ロイヤリング議事録12月20日

講師:和田誠一郎先生

文責:酒井康徳

 

◆自己紹介

阪大法学部19期。商法の吉本先生らと同期。

川島先生のゼミで国際広報を勉強した。1期上に外務省の藪中氏がいた。

 

◆イントロ

今回、医療事件(医療過誤とも呼ばれる)の話をする。医療事件とは、病院でのトラブル一切のこと。近年医療事故の訴訟が急増している。自分の手持ち事件のうち、常に7,8件ほどある。

テレビでも医療事故の報道をよく目にしていると思う。白い巨頭など、医療事故はドラマにもなっている。医療を扱っている報道番組も多くある。

医療訴訟が増えているのは、医療事故に関する知識、医師に対するクレームへの抵抗感が薄まるなどの社会的環境、権利意識の高まりがあるからだと思う。

この分野のパイオニアが努力してきたため、訴訟も相談も増えてきた。

しかし、水面下で起こっている医療事故はまだ多いのではないかと思う。

今日は弁護士がどのように事件をやっているか話す。

 

◆医療事件の特色としては以下のものがある。

@    同じ医者でも内科、麻酔科、外科など専門に分かれるため、その分野での専門医でなければ詳細がわからないことが多い。いまだ解明されていない人体のメカニズムがあり、難解である。

A    訴訟の相手方となる医師はプロだが、原告は医療に関しては基本的にまったくの素人であり、代理人である弁護士も素人である。

また、被告側は医師会などで相談することができるし、医療の文献もある。それに対し原告側にはいずれもない。

B    問題となる医療行為の当否を検討するにも、相手側に資料がある。カルテ等は訴訟を起こす際に必要なので、入手する手続きが必要である。

最近、大病院はカルテを見せてくれるようになったが(昔はそうでなかった)、しかしカルテ等を見せてもらってもそれで完全なわけではない。全部の資料を出してくれているかどうかわからない。

また、カルテ閲覧の請求をしたその日に見せてくれるわけではない。12週間かかることもある。この間にカルテの改ざん、破棄の可能性がある。医師が、自分に不利なことを書かないということもあるし、患者等に説明していないことを説明済みとしてカルテに付け足すこともある。そのため、自分はカルテの記載が正しいという前提では読まない。

また、裁判で判断をするのは医者ではなく裁判官。大阪裁判所などには医療専門部もあるが、それでも基本的には素人である。裁判官はプロである被告たる医者の主張を信じる傾向があるように思う。

C    保全、鑑定などの際に費用がたくさんかかる。

 

◆医療事故を扱うにおいて、必要なこと

@    自分一人で調べるなどしても限界があるので、まず協力してくれる医師を探す。自分も協力医を10人から20人知っている。弁護士なので、病院が顧問先になっているなどということがあり、医師の知り合いが増える。このネットワークは非常に有益である。

A    カルテの保全をする。証拠保全のための裁判を提起すると保全の決定が出る。これも一応申立に理由ないと認めてくれない(疎明が必要。ある程度確からしいという程度で足り、証明までは必要でない)。保全する日の朝に執行官が決定を送達し、その日の昼から裁判官、書記官、申立て代理人(弁護士)、カメラマン(カルテやレントゲンフィルムをカメラで撮影して証拠保全する)が来る。コピー機も持っていく。病院側には保全に協力する義務はないので、コピー機を貸してくれないこともあるので。最近はデジカメで代替するようになってきている。事務員も連れて行く。コピー等の作業のための人員が必要である。相手の医師、事務局長が立ち会うことが多い。

これまでで、かかった時間が一番長かった保全は昼の1時から夜10時まで続いた。

B    医者に協力を依頼する。カルテ等にはテクニカルタームが多いので、医者に翻訳してもらう(謝礼が必要)。翻訳されたものを、法律家としての目で見る。本人、遺族等にも見てもらう。医師に内容をレクチャーしてもらい、医師の視点から問題あるかチェックしてもらう。ここで問題がないとしても、次に当該カルテの内容が真実かどうかが問題になる。たまにカルテに不一致が見つけられる場合がある。見つからなければ裁判は難しい。もっとも、示談の余地はあることも。

C    当該事件の医師に問題がありそうと思えば、裁判やるかどうか判断する。裁判するなら病院に内容証明郵便で過失があったことを主張する。ここで、木を鼻でくくったような返答だと、裁判になる。

