515日ロイヤリング議事録

講師:柴田真希先生

「新人弁護士のお仕事」

文責:酒井康徳

自己紹介:

千葉県弁護士会所属。

兵庫県姫路市出身。平成14年姫路西高校卒業、同年阪大法学部入学。

大学1年生のときは、家庭教師、パン屋などでアルバイトばかりしていた。また、法律相談部に入部した。

2年生ときに弁護士になりたいと思い、資格予備校に通い始める。また、法律相談部の副部長として部の活動に携わる。大学の授業はあまり出ていなかったが、興味のある家族法の授業には出席していた。

3回生のときに旧司法試験の択一試験を受けた。試験のためにすごく勉強したが落ちてしまい、かなり落ち込んだ。大学の授業では、國井先生のゼミを楽しみに出席していた。

4回生のときに再度択一試験を受け、合格する。しかし論文試験ではうまくいかず、不合格だと思った。そこで秋から就職活動を始め、生命保険会社の法務に内定した。しかし、論文試験に合格しており、口述試験も合格したため、大学卒業後、司法研修所に入った。

東京、千葉の順で修習先を希望したところ、実務修習は千葉になった。1年間の実務修習を経て、弁護士登録をしたのが去年の9月だ。現在、弁護士となって8ヶ月である。

今日は、新人弁護士として私が今までどのようなことしてきたかを話そうと思う。話を聞いてもらって、各受講生の「感性」を高めてもらうことが今日の話の目的だ。この点は、最後につなげるので、とりあえず、よく聞いてほしい。

 

1 どうして千葉の弁護士になったのか

(1)  やりたいこと

 私は家事事件、特に離婚事件をやりたいと思っている。もっとも、弁護士としての司法の仕事だけでなく、家庭問題を軸に、行政立法にも携わりたいし、いずれは教育にも関わりたいと思っている。

 

(2)千葉で働くに至るまで

弁護士といっても,いろいろな種類があり,だいたい3つの種類に分けられるかと思う。一つは、一般民事弁護士だ。離婚、貸金、不動産明渡し、相続など、一般社会に生起する法律問題を扱う弁護士で、普通に弁護士といったときにイメージする弁護士だ。ロイヤリングで来る弁護士もだいたいこの種類の弁護士にあたるだろう。二つ目は、渉外弁護士ないしは企業法務弁護士と呼ばれる弁護士だ。企業法務弁護士は、企業相手の仕事を専門にする弁護士だ。一般民事弁護士とは違い、大きな事務所に所属することが多く、民間会社で働くイメージだ。三つ目は、企業内弁護士。特定の企業に勤務して、その企業の一員として働く弁護士だ。

私は、もともと東京で企業法務弁護士になる予定だった。東京の丸の内で活躍するような、格好いい仕事をしたかったからだ。企業法務を扱う事務所の中には、若手で司法試験に合格した人しか入れないところがある。私は運よく早いうちに合格し、そのような事務所に入ることが出来たので、せっかくだから入ろうと思った。

しかし、もともと私がやりたいのは家庭問題だったため、一番やりたいことをすぐやろうと思い、実務修習地が千葉だったこともあり、進路を変更して千葉の弁護士事務所に入った。

 

2 新人いなか弁護士の生活

今、私がどういった仕事をしているか話そうと思う。

(1)事件数

私の現在の手持ちの事件数は全部で60件ほどだ。先日数えてみて、数が多いことにショックを受けた。内訳は、刑事事件が国選・私選合わせて4件。一般民事事件が8件。患者側で医療事件も扱っている。じん肺訴訟という珍しいものもある。また、家事事件が8件。債務整理で依頼者が個人のものが22件、法人のものが2件ある。破産管財事件を破産管財人代理という立場で1件扱っている。そして、薬害肝炎事件で自分が抱えている原告になりうる人の数が15人いる。

扱わないのは労働事件くらいで、他はほとんどの分野を扱っている。

(2)事件以外

事件以外には、薬害肝炎関連の活動、裁判員制度に向けた模擬裁判の準備、両性の平等委員会という委員会の活動がある。

 (3)生活サイクル

月曜から金曜は、原則朝9時から(早いときは6時半くらいから)終電の時間まで働いている。土日のいずれかは事務所に出てくることが多い。忙しいときは土日両方働くこともある。

