司法通訳支援に関する研究プロジェクト

《司法通訳養成教材》

1.はじめに

 司法通訳には、通常の通訳とは異なったトレーニングが必要であると考えられます。その中には、刑事司法についての理解を深めることも含まれます。本プロジェクトでは、そのための効果的な方法について研究するため、試みに、いくつかの言語について、司法通訳の基礎的なトレーニングのためのマルチメディア教材を作成しました。大阪大学にある、司法通訳を養成するためのプログラムでの使用を通じて、法情報の効果的な伝達についてデータを蓄積していきたいと考えています。
 同じ司法通訳といっても、たとえば窃盗・傷害など通常の刑法犯の場合、背後に犯罪組織が絡む拳銃密輸や薬物事犯の場合、あるいはオーバーステイ・資格外活動などの入管法違反や偽装結婚(電磁的公正証書原本不実記録・同供用)の場合では、通訳に際してそれぞれ違った配慮が必要になることが考えられます。今後は、犯罪類型ごとに生じる特殊な問題に目を向けながら、効果的な法情報の伝達について研究していくことになります。また、写真や図版の活用方法なども検討課題です。

大阪大学大学院法学研究科 教授 竹中 浩



2.模擬尋問に関する外国語教材


(1)ロシア語版(2014年3月現在)

(2)ポルトガル語版(2014年3月現在)

(3)中国語版(2014年3月現在)

(4)英語版(2014年3月現在)





《研究調査レポート》

1.はじめに

 
 ここに掲載するのは、大阪大学大学院法学研究科・大阪大学法学部の学生グループが、本プロジェクトの連携協力者であるマルセロ・デ・アウカンタラ講師(現在、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科准教授)の助言のもとに、ブラジルで実施した聞き取り調査のレポートです。

 ブラジルは、1908618日に笠戸丸が第1回移民781名を乗せてサントスの港に入って以来、多くの日本人移民を受け入れてきた国です。日本が高度経済成長を遂げたことにより、ブラジルへの移民は1970年代をもって終わり、1990年代には逆に、改正入管法のもとで、日系移民の子や孫が数多く日本で就労するようになりました。リーマンショック以後の厳しい雇用情勢のもとで、多くの在日ブラジル人が困難な経済状況に陥っていることもあって、最近では、彼らが刑事事件の被告人となる事例が増えています。ブラジル人が取調べや裁判を受ける際に、自分たちの置かれている立場について正しく理解できるようにすることは、公正な刑事手続のためにぜひとも必要であり、その条件を整える上で、日本側が彼らの母国での取調べや裁判について知ることは不可欠です。本レポートの中で述べられているように、ブラジルにおいて法務通訳に対する考え方がきわめて緩いものであるとすれば、被告人となったブラジル人の目には、通訳に関する日本の法廷の姿勢がきわめて厳格なものと映り、彼らが法廷において自分の肉声が届かないもどかしさを強く感じることはおそらく間違いないでしょう。法廷通訳に関する日伯の制度の優劣を性急に論じることは適当でないとしても、刑事司法において外国人に与えられるべき配慮をめぐって、異なった考え方がありうることについては十分に認識しておく必要があると思われます。

本レポートはまた、ブラジルの警察通訳にも目を向けています。レポートの中でも触れられているように、ブラジルの警察制度は日本とはかなり異なり、連邦警察、州文民警察、州軍警察の3種があって、出入国管理は連邦警察が、警邏など地域警察活動は州軍警察が、捜査・取調は州文民警察が担当しています。当然のことながら通訳の問題はそれぞれにおいて異なった現れ方をします。なかでも、地域警察活動における通訳の役割については、司法とは直接の結びつきをもたないにしても、活動そのものが犯罪を未然に防ぐことを目指すものであるだけに、広くコミュニティ通訳一般の問題とも関わらせながら、今後研究を深めていく必要があるでしょう。ちなみに、日本の警察は、交番など地域警察活動のためのユニークな制度を有しており、それらは日本の治安の良さに寄与するものとして世界的に注目されています。国際協力機構(JICA)でも、ブラジルに対するガバナンス支援の一環として、警視庁の協力の下に、2005年以降、サンパウロ州軍警察とともに地域警察活動に関するプロジェクトを進めてきました。本プロジェクトでも、201010月、サンパウロ市の交番(州軍警察の管轄下にある)で聞き取り調査を実施しています。



2.レポート

岩井智美、中原しおり、福田友紀子、「多民族国家ブラジルにおける法務通訳・翻訳―宣誓翻訳人制度に関する考察を中心に―」、『まちかね法政ジャーナル』、第2号、20125月、49-54頁(PDFファイル)。






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