11月22日ロイヤリング議事録

講師:櫻井 美幸 先生

文責:酒井康徳

「家事事件について」

 

T はじめに〜自己紹介

H4大阪弁護士会登録

・弁護士になって16年目

・勤務弁護士として10年勤務した後、H15独立して現在の事務所

・取り扱い業務は民事事件全般、家事事件、マンション法、先物取引、企業法務など

・家庭裁判所の調停員になっている。第三者的な立場で紛争解決の手助けをする。

・朝日新聞「暮らしの風」にH19年度3月号まで『身近な法律相談』を連載している

 

U 家事事件とは

・民法の親族相続にかかわる部分の問題

・家事審判法、家事審判規則、戸籍法などがかかわってくることもある

・外国人の離婚や、日本人が外国でする離婚の場合、国際私法の問題にもなり得る

・養育費などを払ってもらえなかった場合は民事執行法、保全法で差し押さえ等をする

・かなり広い分野で様々な法律が問題になりうる

 

V 家事事件の特徴

■守備範囲が広い

  T字の横線であり縦線でもある」。

これからの弁護士に求められること=幅広い分野を取り扱える(横線)とともに深く掘り下げられる専門分野を持っている(縦線)ということ。家事事件は横線の一部でもあり、縦線にもなりうる分野といえる。

・東京の事務所では特に専門化が顕著である。M&Aなどの法律業務は大型事務所に集中している。そこでの弁護士の中には一般民事や家事事件をしたことがないとか、訴状を書いたことがない弁護士もいると聞く。

・大阪でも弁護士の専門化が必要だといわれており、各弁護士が専門化を進めようと頑張っているが、いろいろな事件の需要があるので、一通り幅広い分野の事件をこなせることも必要。

・家事事件でやってみると難しい法的問題もある。勉強しつつ数をこなせば専門にもなる

・家事事件は身近な問題なので親しみやすい

 

■扱う事例の多様性

・相談を受ける→任意交渉→調停→審判→訴訟 という流れ

・弁護士として遺言書を作成する。公正証書遺言を作成する場合、公正証書遺言の証人になる。また遺言執行者になる。

・依頼人が将来判断能力が衰えた場合に備えて任意後見契約書を作成し、判断能力が衰えた時点で後見開始の申し立てをする。弁護士が後見人に就任することも。  

・不在者財産管理人や相続財産管理人になる

・離婚に関しては調停をする。未成年の子がいる場合には親権者を決め、あるいは変更する。当事者と子の面接交渉などをする。             などなど

 

■多岐にわたる法的論点

【相続の事案の例】

Ex.父が亡くなり不動産が相続されることになった。長男はこの不動産が欲しいが、他の兄弟もこの不動産が欲しいとしてもめている。ここでは以下のこと(@~C)を考えないといけない

@    相続人の範囲・相続分の確認

・戸籍を取り寄せ、相続人全員を確認する 

Ex.被相続人が外国から帰化した場合、外国での戸籍は外国語。戸籍の作られた年代によっては戸主制度が残っていた国もある。戦争などで消失している戸籍もある。

  Ex.戸籍と実体が違う場合は戸籍を実体に合うように直してもらう

・相続分の確認

  実は先妻の子だが後妻の子として届けられていた実例など、法定相続分がちがってく

A    遺言の有無・効力

遺言がある場合は様式を備えているか、被相続人に遺言能力があったか、遺言の内容が特定されているか、を確認する 

  Ex.「長男に全部相続させる」という内容の遺言が出てくる。しかし他の相続人が「お爺ちゃんはぼけていた」として遺言無効の裁判を起こす。調停をストップしてこの裁判で争う。遺言が公正証書遺言だったので公証人に証人尋問したところ、「ぼけてはいなかったが、何を言っていたか聞き取れなかった。そこで長男がお爺ちゃんの口元で聞き取り、その内容を口授した内容を書いた」と証言。

    長男は推定相続人なので、証人となることができない者(974条)になる。証人となることができないものが同席していたからといって、特段の事情がない限り遺言は無効にならないという最高裁判決があるが、この事例では、特段の事情ありとして遺言無効になった

B    遺産の範囲

相続人の固有財産や相続人名義の遺産、隠し財産があるなどの主張がでてきたら遺産を確定しなければならない。遺産であることの確認訴訟で確定する。

生命保険、預貯金、相続債務があった場合に問題

C    遺産をどう分けるか

・前提として、特別受益の有無、持ち戻し免除の可否、寄与分の有無やそれぞれの評価方法などが問題となる

・不動産などの評価時期と方法 

たとえば不動産の場合、固定資産税評価額、路線価、時価に差があることがあるので、評価時期や方法などが問題になる

 

【離婚の事案の例】

当事者が離婚していいといっている場合、離婚の条件(B〜E)が問題に

相手が離婚したくないといっている場合は以下(@AC)が加えて問題に

@    裁判離婚では破綻主義が(770条)採用されている。婚姻生活が破綻しているかどうか

A    有責配偶者にあたらないかどうか

B    未成年の子がいれば親権者をどちらにするか、養育費をいくらにするか(養育費については家庭裁判所の基準表で年収から相場が決められている)

C    慰謝料を払って欲しい場合は相手に慰謝料を請求できる理由があるか

D    婚姻中にできた財産について財産分与をどうするか

E    年金の分割をどうするか

 

