424日ロイヤリング議事録

講師:稲葉一生先生

「検察官の実務」

文責:酒井康徳

 

◆自己紹介

昭和51年に大阪大学法学部に入学し、55年司法試験に合格。58年検事任官。 

大阪地検、鳥取地検、大阪地検、奈良地検、京都地検での勤務を順次経て、法務省刑事局に配属される。

その後、外務省に出向し在ドイツ日本大使館一等書記官を勤める。

再び大阪地検で勤務し、内閣官房を勤め、司法修習所で検察教官を勤めた。

その後、大阪地検公判部副部長を経て、奈良地検次席検事に。

現在、法務省法務総合研究所国際協力部長。

私は検事として25年勤めてきたが、検事に任官した者は、検察官としての仕事以外に、行政官庁等の国の法律家としての仕事をする場合もある。

 

◆検察庁の組織

裁判所と同じように、検察庁には4つの種類がある。

 全国の検察庁のうち、最も上位にあるのが最高検察庁である。最高検察庁のトップが検事総長であり、全国で1人いるだけだ。

 最高検察庁の下に、高等検察庁がある。全国に8庁あり、それぞれにトップである検事長が1人ずついる。

高等検察庁の下に、地方検察庁がある。全国50庁あり、それぞれにトップである検事正がいる。

地方検察庁の下に、区検察庁がある。比較的簡単な事件を主として副検事が担当する。副検事とは、法務省が実施する副検事採用試験に合格した者であり、検察官としての権限を有する。

 

検察官としての第一線は地方検察庁である。高等検察庁が直接捜査をすることは少ない。最高検察庁は上告審を担当し、検察を監督・指揮する。

 

地方検察庁の組織を、大阪地方検察庁を例に見てみよう。

トップは検事正であり、その下に次席検事がいる。次席検事の下に各部の部長がいる(部長は決裁を通じて第一線の検事を指導・監督する)。

大阪地方検察庁のように大きな庁は部制度を採用しており、次の部に分かれる。

 総務部:罰金徴収、検務事務、修習生の指導などをする。

 刑事部:警察等送致事件の捜査を担当する。一般刑事事件を扱う。

 公安部:警察等送致事件のうち公安労働事件、外国人による犯罪、暴力団による犯罪などの捜査を担当する。

 交通部:自動車の運転に伴う事件を扱う。

 特別捜査部:東京、大阪、名古屋の地方検察庁のみにある。警察とは関係なく独自に事件の捜査、処理を行う。

 公判部:裁判を担当する。

 事務局:庶務を担当する。

 

他方、奈良地検など中小規模の検察庁は部制度を採用していないため部長がいない。そのため次席検事は、次席検事の仕事に加えて、部制を採用している庁の各部長が担当する仕事をも担当することになる。非部制庁では、事件を捜査した検事が公判も担当する主任立会制を採っている場合が多い。

 

大きい地方検察庁は、捜査と公判で部を分離し、それぞれを別の検事が担当する。多くの事件の処理をするためには部を分離したほうが庁全体としては効率的に多くの事件をこなすことができる。勾留の時間制限や他の手持ち事件による時間の制限があるので、部制度を採用することが庁全体としては合理的である。

しかし、公判を担当する検事が捜査を担当する検事から資料を引き継いだ場合、資料を改めて読み直さなければならないというデメリットもあるが、資料を新たな目で見直すことでき補充捜査等につながるというメリットもある。

他方、1人の検事が捜査から公判までを担当する主任立会制では、取調べにおいて被疑者と人間関係を築けていることが多いので、被疑者が公判で取り調べ時と違う内容の主張をするということが起こりにくい。

 

◆仕事

検事の仕事としては、捜査、公判、裁判の執行の監督などがある。

ある刑事事件について犯罪を行ったと考える者を処罰するには、起訴する必要がある。 外国では私人起訴が認められる場合もあるが、日本では検察官が起訴を独占している。

警察は被疑者を逮捕する権限はあるが、その者を裁判にかけるかどうか処分を決める権限はない。刑事処罰する必要がないと検察官が判断したときは起訴猶予にする。例外として、今回の司法制度改革に伴う検察審査会法改正で検察審査会の決議による起訴が加えられた。

