか、疑問である。ただ、このようなことを主張しても、まだまだ裁判所に認めてもらえないことが多い。

 

(4)近時問題となっている取引

海外商品先物取引というものがある。ロンドンやシカゴなど、海外の取引所でされる商品先物取引に、一定の証拠金を積んで投資するものである。これらの都市では日本との時間差があるから、実際には日本で寝ている間に取引がされることになる。相場は分刻みで大きく変化するので、時々刻々変化する相場を見ずに取引する点で非常にリスクが高い。

悪質な業者の場合、客からお金を預かっているのに海外の取引所に取引をつないでいないケースもある。海外の取引所に取引をつなぐには多額のお金を積んで会員にならないといけないが、零細な業者にそれはできない。そこで、零細な業者は、例えば香港の業者を仲介して海外の取引所に取引をつないでいると主張するが、実際に香港の業者が実際の取引をしているかは、全くのブラックボックスである。海外の取引所につないでなかったら、何も物の売買をしていることにはならないから、単に海外取引所の相場を使って博打をしているのと同じであり、賭博罪に該当するはずである。似たものとして、海外オプション取引がある。

また、未公開株取引がある。近時上場し、数倍の価値がつくことになる株式を買わないかというものである。場合によっては、株の銘柄もある程度名の知れた会社であることもある。聞いたことのないような会社の株なら誰も手を出さないだろうが、有名会社なら思わず手を出してしまうのではないだろうか。しかし、現実にその会社に問い合わせてみると、株の上場予定はないので、結局株を売ることはできない。結局未公開株を買った代金そのものが損害となる。未公開株の販売は、証券を業として不特定多数に販売する行為なので、旧証券取引法に違反する行為だった。これも、一昔前は流行ったが、2年前に業者が摘発されたことを受け、直接の売買取引は減っているといわれる。

また、ロコ・ロンドン金取引というものがある。「ロコ・ロンドン」とは、「ロンドンで現物を渡す」という意味だ。世界の金の現物価格は、ロンドンでヨーロッパの大手銀行が相場を決めることにより決定される。この指標を取引するのである。これも海外商品先物取引と同様で、金を取引していると思いきや、現実には何も売買していない。マンションの1室にパソコンとファックスと電話があればできる商売である。現実に消費者は必ず損させられる。業者に対して、問題点を指摘すると、全額に近い金額が消費者に返ってくることも多い。

 

(5)複雑な金融商品

 大手の金融機関で販売している商品でも消費者保護との関係で問題があるものが多い。たとえば、仕組み預金というものがあり、ある程度の金利を約束する一方で、満期を銀行がコントロールできる商品がある。この場合、銀行は金利が契約の金利を上回ったらこれを継続し、下回ったら終了してしまえばいいことになる。金利に関するリスクを預金者に転嫁されている。リスクが見えにくい点が問題である。金融機関は金融工学でリスクを計算しているので、この場合で銀行が不利になる可能性は非常に低い。ここまでわかった上で消費者がこの商品を選択するならいいのだが、大抵はそうではない。

また、銀行には借り手に対する優越的地位を利用してデリバティブ商品を販売する問題などが指摘されている。

 

 

3 最後に

 みなさんのうち多くの方は3回生で、大学生活もあと2年足らずだろう。この間に、これ、というものをどんどん学んで欲しいと思う。

 自分は4回生の最後になってようやく真剣に司法試験の勉強を始めたが、それまで何もしなかったということは後悔している。みなさんはせっかく法学部に入ったのだから、人を助けられる法律を1つでも身に付けて欲しいと思う。どの法律にせよ、詳しくなっていると必ず役に立つと思う。

 また、法学部で勉強する以外のことも勉強して欲しい。私は、司法修習中に商業簿記を勉強したが、これはやっておくと必ず役に立つ。会社の経理に入ると必須だし、私の現在の仕事にもとても役に立っている。今は自分が学生だったときに比べて、ノウハウ本がたくさん出版されている。交渉術やプレゼンの方法など、これらも積極的に読んで欲しい。会社に入ってから手探りで学ぶよりも、今から勉強しておけば他の人より3歩も4歩も先に進むことができる。

ちなみに最近、私は「お金持ちになる本」というものに興味を持っている。もちろん、「お金持ちになる」といっても、安易にお金を稼ぐための本ではなく、お金といかにうまく付き合っていくかという本のことである。お金は、付き合い方を間違えれば人生すらだめにする怖いものでもある。「お金」について、もっと知識を身につけなければならないのに、お金とどう付き合っていくべきか、学校では何も教えてくれない。「お金」についてもこの機会に勉強してくれたらと思う。

 

以上