H19.11.8 ロイヤリング議事録

講師:井上 元 先生

文責:酒井康徳

 

◆自己紹介

・昭和63年弁護士登録。弁護士になって20年目

 

◆イントロ

・今日は住民訴訟についての話

・平成元年に大阪市の職員が公金で飲食していたことが問題に

・市民グループ結成し、公金の不正支出をふせごうという試みが起こる

・自分はこの問題に初期から関与し、いくつか事件をこなし今に至る

 

◆住民訴訟とは何か

・「住民運動」といったときに、公害問題、空港騒音問題、自動車の排気で健康被害、ダム建設問題などについて争うことをイメージするかもしれない。この場合、個人が権利を侵害されて訴訟を起こしている。

・今日のテーマはこれと異なり、公の適法性を保障するための訴訟。個人の権利のためのものではない。これを客観訴訟という。具体的には選挙無効訴訟、当選無効訴訟など。

・住民訴訟は地方自治法に基づく手続きである。242条は住民監査請求、242条の2は住民訴訟になっている。

 

◆制度の概要

・公金を不正に使っていた職員に金銭の返還を求めるようなときに住民監査請求書を出す。 

Ex.「誰々はどこどこで私的な飲食をしたがそのお金は市のものだった。返還せよ」

これにより違法な行為を是正させる。

・訴訟を起こす前には事前に監査請求しなければいけない(監査請求前置主義)。

・監査請求ができるのは財務会計上の行為が行われてから1年間のみ。ただし正当な理由があるときはその限りでない。常に市民が行政を見張っているわけにはいけないので、往々にして1年の期間が経過してから問題が表面化するからである。

・この制度は地方公共団体の行為に住民の立場で認められている。これに対して国の場合はこのような規定がないため国が不正な支出をしていても直接は何もいえない 

・監査請求は監査委員に対して行う。監査委員については195条以下に規定

 ex196条 人格が高潔など優れた識見持つ者、議員など

・監査委員には会計士や弁護士がつくことも増えてきているが、依然多いのは議員、行政OB及びその関係者。

・議員がどれだけ請求をとりあげてくれるかは疑問。議員は名誉職で監査委員という職がまわってきただけのことが多い。また行政OBは味方である行政側を追求しない。

→監査請求が認められないことが多い

・監査請求がなされても監査委員が自ら調査することは稀。事務局員から説明受けただけで終わってしまい、後ろ向きの結論になることが多い。

・裁判は市の職員等の行為が違法である場合でないとできない

・監査請求制度は機能していないのが実態

 

例:職員が飲み歩いているとして新聞に載った。

この点、市民が監査請求をした。しかし具体的に職員の行為が特定されていないとして監査請求は退けられた。

そこで、その飲食店に行き、帳面を見せてもらった。それを証拠につけて、再度監査請求を行った。しかし監査委員は問題となった行為が1年を過ぎているとしてこれを退けた。

市は文書公開請求を徹底的に争った。

 

例:不法な支出の問題が刑事事件になり、証拠がたくさんでた

職員が1日4件も飲み歩いていたという資料が出た。にもかかわらず監査請求が却下された。あまりにひどいので国家賠償すると、そこでの証言から監査委員が監査請求や住民訴訟について無理解であることが露呈した

 

・これまで監査請求がまともに認められたことは極めて少ない。実務としても監査請求前置主義の建前から請求しているだけ。

 

◆訴訟での請求

・差し止め請求、取り消し請求、無効確認請求

・怠る事実の違法確認請求 ex.市長が損害賠償を取り立てないことが違法

・履行請求 ex.市長に違法な行為をしたものに請求させる

 

・これらは監査結果から30日以内に請求しなければならない。この期間内にやるのは現実には厳しい。

・印紙をどれだけ張るのか→算定不能(判例)。公益的な観点から金銭的に評価できない事件として扱う。こうでなければ請求額が高額な場合には高額の印紙を貼らなければならず、住民訴訟制度が利用できなくなってしまう

・対象行為が何年何月何日の分かを特定しなければいけない。今は情報公開された資料で特定するのが少し簡単になってきた。かつては市に資料開示を請求したが出さなかったため、情報公開請求を争った裁判が最高裁までいった。

・職員の特定が必要。しかしすべての権限を市長が持っているわけではなく、下位の職員の権限にゆだねられているものもある。それは内部的に定められていることが多いため一見誰が責任者かわからない。下位の職員にゆだねられている場合、管理者が監督義務を負う。不正行為が何百件単位であると大変。昔は図書館で調べて誰の行為かを特定する作業をやっていた。