 

◆実例1

カルテの記載:前立腺肥大のための手術で、手術中に患者が大量出血する。病院は止血措置をとり、4時間で止血が完了する。この間、低血圧が2030分続く。その日の夜に手術が成功する。しかし自発呼吸なし。その後意識が戻らず、数日後に死亡。原因は脳浮腫。

 

ここで、手術の経過を家族から聞き取り、文書にまとめる。これにより事件の流れがわかるような文書が作成される。これは裁判所に出す。

内容の例:「開腹手術について同意書に主人がサインする。医師は開腹手術による心不全等の危険について説明しなかった。手術は1.5時間〜2時間程度といわれる。しかし、手術中に予定時間から数時間過ぎても手術中と説明される。9時ごろに主人が昏睡状態で手術室から出てくる。医師からは、明日になったら目をさますだろうといわれたが、翌日になっても主人は目を覚まさない。その後医師から家族を呼んでくれと言われる。そこで初めて、手術に問題はなかったが大量の出血をしたため脳浮腫になった、その原因はわからないといわれる」

8400ccもの出血があった点について泌尿器科の医師に問い合わせると、血管を切ったのだろうと言われる。問題は、血管を切ったのがミスかどうか。手術なので血管を切るのは当たり前だが、その場合でも止血措置が適切だったのかは問題。

事前に400ccの自己血をとっていたが、これは出血を予想しているから。しかしその20倍の出血は予想されてないはず。このように、通常ありえない出血をしているため、最終的には過失ありということになると思うが、それを証明するのが難しい。

相手の医師側もその点をついてくる。原告側は素朴に、「これだけ出血しているのだから、過失が推定される。従前から出血が予想されるならばその準備をすべきではないか」との主張をする。

 

時には泥沼にはまることもある。被告方は論点を拡散させていこうとする傾向があるので、注意しないと本来の論点がぼやけてしまう。

 

◆実例2

周産期の事件

病院は分娩監視装置を持っていたのに、聴診器(トラウヴェ。太鼓のばちのような木の棒)で母体の状況をチェックした。

出産終わるも、子供の泣き声なし。医師は蘇生術をする。

「子供は仮死産だった。しかし蘇生した」と医師にいわれる。医師はへその緒が首に二重に巻き付いていたことがおなかの中にいるときからわかっていたという。

その後、子供がけいれんを始めるが、医師は「大丈夫、小児科の先生が帰ってくるまで待ってくれ」と言う。

その後、子供が顔面蒼白になり、危篤。呼吸不全、痙攣状態。

脳浮腫となり、その結果、体感機能障害1級を負い、「植物人間」状態になってしまう。

 

自分は、直感的に、トラウヴェを使ったのはどうかと思う。協力医も、分娩監視装置があるのにあえてトラウヴェを使ったのはどうかと考える。相手方医師はトラウヴェを使うほうがよいと説得的に主張する。

それに対し、可及的に帝王切開をしていれば助かった可能性ありとの主張をする。これは認められ、1億円で和解するにこぎつけた。

しかし、お金をもらっても失ったものは返ってこない。医療事故はこのように、人の人生そのものがかかっている。訴訟に勝ったからといって大事なものは戻らない。

医療事件がなくなっていかなければならないと思う。それぞれの事件がケースとなって、医師に還元させていかなければいけない。

 

◆実例3

この事例で、あなた方ならどう考えますか?

自分の母親がパーキンソン(神経系の病気で、バランスを崩して倒れてしまうなどの症状がある)にかかり、専門病院に入院した。母親が入院中にひっくり返ってベッドの柵にはさまって首を絞め、亡くなってしまった。

自分は、安全配慮義務違反があるといえると考えた。しかしいざ裁判したら負けてしまった。このような事態は予見しがたいとの判断。

この事故が起こった後、柵の間にスペーサーを置いた。それで事故は防げる。

科学技術が発達してなかったからだめだったというのならわかるが、本問はイマジネーションの問題だ。転倒を予見できるのであれば、たまたま転倒した先が柵だったらどうなるかということも予見できるのではないか?

 

医療過誤の事件にはマニュアル本がある。それさえ見れば誰でもできるので、医療訴訟を尻込みする必要はない。

 

以上