事務所があいている9時から5時半までの間は、依頼者や相手方から電話がひっきりなしにかかってくる。郵便、FAX、メールもあるのでこれらを次々に処理しないといけない。10時から5時までの間は、裁判が入る。その他、刑事事件では,警察署や拘置所に接見に行く。また、足が悪い等,事務所に来ることの困難な依頼者の自宅や病院を訪問することもある。不動産の事件では現地を調査しに行ったりもする。それ以外の時間で訴状や準備書面などの書類を作成している。意外と多いのが、手紙を作成することだ。裁判の結果を依頼者に報告したり、依頼者を事務所に呼ぶ際に書く。お礼状を書くこともある。手紙の書き方などは誰も教えてくれず、色々調べながら書かなければいけないので、結構苦労する。このような書類作成にかなり時間がかかるので、朝早くや夜遅くに事務所にいることになる。

このような働き方は、千葉の新人弁護士では、平均より少し忙しいくらいだと思ってくれたらいい。

 

3 8ヶ月の軌跡・奇跡

(1)刑事事件

刑事事件は弁護士の最もたる事件で、一番ドラマがあるものだと思う。

私にとって初めての刑事事件は、弁護士になって2週間目の、まだ実務が全くわからなかったときのことだ。

弁護士になって最初の頃は、ボス弁からいくつか事件をもらう以外に仕事がない。そこで私は千葉の弁護士会館に行く度に、事務局の人に、仕事があればくださいと頼むことにした。千葉の弁護士会は、弁護士の数も400人くらいの小さな弁護士会なので、事務局の人と簡単に仲良くなれる。そこで事務局の人からある事件をふってもらった。

しかし、それは大変な事件だった。公的な職務にある人が上司からお金を盗んだ等の窃盗事件である。一般的に、犯罪を取り締まる側の人間が犯罪を犯した場合、責任が厳しく問われる。

被疑者の上司、それもかなりのえらいさんに呼ばれ、色々なことを質問されたのだが、実務経験がなく、何もわからなかったために実のあることをほとんど答えることができなかった。そのときは本当に辛い気持ちだった。

容疑によれば、通常であれば起訴される事件だった。執行猶予は付くだろうが、有罪判決受けることになるというのが自分とボス弁の読みだった。被疑者はまだ若く、将来ある身だった。被疑者の今後の人生にとって、有罪判決を受けることは大変不利なことであるから、できるだけ起訴猶予にしたいと考えた。

財産犯の場合、弁護士がまずやらなければならないことは示談交渉だ。この事件では,被疑者と被害者が,同じ職場で働いていた者同士ということから、信頼も崩れ去ったという被害も生じており、被害者との示談が難しくなるということが予想された。そこで、示談を取るために大変な努力をした。

示談には2段階ある。一段階目は被害額を金銭で弁償することである。二段階目は、被害者から寛大な処分を望む旨の嘆願書をとる示談だ。被害者が必ず弁償を受け取ってくれるわけでない。被害弁償を受取れば被疑者の処分が軽くなることがわかっているから,処分が出てから弁償金を受け取るという人も少なくない。そして、被疑者を寛大な処分にしてくれという嘆願書を取ることは、さらに難しい。

この事件のある被害者から、一度会いたいと言われ、会って話をすることになった。被害弁償だけでもできればと思っていたところ、1時間くらい被害者と話し合い、渋々ながら弁償を受け取ってくれた。私としては嘆願書が欲しかったが、その場で言ったら拒絶される雰囲気だったので、諦めることにした。

去り際に、被害者に、「人は愛されることを知って愛することを知り、許されることを知って許すことを知ると思うのです。今回、被疑者が悪いことをしたことに対して、被害者であるあなたが被害弁償を受けてくれたことは、あなたが被疑者を許したというわけではないです。でも,悪いことをしてしまった相手に、お金という形での気持ちを受取ってもらったことで、被疑者は、留置場の中から出てきたとき、人を許せる人間になると思うのです。」と礼をした。すると、被害者はぽかんとして、「先生は,弁護士になって何年目なんですか?」と聞いてきた。そこで、本当のことを言うのを一瞬ためらったが、嘘はつけないと思い、「2週間目です」と答えると、「おみそれしました」と言われた。このときは、かなり嬉しかった。

そこで、「気持ちが変わったら、嘆願書を書いて欲しい」という旨を述べて別れたところ、3日ほどしてこの被害者から連絡があり、寛大な処分を求めるという内容の嘆願書を書いてくれた。これが届いたときは、本当に感激した。