■家事事件の特性 

・感情的対立が深刻であり、まさに骨肉の争い。血のつながった兄弟でも恨みをもつと根深い。

・相手に傷つけられたと感じている依頼者はある時期を過ぎないと理論的な話をしてもなかなか聞いてくれない。

・紛争解決に時間がかかる場合がある 

・時間がかかるため費用にくらべてコストがかかる

・法的な見極めが大事であり、主張が通らないかもしれないということを依頼者にきちんと伝えることが重要

・依頼者との信頼関係が大事。これがないと依頼者に適切なアドバイスができない。信頼関係がないとアドバイスしても相手に肩入れしていると感じられる。

・ひょっとしたらわずらわしく感じることもあるかもしれないが、必要な時間・手間である。

 

W 具体的な法的問題について(いくつかの事例から)

   相続事件から

1)遺産の範囲について

・生命保険金、死亡退職金は基本的には遺産にならない(受取人である相続人の固有の財産)。

・もっとも例外的に、相続人間で是認できないほど著しく不公平だと評価される特段の事情がある場合には特別受益に準じて持ち戻しの対象となることがある。特段の事情の有無は、保険金の金額とその遺産総額に対する比率や、被相続人の介護などに対する相続人の貢献度、被相続人との関係など諸事情を総合的に考慮して判断すべきとするのが最高裁判決。

・上記の場合、持ち戻しの対象は保険料か保険金かなど争いがある。

 

・預貯金債権は可分債権なので相続開始と同時に相続人に当然に分割される。当事者間で合意があれば、遺産として分割の対象とすることが出来る。

・しかし銀行実務上、預貯金の払い戻しについて、相続分に応じた部分的な払い戻しには応じない場合が多く、相続人全員の印を要求される。訴訟を起こせば相続分を払い戻すよう命じる判決が出るが、銀行は訴訟を起こされない限り払い戻しに応じないことが多い。

 

・相続開始後の果実(ex.相続開始後の賃料など)は基本的には遺産ではない。遺産とは別個の財産であり、相続分に応じて確定的に取得するとするのが最高裁判決。

・相続人全員が遺産分割の中で果実を分ける旨の合意すればよい

 

・遺産としての現金は、動産なので分割債権ではない。よって遺産分割で分けなければならない

 

・相続債務については、相続人間で承継人を決めることはできる。ただし、債権者との関係では、分割して各相続人が責任を負うことになり、債権者の同意がない限り、他の相続人の債務は免責されない。

 

2)具体的分割方法について

  特別受益は、単に贈与があれば認められるわけではない。遺産の前渡しといえる特別な場合に限られる。高校に進学した子に対して、大学まで進学させてもらった子について不公平ではあっても特別受益があったとまではいえないことが多い

  持ち戻し免除の意思表示が認められる場合には受益分を遺産に戻さなくてよい。しかし持ち戻し免除の意思表示ははっきり明示されないことが多い。日記に書いてあっただけでは駄目で、何らかの形で外部に伝達される形で客観的に表示されていないといけないというのが学説多数。

 

■ 離婚事件

1)離婚の種類

・弁護士がかかわるものはほとんど調停離婚、裁判離婚

・審判離婚は条件の合意だけができない場合など限定的な場合に用いられている。審判成立後も当事者が異議を出すと無効になる不安定さがあるためあまり使われていない

 

2)裁判離婚の事例から

・離婚原因;破綻主義(民770T)

・有責配偶者からの離婚請求

主として破綻原因を作った側からの請求は基本的には認めないと理解されている。

もっとも@相当長期間の別居、A未成熟の子の不存在、B過酷条項的特段の事情の不存在を要件として例外的に認められる【最高裁判決】

 

@    につき、8年で認める判例があるが認めない判例もある。誠実に対応していたかなども総合的に判断されている。10年くらいが目安か??

A    につき、親から独立して生計を営むことが出来ない子供のこと。判例上、高校生くらいまでを指しているよう 

B    につき、有責配偶者が住居費や生活費等を出しているか、相手方に生活能力・収入があるか等を総合的に判断

 

・離婚に伴う慰謝料については、客観的基準はないが、判断要素として、有責性の程度、背信性の程度、精神的苦痛の程度、婚姻期間や当事者の社会的地位、相手が浮気相手と子をつくっているかなどがあげられる

  慰謝料の額については、客観的相場はない。30年の夫婦が一方の浮気で破綻した場合、300万から500万くらいが相場か。1回の不貞行為だと100万くらいまでではないか。芸能人の離婚の場合などは特殊であり、収入が多いため慰謝料も高額になる。

  ある調査によると、慰謝料の平均額は東京で200万、大阪で189万(ただし30年ほど前)。一般の人が思っているよりも低いかもしれない。別の調査でも平均200万円前後、500万円以下が多いという印象。

  もっとも、100万くらいが相場の事例でも、和解で1200万の慰謝料を得たことも。弁護士・裁判官としてはどうしても相場等を意識してしまうが・・・

 

X 最後に

・依頼者ごとに紛争の解決の仕方は変わる。

・弁護士にとって、人とのかかわり方は法律能力と同じくらい大事。

・依頼人に誠実に対応しないと紛争はうまく解決できない。家事事件の場合、このことがより顕著に現れる。

 

以上