1129日ロイヤリング議事録

講師:坂和章平先生

文責:酒井康徳

「都市問題にどう切り込むか」

 

自己紹介

HPやブログに自身の弁護士としての活動、映画評論家としての活動を掲載している。

・「SHOW−HEYシネマルーム」という映画評論の本が14冊まで出ている。15冊目も来年2月に出す予定。大阪日日新聞でも映画評論を毎週連載している。

・経歴:1949年生まれ。大阪大学に入学したのが1967年。

・入学してすぐの頃から、大学内の問題、国際的な問題、国内的な問題について学生運動を展開していた。そのため、大学の1回生から3回生まで演説やビラづくりをしていた。

3回生の終わりから司法試験を志し、実質1年半を勉強に費やして合格した。

・学生運動の時、ビラの書き方と説得的な演説を勉強していたが、これが何より司法試験の勉強に役立った。

・たった一人で勉強するときのよりどころは基本書だった。試験は教科書の内容を全て理解して書けて、しゃべることができれば合格するという当たり前の話。当たり前のことを当たり前にしたら合格した。

・法学部やローの授業で、授業を聞き、聞いたことをレポートにまとめたらおしまいという勉強は受身の勉強。今は、修習生になっても、弁護士になっても同じように受身の勉強をしている。

・いい加減、聞くだけの授業は飽きたのではないか?これからは、自分の目で問題点を探そう、自分の目で解答をみつけよう、わからないことは質問しよう。そういう勉強の仕方を身につけるという意味で、(レジュメにある)私の「17歳のころ」を見て欲しい。

 

都市問題とは

・都市法の法律論に入る前に、皆さんは都市問題でどんなものに興味があるか。

・近時の不動産に関する動向として、御堂筋沿いの建物の高さ制限の緩和がある。昔は建物の高さは31メートルまで、その後50メートルまでという規制があった。それが、御堂筋の活性化のために、御堂筋の一部で部分的に規制を緩和しようという話が出ている。

・ここで、あなたなりの論点を見つけ出してほしい。いろんな論点がある。そこできれいな街並みのためには高さ制限をかけたほうがよいという景観論争がある。

 

・また、日本は土地バブルの崩壊後、土地の価格が下がり、いわゆる失われた10年を経た後、小泉改革を経て土地価格が再び上昇してきた。その中でリバースモーゲージなどの新しい商品が生まれた。

・行政法で学ぶのは、国立マンション事件などの法律問題についてだけ。他方、土地の問題は法律問題よりも経済の問題の方が大きい。地価が値下がりしたことにより生じた問題が地価の上昇で終わるとともに、新しい経済的な動きが生まれてきた。

・昭和の時代以降、銀行による住宅ローンが定着し、持ち家が増え、豊かな日本が生まれてきた。その意味で、都市問題は土地政策の問題と密接にからんでくる。ローンになると、金融の問題と絡んでくる。

・今の住宅担保ローンは上述の住宅ローンのさかさまで、ローンを払い終わり担保余力のある家に所有者が担保をつけて借り入れをするというもの。この新商品を開発した人は時代状況、不動産状況をよくみて考え出した。住宅ローンを払い終わったがお金のない人がたくさんいるため、それをターゲットにしているということ。

 

サブプライム問題

・ここ1ヶ月サブプライム問題が新聞などで話題になっており、皆さんも多少なりとも聞いていると思うが、いったいそれが何かについて答えられる者が10人に1人もいるだろうか。

・今これだけ問題になっていることについて、自分なりに争点・解決策を見つけることができない人は、いくら勉強しても受身の勉強になるだけ。自分の頭で考えなければいけない。

・サブプライムとは、黒人層やヒスパニック層などの低所得者層に対し、高めの金利で貸し付ける住宅ローンのこと。それによって低所得者層が住宅を手に入れられたこと自体は悪いことではない。ここでのキーワードは「証券化」と「ファンド」。