最終的にこの被疑者は起訴猶予になった。この結果は弁護士としては大成功であった。弁護士になってよかったなと思った。

 

これとは逆に、失望した事件の話をしよう。

車のナンバープレート1枚を保管していたとして、盗品等保管罪で逮捕された被疑者を担当することになった。車のナンバープレートはそれのみで流通することはないから、それが盗まれたものというのはわかることだろう。

しかし、被疑者は、盗まれたものとは知らずに預かっていたと私に言ってきた。犯罪の故意がないということである。しかし、被疑者は、警察官や検察官から強く言われたことで、故意があったと自白してしまっているとのことだった。そこで私は、「自分が盗品じゃないと思っていたのなら、無罪なんですよ。盗品だと知らなかったと本当のことを言わなければならないでしょう。」と助言した。それ以降、被疑者は、取調べでも盗品とは知らなかったと言うようになった。私はこの被疑者に毎日のように接見に行った。「それでも僕はやってない」でご覧になった方もいると思うが、否認していると留置場から出られないため、否認させることはリスクを負う。被疑者が早く留置所から出ることを望む場合、やむを得ず、自白するという道もあるあるが、この被疑者の場合は否認を続けた。

私は、被疑者の主張を通すことは厳しいと思った。なぜなら、ナンバープレートが盗品だと知らなかったというのは、なかなか難しい弁解だと思ったからだ。それでも,検察官に対して、「ナンバープレートが2枚なら闇市場において価値があるが、1枚だと価値がないはずであり、価値がないものを逮捕されるというリスクをおかしてまで預かるはずがない。」という内容の主張を続けて,被疑者の主張を通そうとした。その結果、嫌疑不十分として起訴猶予にすることができた。嫌疑不十分というのは、検察官としては有罪としきれないと判断したということである。つまり、被疑者と私の、ナンバープレートが盗品だと知らなかったという主張が通ったのである。

そこで、被疑者からすごく感謝してもらえると思っていたところ、被疑者は留置場から出た直後に姿をくらまし、3日間程、一切連絡が取れなくなった。もしかすると、何らかの証拠隠滅をしていたのかもしれない。

弁護をしている間も、本当は盗品だと知っていたのかもしれない、裏にはいろんな悪い話があるのかもしれないと思ってはいたが、姿をくらましたことはさすがにショックで、腹が立った。自分が一生懸命に成って思って毎日接見したのに、被疑者の心に通じてなかったのか考えると、自分の努力は何だったんだと思わされた。

 

また、弁護士をしていると怖い事件にあうこともある。

ある事件の被害者がかなり怖い人であり、加害者側の弁護をしていた私が、電話で散々怒鳴られることがあった。加害者側がなんとしても示談をまとめたいという強い希望を持っていたため、相場より高い金額で示談をまとめざるを得なかった。私としては,脅しに屈したわけではないのだが、悔しかった。

自分が利用されているのではないかと感じることもあった。貸金業法違反事件で闇金側の弁護をすることになったが、依頼者側の人間から、接見禁止指定を受けているにもかかわらず「被疑者が言ってることを全部自分に教えてほしい。」と頼まれた。私はなめられていると感じて腹が立ったので、一切喋るもんかと思って、それを突き通した。

 

(2)債務整理事件

弁護士は仕事だから、弁護士業務で稼いでいかなければならない。私は弁護士事務所に勤務しているが、売上に応じて経費を入れており、収入も売上に応じて増減する。

私は債務整理事件を多く扱っているが、同情に値する事件はあまりなく、多くはパチンコなど計画性のないお金の使い方で借金を負ったという事件である。そんな事件を扱うのは、あまり気持ちが進まない。しかし,事件を受ければ、着手金が入る。ときには,消費者金融会社から過払い金が数百万円単位で返還され、報酬金が入ることもある。新人弁護士は、いわゆる儲かる仕事などほとんど抱えていないから、こういう仕事で稼いでいくことになる。

数年前から、弁護士業界は、過払いブームと呼ばれており、過払い金返還訴訟が全国各地で提訴されている。しかし、そろそろ過払いバブルが弾けるころだろうと言われている。そのため、これから弁護士が食っていけるかが問題化しているが、食っていくために、おそらく弁護士は分野ごとに専門化して、専門分野を武器にしていくだろうと言われている。ただ、本当にそうなるのかも、まだよくわからないのが現状だ。それぞれの弁護士が方法を考えていかないといけないだろう。