検察官は、権限に基づいて捜査をし、裁判所に法の適切な適用を求め、論告・求刑をし、どの程度の刑が適切か意見を述べる。裁判によっては控訴・再審申し立てをする。

また、被疑者を拘束するための勾留状や、刑を執行するための指揮書に判を押す。

公益の代表者として、民法の後見人等の解任の請求権者、親権喪失の請求権者、人事訴訟の死後認知等の被告となることもある。

 捜査にあたっては、捜索差押令状を取って目的物を特定して探したり、検証や現場の実況見分をする。また、専門的な意見を聞くために鑑定嘱託をする。たとえば殺人事件だと被害者の死因を特定するために鑑定処分として司法解剖を実施し、解剖の結果死因等を鑑定医から聞く。

 また、関係者の取調べをする。目撃者、被害者などの参考人に対して取り調べをし、被疑者に対して取調べをする。捜査では、真実を一番よくわかっているはずの被疑者本人から事実を聴き出すことが大切だ。

 被害者が真実を話してくれるには、被害者との人間関係を築くことが必要だ。本当に被害者の気持ちを理解するには、被害者の生の声を聞かなければいけない。

 また、警察が参考人調書を作成しても被告人・弁護人が公判で証拠とすることに同意しないと証拠にならないのに対して、検察官の参考人調書は32112号により、法廷での当該供述人の証言が調書の内容と相反する場合、公判供述よりも検察官調書の内容の方が信用できることを疎明することにより特別の証拠能力が認められ、有罪判決のための証拠になる。 

 この点について、検察官の調書に伝聞主義の例外を認め過ぎである、直接主義・口頭主義に反するなどの批判がある。しかし、だからといって参考人が公判で真実を話さなければ被告人は無罪という結論でいいのか?被害にあった人等がいかなる場合も十分に法廷で真実を語れるとは限らない。事件直後なら覚えていた事実も、半年後に開かれた公判では記憶あいまいになっていることもある。暴力団による事件で、法廷に暴力団員風の人間が多数傍聴する中で被害者が勇気を持って真実を証言できるか?性犯罪にあった被害者が羞恥心から事実を証言できない場合はどうか?こういった場合に備えて、法は検察官調書で立証できる道を残しているのだ。それゆえ検察官は、自信を持って起訴することもできる。弁護士からは検察への批判がされるだろうが、みなさんが法曹を目指す場合、いずれの立場にフィーリングが合うかを判断して欲しい。

検察官による被疑者の取調べは、どんな事件でも必ず1回はする。人は誰でも処罰を免れたいものだから、真実を語らないことが多いが、それでも検察官は被疑者に本当の真実を語るよう説得する。取調べはそう簡単なものではない。取り調べは、検察官の人間としての人格が問われる、いわば人格と人格のぶつかり合いだ。検察官としては、犯罪を行った者に自己の行った罪について反省して服役して欲しい。反省しているかどうかで、服役の意味が違ってくる。犯罪を行った者自らの口から真実を述べてもらうために、犯罪の客観的証拠がある場合でも説得を続ける。

99人の犯罪者を逃しても、たった1人の無辜の民を罰することなかれ」ということが言われるが、検察官としては99人の犯人も逃さないし、たった1人の無辜も処罰しないという意識でいる。そのために時間をかけて慎重に取調べ等を行っている。

 自白を取るためのマニュアルは存在しない。ただ誠心誠意で被疑者にぶつかるしかない。警察がいくら取調べを行っても頑として自白しなかった被疑者が、私の取調べで真実を自白したこともあった。検察官が真剣に被疑者に向き合い、その結果被疑者の心の琴線に触れるものがあったときに、被疑者は真実の自白をしてくれるものだと思う。

 

◆捜査と被疑者の身柄拘束

 警察は逮捕してから48時間以内に被疑者を検察に送致する。それから、検察官が24時間以内に勾留請求するか、公訴提起するか、釈放するかを選択しなければならない。勾留請求が認められると10日間被疑者を拘束できる。この間に警察と打ち合わせをして捜査を進める。