・今ではファンドが全ての力を持ち、金が全てを動かしている。映画の世界でも、みんなでお金を持ち合って映画を製作しリスクを分担する。ファンドが不動産をネタにしてお金を集め、賃料などで儲かった分を配当するということをしている。

・担保物権には貸金を担保するという法的な側面だけでなく、それを利用する経済的な側面がある。銀行が自分の手持ち資金を貸すのではなく、担保物件をネタにみんなからお金を集めて、それを貸す資金にしている。貸すお金を分散化して流通させる。そして一般の庶民からお金を集めてファンドをつくり、投資し、利益を出して配当する。こういう形で担保物権は生かされている。

・世の中は変わっていっているのに、自分たちの担保物権法がどれだけ時代遅れかという意識を持てないようでは、弁護士になって国際取引を扱うことなどできない。

・このように、都市問題には土地の問題、担保と金融の問題も含まれている。都市問題を勉強するネタは新聞の中に山ほどある。

 

情報について

・私は毎日6つの新聞に目を通してスクラップしている。これが自分にとっての情報源になっている。

・自分の興味をどういう風に持っているか、どういう風に集めているかが大事。話題の幅の広くない人間はおもしろくない。特に弁護士になろうとする人は、幅広い問題に興味を持って取り組める人でないと向いていないと私は思う。これからは弁護士になったからといって尊敬されるわけではない。自分に何ができるかということが大事になる。

 

都市問題について

・都市計画という言葉は通常の国語の用法と、法律用語としての用法がある。

・市街化区域と市街化調整区域の線引きをすること。地域地区を定めること。都市施設を定めること。市街地開発事業を定めること。この4つを中心としたものを法的に都市計画という。たとえば、道路という都市施設を作ることが都市計画事業である。

・都市問題という視点で今の日本の問題に切り込むためには、日本語と法律用語の仕分けをする必要がある。

・市街地開発事業の代表的なものは土地区画整理事業と市街地再開発事業がある。市街地再開発事業は都市再開発法に基づいたもの。字を追っているだけではイメージがつかめない。口に出してしゃべること、概念を頭に入れることがまちづくり法を勉強するコツ。

・公共的な事業であれば、税金をつぎ込むことができる。自宅を建てるのに税金を使うことは許されないが、公民館を建てるのならよいということ。

・そこで皆さんに考えてほしいのは、それは本当なのかということ。理屈は正しいのだが、この点をめぐって日本は戦後いろんな問題を起こしている。政官財の癒着の問題は絶えない。都市法を考えるには、今起きている問題をどう解決していくべきかを考えなければならない。これが非常におもしろい。

 

用途地域について

・住居地域や商業・工業地域など、土地を用途によって区分する。工場と住宅が混在していると住民の生活によくないので区分されている。

・産業革命が18世紀に起こり、生産手段の集中・労働者の集中によって大量生産がなされる中で、使用者が労働者をより安く使うために労働場近くに住居を建てた。しかし、これにより公害などの問題が生じたので、商業地域と工場地域、住居地域を分けたことがはじまり。

・その後、都市計画がだんだん複雑になっていく中で、区分する地域の名称が2文字から4文字に、4文字から8文字にという風に長くなっていった(たとえば、第一種低層住居専用地域など)。だからこれらの区分の名称はわかりにくい。法律を作っている官僚はこれらの名称についてちゃんと頭に入っているが、膨大な法体系になっているため一般人はわからなくなっている。

・このように、地区を色分けしているのが都市計画の一つ。こういうことが都市計画法何条によりどうなっている、などというのはおもしろくない。そうではなく、なぜこのようになっているのか、なぜこのように複雑なのか、それはきちんと機能しているのか、などといったことを考えなければならない。

 

日本のまちづくりの特徴について

・西洋の町並みはきれいだといわれているが、たしかにそう。国民の意識も日本とは違っている。

・法制度についても同様。昨今、裁判員制度の実施が近づきあわただしくなっているが、今の日本人のレベルでは裁判員制度は機能しないのではないか。自分の目で証拠を見て、自分で考え、発言できる人が今の日本にどれだけいるか?また、よく「市民参加のまちづくり」と言われるが、日本では誰がまちづくりに参加しているのか?誰がまちづくりを勉強しているのか?そういうことを反省しなければ真のまちづくりは見えてこない。