弁護士というと儲かるというイメージがあるかもしれないが、結構厳しいのが現状だ。金銭的な面では斜陽産業と言われているし、私もそう思う。

 

(3)薬害肝炎事件

5年前に全国各地の弁護士が団結し、国と製薬会社を相手に提訴した、全国のウイルス性肝炎の患者350万人の救済のための訴訟だ。

ここで問題となる肝炎とは、最終的には肝がんに至り死亡するという重篤な症状を持つ病気であり、治すには強い副作用を伴う治療と、高額な治療費が必要である。

フィブリノゲンという薬品を聞いたことがある人もいるかと思う。人の血液の成分から作った薬剤で、製薬の過程で血液をプールするため、一部でも血液が肝炎ウイルスで汚染されていればプールした血液全部が汚染され、汚染された製剤が作られることになる。この薬は、効用があるかも不明であり、外国では問題があると言われてからも、国内では使用されていた。

 

私は、今年の2月に弁護団に入った。

この事件を知ったきっかけは、大学2回生のときに先輩である弁護士に裁判を見に来ないかと言われたことだった。裁判を見に行き、初めて事件の実態を知った。そのときは患者が気の毒だとかいった一般的なことしか考えなかったが、その後実際に弁護士になって事件に取り組むようになると、初めてこの訴訟の大変さがわかった。

私は現在、患者の掘り起こしをしている。薬害肝炎のホットラインで、全国からの問い合わせに電話で対応するなどしている。

肝炎の患者は必死だが、国が策定した法の要件を満たしていない人は原告として訴訟に参加することはできない。その要件を満たさない人は原告になることができないと言わなければならないが、そこで患者に激しく反発され、要件を満たさない者は切捨てなのか、とも言われることもある。頑張っているのに、辛い言葉を浴びせられることもある。その意味で、弁護士になって事件の現状を見るのは辛いものがあった。

司法は、1人の人間を1メートル動かす仕事だと思う。目の前の人を救うことができても、その人と同じような境遇にある人を全て救うことはできないということがある。後者ができるのは、100人の人を1センチでも動かすことが出来る行政だと思う。

今、弁護団が取り組んでいるのは、1月でできた法律では救済されない患者のために、患者全体を救済する基本法を制定してもらうための活動などだ。司法ではどうしようもないことを立法で解決しようとしているのである。

司法での解決に限界を感じたときに、中央とは異なり、地方では行政に働きかける方法をとることは難しい。地方は中央の指示がないと動けなかったり、予算もなかったりするからだ。

私は、中央と地方のパイプ役になりたいと思っている。地方では情報が少ないため、地方と中央とを結びつけることが必要だ。そのために、訴訟説明会を開催し、的確な情報を人々に伝えることもあった。広報として記者会見をし、市の後援をとり、会場設定、資料準備をすることが新人弁護士の仕事だ。県との情報交換をし、県に対する要望を言ったり、カルテ開示のために病院との折衝をするなど、かなり一般的な弁護士の仕事からは離れている。

実は、昨日、私は、弁護団の千葉支部を立ち上げる予定で、それまで、他の弁護士と一緒になって努力したが、いろいろな考えが交錯して、うまくいかなかった。今後,千葉支部の立ち上げがどうなるかわからない。全てが考えていたようにうまくはいかなかった。

弁護士をしていると、なかなかうまくいかないということに、よくぶつかる。各弁護士の考えの違いは、各弁護士が皆必死になっているからこそだとわかっている。しかし、私は、意見の対立をうまく収めることができず、まだまだ自分に力が足りないと思い、悔しかった。

 

(4)家事事件

 私が弁護士になった理由は、法律相談部で会った弁護士らに感銘を受け、こういう人達と一緒に働けたらいいな、こういう人達のようになりたいなと思ったことである。

 また、家庭問題を一生の仕事として扱いたかったからだ。そのためには弁護士か家裁調査官になることが考えられたが、様々な分野の勉強が必要な家裁調査官よりも、弁護士のほうが試験が簡単そうだと思ったのだ。