 捜査において、殺人事件の場合、被害者から事情を聞けないという難しさがある。たとえば、交際のあった男女間で男が女を殺し、男は女が一緒に死のうと言ったと弁解したという事例を考えてみよう。この場合、被害者が本当に承諾したのかそうでないのかで適用罪名や刑が大きく変わってくるのに、その事実を被害者に直接確かめることはできない。そこで、被害者の友人や遺族に話を聞き、「彼女は別れたがっていた」「今度の休みには家に帰ると言っていた」といった供述を集めることで、男の供述が嘘であるという判断を行うというように捜査を行う。

 

10日の勾留でも時間が足りない場合、勾留延長請求によりさらに10日間のみ拘束が認められる。したがって計20日間被疑者を勾留することができるが、この20日間を長いと感じるか?

弁護士などはこれを長いとして批判している。しかし、土日も含めての10日間であり、たとえば大阪地検の場合、検察官は通常10数件の事件を並行して担当している。20日間というのもあっという間に過ぎる。

ドイツでは起訴前の勾留は、必要がある限り、勾留期間の延長が何度でも認められる。実際、起訴前勾留が1年程度続く事例もよくある。

また、日本では代用監獄制度への批判もある。ドイツでは代用監獄はなく、被疑者は遠く離れた拘置所に勾留される。一方、日本では、警察署内の留置場を勾留場所として被疑者を勾留することが頻繁に行われている。被疑者の身柄を捜査機関である警察署の施設に勾留するのはは妥当ではないという批判である。そのような批判者は、例えばドイツのように他国では、代用監獄制度はないことも批判の根拠のひとつに挙げる。しかし、制度比較をするときには特定部分だけで対比するのではなく、制度全体として比較するよう留意してもらいたい。制度は、色々な仕組みがトータルとして、運用され、機能している。上の批判はドイツでは勾留期間が無制限なのに対して、日本では20日間しかない点を看過している。日本では遠くの勾留所に被疑者を拘束したら取り調べの時間もなくなってしまう。トータルいずれの制度が被疑者の人権により配慮しているかは一概に言うことはできない。

 

◆起訴には2種類ある。

 公判請求:懲役を求めて正式な裁判を求める起訴である。

 略式起訴:罰金100万円までの犯罪について、被疑者が書類審査の同意した場合に、法廷を開かずに裁判官の書類審査で済ませる起訴である。

 

◆不起訴

 起訴猶予:証拠は十分にあり、公訴を提起すれば必ず有罪判決になるが、情状等を考慮すれば刑罰を課すことが不要であると判断した場合には、検察官が起訴しない処分をすることができる。

たとえば、就職が決まった前科前歴のない大学4回生が万引きを起こし、現行犯で逮捕された場合に、本人が謝罪して弁償し、店もこれを許したような場合に起訴猶予とするということがある。

 嫌疑不十分:判決で有罪判決を得るに十分な程度の証拠が集まらなかった場合に検察官が起訴をしない処分をすること。

 

検事は犯罪を犯した人を大量に処罰しているように思われるかも知れないが、犯罪白書の統計によると、検察官は全刑事事件のうち47%程度は起訴猶予にしている。

ドイツでは起訴法定主義が採用され、裁判するだけの嫌疑がある場合には起訴することが検察官の義務であり、裁判官の同意がないと不起訴処分にすることができないのに対し、日本では起訴するかどうかを検察官のみによる裁量で判断する起訴便宜主義が採られている。このように、検察官は、被疑者の人生に大きな影響を与え得る責任の重い権限を持っている。

日本で裁判での有罪率が99%以上であることが悪いことのように取り上げられることがある。裁判所は検察よりの判断ばかり下すというのである。しかし、これは起訴する段階で検察庁が慎重に判断している結果である。本人が無罪を争っても有罪であり、かつ処罰の必要があるものについてのみ起訴しているのが実務だ。日本では結果として無罪判決が出てもやむを得ないと考えて起訴することはしない。日本では起訴されるだけで社会的に絶大な不利益を被ることになるからだ。十分な証拠が足りず、泣く泣く不起訴にすることもある。