・住民側が勝訴の場合弁護士費用は自治体に請求できる

・以上が手続きのアウトライン

 

◆どういう裁判をやったか

・自治体の活動はほとんど予算をともなうもの。お金が動けば訴訟の対象になる。以下のような例がある。

@宗教的な行為

ex.津地鎮祭事件、箕面忠魂碑事件

A官官接待と称して県の職員と中央の職員が公費で接待しあう

裏金づくりも行われる。

ex.大阪府が国際ホテルを使ったことにしてお金をプールする

  

B談合

・自治体は公共工事を発注する際に競争入札にかける。業者間で競争すると、入札価格が下がり業者の利益が下がるため業者にとって不利益。そこで談合が行われる。

・入札に参加した会社が、自己に最も有利な入札金額とその入札で受注する会社を自分たちで取り決める。そこで決められた会社が最も有利な金額で入札してしまう。

・あらかじめ自治体が複数の業者を指定する指名競争入札が問題。指定される業者はいつも決まった業者ばかりだからである。他方、誰もが入札できる一般競争入札だとどの業者が来るかわからないため談合はしにくい。もっとも説明会に集まった業者がその後喫茶店で話し合っても談合はできる

・自治体はあらかじめ工事の費用を見積もり、入札の予定価格を定めている。予定価格は業者にとってもっとも有利な価格であるため、公表されると談合が行われやすいので従来は公表されなかったが、近年は公表する自治体も増えてきた。

・本来は自治体が積極的に談合を行った企業に対して損害賠償請求するべきなのにしない。住民訴訟でやるしかない 

 

◆新聞に見る住民訴訟

・住民訴訟の記事は極めて多いので頻繁に紙面に出てくる

・記事の読み方についてコメントする

 

@    公金で議員らが海外(観光地)視察

 ・この問題は過去全国で争っていた。議員の海外視察は多い。

・一定年数勤めた人間だけが行く場合

・観光地しかいってない場合

・毎年沖縄に行く場合など

  裁判所はなかなか違法と認めない。

・行った先で売春行為があった場合もある。さすがにこれは裁判でも違法とされた

 

A    米子市談合

 ・談合事件に関して市長が業者に損害賠償請求しなかったこと自体が違法。

 ・事前に監査請求しているが認められなかったため訴訟がなされた。

 ・問題の業者が公取委の判断を争って行政事件になっていたが、行政事件で争っている間も市が業者に損害賠償請求しないことは違法と判示された。

 ・市民は何も資料がないところから談合があったと知ることはできない

 ・自治体は自ら業者に対して損害賠償請求をするようになる傾向がある。もっとも、すみやかな動きにはつながっていない

 

B    県議政調費など

・議員が自治体からもらう金銭:報酬、費用弁償、政調費

 ・費用弁償とは、議会や委員会に出た場合以外に、出向した場合にもらう日当のこと。報酬の二重払いではないかとの批判がある。裁判上はなかなか違法とは認められない。批判を受けて廃止する自治体も

 ・政務調査費とは、議員の調査にかかる費用を自治体が会派ごとに支出し、そこから各議員が受け取るもの。何に使っているかが公開されないため流用してもわからない。 この点につき監査請求がなされるも、違法性に関する指摘が欠けているとして却下される。監査委員が調べればわかるのに、これでは本末転倒ではないか。議員が本来使用した項目につき報告すべきのはず。

 

C    賃料の過払い問題

・大阪ワールドトレーディングセンタービル(WTC)は大阪南港に建っているビル。大阪市が出資した第3セクターがバブルのときに開発した。当初はビルがテナントで埋まるだろうという目算だった。

・しかしバブルは崩壊し、テナントは埋まらない状態になった。他方でビル建設でつくった借金は返さないといけなかった。

・そこで大阪市がWTCに市の部局を入れた。(消費者生活センターも本町からここに移された←こんな不便な場所には誰もいかないのでは…)。市がビルに払う賃料で銀行に借金を返そうとした。

・しかし、賃料が高すぎるのではないかが問題となる。不動産鑑定士らの鑑定によると現在の賃料の半分が相場だった。WTCがこれまでの過払い分を市に返還し、賃料を半額にしたら経営は破綻するだろうという見通しが示される

・不都合な自体を覆い隠すような市の対応は問題。この状況を説明したうえでWTCを清算するかどうか議論するべきではないか

 

◆最後に

これからも新聞を読んだら同じような事件を見るだろう。住民訴訟の事件を気にしてみてほしい。

 

以上