・民法上、土地所有権は絶対的なものとされる。自分の土地をどう使おうが自分の勝手だという考えは、土地をどう利用するかというまちづくりの観点から見たときにどうだろうか。土地の利用のために従ってもらわなければいけない、というのが都市計画法。たとえば、建物の形態意匠まで規制するのが景観法の目玉。よりよいまちづくりのためには、私人の所有権を制限する必要がある。

・日本のバブル崩壊時に、司馬遼太郎は土地を投機・投資という儲けの対象として使っている日本人を憂えた。土地についても絶対的所有権という民法の視点以外に、公の視点をもつことが大事。

 

・市街化区域と市街化調整区域の線引き、用途地域の区分、容積率・建蔽率を決めることが日本の主な都市計画になっている。

・明治以降、国家主導の都市計画が進められてきた。しかし今では地方分権が大きく進み、都市計画は地方がやればいいという時代になっている。もっとも、地方のまちづくりを担う人達に力量がない場合、地方に都市計画の権限があるだけでは意味がない。

・メニュー追加方式だから、官僚は次々に新しい制度をつくる。本来、国民が選んだ国会議員が法律を作るのだが、立法より行政の方が力が強く、行政の実務を担当している事務次官以下の官僚が牛耳っている。行政が制度要綱などを出して新しい制度をつくり、これに予算をつけてしまう。その制度が一般に使われているようでは、法律などいらないことになってしまう。まさに官僚が政治を乗っ取っているということになる。

・都市法をやる人は、このことを見抜く力、ケチをつける能力がないといけない。日本では政治勢力が権力争い、お金の分捕り合戦をやってきた。そういうものをしっかり見て都市問題を勉強して欲しい。

 

歴史的区分の重要性

  戦後の日本史について、みんながどれだけ興味を持って、どれだけ意識しているか、どれだけ勉強しようとしているか。日本が戦後発展し、平和な時代を経て、いま危機にあるという流れの中で、皆さんの教科書になるのはここ数十年日本がやってきたことしかない。

・ここ数十年でまちづくりも、経済も、金融も大きく変わってきた。今では10年経ったら世の中は大きく変わってしまう。そんな中で、これから世の中がどうなるかについては自分の頭で考えなければならない。そのために日本の歴史から学ぶことは重要。ここでは政治的な観点から考えなければならない。なぜなら法律というのは時の権力が作るものだから。

 

地方分権一括法

・基本的に地方分権は進んでいるが、具体的にどうやるかについては当然ながら抵抗勢力がいる。

・中央の役人は自分の権限を手放すことを嫌がる。たとえば、退職後に外郭団体で恩恵を受けている中央の役人が、外郭団体をなくすことに反対するのは当たり前。

・政治は権力闘争である以上、このような反対勢力を排除するようでなければだめ

・地方分権については、権限の委譲や財源の移譲について、自分の目で見てほしい

・条例は法律に反しない限り自由に定めることができるが、これを活用できる県とそうでない県との間に格差がある。

・格差はあるのが当たり前。それを前提として頑張ろうというのが大事。もちろん弊害もあるが、基本的には競争は必要。それを認めたうえで地方分権をして、よい事業を提案した自治体にお金を出すというやり方でいいのではないか。

・日本にはマンションに適用される特別法として、区分所有法がある。この法律によると、マンションの建て替えをするのに住人全員の同意が必要だった。これは明らかな不備であり、官僚も気づいていたが対処しなかった。阪神大震災になって不備が判明したなどと言っている。

・このように、作らないといけない法律を誰も作ろうとしていないという状況がある。

 