無罪判決が出たら「無実」と捉える人もいる。しかし無罪と無実はイコールではない。「疑わしきは被告の利益に」の原則の下、刑事裁判では検察官に100%の立証責任が課せられている。裁判官が犯罪事実について疑いないとの心証形成をしない限り無罪になるのである。世の中に本当の無実である無罪がないとは言い切れないが、裁判で真っ黒の立証できなかったがゆえの無罪もあるということは法学部生であれば、わかっておいて欲しい。

 

◆公判準備

 公判の為に、立証計画を立て、証拠整理をする。検察官が持っている全ての証拠を裁判に出すかというと、そうではない。最も端的な必要十分な証拠を選び抜いて、それらの証拠調べを請求していく。立証の最初にする冒頭陳述の準備をする。

 

◆公判活動

上記準備に基づき、公判手続において、冒頭手続から立証活動、論告・求刑を行う。

以上が、検事の検察官としての仕事のおおよそである。

 

◆国の法律家としての検事の職責

 法務本省で刑事局、民事局など各部局に配属される。国家T種で法務省に入ることを考えている人がいれば、もし法務省で、次官や局長等の幹部になるという出世を考えているなら、国会T種ではなく、司法試験を経ることが必要。法務省の主要な幹部ポストはすべて検事が占めているという実情がある。

 他に、外務省に派遣されたり、在外公館に一等書記官として出向することもある。また、内閣官房や内閣法制局、公正取引委員会、預金保険機構等にも派遣される。

 

◆検事の仕事と国際関係

 重要な参考人が外国にいる場合、日本の検察官が外国に赴き直接取調べ等捜査を行うことはできない。検察の取調べ等は国家権力の行使にあたり主権の侵害になるからである。そこで、相手国の捜査・司法機関に外交ルートを通じて依頼して代わりに調べてもらうという捜査共助、司法共助というものがある。日本の検察官は現地で実施される相手国機関の取調べに立ち会うことも多い。

海外の法整備支援を担当することもある。日本では、主としてアジアの途上国の法令や司法制度の整備、法律家の養成を支援してきた。歴史的にはベトナム、カンボジアが古く、支援の内容も多い。学者や弁護士・裁判官等の協力の下、JICAのODA予算・二国間技術協力の仕組を使って実施している。

 かつて日本も、近代法制を作る際にフランス、ドイツに学んだ経験がある。法整備支援は現代におけるアジアで日本が果たすべき役割である。特にカンボジアでは、ポルポト政権が倒れたときには、それまで国内の知識人を惨殺してきたことから法律家が数名しか残っていないという状態だった。カンボジアでは、訴訟法が整備されていなかったし、裁判官も法学教育を受けていない者から任命せざるをえない状況であった。そのような状況下、日本の支援で、カンボジアには、民法と民事訴訟法は整備され、裁判官・検察官養成校、弁護士養成校の支援が行われている。

 

◆検事の仕事の魅力・やりがい

 裁判官は裁判においては判断者であり受身的であるのに対し、検察官は捜査・裁判を通じて当事者であるという面白みがある。自ら、納得いくまで、事案の解明に取り組むことができる。

同じ当事者である弁護士はどうしても事件の経済的な合理性を考えなければならないし、依頼者の利益のために活動する以上は内心で依頼者の言い分が違うと思っていても弁護しなければならない。弁護士にとっての正義は、実体的真実を明かにすることではなく、依頼者の利益を養護実現することであると思う。それに対し、検察官は公益の代表者であり、収入・利益とは無関係に、真実は何か、刑罰の必要があるか、客観的社会正義を追究することに専念できる。検察官は被害者の心を汲む必要はあるが、しかし被害者の代理人ではない。被疑者の情状も十分考慮する。

また、弁護士は転勤がなく主として活動する地域は特定の地域であることが多いが、検事は活躍地域が広い。転勤はつきものだが、活動領域も国の法律家として様々な分野があり、世界との関係でも仕事ができる。

 

以上