さらに、学生時代、法律相談部で、ある面白い事件を経験したということがある。それは、法律的にはすごく簡単な回答をすればよいという事件であった。しかしいざ回答すると、依頼者はかんかんに怒り出した。その回答内容が依頼者に不利だったからだ。そこで、私はなぜ怒るのかと言って、論理立てて切々と相談者に説いた。それにより相談者の気持ちをやわらげてあげることができたようで、大の大人である相談者にあなたに相談してよかった、と泣いて感謝された。この事件では、単に法律上の回答することは誰にでもできたかもしれないが、回答することで泣いて感謝されるということは、自分にしかできなかったと思った。この分野に、私はいないといけないと思った。こういうことが働くことじゃないかと思った。あなたじゃなければいけない、あなたが必要だ、と言ってもらえるのが仕事をする幸せだと思った。

社会には色々なコミュニティがあるが、その中でも基本となるコミュニティは家族だと思う。家庭は生活の基盤となるもので、家庭が落ち着いていれば仕事もうまくいく。その家庭を幸せにしたいと思う。

ある人が幸せになるかどうかはその人の努力次第だと思う。しかし、世の中には本当に運が悪くて、自分の力では這い上がれない人がいる。そんな人を、自分の力で這い上がれる状態にしてあげたいと思う。

 

家事事件はかなり繊細な問題を抱えている。

ある夫婦で、妻が離婚したいと依頼に来た。調停して幼い子の親権を取りたいということだった。その後、何度かその夫と話をして、いい人だと感じた。そこで奥さんに夫と縒りを戻さないかと説得すると、うまくいったようで再び一緒に暮らしだすことになった。

 しかしボス弁は、3ヵ月後にあの夫婦はまた来ることになるだろうと言った。実際、夫婦は再び別れて,私達のところへ相談をしにきた。そして、その後、夫が妻から子供を奪い取るという事件が起こった。この夫の行動は、犯罪になりうるものである。

この事件で、自分が男女の気持ち、特に男性の気持ちをわかっていなかったと思い、一気に家事事件が見えなくなった。つまり、私は、いい人だ、と思っていた夫を,子どもを奪い取るほどまでに怒らせてしまったのである。

家事事件は、学生の時には手に取るようにわかった気でいたが、弁護士になってからどうするのがよいのかわからなくなった。わかっていると思っていたものがわからなくなったということは、天井を抜けたということだと思うので、私としては成長したと前向きには捉えている。そんな,見えない部分がたくさんあるのが,家事事件のおもしろいところだと言える。

 

4 いな弁のススメ

千葉の弁護士は田舎弁護士だと思う。いな弁をやるには絶対千葉がいいと、お世話になった先生から助言された。

私の仕事は辛いことも多い。しかし、ひとりひとりの人間の人生を間近に見ることができるし、人間の生の部分を露呈してもらえる。それを肌で感じることは、何物にもかえがたいおもしろさがある。人には簡単に語らないことも、依頼者は弁護士に全部話してくれる。人の人生を見るのは純粋におもしろいことだと思う。

たとえ2週間目の弁護士でも、しっかり仕事をすれば頼られる。頼られるということはプレッシャーでもあるが、同時に気持ちいいことでもある。

千葉はすごく広い。仕事をするための移動が小旅行になる。場所によっては、1時間くらい電車がなかったり、特急に乗るために3時間くらい待たなければいけないところもある。そんなときには一帯を散策したり、岬を回ったりすることもあり、楽しむこともできる。田舎弁護士はこういうところがいいと思う。

 

5 おもろい大人になるためには

最初に、感性を身につけて欲しいということを言った。

私が大学にいたときに、弁護士に対していつもしている質問があった。それは「いい弁護士になるにはどうしたらいいか」というものだ。

それに対して、9割程の先生が「感性を身に付けることだ」という答えをした。

では、「感性を身に付けるにはどうしたらいいか」と聞くと、「自分と違う経験をした人の話を聞くこと。何でもやってみること。」と言われた。

私の話を聞いて欲しいといったのはそういう意味だ。社会人としての私の話を聞いて、何かしらみなさんの心に残ることがあればいいなと思う。

そして、感じることができても、何もできないのなら意味がない。そのために、どういう点が問題になるかを想像し、何もないところから創り上げることが大事だ。このような「想像」と「創造」が大事なのは、弁護士の仕事だけではない。企業の仕事でも通じる話だろう。感じて、想像して、創る、ということが、何においても本質だと思う。

 

以上