景観法

・景観を守ろうという世論の高まりを背景に04年に制定された。景観地区を指定すると建物の建築が制限されるので抵抗が大きい。実質的にそういう抵抗を覚悟して景観地区を指定したり、形態意匠を制限する条例をつくったという事例は聞いていない。

・京都市の景観条例

京都市は京都市の役人自らが新しい概念を打ち出して、条例をつくった。ある視点から見たときに眺望をさえぎる建物の高さを規制するというもの。これを作るのにはものすごい議論があったはず。業者ら、制限対象となるマンションの住民の不満があったはず。私権と公のバランスの問題になると、日本人は議論をしたことがない。この条例がどの程度の規制になるかは注目。

・松山でも、松山城の景観について同じ議論があり、東京でも、東京都景観計画が定められた。

・世の中はこのように変わってきている。これらが新聞の記事に出ても、問題意識がなければ読まないし、読んでもわからない。今日の話を聞いて、少なくともこんな記事があるということを頭の中にとどめておいて欲しい。

 

まちづくり三法について

・今までデパートやスーパーは郊外にあった。中心市街地の小売業者による反対があったため。しかし人々は郊外のデパートなどに買い物に行くようになり、中心市街地がだめになった。そこで中心市街地を活性化する必要が生じ、中心市街地活性化法が制定された。

・スーパーは今まで商業地域は当然建てることができ、一部の住居系の用途地域と工業地域でも建てられるとなっていた。しかし今回の都市計画法の改正で、商業地域、近隣商業地域、準工業地域にしかスーパーを建てられないということになった。郊外店の立地はだめになったということ。

・ここで大事なのは意味合い。自分の言葉で語って欲しい。

 

建築基準法について

・耐震強度偽装問題が発端になり、最近建築基準法の大改正があった。

・これまでも建築をする際には検査を通過した証として建築確認が必要だったが、だまされていた。そこで建築の検査をより厳密に行うことになり、時間がかかるようになった。そのため建築着工が遅れ、建築の数が減り、経済に悪影響が生じた。そこでまた検査基準を緩和しようという動きに逆戻りしている。

・耐震強度を偽装したことが問題だと取りざたされているが、こういったものにはグレーゾーンがあるのではないか。大なり小なりだましているということがあっても、建前上は口にしてはいけないということになっている。建前論に基づいて批判して、建前論に基づいて法律をつくるから誰も守れない法律になる。

・姉歯事件を機に、「民間に任せず官が検査すればこのような問題は起きない」という批判が起きたが、それだと再び大きな政府になってコストがかかりすぎるということがわからないのか。

・今回のサブプライム問題でも、「証券化がけしからん」という批判があるが、単に証券化をなくして元に戻せばいいという批判は社会の発展に反している。もはや昔の時代ではなくなっている。新しいことができれば問題は当然起こるが、それに対する解答を見つけていくのが知恵だ。

・これからは弁護士が増える競争社会だから、逆に、やりさえすればいくらでもトップに立てる。ただしこれまでと同じことをやっていたら半分より下にいくだけ。10年後、20年後の日本が、日本人が全く活躍していない日本にならないように、皆さんにはしっかり勉強して欲しい。

 

履行確保法について

・建築基準法の改正とからんで制定された。民法の瑕疵担保の延長で、住宅販売業者は新築住宅の販売について保険に加入することになる。これは保険業界の大きな商売のよりどころになる。

・しかしまだ誰もこのことについて書いていないし、知らない。激変している社会問題に誰もついていけていないというのが現状。

 

最後に

・私は都市問題を20年間やってきた。やってきたことをそのつど本にまとめている。自分なりに楽しみながら、勉強しながらやっている。皆さんにも現実から学び、勉強してほしい。自分なりの問題意識をもってほしい。都市問題はそのために非常にいいテーマだと思う。映画の話も都市問題に絡んでいることがたくさんあり、自分の問題意識の問題。これからも映画の話や法律に絡んだ話をしていくつもり。坂和のやり方を参考にして、自分の足で歩いて、自分の頭で考えてほしい。

 

以上